梅雨入りと同時に、車山高原にアヤメが咲き始めました。
 昼から強めに降り注ぐ雨に、あれほど艶やかに咲いていたアヤメも辛そうです。
 蜜標の上に覆い被さるように突き出しているのが、雌しべの一部である花柱(かちゅう)です。外側は紫に染まり花弁の一部のようにも見えます。
 雌しべの子房と柱頭(ちゅうとう)を繋ぐ花柱は3本に見えますが、子房の下位で結合して1本になっています。
 花柱は、雌しべの柱頭の花粉を、雨から守る重要な役割がありますが、果たして守り切れるでしょうか。
 アヤメは両性花です。トラマルハナバチなどの媒介昆虫に効率よく受粉してもらうために、花の形を進化させたばかりか、雄しべで作られた花粉が、異株の雌しべに受粉するよう仕掛けを施しています。
 それは、異株相互のオスとメスが固有に持つ異なった遺伝情報(ゲノム)を組み合わせて、新たな遺伝情報を持つ子孫を作るためです。そうして、当たり前のように生じる環境変化に適応する遺伝子の発現を期待するのです。
 アヤメが咲くとトラマルハナバチを誘う蜜が子房から分泌されます。雌しべは3つの花柱支に分かれ、幅を広げて、それぞれが3つの外花被片の基部を覆って小さなトンネルを作ります。トンネルの入り口にあたる花柱支の先には柱頭があります。そのトンネルの天井の花柱枝の下には、雄しべの葯が張り付くような格好で付いています。トラマルハナバチが美しい蜜標に誘われて、花被基部の筒に溜まった蜜を吸うために、外花被片と花柱枝との間に出来たトンネルに潜り込まなければなりません。その時トラマルハナバチの背中が最初に触れるのが雌しべの柱頭です。さらに奥に進むと雄しべの葯に触れて花粉が付着します。
 そして隣に咲く異株に訪花した時に、背に付いた花粉が、トンネルの入り口にある柱頭にすくい取られるようにして、受粉されるのです。