春の七草と言えば、セリ、ナズナ、オ(ゴ)ギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロです。この中のオギョウ(御形)が、キク科ハハコグサ属の越年草のハハコグサです。  

 ナズナと同様に、日本各地の道端・田畑の畦地・人家の近辺などにごく普通に生えています。茎葉の若いものを食用に、特に幼苗を摘んで「七草がゆ」に入れるのです。摘むときにヨモギに似た香りがします。旧暦の雛節句(三月節供;現在の4月頃)に、このハハコグサの柔らかい幼苗を入れた草餅を食べる風習がありました。

 ハハコグサの和名の由来も、様々ありますが、その多くはこじつけめいています。
 奈良時代に伝来した中国の本草書である『新修本草』は、唐代に高宗が蘇敬(そけい)らに編纂させた中国最古の勅撰による主流本草で、転換不能な難字で「ハンハンコウ」と記されています。その『新修本草』は、遣唐使により早期に持ち込まれ、奈良や平安時代を通して、典薬寮の医学生にとって、教科書的存在になっています。元慶3(879)年に完成した平安初期の『日本文徳天皇実録』には、「母子草」と簡易に記されています。

 ハハコグサは、御形の俗称でした。「御」は、接頭語です。「形」とは、人形です。
 草餅に「ヨゴミ」が使われる以前には、「ハハコグサ」が用いられ、「母子餅」と呼ばれていました。3月3日には、母と子の人形の「母子餅」が供えられため「御形」と呼ばれるようになったようです。