生物進化と光合成
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生物が活動するためには、エネルギーが必要だ。それは細胞の中の活動も同様だ。 人間も含めて動物たちは、無機物をエネルギー源にはできない。他の生物が作り出すアミノ酸や脂質といった有機物を、直接または間接的に食べて生きている。砂糖はサトウキビやテンサイ(砂糖大根)から得られるエネルギー源であるが、塩は鉱物でエネルギー源に成りえない。このように他の生物に依存する生物を従属栄養生物と呼ぶ。 一方、他の生物が生成する有機物に頼らず生存を全うする独立栄養生物もいる。 陸上植物および緑藻などの緑色植物は、光合成によって太陽エネルギーを利用して自分を支えるエネルギーや有機物を生産している。 化学合成細菌も独立栄養生物であるが、光エネルギーを使わず無機物の酸化還元反応から生存に必要なエネルギーを得ている。化学合成細菌に依存する生物と共に小さな生態系を作っている。 土の中の小さな生き物や微生物は、生物の排泄物や死体などの有機物を分解して無機物に変える働きをしている。自然界の分解者と呼ばれている。それを植物が栄養素として吸い上げるというのが循環の第一歩である。 目次 |
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1)シアノバクテリア(cyanobacteria) 藍藻(らんそう、blue-green algae)は、藍色細菌(らんしょくさいきん、cyanobacteria)の旧名である。同じく葉緑素(クロロフィル)を持つが、藻類ではなく、シアノバクテリア(藍色細菌)と呼ばれる細菌(バクテリア)の1群である。光合成によって酸素を生み出す酸素発生型光合成細菌である(バクテリアは細菌のラテン語での呼び名)。細菌とは、原核細胞つまり核膜は無いが、固い細胞壁がある単細胞の生物である。大腸菌などの細菌類や藍藻類などと同様、染色体がほぼ裸のまま細胞内にあり、核膜がない原核生物(バクテリア)だ。 ヒトなど脊椎動物・植物・原生動物などほとんどの生き物が、細胞内に核膜をもつ真核生物である。 シアノバクテリアが、バクテリアの仲間といっても、他のバクテリアとちがって葉緑素をもち光合成をすることができる。顕微鏡下でのみ観察できる。単細胞で浮遊するもの、少数細胞の集団を作るもの、細胞列が糸状に並んだものなどがある。 シアノバクテリアは、その名の通り、青っぽい緑色藍色細菌とも呼ばれる細菌の1群であり、光合成によって酸素を生み出す。それはまさに葉緑素をもち、太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する、地球上で最初に光合成を行なった光合成細菌と言える。 葉緑体のリボソーム(Ribosome)RNAの塩基配列は、シアノバクテリアの中にも含まれる。リボソームは、mRNA(messenger RNA)の遺伝情報を読み取ってタンパク質を合成するという場である。葉緑体を生じさせる細胞内共生が1回だけ起きたという進化が、その後の地球の運命を変えた。次に、植物や二次共生藻類の起源が、シアノバクテリアを細胞のなかに取り込んで葉緑体と共生する進化過程を経たことに始まる。 一回の細胞内共生によって獲得した葉緑体を持つ植物群は一次植物と呼ばれる。一次植物はアーケプラスチダとも呼ばれる生物群で、真核生物の主要な系統の1つである。アーケプラスチダは、陸上植物・緑藻・紅藻と灰色藻類の小さなグループからなる。このうち緑藻と紅藻は様々な生物に取り込まれ、細胞内共生して二次植物の葉緑体となっている。二次植物は6群に大別され、クリプト藻・不等毛藻(ふとうもうそう)・ハプト藻・渦鞭毛藻(うずべんもうそう)・クロララクニオン藻・ユーグレナ藻といった藻類のグループである。灰色藻類を取り込んだ二次植物は知られていない。 太古の地球における大気の主成分は、二酸化炭素・水蒸気・窒素であった。酸素は殆ど含まれていなかった。そこに酸素を発生させるシアノバクテリアが登場した。そして、その後の地球の運命を変えた。シアノバクテリアは、地球上で広く吸収できる水を材料にして、光合成によって少しずつ酸素を大気に排出し、現在の大気を作り上げた。 シアノバクテリアは、数十億年前から地球上に生息していた。太古の地球では海洋の浅瀬でこのシアノバクテリアが現在の珊瑚礁のようなコロニーをつくり、大繁殖し地球上を席巻した。また、氷河期の酷寒の極限状態が、太古の地球の環境をあらわしている。氷河上のシアノバクテリアは、氷の上にできる水たまり(クリオコナイトホール)の底で主に繁殖した。そのため地球上に広く分布することができた。 地球上に広く繁殖したシアノバクテリアは、普通に池や水たまりにみられる微生物である。海洋や沿岸・河川や湖沼の中に多いが、砂漠も含めた陸上で増殖するものや、動物や植物と共生するものもある。シアノバクテリアの現在の地球上の分布をみると、温泉や強塩湖など、普通の生物が生きていけないような極限環境で優占している。氷河期でも、シアノバクテリアは氷の上で繁殖していた。 大気中に徐々に酸素が蓄積され、その酸素によって地球の周りにオゾン層ができた。オゾンは酸素原子3個からなる気体で、成層圏オゾンは、太陽からの有害な紫外線を吸収するため、強烈な紫外線にさらされなくなると生物は陸上へ進出した。酸素を使って呼吸する生物の誕生は、その効率的な生産により地球上を席巻した。 35億年前の地層からシアノバクテリアに似た化石が発見されている。その単細胞全体で光合成をしているシアノバクテリアが、他の細菌と共生的に合体することによって真核生物が生じ、シアノバクテリアは、その生物の葉緑体となったと考えられている。シアノバクテリア自体が葉緑体のようなもので、その葉緑体の起源が、実はシアノバクテリアそのものであった。 葉緑体は、光合成を行うことによって光エネルギーを生体エネルギーに変換し、さらにそのエネルギー を利用して二酸化炭素から糖などの有機化合物を合成する。しかし、葉緑体は光合成の場であるばかり ではなく、植物の生育にとって不可欠なアミノ酸や脂肪酸などの代謝産物、さらには抗菌物質や色素などの二次代謝産物の合成の場でもある。葉緑体は、植物におけるミクロな化学工場ということができる。 マラリア原虫は共生藻類の名残で葉緑体を持っている。マラリア原虫は光合成をしないのになぜ葉緑体を持っているか。実は、その元葉緑体により、脂質の合成など、光合成以外の重要な働きをしている。 藻類は主に水中や湿地に生育し、体内に葉緑素をもち、そこで光合成をして生存に必要なすべての有機物を、炭酸ガス・水などの無機物から合成する植物である。 1,883年にシンペルが、葉緑体が細胞内で分裂によって自立的に増殖することを指摘した。1,909年にコレンスは、葉緑体が独自に遺伝子を持つ可能性を示唆した。葉緑体やミトコンドリアは他の細胞器官と異なって、それぞれが半自律的に分裂によって増殖し、しかも独自の遺伝子を持っていることが知られている。葉緑体自身がDNAを持っているので、それを元に蛋白質合成をするためのリボソーム(mRNAの遺伝情報を読み取ってタンパク質を合成する構造体)も葉緑体に独自に備えている。 単細胞の動物プランクトンは、外部から食べ物を取り込む際、自分の体を窪ませ、自分の細胞膜で包み込んで細胞の中に吸収し消化することがある。その食べ物がシアノバクテリアであれば、そのまま細胞内に生かして、その光合成により必要なすべての有機物などの代謝産物や抗菌物質・色素などの二次代謝産物を獲得した方が断然有利となる。葉緑体は通常の植物のなかで、光合成以外に様々な働きをしている。単純な窒素化合物を、アミノ酸合成に利用できる窒素化合物に変えたり、脂質を合成したりする。マラリア原虫の元葉緑体でもそうした働きを担っているとみられる。それにより細胞の中で飼いならされたシアノバクテリアが、現在の葉緑体なのではないかみられている。これを葉緑体の細胞内共生説と呼ぶ。 目次 |
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2)水の中の光合成生物 藻類 陸上植物には、コケ・シダ・裸子植物(種子植物のうち胚珠がむきだしになっているもの)・被子植物(胚珠が子房で包まれ ている。果実は受粉した雌しべの子房が発達した部分と、その付属器官のことである)などたくさんの種があるが、皆、緑色の藻類のグループから進化したことがわかっている。これは核のDNAや葉緑体の性質、細胞の微細構造など、いくつものデータから明らかになっている。つまり、陸上植物は、葉緑体の中にある色素体が多量の葉緑素を含むため、緑色を呈する緑藻類から進化した。現生している陸上植物の中で、最初に陸上に進出し、最基部で分岐したのがコケ植物、その後、シダ植物や花を咲かせる種子植物が生まれた。皆同じ祖先から派生した細胞からできている。 多様な藻類はどのようにして生まれたのだろう。真核藻類も一つの生き物から進化したのだろうか。様々な藻類のDNA解析からは、核そのものはお互い似ていないが、その細胞内の葉緑体のDNAは皆お互いによく似ていた。しかも陸上植物のものとも似ていた。葉緑体の起源は一つであって、核はそれぞれであった。 この謎はクリプト藻やクロララクニオン藻という藻類を調べることで解けてきた。 二次植物は6群に大別されたが、その中のクリプト藻とクロララクニオン藻は、いくつかの変わった特徴を持っている。たとえば、細胞の中を見ると、もう一つの細胞があるように見える。そして、その中に葉緑体と核のような構造がある。核のような構造の中には、真核細胞の核にあるようなDNAがあり、ヌクレオモルフ(核様体)と呼ばれている。ヌクレオモルフは、退化した共生体の核で、一部の藻類、即ちクリプト藻とクロララクニオン藻のみでみられる。クリプト藻は紅藻、クロララクニオン藻は緑藻が、それぞれの由来とされている。いずれの場合にも、光合成能を持った真核生物が食作用によって宿主細胞内に取り込まれ、そのまま細胞内で保持されるうちに細胞小器官が退化し、萎縮した核となり、葉緑体としての光合成機能だけが残された。 注目すべきことは、葉緑体が「もう一つの細胞」の中にだけ存在していることだ。これは、クリプト藻とクロララクニオン藻の祖先は、葉緑体を持たない真核細胞が宿主となり、それが葉緑体をもつ藻類を細胞内に取り込んで、葉緑体を二次的に獲得し、現在のような状態になった、と考えられている。ヌクレオモルフは取り込まれた藻類の核の名残なのだ。 このように、真核生物が別の真核生物を取り込んで共生させることを「二次共生」と呼ぶ。真核細胞の中にあるミトコンドリアや葉緑体は、もともとは独立していた原核細胞が取り込まれて共生したのだということはよく知られている。これを「一次共生」とし、真核細胞が真核細胞を取り込むことを「二次共生」と呼ぶ。今述べた以外にも多くの藻類が、二次共生で葉緑体を獲得したことがわかっている。核のDNAが似ていなかったのは、取り込んだ側の細胞が多様な起源をもっているためだった。葉緑体を獲得した方法がわかることで、真核藻類の世界はさまざまな起源の細胞で構成されていることが明らかになった。だからこそ、真核藻類といっても実にさまざまな形や構造をもっているのだ。 真核藻類を整理すると、一次共生によって葉緑体を獲得した仲間3系統と、そのいずれかの藻類を取り込んだ二次共生で生まれた6系統になる。 陸上植物の緑色の葉が太陽の光を受け光合成をする。この葉の緑色の正体が葉緑素(クロロフィル)と呼ばれる。実際には、緑色をした茎も光合成をしている。花、果実や根においても、緑色をしていれば光合成を営んでいる。クリスマスローズの花は緑色を帯びている。スイカの皮は、緑と黒の縦じま双方で光合成を行なっている。むしろ葉緑体がたくさん詰まっているから黒く見える。枝豆や空豆の莢も同様で、中の豆は、豆の中が酸欠にならないように光合成で酸素を少し出しているという研究が進められている。 光合成器官である地上部を失うと、根で葉緑体の分化が促進し、白い根が緑になることが確認されている。 干上がった磯や浅瀬で見られる海藻はひじょうに色彩豊かだ。緑藻もあるが、海の中では赤い植物の紅藻や黄褐色の植物の褐藻などがたくさん繁茂している。特に、黄褐色や赤色などが目立つ。これら色の異なる海藻にも緑色のクロロフィルが存在し、陸上の植物と同様に、光合成の営みに役立っている。これら海藻は、体全体が葉のような役割をもち、全身で光を捕らえ光合成をしている。 太陽の光は、虹にみられるように赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7色に分けることができ、その主成分は、光の三原色である「赤色光」、「緑色光」、そして、青、藍、紫をまとめた「青色光」となる。 海の中は、光の量や色が陸上の環境とは大きく異なっている。水深が増すにつれ光の強度は急激に減衰し、さらに太陽の可視光の成分のうち赤〜橙色や紫色の光は、海藻の生息場所である沿岸部を照らしたとき、赤色光は、水によく吸収される性質を持つため、海水に吸収されてしまう。そのため、深いところには青色や緑色の光だけが届くようになる。その青色光も海水中の不純物に吸収されたり、土粒やプランクトンなどで散乱されたりして、ある程度の深さ以上にまで届くことはない。結果として、海藻の生息場所へは、その成分のほとんどが緑の光となって降り注ぐことになる。また、降り注ぐ光の量も陸上と比べるべくもない。しかも、単色光の明るさは、その光に含まれる量に比例する。また光合成には、青い光と赤い光が使われ、緑色の光は使われづらいことが分かった。藻類の細胞の中にある葉緑体が酸素を生み出していることが分かる。葉緑体が緑色に見えるのも、光合成に使われなかった緑色の光がとどまっていたためであった。 目次 |
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3)クロロフィル(葉緑体) クロロフィルというのは、一つの物質の名称ではなく、構造がよく似た物質の総称である。大きく分けて光合成細菌の持つクロロフィルをバクテリオクロロフィルと呼び、シアノバクテリアや藻類・陸上植物が持つクロロフィルは、単にクロロフィルと呼ぶ。 バクテリオクロロフィルは、化学的にはきわめてクロロフィルに似ており、マグネシウムを含む有機化合物で、クロロフィル同様光のエネルギーを捕えて、これら細菌の光合成に関与する。ところが、1,996年、中心に亜鉛を持つバクテリオクロロフィルを含む生物が発見された。同年、パラオの海の群体ホヤから酸素発生型光合成を行なう新型の原核生物の培養に成功し、アカリオクロリスと命名した。アカリオクロリスから赤外線を吸収する能力のある新型の色素クロロフィルdを主な光合成色素として持つシアノバクテリアが発見された。 さらにクロロフィルfは2010年に新しく報告されたクロロフィルで、最初はストロマトライト(シアノバクテリアが浅い海で生育して岩石状に化石化した構造体)の中で確認された。その後、日本の研究者が、アカリオクロリスに近縁の特殊なシアノバクテリアが光合成色素としてクロロフィルfを持っていることを明らかにした。クロロフィルfはクロロフィルdと同様に赤外領域の光を吸収し、しかも、赤外領域の光を照射して生育させた場合にこのクロロフィルfを持つようになる。つまり、赤外線が豊富な時にそのエネルギーをも使うために発達させた特殊なシステムのようだ。 バクテリオクロロフィルには、aからgまで 、クロロフィルであればaからfまと、その細かい構造上の違いごとに分類されている。シアノバクテリアならクロロフィルa(青緑色)を陸上植物や藻類全般が持ち、クロロフィルaとクロロフィルb(黄緑)は陸上植物や緑藻に広く見られ、クロロフィルcは珪藻や褐藻などにc1・c2・c3など少し構造が違うものに分けられる。クロロフィルは生物の種類によって異なっている。 海藻は、陸上に比べて光の条件の劣る環境に生息するため、その生息場所に応じた様々な光合成色素を保持し、デンプンを生産し貯蔵する。海藻が、緑藻類・褐藻類・紅藻類に分類されるのも、その海藻が含有している色素などの種類を基準にしている。 緑藻類は、全世界で約1万種近くが知られ、そのうち90%弱が淡水産で、10%強が海産である。少数ではあるが、スミレモ(菫藻)などのように空中に露出する古いコンクリートの壁や石垣あるいは木の幹に付着して鮮やかなオレンジ色に染める。 陸上植物は、葉緑体の中にある色素体が多量の葉緑素を含むため緑色を呈する緑藻類から進化した。 緑藻類はさらに鮮やかな緑色を持つ浅所型緑藻類と、葉がいわゆる海松色(みるいろ:黒色掛った黄緑色)をした深所型緑藻類に分けられる。 浅所型緑藻類は、潮間帯(ちょうかんたい)など、光に不自由をしない浅い海中に分布している。 含有色素は、カロテン(黄)・クロロフィルa・クロロフィルb・ルテイン(黄色色素)・ビオラキサンチン(黄)・ネオキサンチン(黄)で、これは、陸上植物の葉が含んでいる色素と同様の構成になっている。そのため、今日の陸上植物は、この浅所型緑藻類から進化したと考えられている。 一方、深所型の緑藻類は、水深20m〜30mといった深さに生息している。緑藻類は、ルテインの代わりにシフォナキサンチン(オレンジがかった黄)やシフォネイン(オレンジがかった黄)を含んでいる。 緑色に見える物体は、緑色の光を反射する物体だから、一見して、この深所型緑藻類は緑色の光を利用できないと考えられるが、深所型緑藻類に含まれるシフォナキサンチンは、緑色光を吸収し、さらにそのエネルギーをクロロフィルa(青緑色)に渡して光合成を行わせることができる。このシフォナキサンチンにより、深所型緑藻類は、緑藻であるにも関わらず、緑色光がほとんどを占める水深30mの世界で、太陽光を利用した光合成を行うことができる。 つづいて褐藻類は、先ほどのクロロフィルaの他に、カロテン(黄)・フコキサンチン(黄)・クロロフィルc(緑黄色)といった色素を含んでいる。黄色い色素のフコキサンチンは、全ての褐藻に共通して含まれる色素で、浅所型緑藻類に含まれるシフォナキサンチン同様、緑の光を吸収し、クロロフィルaへそのエネルギーを伝える役目を果たしている。 フコキサンチンは、生きている褐藻類の細胞の中では、赤い状態となって存在している。褐藻が褐色の色素を含まないのに、褐色に見えるのは、赤くなっているフコキサンチンとクロロフィルの緑が重なり、「緑色+赤色=褐色」となっているからと考えられている。 ワカメも褐藻である。ワカメを店頭で見ると緑色をしているため、一見、緑藻のようにしか見えない。海岸の岩などに根状の部分で固着し、葉状部を水中に伸ばしている時は、褐色である。 収穫されたワカメは、一度、熱湯に浸される。するとワカメは、その色を褐色から緑色へと変化させる。この時、ワカメの細胞の中では、フコキサンチンの赤が分解し、褐色から赤色が抜けるため、残った緑が熱湯処理後のワカメの色となる。 さらに多くの色を持つのが、最も深い水深に適応した紅藻類だ。紅藻類に含まれている色素としては、カロテン・クロロフィルa・ルテイン等の他に、水溶性色素タンパク質と総称されるフィコエリスリン(赤)・フィコシアニン(青)・アロ フィコシアニン(青)などが含まれている。このうち、紅藻素ともいうフィコエリスリンは、全ての紅藻類に含まれ、光合成の補助色素として光のエネルギーの捕捉に重要な役割を果たしている。深海の紅藻ほどフィコエリスリン量が多く、効率よく光のエネルギーを吸収する。 ほとんど全ての紅藻類は、緑のクロロフィル、黄色のカロテンやルテイン、そして上記の青や赤の色素の組合せを持っており、そして、これらの色素量を調整することにより、様々な色へと変化することができる。 フダラクという紅藻は、少し幅のある短い茎から長く大きな葉をだす。葉体は厚く粘質に富み、なめらかな皮のようになる。大きなものでは高さ1m近くになる。もともと小豆色に近い色をしているが、初夏には、個体ごとに茶色、オレンジ、黄色、黄緑、青緑といった色に変化することが知られている。この色の変化は、4色の色素の量の多寡が影響している。 夏は、海藻の衰退期で、ほとんどの個体が岩場から姿を消す。台風の通過が一段落した10月ごろの海では、来る冬に向けて、海藻達の「芽吹き」が始まる。海藻が最も繁茂するのは、冬から春に掛けての季節だ。 目次 |