ブドウ糖とデンプン
(有機窒素化合物)

 
 Top

 車山ブログ
 DNA
 生物進化と光合成
 葉緑素とATP
 植物の葉の機能
 植物の色素
 葉緑体と光合成
 花の形成と受精
 早春のスミレ
 車山高原の笹
 諏訪の植生
 諏訪に生息する哺乳類
 車山の山菜
 車山高原の野鳥
 諏訪の植生
 諏訪に生息する哺乳類
 ニホンジカの生態 
 
 目次
 1)独立栄養生物(植物)
 2)有機窒素化合物アルカロイド
 3)ブドウ糖
 4)セルロース
 
 1)独立栄養生物(植物)
 植物が「独立栄養生物」と呼ばれるのは、外界から無機物さえ取り入れれば、糖質をはじめ様々な有機物を体内で合成でき、生存のために外界から有機物を取り込む必要がないからだ。
 当然、植物でも無機物という栄養が無ければ有機物を合成できない。そのため厳密には完全に「独立」して生きているのではないが、有機物を摂取する必要がない観点から「独立栄養生物」と呼ばれる。
  「従属栄養生物」と言われる動物は、体内で無機窒素化合物を有機窒素化合物に合成できない。生存に欠かせない有機窒素化合物は、植物や他の動物に依存し、それを「食べる」ことで獲得する。いずれも植物が作った有機窒素化合物である事には変わりがない。
 それを取り入れて、体内でタンパク質や核酸、ATP(アデノシン三リン酸)に作り変えている。
 生物が生体内で、単純な物質から複雑な物質、主に有機物を合成する生化学反応を「同化」と言う。植物の代表的な「同化」が光合成であり、その「同化」反応を進めるには、エネルギーの投入を必要とする。動植物を問わず、反応エネルギーとして使われるATPと、光合成の電子伝達物質としてのNADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン 酸)という2つの化学エネルギーが投入される。
 また水(H₂O)も重要で、溶媒としていろいろな物質を溶かし、光合成や呼吸などの化学反応に使われる。
  「独立栄養生物」である植物は、外界から窒素(N)を含む「無機窒素化合物」を取り入れ、様々な「有機窒素化合物」を化合する。この反応で作られるのが、アミノ酸やアミノ酸の結合体であるタンパク質とビタミン・核酸(DNAとRNA、その構成元素はC・H・O・N・P,リン)・ATP・クロロフィル・脂質・炭水化物など、植物の生存には不可欠な重要な物質である。
 この反応は「窒素同化」と呼ばれ、植物のみならず菌類や一部の細菌だけが持つ特殊能力である。「窒素同化」には、光合成によって生産された「還元力」が使われため、光合成の作用とも言えなくもない。
 「脂肪」は細胞のエネルギー源となり、リン脂質や糖脂質は細胞膜などの生体膜の成分となり、その主たる構成元素は、C・H・O・Pである。
 ブドウ糖(グルコース)などの単糖類は、それらが多数結合し多糖類として大きく分けられる。主としてエネルギー源である。
 同じブドウ糖(C6H12O6)が鎖状に重合したセルロース(C6H10O5)nは、細胞膜の外側で細胞を保護する細胞壁の3割程度に含まれる主成分である。セルロースは物理的に非常に強固な繊維を作り、植物は細胞の周りに、このセルロースの壁を作って形を維持し、樹木の幹は、セルロースから作られた細胞壁を頼りに、枝葉を大きく広げる巨木を支持する。
 ブドウ糖は、光合成で作られた炭水化物の一つで、植物のエネルギー源になるだけでなく、自分の体を作る材料として使う。このセルロースの繊維の上に「リグニン」という物質が付着して、細胞辟は何m、何十mにもなる木の重量を支える強度を持つようになる。セルロースとともに木材の構成成分として重要で、木材に 20~30%含まれている。植物中にセルロースなどと結合して存在する高分子化合物で、細胞壁に堆積して木質化を起こし、植物体を一層強固にする。主たる構成元素は、C・H・Oである。
 タンパク質は多数のアミノ酸が結合した高分子構造で、酵素としても重要であるが、遺伝子のスイッチをオンにする転写調節因子として機能する。その主たる構成元素は、C・H・O・N・S(硫黄)である。
 目次


 2)有機窒素化合物アルカロイド
 植物は、外敵となる病害虫と遭遇しても、逃げ出すことができない。そのため、多くの植物は身を守るため多少のアルカロイドをもっており、しかも必要性が無くなっても動物のように排泄ができない。
 アルカロイドの種類によっては、含有量が多いと毒草となり、含まれるアルカロイドの量によっては薬草にもなり、また、苦味や辛味の成分となり、それが野菜の個性になったりする。普段食べる野菜でさえ、アルカロイド成分を多少なり含んでいるが、あるレベルを越えなければ少し注意するだけでよい。  
 植物が生成する有機窒素化合物には、動物が摂取すると様々な生体反応を引き起こすアルカロイドと呼ばれる複数の物質群が含まれている。
 アルカロイドは、C・H・Nに加えてOやSと化合され、その他には稀にCI(塩素)・Br(臭素)・Pといった元素を含む。元来、植物由来の化合物群と定義されていたが、一般にフグの毒として知られるテトロドトキシン(C11H17N3O8)や麻痺性貝毒群の主毒であるサキシトキシン(C10H17N7O4)のように動物や微生物が産生する有害な窒素化合物も含めるようになっている。
 タバコの葉に含まれるニコチン(C10H14N2)は、タバコを害虫から護るための殺虫作用を備える物質である。神経系に作用し、興奮もしくは麻痺を誘発し、しかも猛毒であるため、農業用殺虫剤などに利用される。
 ジャガイモの芽とその芽の根元や、光に当たって緑化した部分には、天然毒素であるソラニン(C45H73NO15)やチャコニン(C45H73NO15)などのグリコアルカロイドが多く含まれている。その2つの物質だけで、ジャガイモ中のグリコアルカロイドの約95%を占めている。
 ジャガイモに含まれるグリコアルカロイドは、ジャガイモの芽に最も多く含まれているが、葉・茎・花・果実・根にも含まれている。特にソラニンやチャコニンは、ジャガイモの苦味成分となっている。
 通常、ソラニンは水溶性で、水につけたり茹でたりすると少しは溶出する。ところが、ジャガイモのソラニンは、243~270度で分解するとされており、通常の加熱調理では消滅しないと言う。しかし、名古屋女子大の実験による皮付きで調理では、茹で・揚げ・オーブン・電子 レンジで50~60%に減少したという。
 主にナス科の植物に含まれるステロイドアルカロイドも、動物からの食害を防ぐための毒物である。イヌホオズキやツルナスなどのナス科の植物にもグリコアルカロイドが含有する。同じナス科のトマトの葉には類似物質のトマチンが含まれている。

 ケシの原産地は、地中海東部沿海地方で、やがてアッシリアからバビロリアにも伝えられた。ケシの実から生成されるアヘンは、白いケシの花が散った後に残るケシ坊主(未熟果実)に浅い傷を付けて、滲出させた乳液を乾燥したもので、アヘンに含まれるアヘンアルカロイドである。
 紀元前から鎮痛作用などとして使われていた。古代ギリシャでは、不眠に対してアヘンを用いていたようだ。そのため麻薬としての効能が知られるようになった。
 今日のアヘンの主産地は、インド・アフガニスタン・イランという。1803年に、アヘンから薬効成分だけを分離し、鎮痛剤としてモルヒネの単離に成功したフリードリヒ・ヴィルヘルム・アダム・ゼルチュルネル(Friedrich Wilhelm Adam Serturner)はドイツの薬剤師で、ギリシャ神話の夢の神であるMorpheusにちなんで、morphinumと名付けた。生薬から有効成分を単離させた初めての成果である。
 モルヒネ以外に、1832年に、アヘンから単離されたコデインやテバイン・パパベリンほか20種類以上のアルカロイドが取り出された。その合成化合をたどれば、アミノ酸経路によって生成されるアルカロイドで、モルヒネ・アトロピン・キニーネ・コカインなど、天然由来の有機化合物の総称となっている。
 モルヒネから新たな麻薬ヘロインが作られた。現存するあらゆる薬物の中でも「快」と「悪」双方で最高峰に位置するものとして、「薬物の王者(The king of drug)」とまで言われている。モルヒネよりも脂溶性が高いため、摂取後も暫くは体内で貯蔵されるため多くが脳に取り込まれ、そのため強烈な麻薬作用を引き起こすことが判明した。各国では厳しく規制している。
  コカインは、南米アンデス地方で古くから疲労回復の興奮剤として、コカという灌木の葉からコカインが分離され麻酔や麻薬として利用されていた。原産地の南米では、古代から貨幣と同様に扱われる貴重な植物であった。後世、ヨーロッパでコカの葉から独自のアルカロイド成分・コカインが分離され、麻酔薬として使われた。 コカインはごく少量でも生命に危険が及ぶ薬物で、主に鼻の粘膜から吸いこんで摂取するため鼻が炎症を起こし、肺も侵される。
 この麻薬のもっとも特徴的な中毒症状は、皮膚と筋肉の間に虫がはいまわるような感覚が起こる皮膚寄生虫妄想である。また、脳への影響も大きく、痴呆状態となる。しかも、コカインの恐ろしさは、決してやめられないことにある。 
 近年、幻覚剤であるLSDなど非天然型が、化学合成で作られるが、いずれもアルカロイドに含めることが多い。 植物が生成する有機窒素化合物の「アルカロイド」は、更に化学反応をさせることによって、毒・薬・麻薬など強い生物活性を持つ物質となる。
 その一方、自然界の有機毒素であるジャガイモのソラニンやトリカブトのアコニチン、フグ毒のテトロドトキシンなどは、土中の微生物により、CO2NH3(アンモニア)・H2Oに分解されて無毒化されるため作物に吸収されない。
 目次


 3)ブドウ糖
 大きな意味での光合成で作られた窒素同化物質が、どのようにして植物の体の中で運ばれるのだろうか。典型的な光合成産物であるブドウ糖から学んでみたい。
 光合成で作られた炭水化物は、ショ糖(スクロース;C12H22O11)に変換され、葉から根や茎へ送り出される。その通り道が師管である。
 種子植物とシダ植物の維管束組織は、主に水分通導を担う道管を含む木部組織、同化産物などの移動の通路となる師管を含む師部組織、茎および根の肥大生長を活発に行なう分裂組織である形成層などからなる複合組織である。
 形成層は成長の過程で木部組織と師部組織を作り出す。高等植物では、形成層を挟んで内側に木部、外側に師部が配置されている並立型が最も一般的で、道管や木部組織の細胞の多くは成熟すると死細胞になる、もし木部が外側に配置されていると肥大成長が妨げられるからだ。
 また葉脈で表側が道管で裏側が師管になっているのは、茎の維管束と繋がっているからで、葉脈は茎と葉の接続部の節から下のほうに伸びて、そのまま茎の維管束へと連続する。それで、葉脈の表側の導管が茎に入ると内側の木部となり、葉脈の裏側の師管は茎の外側の師部と連なる。
 ショ糖は、料理に使ったり、紅茶に入れたりする砂糖の主成分である。ショ糖は一つの分子のブドウ糖と果糖の2つの単糖類から合成化合される二糖類だ。ショ糖を主体とする工業的製品を総称して砂糖という。製品としては、サトウキビやサトウダイコン(テンサイ)から抽出し、純度を高めて結晶化する。なお多糖類には共通の性質として還元性がない。
  根や茎では、ショ糖を成長のために使い、またエネルギーとして貯蔵するためにデンプンC6H10O5nに変えたりする。高等植物の細胞内にあるデンプンの結晶となるデンプン粒やそれを取り出して集めたものも、一般にデンプンと呼ぶ。デンプンは舐めても甘くない。多数のα-グルコース分子が長く鎖のようにつながり重合した天然高分子である。
 かなり純粋なデンプンである片栗粉は、水に溶いても殆ど溶けない。分子が長くつながることにより水に溶けにくくなっている。 デンプンは「貯蔵デンプン」といい、野菜として消費されるサツマイモやジャガイモなどの根に蓄えられている。ショ糖は、種子が作られる際には、デンプン に変えられて蓄えられる。水に溶けない、他の物質と反応しづらいという特性が貯蔵に有利に働く。
 糖であれば高濃度で水に溶け浸透圧が上がる。不溶性のデンプンで貯蔵すればその恐れもなく安定している。 種子の中にある植物の胚が発芽して成長する際の栄養源となる。これらがコメやコムギとして常食される。いずれにも使われなくなった残りの糖は、葉緑体のストロマ内部でデンプン粒として合成され、エネルギー源として蓄えられる。
  植物の体内のある場所で作られた物質が、別の部位へ送られることを「転流」といい、その際に物質を供給する側を「ソース(生産部位)」、受け取る側を「シンク(消費部位)」と呼ぶ。光合成では、糖や有機窒素化合物を生産する葉が主な「ソース」で、花・果実・種子やイモのような貯蔵器官、若い葉など、成長や貯蔵に使われる場が「シンク」になる。
 芽吹いて間もない若い植物は、葉が「ソース」であり「シンク」にもなる。光合成によって作られた物質の数十%を葉に配分し、葉の成長を促して葉の枚数を増やし、更なる光合成を活発化させる。成長につれ光合成産物が増量し、次第に他の部位に光合成産物を「転流」する割合が高くなり、同時に生殖器官や貯蔵器官が作られるために多くの光合成産物の需要が増していく。 
  光合成で作られた炭水化物は、ショ糖(スクロース;C12H22O11)に代謝され、葉から根や茎へ送り出される。その時に、ソース葉が最適温の条件を備えていれば、ソース葉のショ糖濃度は最高になる。この時、シンク葉のショ糖代謝は同じ温度で最適なのかは分かっていない。一枚のソース葉に対して、師管でつながっている先のあるシンク器官を想定した場合、温度のみが制限要因であるとすると、ソース葉のショ糖濃度と、シンク器官のショ糖濃度が温度によって影響を受ける代謝によって決まり、その結果、転流速度も決まることになる。
 ただし、シンクのショ糖消費のみが温度によって影響するわけではなく、ソース葉におけるショ糖合成と糖代謝、師管へのショ糖の積み込み、また、場合によっては、師管からシンク器官へのショ糖の積み下ろしも温度の影響を受ける可能性がある。師管が温度によって物理的に詰まるようなことが起これば、それも転流に重大な影響を及ぼすことになる。
 また、隣接する細胞には、細胞と細胞をつなぐトンネルの役割をする原形質連絡が知られており、ショ糖はこの原形質連絡を通って移動することも知られている。直径約50-60 nm(ナノメートル)ほどの構造で、隣り合った細胞間を突き抜けるように存在し、細胞当たり、数千から数万ほどあるとされている。このトンネルが、植物ウィルスの感染拡大経路になっていることから、これまでは主に植物病理学者が研究していた。しかし近年、細胞の核内で遺伝子の発現を調節するタンパク質の転写因子のいくつかが、細胞間移行することが明らかにされた。
 目次

 

 4)セルロース
 セルロース (cellulose) とは、分子式(C6H10O5)nで表される同じブドウ糖(C6H12O6)が鎖状に重合した多糖類である。植物細胞の細胞壁および植物繊維の主成分で、天然の植物質の1/3を占め、地球上で一番量の多い有機化合物である。
 セルロースは紙の主成分であり、その紙の原料である木の主成分である。デンプンが螺旋を描くように糖がつながっているのに対して、セルロースは直線的に糖がつながり、物理的に非常に強固な繊維を作る。実際、デンプンやセルロースは、数百から数千の糖がつながっている。植物は細胞のまわりにセルロースの細胞壁を作り、形を維持している。樹木の幹のセルロースは、枝を支えるのに必要な強度を保つ役割を果たしている。
 光合成の産物という点でデンプンが有名だが、二酸化炭素の固定先としてセルロースは極めて重要だ。植物が枯れた場合、残されたデンプンは、直ぐに他の生物に分解され二酸化炭素に戻ってしまう。セルロースは物理的にも化学的にも強靭で、直ぐには二酸化炭素には戻らない。 夢の素材といわれるセルロースナノファイバー(CNF)の実用化が進んでいる。「セルロース」をほどいて再構成した繊維材料であるCNFは、環境負荷が少ないうえ、鉄よりも軽くて強い。繊維1本の直径は数nm~数十nm(10億分の1m)、鉄の5分の1の軽さで強度が5倍と、炭素繊維(カーボンファイバー)に迫る性能を備える。しかも、炭素繊維の6分の1程度のコストで、車のボディから家電製品まであらゆる工業製品の材料に適合する。また、透明で熱を加えても膨張しにくい、化粧品などに加えると粘りを出す、などの特性を備えている。
 2,030年には1兆円市場に達すると予測され、製紙会社などの研究開発や用途開拓が加速している。
  セルロースは、分解しづらいため、人間には消化ができない。 ウシ・シカ・キリン・ラクダなどはヤギ・ヒツジと同じように反芻胃を持ち、そこにいる微生物の働きによって天然の植物質の1/3を占めセルロースを分解する。第一胃はルーメンと呼ばれ、成牛で150~250リットルの膨大な容積をもち、そこには、細菌をはじめとする様々な微生物が多く生息している。その微生物らは、高等動物にはない繊維質を分解する消化酵素(セルラーゼ)を出す。その他の何種類かの酵素の働きによって、グルコースが生成される。
 目次