チラコイド反応
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  光合成(Photosynthesis)は、光・温度・二酸化炭素濃度が一定の条件を満たせば、絶え間なく連続する反応である。
 生物の細胞に必要な有機物の大部分は、光合成によって生産されている。植物と藻類、それにシアノバクテリアなどの光合成細菌は、光合成により水から得た電子と太陽の光エネルギーを用いて、大気中の二酸化炭素(CO2)を有機化合物に変換している。その過程で、水分子を分解し大量の気体酸素を大気中に放出している。地球上のほぼすべての酸素が、「光化学系Ⅱ」における水分解酵素の働きにより作り出されている。それも、太古のシアノバクテリアなどの光合成細菌に由来し、その大量供給により、動物のみならず植物や好気性細菌の酸化的リン酸化に使われ、それにより好気的代謝をしてATPを作り、非常に多様な生命体へと進化させていった。
 通常、葉緑体の細胞内で、楕円形の袋状のものをチラコイド、その外部を満たすものストロマとして図解して見せる。 葉緑体の外膜(がいまく)や内膜(ないまく)とその間の膜間腔には、光合成装置は含まれず、光補足系・電子伝達系や光合成でATPを作り出すATP合成酵素は、すべて「チラコイド膜」に存在する。
 このクロロフィルを含む葉緑体の第3の膜は、平たい円盤状の多数の袋が積み重なったように見える。この袋を「チラコイド」と呼び、その積み重なりをグラナと呼ぶ。各チラコイドの内部空間は、相互に繋がっているようで「チラコイド内腔(thylakoid lumen)」と言い、ストロマから独立した第3の内部区画を作っている。
 光合成は大きく2つの段階に分けられる。前半では、光エネルギーを化学エネルギーに変換する「光エネルギー変換反応」が行なわれる。これは葉緑体のチラコイド膜の内部で起きることから「チラコイド反応」とも呼ばれる。  
 化学エネルギーとは、化学物質内部に蓄えられるエネルギーで、物質が燃焼すると光や熱が発生するが、それは化学物質内部に蓄えられた化学エネルギーが、光と熱のエネルギーに変換されたからだ。そうした化学エネルギーを光エネルギーから作り出すことが、「チラコイド反応(光化学反応)」の役割だ。
 チラコイドの膜上には、「チラコイド反応」にかかわる、いくつかの分子が埋め込まれている。光エネルギーを受け取るタンパク質複合体で、特に「光化学系(phososystem)」には、「光化学系Ⅰ」と「光化学系Ⅱ」あるが、反応順番としては後者が先に関わる。
 2つの「光化学系」は、光エネルギーを電子のエネルギーに変換し、「チラコイド反応」全体で還元力を生み出す原動力となっている。
 チラコイド膜内のクロロフィルは、青色と赤色の波長領域の光を最もよく吸収し、緑色の光は殆ど吸収しない。そのため緑色の光が反射されるため、ヒトの眼に植物が緑色に見える。
 そのクロロフィルが、太陽の光エネルギーを吸収して利用できるのは、その独特な構造による。クロロフィル分子は、中央にマグネシウム原子が結合するポルフィリン環を一個含んでいる。その長い疎水性の尾部は、クロロフィル分子をチラコイド膜に固定している。
 光はポルフィリン環と一連の化学結合ネットワークを形成する中に在る電子によって吸収される。そのクロロフィル分子中の電子は、光を吸収するポルフィリン環の周囲に雲状に広がっている。 ある波長の光がクロロフィル分子に当ると、このネットワーク中の電子が励起され、電子の分散状態が揺らぐ。
 揺らぎが生じて高エネルギー状態が不安定となり、励起されたクロロフィル分子は過剰なエネルギーを放出し、より安定性の高い非励起状態に戻ろうとする。
 葉緑体中のクロロフィル分子は、光のエネルギーを細胞が使える形に変換できる。それはクロロフィルがチラコイド膜内で特別な光合成タンパク群と結合しているためである。 植物のチラコイド膜や光合成細菌の細胞膜では、クロロフィル分子が、光化学系(PS)と呼ばれる複数のタンパク質からなる大型の複合体の中に、その一部として含まれている。
 光化学系は、光エネルギーを補足する「アンテナ複合体LHC」と、光エネルギーを化学エネルギーに変換する「反応中心複合体」からなる。
 光化学系には反応中心が1つ存在し、その周囲にあるのが、クロロフィルを含む「アンテナ複合体LHC」である。アンテナ複合体中のクロロフィル分子によって補足される光エネルギーは、クロロフィル分子の間をランダムに移動し、最後に反応中心にあるスペシャルペアとよばれるクロロファイル二量体で捕えられる。
 クロロファイルのスペシャルペアの電子は、アンテナクロロファイルの電子よりも低いエネルギー状態にあるので、アンテナクロロファイルから渡されたエネルギーは、スペシャルペアに捕捉されたままになる。ただ、アンテナ複合体からはエネルギーだけがクロロフィル分子の間を移動し、電子は移動していない。
  「アンテナ複合体LHC」には数百個のクロロフィル分子が配置されており、クロロフィル分子1個が補足した光エネルギーが、ネットワーク内の近くに在るクロロフィル分子に渡される。光エネルギーは、このようにして同じアンテナ複合体内、あるいは近くのアンテナ複合体にあるクロロフィル分子に次々と無作為に移動していく。 クロロフィル分子上を渡り歩く光エネルギーは、「スペシャルペア」と呼ばれるクロロフィル二量体に遭遇する。この二量体の電子は、他のクロロフィル分子よりもエネルギー状態が低いので、「スペシャルペア」に受け取られたエネルギーは効率よく取り込まれる。
  クロロフィルの「スペシャルペア」は、「アンテナ複合体LHC」の中ではなく、タンパク質と色素からなる膜貫通複合体とも呼ばれる「反応中心」の中に、その一部として存在している。
 反応中心は、30億年以上前の原始的な光合成細菌に由来すると考えられている。反応中心では、「スペシャルペア」が一連の電子運搬体の直ぐ隣にある電子伝達系が、励起したクロロフィルスペシャルペアから高エネルギー電子を受け取る。
  「スペシャルペア」に入ってきた光エネルギーを移動性電子という形態の化学エネルギーに変換する働きをする、この電子伝達こそが、光合成の核心と言える。
 クロロフィルスペシャルペアが手放した高エネルギー電子は、反応中心内にある一連の電子運搬体に沿って迅速に移動し、それにより電荷分離が生じ、反応中心から電子伝達系へ電子の流れができる。

 まず「光化学系Ⅱ」の「アンテナ複合体LHC」が、光合成色素の働きにより太陽の光エネルギーを捕集する。すると光合成色素(クロロフィルなど)に含まれる電子が光エネルギーを受け取って活性化する。これを励起状態という。この光エネルギーは「アンテナ複合体LHC」の分子を媒介し伝播され、最終的には「反応中心」のスペシャルペアとよばれるクロロファイル二量体に受け渡される。
 反応中心では、「スペシャルペア」が一連の電子運搬体の直ぐ隣にあり、この電子伝達系が、励起状態となり還元力を持つクロロフィルスペシャルペアから高エネルギー電子を受け取る。
 その高エネルギー電子を受け取るのが、電子伝達系の「電子伝達鎖(でんしでんたつさ)」と呼ばれる分子群で、その電子を「光化学系Ⅰ」へ受け渡される。
 この「電子伝達鎖」は、本来電子を受け取りやすい状態にあり、「光化学系Ⅱ」から電子を受け取った時に還元され、それを「光化学系Ⅰ」に受け渡したときに酸化され、再び還元されやすい状態に戻る。
  「光化学系Ⅰ」では「光化学系Ⅱ」とよく似た反応が起こる。「アンテナ複合体LHC」が捕集した光エネルギーが、「反応中心複合体」の「反応中心クロロフィルスペシャルペア」に伝わると、その電子が光エネルギーによって励起状態となり、「クロロフィルスペシャルペア」から飛び出す。
 この時、放出された電子を最終的に受け取るのがNADP(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)やNADPH(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド・リン酸)という物質である。この物質は、電子の受け渡しによりNADPやNADPHという2つの状態を行き来する性質がある。
 NADPは電子を受け取る(還元)ときに水素イオン(H+)と結合してNADPHへと変わる。そのため、電子を与えやすい還元力をもった還元剤となる。反対にNADPHが電子を失う(酸化)と、水素イオン(H+)が分離してNADPへと変わり、相手から電子を奪う酸化力を持った酸化剤となる。
 この「チラコイド反応」の最後の段階で、「光化学系Ⅰ」から電子を受け取り、還元する能力を持ったNADPHは「ストロマ反応」で、二酸化炭素(CO2)に電子を与える還元力を持った物質としてブドウ糖(C6H12O6)を作る原動力となる。このNADPHの還元力が「チラコイド反応」によって作られた化学エネルギーの一つでもある。  
 2つの「光化学系」の「反応中心クロロフィルスペシャルペア」が電子を失い酸化されたままであれば、光合成はそこで止まってしまう。
 酸化された「反応中心クロロフィルスペシャルペア」は、どこからか電子を受け取り再び還元されるのだろうか。「光化学系Ⅰ」の酸化した「反応中心クロロフィルスペシャルペア」に電子を供給するのは、「電子伝達鎖」からであるが、「光化学系Ⅱ」の「反応中心クロロフィルスペシャルペア」には、どこから電子が供給されるのか。
  植物は光合成により、太陽光エネルギーを使って、水と二酸化炭素(CO)から酸素とブドウ糖(C6H12O6)を作り出す。しかし「植物は二酸化炭素を吸って酸素を吐き出す」と言う表現は、光合成反応の過程を正確には伝えていない。光合成は2段階に分かれ、1段階目は太陽光エネルギーを使って水を分解し、酸素と電子、そして水素イオンを作り出す(酸化反応)。
 2段階目のストロマ反応」により、二酸化炭素が使われ、電子と水素イオンを使って、CO2を還元しブドウ糖を合成する。 酸素の発生は「チラコイド反応」の冒頭で起きている。それも光合成によって植物から吐き出される酸素は、二酸化炭素に由来するのではなく、水に由来する。太陽光エネルギーを利用して、水分子(H₂O)から酸素分子(O₂)と電子、水素イオンに分解する反応(酸化反応)が「チラコイド反応」の初期段階で起きているからだ。 水を酸化させ電子を引き抜き、酸素を発生させる反応は、「光化学系Ⅱ」のコアで起こる電子伝達である。コアの中心部分はD1タンパク質D2タンパク質の二量体である。
 その反応中心複合体(P680)に結合した4原子のマンガンを含む「マンガンクラスター」が、「光化学系Ⅱ」の反応を中心に水分解を担う。しかし、水を分解するメカニズムは、未だ明らかにされていないが、確度の高いモデルが提示されている。
 「光化学系Ⅱ」の反応中心複合体(P680)が酸化されるたびにマンガンクラスターが電子を渡して変形し、それを4回、電子を渡すことにより、ようやく水を分解し、酸素を発生させるのだろうと考えられている。
  「光化学系Ⅱ」では、特殊なタンパク質複合体が、水から電子を取り出して、失われた電子の代わりとする。この水分解酵素に「マンガン原子のクラスター」が含まれていて、ここに2つの水分子が結合し、そこから電子が1回に1つずつ抜き出される。そのため2つの水分子(2H2O)から4個(4H+)の電子が取り除かれるとO2が放出され、4個の励起状態クロロフィルスペシャルペアが、それぞれ失った電子を補うために使われる。
  「光化学系Ⅱ」が水から電子を受け取ることはわかったが、「光化学系Ⅰ」は、そのスペシャルペアを元の状態に戻すのに必要な電子はどこから得るのか。「光化学系Ⅰ」のクロロフィルスペシャルペアは、「光化学系Ⅱ」に由来する電子を運ぶ電子伝達系の最後に位置する電子受容体として働いている。 「光化学系Ⅱ」により水から取り出された電子は、シトクロムb6-f複合体というプロトンポンプ(プロトンprptonとは陽子や水溶液中の水素イオンを言う。ここでは水素イオンを指す。プロトンポンプは、生物体内で光エネルギーなどを利用して水素イオンを輸送する)を介して、移動性の電子運搬体であるプラストシアニン(plastocyanin;藻類から被子植物まで多くの植物に含まれている銅タンパク質で、酸素発生を伴う光合成植物の体内にある葉緑体のチラコイド膜に存在し、光合成系において電子伝達の働きをする)に渡される。プラストシアニンは、この電子を「光化学系Ⅰ」に渡し、励起状態のクロロフィルスペシャルペアが失った電子と置き替わる。
 この光化学系が次の光を吸収すると、この電子のエネルギーが更に高くなり、NADP+をNADPHに還元するのに必要な高エネルギー電子に変わる。 これら2つの光化学系が縦に並んで動作していることが、2つの光化学系の高エネルギー電子の生成に、効果的に連携していることの証明となる。
 水の電子は、本来、非常にしっかり結合しているが、2つの光化学系の両方により取り込まれた光が提供する余分なエネルギーを投入することで、水から電子を取り出して、電子が緩やかに結合するNADPHに渡す。それにより2つの光化学系を連結している電子伝達系に、チラコイド膜を越えてH+を移動させるに十分なエネルギーが残る。つまり、ATP合成酵素は光由来のエネルギーの一部を取り込んでATP生産に使うことができる。 1対の「光化学系(PS)」を用いてATPとNADPHを作っている。その1対の構造は似ているが、反応中心のクロロフィルから放出される高エネルギー電子の扱いが異なっている。同時に太陽光からのエネルギーを補足し、これらの反応中心は、その高エネルギー電子を別の移動性電子運搬体に渡し、その電子は酵素の一つに運ばれて、2つの「光化学系(PS)」が連携して働き、「光化学系Ⅱ」ではATPが、「光化学系Ⅰ」ではNADPHが生産される。光合成は、2段階で使われている。