植物の窒素化合物(nitrogen compound)
 
 Top
 車山高原
 車山高原お知らせ
 車山ブログ


  DNA 
  生物進化と光合成
  葉緑素とATP
  植物の葉の機能 
  植物の色素
 葉緑体と光合成 
  花粉の形成と受精
  ブドウ糖とデンプン
  植物の運動力
 光合成と光阻害
  植物のエネルギー生産
 ストロマ反応


 ☆早春のスミレ
 ☆車山高原の笹
 ☆諏訪の植生
 ☆諏訪の狐
 ☆車山の名水
 ☆車山の紅葉
 ☆車山のススキ
 ☆車山の野鳥観察
 
 
 
  目次
  1)CAM植物と液胞
  2)様々な有機物の合成(同化)
  3)光合成産物の行き先
  4)有機窒素化合物が運ばれルート



 1)CAM植物と液胞
 「C植物」よりも乾燥に更に強く、「C回路」と似た二酸化炭素固定径路を持つ植物がある。砂漠のような乾燥した環境に適した、ベンケイソウ型の有機酸代謝を行う植物で、サボテンやパイナップルに代表され、「CAM植物(シーエーエムしょくぶつ;ベンケイソウ型有機酸代謝植物)」と呼ぶ。
 ベンケイソウやパイナップル・サボテンなどの多肉植物は、C4植物と同様の炭酸同化経路をもっている。これらの植物の葉は、夜間にリンゴ酸を蓄積するため酸度が高くなり、日中にはリンゴ酸を消費するので酸度が低くなる。このような昼夜の有機酸の変動をベンケイソウ型有機酸代謝といい、これを顕著に行う植物をCAM植物と呼んでいる。
 名前の由来は、「CAM植物」に共通する二酸化炭素の固定径路が、葉に水分を貯蔵する多肉植物のベンケイソウで見つかったことによる。慢性的に水分が不足する砂漠のサボテンやパイナップル・アッケシソウ・リュウゼツラン・ベンケイソウ・アロエなど多肉植物やラン・コケ類・地衣類(主に緑藻やシアノバクテリアが共生関係を結んでできた複合生命体)など着生植物(ちゃくせいしょくぶつ)に見られる。
 着生植物は、土壌に根を下ろさず、他の木の上、あるいは岩盤などに根を張って生活するが、寄生植物とは違い、着生している植物から栄養を吸収しているわけではな。

 「CAM植物」でも、光のエネルギーを受け取り「ATP」と「NADPH」を作る「チラコイド反応」は、日の当たる日中に行われる。ただ、乾燥著しい環境下であれば、夜間だけ気孔を開いて二酸化炭素を取り込み、昼間は気孔を閉じて水分の蒸発を防がなければならない。
 涼しい夜間だけ気孔を開いて二酸化炭素を取り込み、「C回路」によく似た反応径路で、「オキサロ酢酸(分子式C4H4O5)」から「リンゴ酸(化学式は HOOCCH2CH(OH)COOH )」を合成して、細胞内の「液胞」に貯蔵し二酸化炭素を濃縮する。
 朝となり日が差し始めると再び気孔を閉じ、「チラコイド反応」が働き始めると、「液胞」に貯蔵した「リンゴ酸」を取り出し、二酸化炭素を放出して「カルビン・ベンソン回路」で二酸化炭素固定反応を進め、炭水化物が合成される。この二酸化炭素の濃縮と固定という2つの反応が、同じ「葉肉細胞(ようにくさいぼう)」の中で進行するのが「CAM植物」の特徴だ。

 炭素固定とは、緑色植物や、その他の光合成生物が、大気中の二酸化炭素から取り出した炭素原子を糖類として組み込む過程のことで、光合成の第2段階にあたる「ストロマ反応」に由来する。
 「CAM植物」は「液胞」で二酸化炭素の濃縮をし、「カルビン・ベンソン回路」で二酸化炭素固定反応を進め炭水化物を合成するという2つの反応を、物理的に「葉肉細胞」の中で、夜と昼と時間帯を分けて行っている。
 「C植物」が「葉肉細胞」と「維管束鞘細胞」と物理的に異なる場所で反応を2つに分けているのに、「CAM植物」は「葉肉細胞」の中で、物理的な反応を夜と昼と時間帯を分けて行っている。水の乏しい過酷な環境を生き抜く植物は、様々な工夫をして適応している。

 植物体の成長は液胞の肥大化の過程であり、その液胞形成は植物体の形態形成を考える上で最も重要である。より少ないコストで葉をより大きく展開して多くの光のエネルギーを獲得し、また根を伸長して、地中の養分を汲み上げるために、生命活動の場である細胞質を希釈することなくこの要求を達成する最も優れた戦略が、細胞内に安価な水溶液からなるもう1つの空間を組織することである。
 多くの植物細胞は細胞の成長に伴って不可逆的に液胞が肥大化し、成熟した植物細胞では、細胞内体積の90%以上が液胞によって占められるようになる。しかも液胞には、種々の加水分解酵素が局在し、植物細胞では液胞が、動物細胞のリソソームに相当する細胞内器官として機能し、落葉や導管形成などにおいても液胞の分解機能が重要な役割を果たしている。
何より大事なのは、液胞が、人類の直面する食料問題や環境問題などの解決のための重要な能力を秘めていることにある。人類の生活は、液胞内に蓄積した様々な分子、種子の貯蔵タンパク質・果実の糖・有機酸・色素等に利用されている植物の二次代謝産物に大きく依存している。
 梨やリンゴ・蜜柑などの果物の実の甘味や酸味などの成分は全て液胞に貯まっている。他にも種子の貯蔵タンパク質も液胞に貯蔵され、アルカロイドなどの毒物も液胞に蓄えられている。これらの成分は様々な経路を通って液胞に輸送されることが知られている。花の色も、アントシアニンという色素によって作り出されている。アントシアニンも花弁の液胞中に蓄積されている。
 液胞は、葉緑体と同様、植物にとって以上に、人間にとっても大事な細胞内器官と言える。
 目次へ



 2)様々な有機物の合成(同化)
 空気中の二酸化炭素から炭素を固定し、ブドウ糖を作り出す光合成は、植物が「独立栄養生物」として生き、「従属栄養生物」に食料を提供するという意味で、極めて価値が高い。その植物も、光合成で作られる炭水化物だけでは生きられない。生物の細胞は、炭水化物に加えてタンパク質(アミノ酸の結合体)や核酸(DNA・RNA)、脂質(糖質と並ぶ生物のエネルギー源)などの様々な有機物と水と無機塩類からなる無機物からでき、これらの物質を作る素を、どこから取り入れているのか。
 植物が「独立栄養生物」と呼ばれるゆえんは、外界から無機物さえ取り入れれば、糖質をはじめ様々な有機物を体内で合成でき、生存のために外界から有機物を取り込む必要がないためである。
 それが「従属栄養生物」である動物との大きな違いである。動物は、体内で無機物から有機物を合成できない。その生存に必要な有機物は、植物や他の動物を摂食しなければ得られない。
 生物が生体内で、単純な物質から、複雑な物質(主に有機物)を合成する化学反応を「同化」という。言い換えれば、小さい分子から大きい分子を作り出す一連の代謝経路を指し、その酵素触媒反応では、大きな生物分子が小さい構成単位から合成される。そのためには、通常エネルギーが投入される。植物による光合成が代表例であるが、その「同化」の反応にもエネルギーの投入が必要である。
 光合成では、「ATP」と「NADPH」という2つの化学エネルギーが投入され「同化」の反応を進める。
 目次へ
 


 3)光合成産物の行き先
 「独立栄養生物」である植物のもう一つ重要な働きが、外界から窒素(N)を含む「無機物(無機窒素化合物)」を取り入れて、様々な「有機窒素化合物」を作り出す。この反応で作り出されるのが、アミノ酸やビタミン・タンパク質(アミノ酸の結合体)・核酸(DNA・RNA)と、「ATP」・「NADPH」の化学エネルギーやクロロフィル(葉緑素)など、生命活動の維持に欠かせない重要な物質である。この反応が「窒素同化」で、植物や菌類と一部の細菌だけがもつ特殊な能力である。なお、炭水化物や脂肪には、窒素は含まれない。
 植物が作る「有機窒素化合物」には、動物が摂取すると様々な生体反応を引き起こす「アルカロイド」と呼ばれる、特段に強い生活活性をもつ物質群がある。タバコに含まれるニコチンは、タバコが害虫の食害に対抗する物質で殺虫作用があり、ジャガイモの芽に含まれるソラニン(C45H73NO15)も、芽を動物に食べられないようにするため作り出される毒物だ。
 ジャガイモの芽ばかりでなく、その芽の根元や、光に当たって緑化した部分には、天然毒素であるソラニンやチャコニン(C45H73NO14)などのグリコアルカロイドが多く含まれている。ポテトグリコアルカロイド(PGA)はジャガイモ中に0.02%ほどであるが、ジャガイモの芽や緑化した部分だけで、ジャガイモ中のグリコアルカロイドの約95%を占めている。未熟なイモは、完熟したイモに比べ、光に晒されると緑化やアルカロイドの増加速度が速いので、光に当てないよう注意が必要。
 ジャガイモの可食部分は、100 gあたり平均7.5 mg(0.0075 g)のソラニンやチャコニンを含んでいて、そのうち3〜8割が皮の周辺にある。 葉・茎・花・果実・根にも含まれている。調理には、皮や芽や緑色の部分を取り除くことが重要だ。特にソラニンやチャコニンは、ジャガイモの苦味成分になっている。
 主にナス科の植物に含まれるステロイドアルカロイドも、動物からの食害を防ぐための毒物である。イヌホオズキやツルナスなどのナス科の植物にもグリコアルカロイドが含有する。同じナス科のトマトの葉には類似物質のトマチンが含まれている。
 トマチンは昆虫の忌避成分であり、植物は虫に食べられないようにするためにトマチンを合成している。トマチンとソラニンは共に多量摂取するとヒトにも毒性がありますが、花・葉・茎に多く、根や未熟果実ではそれよりも少なく、完熟果実ではかなり少ない。
 ケシの原産地は、地中海東部沿海地方で、やがてアッシリアからバビロリアにも伝えられた。ケシの実から生成されるアヘンは、白いケシの花が散った後に残るケシ坊主(未熟果実)に浅い傷を付けて、滲出させた乳液を乾燥したもので、アヘンに含まれるアヘンアルカロイドである。
 紀元前から鎮痛作用などとして使われていた。古代ギリシャでは、不眠に対してアヘンを用いていたようだ。そのため麻薬としての効能が知られるようになった。
 今日のアヘンの主産地は、インド・アフガニスタン・イランという。1803年に、アヘンから薬効成分だけを分離し、鎮痛剤としてモルヒネの単離に成功したフリードリヒ・ヴィルヘルム・アダム・ゼルチュルネル(Friedrich Wilhelm Adam Serturner)はドイツの薬剤師で、ギリシャ神話の夢の神であるMorpheusにちなんで、morphinumと名付けた。生薬から有効成分を単離させた初めての成果である。
 モルヒネ以外に、1832年に、アヘンから単離されたコデインやテバイン・パパベリンほか20種類以上のアルカロイドが取り出された。その合成化合をたどれば、アミノ酸経路によって生成されるアルカロイドで、モルヒネ・アトロピン・キニーネ・コカインなど、天然由来の有機化合物の総称となっている。モルヒネから新たに麻薬のヘロインが作られた。コカインも南米アンデス地方で、古くから疲労回復のための興奮剤として使われたコカの葉から分離され、麻酔としても麻薬としても用いられた。
 動物は植物と違って「無機窒素化合物」から「有機窒素化合物」を作り出すことができる。その作られた「有機窒素化合物」から、植物に不可欠なタンパク質や核酸と「ATP」と「NADPH」などに作り変えた。その「窒素同化」による複雑な仕組みがある。それが後述の重要課題となっている。ただその反応には、光合成によって生産された還元力が使われている。
 目次へ
 


 4)有機窒素化合物が運ばれルート
 光合成で作られた炭水化物は、ショ糖(sucrose;C12H22O11)に変換され、葉から根や茎へ送り出される。この時の通り道が篩管である。根や茎では、ショ糖は成長のために使われるが、エネルギーとして貯蔵するためデンプン((C6H10O5)n)に変換されたりする。
 後者を「貯蔵デンプン」といい、ジャガイモの地下茎やサツマイモの根は、動物の食料になる。ショ糖は、種子が作られる際に、デンプンに変換されて蓄えられる。種子の中の胚(胚芽;胚子)が発芽して成長する栄養源として使われる。これらは米や小麦として人類の主食になる。いずれにも使われなかった残りの糖は、葉緑体のストロマ内部でデンプンに合成され、エネルギー源として蓄えられる。
 植物の体内のある場所で作られた物質が別の部位へ送られることを「転流」といい、その際、物資を供給する側を「ソース(source:生産部位)」、受け取る側を「シンク(sink:消費部位)」と呼ぶ。光合成において糖や有機窒素化合物を生産する葉が主な「ソース」で、成長点や展開中の幼葉・蕾・花・果実・種子・根とイモのような貯蔵根など、成長や貯蔵に使われる場が「シンク」となる。
 生まれて日の浅い若い植物は、葉が「ソース」であると同時に「シンク」にもなる。光合成で作られた数十%が葉に配分され、葉を成長させながら枚数を増やし光合成の能力を高める。成長とともに光合成産物の量が増え、次第に他の部位へ光合成産物を送り出す割合が高くなり、生殖器官や貯蔵機関をつくるために多くの光合成産物が使われる。
 シンク器官とソース器官が、光合成産物を利用あるいは供給する能力を、それぞれシンク能ソース能というが、これらは互いの能力を補完する関係にある。これを「シンク・ソース相互作用」という。ソースから転流し始めた養分は、シンク能が強ければ強いほど葉からの光合成産物はより多くシンクに流れ込む、シンク能の高い器官や機関に優先的に転流される。シンク能の高低を決定する要因の一つとして植物ホルモンの活性が挙げられる。植物ホルモンの活性が高い器官のシンク能は高くなり、優先的に養分が転流される。この転流に関与すると考えられている植物ホルモンとしてオーキシン(auxin)・サイトカイニン・ジベレリン・アブシジン酸がある。
 多種多様な細胞からなる植物は、高次の多細胞生物であり、個体として制御された生命活動を維持するために、細胞間や器官間の緊密な情報を伝達する植物ホルモンの働きが重要になる。多細胞生物が個体として組織的な生命活動を維持するためには、細胞間や器官間の緊密な情報のやり取りが不可欠だ。このとき重要になるのが伝令役として働くホルモンの存在だ。動物では何十種類ものホルモンがあるが、植物では現在のところオーキシン・サイトカイニンなど10種類程度しか知られていない。このため、植物が少ない数のホルモンで、どのようにして個体の秩序を保っているのだろうか。
 サイトカイニン (cytokinin)は、植物の成長や実りの促進、老化抑制などの制御を担う植物ホルモンである。その「サイトカイニン」の作用には、「量」の変化によらず、サイトカイニン化合物の主要な炭素鎖から枝分かれしている分子の炭素鎖の「質」的な変化によって制御されている。
 果実には細胞分裂期と細胞肥大期がある。幼果期の細胞分裂期には未熟種子で生合成されるサイトカイニン活性が高く、その後ジベレリン・オーキシン活性が高まる。種子数の多い果実は、種子数の少ない果実と比較して、サイトカイニン生合成量が高く、果実内の活性も高いためシンク能が高くなり、種子数が少ない果実より、優先的に炭水化物やアミノ酸・リン酸などの養分が転流される。したがって、種子数の少ない果実は養分の転流が阻害されて生長が停止し、生理落果する。
 同様に、植物では茎や枝の上端の芽(頂芽:ちょうが)が下に位置する腋芽(えきが)に優先して成長しようとする。頂芽生長点には根から転流されるサイトカイニンが蓄積しやすく、下位の側芽と比較してサイトカイニン活性が高いため、炭水化物や養分が優先的に供給され、生長しやすくなる(頂芽優勢)。これは、頂芽の先端の成長点で生産され、基部方向に移動するオーキシンが側芽の成長を抑えるためである。
 オーキシンの働きは複雑で、植物では、各器官において、その成長に対するオーキシンの最適濃度(感受性)が異なっている。茎は、オーキシンが比較的高濃度な状態で成長が促進される。そのためか、根は茎の最適濃度においては成長が抑制され、低濃度で成長の促進がみられる。同様に、頂芽と側芽においてもオーキシンに対する最適濃度が異なり、頂芽の成長が促進されるオーキシン濃度の状態では、側芽の成長が抑制される。それにより頂芽優勢がおこると考えられている。側芽におけるオーキシンの最適濃度は、頂芽のそれよりも、もっと低い。
 サイトカイニンは、植物の地上部の成長や実りを促進する作用をもつホルモンであるが、生長点と果実との間にも植物ホルモン活性の高低によるシンク能の競合がみられる。貯蔵器官のシンク能が高まると、他の生長器官への養分転流が著しく抑制されて生長が停止し、翌年のための貯蔵養分の蓄積が積極的に行われるようになる。
 目次へ