車山のレア・メモリーの前庭で、ニシキギが白っぽい淡緑色の小さな花を咲かせています。ニシキギが、この季節、緑色を帯びる花を咲かせるのは、周囲を高木の新緑で覆われる樹叢帯の縁辺で生殖する灌木であれば、その樹木群で遮られる光照射の不足を、緑色を帯びる花の葉緑体で、葉が負担する光合成能力を少しでも補おうとしているようです。
 ニシキギは両性花です。受粉は虫媒を頼み、丁度、黒くて細いホコリのような虫が付いていました。撮影に邪魔でしたから払おうとしたら慌てて飛び去りました。
 種子はさく果の鳥散布です。果実は、鳥にとってもそれほど美味ではない。そのため種子を包むように仮種皮(かしゅひ)と呼ばれる、子房の内壁にタンパク質に富んだ組織を発達させます。ニシキギ属の果実が裂開した時にみられる橙赤色(とうせきしょく)の実のようなものがそれです。ニシキギ
 ニシキギ属の種子は、乾燥すると発芽力が鈍り、発芽が大分遅れます。翌春まで土中貯蔵し、掘り出して腐った果肉の部分を剥がし、種だけを播種します。それでも、苗床の翌春の発芽率は非常に悪く、播種後、2~3年経過した春に発芽することも稀でないようです。数年後に発芽する場合もあるそうです。
 自然落下した果実の外観では成熟しているように見えても、種子の内部では、なお成熟作用が続いているようです。この現象を「後熟(こうじゅく)」といい、発芽するまでに一定の準備期間、それも長い成熟期間を、必要としています。
 車山高原のニシキギは9月下旬頃から色付きます。ニシキギの葉の表皮の下には、数層の細長い円柱状の細胞を比較的密に垂直方向に配列させる柵状組織があります。その組織内で中核を占める大きな楕円形の液胞が色付くのです。液胞内では、糖やアミノ酸を原料として赤の色素のアントシアンが合成されるのです。柵状組織細胞内の液胞の左右に並ぶ丸い粒の複数の葉緑体が、次第に減少するにつれ、柵状組織細胞内の液胞が赤く色付き、更に葉緑体の数を減らし、やがて鮮やかな紅色に染まるのです。
 紅葉の先駆けとも言える時季、「黒ずんだような色の紅葉」は人によっては「くすんだ紫」とも見えます。車山高原のレア・メモリーでは、オオカメノキやナナカマド・モミジ・マユミ・ヤマブドウ・ニシキギが典型例で、秋に光照射が減少すれば葉緑素の働きが衰え、それを契機にしてアントシアン色素が形成されるため、「黒ずんだ」あるいは「紫」系から始まる紅葉の季節が訪れるのです。