車山のいたるところで、花径1cmたらずの白い花が、小群落を作っています。可憐なオオヤマフスマ(大山衾)です。
 寒冷な車山高原では、背丈は5~10 cmと小さく、色も白く目立たず、単独では見つけにくいのですが、まとまって咲いていることも多いので、普通に出合えば気が付く花です。
 それにしても、名を尋ねる人が少ないようです。よく見ると上品で美しい花なのですが…
 花弁は5枚で、萼片も5枚で花弁の半分くらいの長さです。茎頂か葉腋から長い花茎を出し白花を咲かせます。
 雄しべは10本、雌しべの柱頭と子房とをつなぐ少し太めの花柱は3本ありますが、雌しべは1本です。両性花と雌花(めばな)があり、雌花では雄しべが機能していません。
 雌花は、両性花に比べて花弁は小さく、雄しべの花糸も短いです。しかも、その雄しべの花糸の先端の花粉を入れる葯(花粉嚢)は退化して花粉を含みません。
 そのため両性花と比べ雌花は、虫媒に不利のようですが、両性花とほぼ同じ割合、つまり一つの集団では明らかに高い割合で種子をつけています。それは、 両性花では雄性が先熟し、その雌しべの柱頭の成熟は、開花から2〜3日以上も遅れ、雌花の方は、開花時には既に柱頭を発達させ、受粉が可能な状態になり、両性花の雌しべより早く受粉できるからです。

 オオヤマフスマは、深山から亜高山帯でよく見られる多年草です。落葉樹林の中にも、山地の草地や道端にも、日当たりが良ければ自生します。
 同じナデシコ科でもあり、あぜ道などに生えるノミノフスマと見紛いますが、ノミノフスマは10弁ありますから、見分け方は明らかです。ノミノフスマ(蚤の衾)が、その小さな葉をノミのフスマ(衾, 夜着)にたとえられ、オオヤマフスマの名前の由来、それより大きな葉(フスマ,夜着)という対比からです。