「チラコイド反応」と「ストロマ反応」を繋ぐ化学エネルギー
 
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 目次
 1)ATPとNADPH
 2)「ストロマ反応」
 3)植物の光合成の実態
 4)ルビスコの光呼吸
 
 1)ATPとNADPH
 光合成は日中に行われ、葉緑体が太陽光エネルギーを取り込んで、大量のATPNADPHを生産するが、葉緑体でのCO2から糖への変換は、ATPやNADPHなどの活性運搬体を使って終日行われる。この過程を炭素固定と呼び、植物のみならず、植物を食餌とする多くの生物の生命に枢要な糖などの食物分子を合成する。
 葉緑体の袋状のチラコイド膜には、「光化学系(PS;photosystem)」というタンパク質と様々な分子が結合する複合体が含まれている。それには「光化学系Ⅰ」と「光化学系Ⅱ」の2つがあり、光合成の順序では「光化学系Ⅱ」が最初に働く。それなのに、なぜ「光化学系Ⅱ」か、それは、「光化学系Ⅱ」の方が「光化学系Ⅰ」より後に発見されたので、「Ⅱ」と命名された。
 「光化学系Ⅱ」の「アンテナ複合体LHC」が、光合成色素(クロロフィルなど)の働きにより太陽の光エネルギーを捕集する。それにより光合成色素の分子に含まれる電子(e-) が、光エネルギーを受け取って活性化する。これを励起状態という。この光エネルギーは「アンテナ複合体LHC」の分子を媒介し伝播され、最終的には「光化学系Ⅱ」の反応中心にある「クロロフィルスペシャルペア」に電子(e-)が流れ、その「クロロフィルスペシャルペア」が励起状態になり、結果、「反応中心クロロフィルスペシャルペア」が電子(e-)を受け取るため、還元力を持つようになる。その「反応中心クロロフィルスペシャルペア」から電子(e-)を受け取るのが、「電子伝達鎖」と呼ばれる分子群で、その電子(e-)を「光化学系Ⅰ」へ受け渡す。
 この「電子伝達鎖」は、本来電子を受け取りやすい状態にあり、「光化学系Ⅱ」から電子を受け取った時に還元され、その電子を「光化学系Ⅰ」へ受け渡した時に酸化され、再び本来の電子を受け取りやすい状態へ戻る。
 電子(e-)は負の電荷を持ち、電位はマイナス値が大きくなるほどエネルギーが高くなる。光のエネルギーによって「反応中心」の電位が低下し、マイナス値が大きくなり、エネルギーが高くなり、その「電位差」のエネルギーが「チラコイド反応」を駆動させる。反応の順番は光からエネルギーを得て励起された電子(e-)が、水が高位から低位へ流れるように、電位差を利用して上から下へ受け渡される。
 「光化学系Ⅰ」でも「光化学系Ⅱ」とよく似た反応が起きる。捕捉した光のエネルギーが「アンテナ複合体LHC」分子を媒介し伝播されると、反応中心にある「クロロフィルスペシャルペア」に電子(e-)が流れ、その「クロロフィルスペシャルペア」が励起状態になり、結果、「反応中心クロロフィルスペシャルペア」が電子(e-)を受け取ったため、還元力を持つようになる。
 この光から受け取ったエネルギーが「チラコイド反応」を駆動し、放出された電子を最終的に受け取るのがNADP(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)NADPH(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド・リン酸)という物質である。この物質は、電子の受け渡しによりNADPやNADPHという2つの状態を行き来する性質がある。
 NADPは電子を受け取る(還元)ときに水素イオン(H+)と結合してNADPHへと変わる。そのため、電子を与えやすい還元力をもった還元剤となる。反対にNADPHが電子を失う(酸化)と、水素イオン(H+)が分離してNADPへと変わり、相手から電子を奪う酸化力を持った酸化剤となる。
 この「チラコイド反応」の最後の段階で、「光化学系Ⅰ」から電子を受け取り、還元する能力を持ったNADPHは「ストロマ反応」で、二酸化炭素(CO2)に電子を与える還元力を持った物質としてブドウ糖(C6H12O6)を作る原動力となる。このNADPHの還元力が「チラコイド反応」によって作られた化学エネルギーの一つでもある。
  それによりNADPHという還元力をもった物質が作られ、後続の「ストロマ反応」を推進させる。つまり、光から受け取ったエネルギーが「電位差」のエネルギーに変換され、NADPHの還元力を媒介にして、「ストロマ反応」が引き起こされるのだ。
 葉緑体はミトコンドリアよりも大きいが、構造はよく似ている。葉緑体の外膜は透過性が高く、内膜の透過性はそれより低い。この2枚の膜が葉緑体の包膜を形成し、その間の狭い膜間腔には、様々な膜輸送タンパクが埋め込まれている。また内膜が内包する広い空間を「ストロマ」と呼び、ミトコンドリアのマトリックスに相当し、代謝に関わる酵素が多数含まれている。
 「チラコイド反応」に連動して、光合成の後半部が、二酸化炭素(CO2)を還元してブドウ糖(C6H12O6)を合成し、植物内に二酸化炭素を固定する「炭素同化反応」を起こす。この反応が葉緑体のストロマで起きることから「ストロマ反応」と呼ばれ、これには「チラコイド反応」で作られた化学エネルギーが使われる。
 そのため「チラコイド反応」は、光エネルギーを元手に活躍するが、ATPは「ストロマ反応」で二酸化炭素に還元反応を引き起こすがエネルギー源として、NADPHは二酸化炭素を還元してブドウ糖を合成する還元剤として活用される。ATPとNADPHの2つの化学エネルギーが、「チラコイド反応」と「ストロマ反応」を繋ぐ役割を果たす。
 「ストロマ反応」は光エネルギーを直接的に利用しないが、光が無い条件下では進まない反応もある。


 2)「ストロマ反応」
 光合成の明反応によってATPNADPHが葉緑体のチラコイド膜で生成される。ところがATPとNADPHは、葉緑体の内膜を通過できないため、直接、細胞質には送れない。そのエネルギーと還元力を、細胞の他の場所に供給するためには、葉緑体内膜にある特殊な輸送タンパク質によって送りだせる糖がATPとNADPHを用いて生産される。CO2と水から生産される糖は、光合成の2段階で合成される。炭素固定(carbon fixation)と呼ぶ。
 光合成による炭素固定の中心となる、その「ストロマ反応」は、炭素化合物の分解や合成が連続して起きる化学反応で、最初に大気由来の二酸化炭素(CO2)が持つ炭素(C)を植物内の炭素化合物に固定する「二酸化炭素固定」と呼ばれる一連の反応が起きる。
 ストロマに二酸化炭素が供給されると、「RuBp(リブロース2リン酸)」という5つの炭素からなる化合物が二酸化炭素に反応し、6つの炭素からなる化合物が合成される。その直後に3つの炭素原子を含む「PGA(ホスホグリセリン酸;C3)」という2つの化合物に分解される。1,948年に発見されたこの炭素固定反応は、葉緑体のストラマで起こり、「Rubiscoルビスコ;リブロースビスリン酸カルボキシラーゼ)」という大型の酵素が触媒となる。酵素とは、物質の化学反応を促進する触媒となるタンパク質で、「ルビスコ」は二酸化炭素と「RuBp」の分子1つ(C5)の結合・分解を取り持つ。
 この「ルビスコ」という酵素は、反応速度が極めて遅い。酵素はまず基質と結合して、反応しやすいように原子を配置する。その基質濃度に比例して反応速度を速めるが、酵素の基礎処理速度一回の反応ごとに、酵素は基質と着脱を繰り返して反応を進める。その多くの酵素では毎秒一酵素分子あたり、基質1,000分子程度を触媒する。ところが「ルビスコ」にいたっては毎秒3分子程度である。その処理速度が極端に遅いため、植物は糖を効率よく生産するため大量の酵素分子を用意する。そのため「ルビスコ」は、葉緑体の全タンパク質の50%以上占めるほどにまでなり、結果、地球上に存在するタンパク質では最大量となっている。
 ここで重要なのは炭素(C)の数の変化で、二酸化炭素(CO2)分子1つと 「RuBp」の分子1(C5)つが反応し、炭素6つが1セットになることである。
 「二酸化炭素固定」に続くのが「還元と糖産生」という一連の反応だ。産生(さんせい)とは細胞内で物質が合成・生成されることをいう。この反応の段階で、「チラコイド反応」で生成されたATPが化学エネルギーとして投入される。前の反応で2つに分解された「PGA(ホスホグリセリン酸C3)」は、ATPがADPに分解される際に放出されたリン酸と結合し(リン酸化)、NADPHから電子を受け取り(還元)、炭素3つからなる「GAP(グリセルアルデヒド3リン酸)」を合成する。この2つの「GAP(C3)」を素材にしてブドウ糖が作られる。これまで40億年にわたる生物進化の歴史が明らかになる反応であり、しかも極めて精妙である。
 CO2とH2Oから糖を生成する反応は、通常、エネルギー的に起こりにくいが、「ルビスコ」が触媒する「二酸化炭素固定」反応では、エネルギー的に起こりやすくなる。それは高エネルギー分子である「RuBp(リブロース2リン酸)」が絶えず供給されるからだ。この化合物は、CO2の付加によって消費されるので、迅速な補充が必要となる。その「RuBp」の再生に必要なエネルギーと還元力は、光合成の明反応で作られるATPとNADPHによって供給される。
 この段階で「GAP」の6分の1だけブドウ糖の合成に使われ、残りの6分の5は、この後の反応で使われる。電子を与えたNADPHは酸化されNADPに戻り、「チラコイド反応」で電子を受け取る状態に復帰する。
 このように「RuBp」(C5)が二酸化炭素と反応することから始まった「ストロマ反応」は、「RuBp」が再生されてスタート地点へ戻り、再び二酸化炭素と反応できるようになる。「ストロマ反応」とは、二酸化炭素とATP・NADPHの投入によりグルグル回り続ける回路だ。この仕組みは、カルビンとベンソンという2人の研究者が発見したため「カルビン・ベンソン回路」とも呼ばれた。
 ブドウ糖(C6H12O6)を1分子作るためには、二酸化炭素(CO)が6分子必要となる。回路を1周させて取り込めるのは二酸化炭素1分子であるため、回路を6周してブドウ糖を1分子作ることになる。それで回路1周ごとに二酸化炭素1分子が一つずつ、植物の体内に固定されることになる。
 実は反応の過程でブドウ糖にリン酸が結合した物質は作られるが、ブドウ糖そのものは作られていない。光合成の「ストロマ反応」、いわゆるカルビン・ベンソン回路で作られる最終産物は、3個の炭素を持つ炭水化物である「グリセルアルデヒド3リン酸(GAP)」(C3)である。それが、他の多くの糖や有機分子を合成する出発物質となる。「GAP」は、ある時は葉緑体の「ストロマ」内で「デンプン((C6H10O5)n)」を作るもとになり、ある時は葉緑体の外へ運び出されて細胞質で「ショ糖(C12H22O11)」を作るもとになる。いずれも「炭水化物」であるが、葉緑体のデンプンはエネルギーの貯蔵用として蓄えられ、ショ糖は生体全体にエネルギーを送るために使われる。
スマトラ内では、そこで生合成された、大量の糖や脂肪酸の集積がみられる。


 3)植物の光合成の実態
 光合成とは、光のエネルギーを「NADPH」と「ATP」という2つの化学エネルギーに変換し、この2つの化学エネルギーを使って二酸化炭素(CO2)を還元し、炭水化物を合成する反応である。
 光合成で作られる炭水化物は、二酸化炭素が還元されて電子が増えている分だけ、エネルギーを多く物質内部に蓄えている。このように炭水化物に蓄えられた化学エネルギーは、植物自身が生きていくためだけでなく、動物が植物を食べることで、動物のエネルギー源となるばかりか、脂肪・タンパク質など種々の栄養源としてその生命体を支えている。植物は「独立栄養生物」として、自前で獲得した栄養源で自分の生命を維持し、その副産物といえる酸素を生産し、好気性生物の生命体を支えている。
 そもそも「エネルギー」とは、物理学では、物体や物体系がもっている仕事をする能力の総称で、運動エネルギー・位置エネルギーの力学的エネルギーや、その他の熱エネルギー・電磁場のエネルギー・質量エネルギーが代表例としてあげられる。
 生物学の分野では、「動きや変化をもたらす力」と理解していた方が無難だ。しかもエネルギーは、無から生じることはない。ただ存在するエネルギーを変換することだけだ。木材・石炭・石油が燃焼して熱が発生するのも、物質に蓄えられた化学エネルギーが熱エネルギーに変換するからだ。その熱エネルギーを使って蒸気を発生させてタービンを回して電気エネルギーを生む、そのまま蒸気機関を動力にすれば運動エネルギーとなる。生命活動のエネルギーも、この原則から免られない。
 植物は光のエネルギーを化学エネルギーに変えて、デンプンやショ糖として蓄えられ、全身にエネルギー源として送られる。動物は植物に蓄えられたデンプンを食べることで、そこに蓄えられた化学エネルギーを取り出して、生命活動のエネルギーとして獲得する。
 生命活動とは、物質に蓄えられた化学エネルギーを取り出し、生きるためのエネルギーに変えるエネルギーの変換作業とも言える。
 葉緑体の「ストロマ」で炭素固定によって作られた「GAP(グリセルアルデヒド3リン酸)」は、植物の生体反応に応じて様々に使われる。光合成が活発化している時に、「GAP」は葉緑体の「ストロマ」にとどまり、デンプンに変えられる。デンプンは、動物細胞のグルコゲン(glycogen)に似た、グリコースからなる大型の高分子で、糖の貯蔵体である。デンプンは葉緑体の「ストロマ」に大型粒子として貯蔵される。植物を食餌する動物にとって、デンプンは重要な栄養成分となる。これ以外の「GAP」は、「ストロマ」で脂肪に変換され小さな脂肪滴(しぼうてき)として集積し、やはりエネルギー源として使われる。葉緑体には、大量の糖や脂肪酸が含まれていることが多い。
 貯蔵されたデンプンと脂肪は、夜間にそれぞれ糖と脂肪酸に分解されて細胞質に運ばれ、植物に必要な代謝の維持に使われる。運び出された糖の一部は、解糖系に入ってピルビン酸に変換される。ピルビン酸は脂肪酸とともに、植物細胞のミトコンドリアに送られクエン酸回路に入る。さらに酸化的リン酸化を受けてATP生成に用いられる。植物はこのATPを用いて動物細胞や非光合成生物と同じように、様々な代謝反応を駆動する。
 「代謝」とは、生命維持活動に不可欠なエネルギーの生成や、成長に必要な有機化合物を合成するために生体内で起るすべての生化学反応を総称する。生物体がエネルギーおよび物質を外部から取り込み(同化)、体内で化学的に変化させ、不用なものを外部に放出する(異化)反応といえる。物質代謝とエネルギー代謝があるが、両者は不可分な過程として進行する。光合成の明反応によってATPとNADPHが葉緑体のストロマで生成される過程、ブドウ糖から一連の酸化還元反応によってATPを作る過程、「有機窒素化合物」から、植物に不可欠なタンパク質や核酸と「ATP」と「NADPH」などに作り変える「窒素同化」による複雑な仕組みもある。また生体成分を解毒・分解し排出する過程などもある。
 葉緑体から細胞質へ運び出される「GAP(グリセルアルデヒド3リン酸)」も、二糖の一種であるショ糖(スクロース)などのいろいろな代謝産物に変換される。植物では、主にショ糖のかたちで細胞の間に運搬される。動物では、グリコース(glucoe)が血流中に運び込まれ、植物ではショ糖が、葉から維管束を通して輸送され他の器官に運ばれる。グリコースは六炭糖(ろくたんとう;6個の炭素原子を持つ単糖;単糖とは、それ以上加水分解されない糖類)の一種で、生細胞の代謝で主要な役割を果たす。動物細胞ではグルコゲン、植物細胞ではデンプンという多量体のかたちで貯蔵される。
 動物に摂取された糖は、グルコゲンとして肝臓・筋肉に多く含まれ、動物デンプンとも呼ばれる。肝臓で貯蔵されたグリコゲンがさらに分解されてぶどう糖となり、血糖量を維持する一方、筋肉その他の組織に移動してエネルギー源となる。

 ところで植物の根には葉緑体がなく、しかも光も当たらない、根の細胞はどのようにして生きているのか。光合成により糖が生産されが、その最も重要なのがショ糖(スクロース)で、光合成を担う葉緑体を含む細胞から樹液によって根の細胞まで輸送される。その根の細胞は、糖の解糖を、その細胞小器官となっているミトコンドリア(mitochondria)で酸化的リン酸化を行なうことでATPを生産できる。その糖は他の代謝物を作るためにも使われる。ミトコンドリアは、ほぼすべての真核細胞に存在し、細胞内のATPの殆どが、この細胞小器官で生産される。
 ミトコンドリアは、真核細胞の祖先にあたる嫌気性細胞の内部に飲み込まれた好気性細胞が、その宿主内で共生し進化した細胞内小器官である。現在の真核細胞内にあるミトコンドリアの二重膜は、宿主に由来するのが外膜で、飲み込まれた細菌の細胞膜が内膜の由来となる。
 葉緑体には、ミトコンドリアのようにATPを細胞質に送り出す輸送体がない。それでは植物の細胞は、その細胞質で必要な代謝反応に使うエネルギーとしてのATPをどのようにして手に入れているのだろうか。葉緑体を含む細胞でも特にミトコンドリアが重要で、ミトコンドリアは昼間でも酸化的リン酸化によってATPを作り細胞に供給しているが、葉緑体で光合成により生産された「GAP(グリセルアルデヒド3リン酸)」が細胞質に送られ、それにより最終的に、その細胞質内にあるミトコンデドリアでATPが生成され、それぞれのエネルギー源となると理解されている。


 4)ルビスコの光呼吸
 植物は太陽からの光エネルギーを吸収して、化学エネルギーに変換する。そしてATPとNADPHの化学エネルギーを利用して、植物は土壌から吸い上げた水と空気中から取り込んだCO2からショ糖やデンプンを合成する。その葉緑体のストロマで行われる、CO2と「RuBp」との「二酸化炭素固定」反応を触媒する酵素が「ルビスコ(rubisco)」で、全ての光合成生物が保有している。
 通常、酵素というのは、生体内で化学反応を促進する役割を担うはずだ。ところが、この「ルビスコ」は、酵素でありながら反応速度が遅い。その仕事が遅い「ルビスコ」が、動物や植物の生命活動を支える大量の炭水化物を作り出している。しかも葉の水溶性タンパク質の総量の半分近くを「ルビスコ」が占め、地球上で最も大量に存在するタンパク質と言われている。
 「ルビスコ」は、CO2と「RuBp」との「二酸化炭素固定」反応を触媒する酵素であるはずが、二酸化炭素濃度が低くなると、酸素と反応する。そのためブドウ糖(C6H12O6)の合成に必要な炭素の数が1つ足りなくなり、本来であれば「PGA(ホスホグリセリン酸;C3)」が2セット作られるはずが、1セットしか作られなくなる。しかもブドウ糖(C6H12O6)の合成に何の役にも立たないばかりか、正常な「ストロマ反応」を阻害する、炭素2つからなる化合物を作り出す。そして「光呼吸」という複雑な反応を経て、「PGA(C3)」に作り直される。その上、「ストロマ反応」を担うATPとNADPHを消費し、今まで固定してきた炭素の一部を分解し、二酸化炭素に戻して放出する。
 その酸素を吸収し二酸化炭素を放出する働きから「呼吸」と名付けられた。
 「光呼吸」は、高温で乾燥した環境でより多く発生する。そうした環境では、葉は内部の水分の蒸発を防ぐため気孔を閉じる。それにより内部に気体の流入ができないまま、光合成が進行する。おのずと二酸化炭素濃度が低下する。同時に酸素濃度が高くなる。それにより「ルビスコ」は、「RuBp」が酸素と反応する触媒として働くケースが多くなる。
 恐らくは、強すぎる光から身を守る防御策と見られている。「光阻害」からの回避策として、葉に溜まった酸素が活性化する前に、有り余った光エネルギーを逃すため、「光呼吸」をして消費するようだ。
 その一方で、トウモロコシやサトウキビなどでは、高温の環境下を好む熱帯性の植物でありながら、その「光呼吸」を抑える仕組みを備えている。
 高温環境下で「光呼吸」を行なう植物を「C3植物」と呼び、「光呼吸」を抑える植物を「C植物」と呼ぶ。名前の由来は、「二酸化炭素固定」反応において、二酸化炭素が結合して最初に作られた炭素(C)の数による。「C3植物」は、炭素(C)3つからなる「PGA(ホスホグリセリン酸)」を、「C植物」は、炭素(C)4つからなる「オキサロ酢酸(Oxaloacetic acid;CH2CO(COOH)2)」を、それぞれ最初の反応で作り出す。
 「C植物」は、「二酸化炭素固定」反応で2つの経路を持つ。一つが一般的な「C3植物」と共通する「カルビン・ベンソン回路」で、もう一つが「C植物」固有の「C回路」である。この2つの回路は、「C植物」の葉の別々の細胞にある。「C回路」は、葉の周囲を廻る「葉肉細胞」にあり、「カルビン・ベンソン回路」は葉の中心により近い「維管束梢細胞」にあり、近接するが別々の細胞群である。
 反応の順番は、先ず「葉肉細胞」で「C回路」が作動し、続いて「維管束鞘細胞」で「カルビン・ベンソン回路」が働き、最終的に炭水化物が合成される。「葉肉細胞」の「C回路」では、気孔が取り込んだ二酸化炭素(CO2)を、炭素3つからなる「PEP(CO3)」と結合させ、炭素4つからなる「オキサロ酢酸」(CO4)と合成する。この時、二酸化炭素と「PEP」を結合させる酵素が「PEPカルボキシラーゼ」である。
 「オキサロ酢酸」(CO4)は、「チラコイド反応」で作られたNADPHの還元力により、同じ炭素4つからなる「リンゴ酸(CO4)」に変換される。「リンゴ酸」は、「維管束鞘細胞」の葉緑体に送られ二酸化炭素を放出し、炭素3つからなる「ビルビン酸(CO3)」になって「葉肉細胞」に送り返される。
  「ビルビン酸(CO3)」はATPのエネルギーを利用してリン酸化され、「C回路」のスタート地点である「PEP(CO3)」が再生される。
 「維管束鞘細胞」内にある「カルビン・ベンソン回路」は、「C3植物」とほぼ同じ反応経路をたどる。
 違うのは、二酸化炭素の供給源である。「葉肉細胞」の「C回路」から「リンゴ酸(CO4)」を「ビルビン酸(C3)」に分解する際に放出された二酸化炭素を使い炭水化物が合成される。「C回路」の利点は、この反応径路を回すことで、維管束鞘細胞内に二酸化炭素を濃縮できることである。「C植物」が「C3植物」と比べて高温・乾燥に強いのはそのためだ。高温・乾燥の環境下で水分の蒸発を防ぐために気孔を閉じ、葉の内部の二酸化炭素が低下しても、「C回路」によって濃縮した二酸化炭素を活用すれば光合成を継続できる。
 その「C植物」の優位な機構が欠点にもなる。「C植物」は、二酸化炭素の濃縮に「チラコイド反応」で作られた「ATP」と「NADPH」の2種類の化学エネルギーを消費するからだ。
 「C植物」は、二酸化炭素濃度が光合成の上限にあたる環境で、その重要な2種類の化学エネルギーを消費し二酸化炭素を濃縮できるが、光の強さが光合成の下限にあたるレベルとなれば、二酸化炭素の濃縮にエネルギーを投入しても光合成速度は高められないようだ。

 「C3植物」の二酸化炭素固定反応は、約35億年前に、その起源が遡るという。一方、「C回路」をもつ植物は、約1,200万年前に地球上に登場したようだ。それは二酸化炭素濃度の大幅な低下によるためとみられている。恐竜が地球を支配していた1億年ほど前は、大気中の二酸化炭素濃度は、現在の4倍ほどあったという。その後に続く二酸化炭素濃度の低下という環境変化に、光合成を効率よく行う「C植物」が進化して誕生した。
18世紀後半のイギリスに始まる産業革命以前には、二酸化炭素の濃度は、平均約280ppmであったものが、2,006年には381.2ppmと36%も増加している。温室効果ガス世界資料センター (WDCGG)の解析による2014年の世界の平均濃度は、前年と比べて1.9ppm増えて397.7ppmとなっている。
 「ppm(ピー・ピー・エム)」というのは、「百万分の一」を表す単位で、1ppmを「%」で表すと0.0001%になる。やがて世界の平均二酸化炭素濃度は、0.0400%になるはずだ。
 CO2補償点は「C3植物(約26万種の植物の大部分)」と「C植物(トウモロコシ・サトウキビ・ケイトウ・メヒシバ・エノコログサ・コニシキソウなど1,200種)」とで異なり、「C植物」ではCO2補償点はゼロに近く(0〜5 ppm CO2)、「C3植物」では50〜100 ppm CO2とみられている。従って「C3植物」では、50〜100 ppm以下のCO2濃度では呼吸による損失の方が光合成による固定量よりも大きく、光合成によって成長することができない。

 「C植物」はCO2を葉の細胞内で濃縮をする機構を備えているため、このように「C3植物」に比べ低いCO2濃度の中でもCO2固定ができる。そのため、太陽光の下で「C植物」は、ほぼ300 ppmでCO2固定量は飽和し、現在の大気CO2濃度(380 ppm)がこれ以上増加しても、CO2固定量のこれ以上の増加は期待できない。一方、現在の地球上の植物種の大部分を占める「C3植物」では、現在の大気CO2濃度でCO2固定量は飽和していないため、今後の大気CO2濃度の上昇によって、まだいくらか光合成CO2固定の増加が期待できる。
 以上のように「C植物」では光合成CO2固定は現在の大気CO2濃度ですでに飽和しているので、ビニールハウスの中のCO2濃度を増加させても光合成CO2固定を増加させることはできない。
 一方、C3植物については、たとえば、メロンなどの作物では、温室の中は密閉されており、太陽光に当たる日中の光合成は盛んとなり、温室内の二酸化炭素を消費してしまう。その結果、二酸化炭素が不足する環境となるので、温室内に大気の二酸化炭素濃度よりやや高い低濃度二酸化炭素の施肥により大きな増収効果が上がったという。ビニールハウスでCO2濃度を高め生産性向上を目的とする、炭酸ガス発生機(光合成促進装置) というものが農業資材として普通に販売されている。