炭素同位体の利用

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 地球上に存在する炭素のほとんどは、原子量が12(12C)で、その約1%の割合で、原子量が13(13C)の炭素が存在する。同じ性質をもった元素で原子量が異なるものを同位体と呼ぶ。さらに、放射能を持たず、半永久的に安定な同位体を安定同位体stable carbon isotopeと呼ぶ。安定同位体の対の言葉は放射性同位体で、放射線炭素14Cは放射線を出して崩壊する。
 炭素には、3つの天然同位体がある。
 炭素12は、 最も一般的な同位体で、天然の炭素の約99%を占めており、安定している。放射性はない。
 炭素13 (は、天然の炭素の約1%を占める安定同位体である。炭素12と同様に放射性はない。
 炭素14 は、非常に微量で存在する放射性同位体で、半減期は約5,730年なのでで、放射年代測定に利用される。

 これらの同位体は、それぞれ異なる用途や特性を持っている。
 すべての生物は炭素14を周囲の大気と交換する。
 動植物は炭素14を大気と交換し、魚やサンゴは炭素を水に溶けた炭素14 と交換する。
 動物や植物の生涯を通じて、炭素14 の量は周囲の量と完全にバランスが取れている。生物が死ぬと、その平衡は崩れる。 
 死んだ生物の炭素14 は、既知の速度でゆっくりと崩壊する。それを「半減期」と呼ぶ。

 炭素14では、5,730年ごとに、半分が失われる。したがって、死んだ生物の炭素14の量を測定すると、それがどのくらい前にその大気との炭素の交換を停止したかを知ることができる。比較的手付かずの状況下では、放射性炭素研究所は5万年前まで、死んだ生物の放射性炭素の量を正確に測定することができる。
 その後の測定には炭素14の残量が少なすぎる。
 自然の生物圏内に、放射性同位体である炭素14 (14C) の存在比率が1兆個につき1個と一定であることを基にして年代を測定する方法があり、地球上の炭素を含むものを見渡すと、カルシウムやケイ素などの無機物も含んでいるが、人間やその他の動物、植物はすべてが、炭素を含む有機物でできている(ケイ素は、ミネラルの一種で、骨・筋肉・関節・靭帯・血管・皮膚・毛髪・歯・爪など人体の多くの部分に含まれている)。
 地球上の炭素を含むものは、二酸化炭素を除けば、ほぼすべてが有機物である。有機物は炭素原子を含んでおり、これが有機物の基本的な定義となる。多くの有機物は生物の体内で生成される(生物由来)が、例えば、メタンCH₄も有機物であるが、地球内部の化学反応によっても生成される。
 マントルの岩石が水と反応して蛇紋岩(橄欖岩、斑糲岩などの超塩基性岩の複合体)を形成する過程で生成される水素が、一酸化炭素もしくは二酸化炭素と反応して液体メタンを生成する(蛇紋岩化作用)。
 メタンCH4​ は、常温常圧では無色無臭の気体であるが、液体メタンは非常に低温で存在し、メタンの沸点は約 -161.6°C で、液体状態での密度は約 415 kg/m³ である。
 蛇紋岩化作用に必要な橄欖岩は、上部マントルの主成分である。沈み込みプレート境界などで海水や海水を含んだ含水鉱物がプレートともにマントルに引き込まれると、地下深部で橄欖岩と水が反応し蛇紋岩化作用が起こる。このプロセスは、特に深海底の熱水噴出孔や地殻の深部で観察され、高温高圧の条件下にある生命の起源や地下生物の生態系の維持に関与している。
 二酸化ケイ素SiO2は、岩石の主要な成分の一つで、特に石英は、.二酸化ケイ素の結晶形態で、透明または白色の鉱物結晶が特徴。
 石英は多くの岩石に含まれ、SiO2の量で分類されてもいる。特に花崗岩(深成岩)に豊富である。
 海洋プレートが沈み込む境界では、プレートに含まれる水によって橄欖岩が主体の上部マントルの融点が下がることでマグマを発生させ、「マグマ溜り」として一旦地表付近に留まる。
 上昇するときに大陸地殻の花崗岩質の岩石を融かしこみ、玄武岩質だけでなく、安山岩質やデイサイト質、流紋岩質などの火山岩を形成する。
 また、宇宙空間でも有機分子が発見されており、極低温の暗黒星雲では、ギ酸メチルC2H4O2のような複雑な有機分子が氷微粒子の上で生成されることが実験で再現された。宇宙にまだ星が出来ていない段階では熱源が無く極低温であった。宇宙空間で最初に出来る氷は、ガスや塵(ケイ酸塩鉱物などの鉱物微粒子)が密集した領域である暗黒星雲内に漂う、その鉱物微粒子の表面で水素原子と酸素原子が繰り返し反応することで形成し、やがて鉱物を覆って氷微粒子となる。これも生物活動とは無関係である。

 地球上でメタンが生成される方法はいくつかある。メタン菌による生物的生成は、酸素のない環境で有機物を分解し、水素と二酸化炭素からメタンを生成する。その地球上で生成するメタンのほとんどは、微生物の働きにより作られる。 実際のメタン生成反応を担う微生物「メタン生成アーキアMethanogen」は、酢酸や水素+二酸化炭素といったシンプルな化合物からしかメタンを生成できない。
 「メタン生成アーキア」は、嫌気性環境でメタンを生成する古細菌の一種で、これらの微生物は、水田・沼地・動物の消化器官・海底堆積物など、酸素の少ない環境に広く分布している。
  「メタン生成アーキア(メタン生成古細菌)」は、メタンを生成するために、メチル補酵素M還元酵素・ホルミルメタノフランデヒドロゲナーゼ・メテニルテトラヒドロメタノプテリンシクロヒドロラーゼなど特定の酵素を使用する。これらの酵素は、メタン生成経路において重要な役割を果たす。主に、水素と二酸化炭素・酢酸・メタノール・メチルアミンなどの基質からメタンを生成する。これらの微生物「メタン生成アーキア」は、地球上で放出されるメタンの大部分を生成しており、温室効果ガスとしてのメタンの役割は、環境浄化に不可欠なクリーンエネルギー源としてのメタンの生成に重要な役割を果たしている。
  (基質とは、酵素が作用して化学反応を引き起こす物質を指し、代謝の出発物質としても使われる。)

  複雑な有機化合物からのメタン生成には、「メタン生成アーキア」に基質を供給する発酵性細菌や有機酸酸化細菌などの様々な微生物の働きも非常に重要である。つまりメタン生成は、水田土壌・地下環境(油田・炭田など)・嫌気性廃水処理などで活躍する「メタン生成アーキア」、およびメタン生成微生物群集など多種多様な微生物間における共生的代謝による。

 ただ炭素の多くは植物由来で、植物は光合成を通して大気中の二酸化炭素を吸収し炭素を固定する。それが植物の体を構成する有機質材料となり、植物が成長する過程で蓄積される。
 この二酸化炭素を、植物が取り込むところから有機物が発生し、その時期を測定するのが放射性炭素年代測定法である。炭素12Cと炭素13Cには放射性がない安定同位体であるが、炭素14Cは放射性原子で、原子核が不安定なため、低エネルギーのベータ線(電子)と反電子ニュートリノを放出(ベータ崩壊)して安定な窒素14Nに変わる。
 炭素14 (14C)のように、陽子に比べて中性子が多い不安定な原子核があると、不安定な要因となる中性子を減らして陽子を増やすことにより安定な原子核になろうとする。そこで、1個の中性子が陽子1個と電子1個に変わり

  中性子n ⇄ 陽子p++電子e-+反電子ニュートリノv電子ニュートリノ【逆ベータ崩壊】

 の遷移過程の右方向への遷移(ベータ崩壊)、逆方向への遷移は電子捕獲(逆ベータ崩壊)と呼ばれる。

  電荷は、0(中性子)=+e(陽子)+-e(電子) となる。

 生まれて余分となった電子(-e)をβ線として放出する。この現象をβ崩壊と呼び質量数は変わらない窒素14Nになり安定する。
 放射線を放つことで窒素14Nなる。放射性原子には、不安定な原子核の半数(半分)が崩壊するのにかかる時間、いわゆる半減期と呼ぶ。炭素14Cの半減期は5,730年±40年と言う。
 動物に含まれる炭素も、おおもとは植物由来である。植物が死んで、炭素を取り込まなくなってから、植物に含まれる炭素14Cが減り始める。時間とともに炭素14Cが減るが、大気の上空で新たに作られる。炭素14Cは放射線(β線)を放って減っていく、上空の大気の窒素14Nは宇宙からの中性子が当たることにより、また炭素14Cに戻る。減ったのと同じ分だけ宇宙からの中性子によって作られるので、昔も今も炭素14Cの割合は一定している。

 炭素でいうと、特定の分子やタンパク質を識別し、追跡するためなどの生化学でのラベル実験や考古学で遺物などの年代測定に用いられる14C放射性同位体と13C安定同位体とで、同位体の分別fractionationをすれば、その物理学的・化学的プロセスを通して同位体比が変化する。一定のプロセス踏んで同位体変化が起こるため、ある物質の同位体組成を見ることにより、その物質がどういうプロセスを経てそこに存在するかを推定する目安になる。そのため炭素の同位体比を分析することが、科学的な研究や実務において重要な役割を果たしてる。
 例えば、氷床コアice core(氷河や氷床から取り出された氷の試料)や海洋堆積物の同位体比を調べることで、エポックepochごとのの大気中の二酸化炭素濃度や温度変化を推定することができ、古気候や古環境の研究に利用されている。それにより炭素循環のメカニズムが解明できる(環境科学)。
 出土した骨や歯の同位体比を調べることで、古代人がどのような食物を摂取していたかを推測することができる。古代の食生活や移動パターンなど、その生業を解明するために、炭素同位体比分析が利用されている(考古学)。
 特定の生物がどのような食物を摂取しているか、またその生物がどのような環境で生活しているかを理解するため、植物や動物の食物連鎖や生態系の研究において、炭素同位体比分析が用いられている(生態学)。
 岩石や鉱物の形成過程を解明するために、炭素同位体比分析が利用されている。これにより、プレートや地層変動、火山活動などについての解析が進む(地質学)。
 薬物の代謝経路や体内動態は、吸収 Absorption・分布 Distribution・代謝 Metabolism・排泄 Excretionなどいくつかの過程を辿って最終的に排泄される。これらの過程は一般的に「ADME」と呼ばれる。これにも炭素同位体比分析が利用されている。これにより、薬物の効果や副作用をより正確に評価することができる(医療・薬学)。

 炭素は安定同位体と放射性同位体の両方を持っているが、安定同位体比に焦点を当てると、地球上に存在する炭素のほとんどは、原子量が12で、約1%の割合で、原子量が13の炭素が存在し「13C/12C」比は極めて小さい。さらに、そのプロセスの最中の分別となればさらに極小の値になる。また、物理学的プロセスでも化学的プロセスでも、なんらかのプロセスが起こっている場合、12C化合物の変化よりも13C化合物の変化の方が重いから遅くなる。重い同位体は化学反応や物理的プロセスにおいて、軽い同位体よりもエネルギーが必要となり、その結果、反応速度が遅くなる傾向がる。それでも化学的プロセスで起こる同位体分別は、物理学的プロセスによるものよりも大きい。酵素反応であれば同位体分別は化学反応による同位体分別より小さいが、温度などの反応条件により、酵素反応での同位体分別に大きな変化が起こり得る。
 
 炭素安定同位体比の具体的な測定値の累積と集約により、物質の起源や反応過程を理解するための重要なツールになり、食物網の解析や水の起源の特定が可能になっている。食物網の解析では、一般に、動物の体内の炭素安定同位体比はその餌とほぼ同じか、若干高くなる。これにより、異なる栄養段階の生物と生息環境との関係を明らかにすることができる。また、炭素安定同位体比は、水の起源やその流域を特定するためにも使用される。例えば、地下水や河川水の炭素同位体比を測定することで、その流水がどのような地質環境を通過してきたかが推定できる。
  C3植物とC4・CAM植物の同位体分別は大きく異なる。このため、C3とC4・CAMを簡便に区別する手段として同位体分別が使われている。
 CAM植物は、特に乾燥した環境で効率的に水を利用するための光合成経路を持っている。夜間は気孔を開けて二酸化炭素をとりこんで有機酸にして蓄え、昼間は気孔を閉じ水分の蒸散を抑え、夜に蓄えた有機酸を糖にする植物を言う。その炭素の安定同位体比は、植物の光合成経路を示す重要な指標となる。
 CAM植物の炭素安定同位体比は、上記の独特の光合成経路を持っているため、炭素安定同位体比は、C3植物とC4植物の中間の値を示すことが多い。一般的に-8‰から-20‰の範囲にあり、この値は、C3植物(-24‰から-30‰)やC4植物(-10‰から-14‰)と比較して中間的な値を示す。