車山高原早春のスミレ

   Top  車山高原 車山の山菜 車山日記  車山ブログ 車山高原の野鳥  車山高原の笹  DNA
 
 
 スミレ 2016年4月27日  車山高原レア・メモリーの庭で撮影
 
 カタクリ 2016年4月28日  上諏訪 桑原城の本丸跡で撮影
 
  車山に自生するアケビの葉は、通常、5枚の小葉です

 スミレは、種間雑種ができやすい植物で、野外でもよく探せば交雑種が見つかります。スミレの変異を複雑にしているのが、最近は、外来種が野外で少なからず繁殖していることです。

 スミレは、車山高原の早春の野に、可憐な紫色の花を咲かせますが、春もたけなわの頃になると、紫色の花とは別に緑白色の未熟児のような花をつけるようになります。
 注意して観察すると、紫の花は花茎が長く伸びて、葉より高く抜き出て開花しますが、緑白色の花は一見つぼみの状態のままで決して開花することなく、花茎も伸びず、葉よりも高く抜き出ることもありません。

 植物の花というのは、開花して受粉するのが普通です。つまり、花は「受粉して、結実するために開花する」のです。ところが、植物の中には、決して開花することのない花があるのです。植物学上は「閉鎖花」というそうです。スミレがそのいい例なのです。閉鎖花には、スミレのほかにホトケノザセンボンヤリツリフネソウフタリシズカヤマカタバミなどの他、ランや肉食食物にもこの種があります。イネも開花はしますが、その前に自花受粉が行われ、この「閉花受精」により交雑を防ぎます。

 スミレも通常の受精を行ないます。 春にきれいな紫の花を咲かせ、他のスミレと他家受粉して実をつけます。
 春の花弁のある花は開放花と言い、ハナバチなどの「虫媒(ちゅうばい)」により他家受粉して種子を作ります。動物のように移動が困難であるため、遺伝的に多様な形質を持つことにより、環境の変化に適応進化し、子孫を作る戦略を練るのです。 
 そのため草花の多くは、その遺伝子の数では、ヒトに近く、カーネンションは、ヒトを超えています。

 一方、スミレの閉鎖花は早春に咲きますが、実は夏から秋にも花をつけています。その後は、花弁のない蕾のような状態のまま、自分の花粉で実を結ぶため花は目立ちません。自家受粉するため、遺伝的には同じ形質を持ち、少ない労力でたくさんの子孫を作るのに役立ちます。そのため、スミレは八島ヶ原湿原をはじめ霧ヶ峰高原・車山高原に小群生地を作ります。

 さて、このスミレですが、開花するほうの花はほとんど結実することがなく、この「閉鎖花」のほうが、もっぱら結実して種族を残す役目を担っているようです。開花しないままで実になり、種子を作ります。
 実は、閉鎖花にも「おしべ」と「めしべ」が備わっていて、硬く閉ざされたつぼみの状態のまま、「めしべ」が同じ花の「おしべ」の花粉で受粉し、そのまま結実して種子を作るのです。つまり、「自家受粉」をします。
 「閉鎖花」をつけるのは、確実に受粉して、結実するためと言われています。この「閉鎖花」は、晩春から秋口の頃になると実が熟し、それまでうなだれていた首を真っ直ぐに伸ばします。天気の良い日、硬い殻が3つに割れて3方に開きます。殻は見かけよりはずっと硬く、3つに割れた殻それぞれが縦に閉じていきます。その殻の圧迫により、種は勢いよく弾き飛ばされ自動散布されます。しかし、「閉花受精」ばかり続けていると、遺伝的な多様性への機会を逃し、環境変化に対しての耐性能力が向上しません。それは随分と危険なはずなのですが…。
 生物が進化すると、多くの多細胞生物にみられる両性生殖により、自然選択に適応する形質を潜在化させるのです。
 ただ、スミレにも、「環境は変動し続けるもの、単に強いものだけが生き残れるものではない。環境変化に適応できたものだけが生き残る」という、現代の生物が40億年間、適応しえた証が、今の姿なのです。想像するこも困難なほど種の保存を全うしてきた植物は、環境変化に適応し放散し続けた誇りと自信ばかりでなく、人類文明の英知にも限界があり、未だに理解されぬ領域が厳然として存在しているということでしょう。
 地球上の生物現存量・生物量(バイオマス)のうち、多細胞生物の総重量を100とすると、多少の変動は当然ですが、植物が占める総重量は、なんと99.5〜99.9%に及びます。対して、やたらと騒がしい人類と猿及び鳥類などの動物は、0.1〜0.5%とみじめな数値に過ぎないのです。それなのに、まるで地球上の支配者のように、縄張りを主張します。
 人間は栄養と嗜好を兼ねて、様々な植物を食べているように見えます。実は、その摂取するカロリーの大部分は、主に6種類で、サトウキビ・トウモロコシ・米・小麦(パン麦を含む)・ジャガイモ・大豆に頼り、その他の僅かな種類により栄養をまかなっています。

 スミレ・カタクリ・ケシ・アケビ・シソなどの種子は、アリも散布に協力します。アリが好むゼリーのような甘く栄養価の高いエライオソーム(オレイン酸などの脂肪酸、グルタミン酸などのアミノ酸、ショ糖などの糖)が付着しているからです。種子は巣に運ばれますが、発芽に影響の無い好物のみ食べられ、種子はそのまま巣の中に放置されます。そこの土は、有機物が豊富で肥えていて湿度も十分あり、なにより外敵の侵入から守られています。まさに種子の発芽には理想的な場所です。

  大工さんが使う「墨壺」は、糸をピンと張って、直線を引く道具ですが、「墨の入った」その「池;墨溜まり」の外形に、スミレの花びらの後ろに突き出した「蜜だまり」が、よくそれに似ていることから命名されました。少年期に、 大工さんが使う「墨壺」で、木材に手際よく線を引き、大きな角材を鋸でいとも簡単に切る光景は、早春の車山高原の枯野に咲くスミレとの出合いと遜色なく、今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。