遺伝子が作るタンパク質
 
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  植物の窒素化合物  屈性と傾性(偏差成長) タンパク質 遺伝子が作るタンパク質
 

 目次
 1)タンパク質とは
 2)酵素
 3)遺伝子が作るタンパク質
 4)遺伝情報の伝達
 5)タンパク質の機能
 
 1)タンパク質とは
 細胞を電気的・生化学的に観察し分析すると、その対象の先には、タンパク質(protein)が存在している。人の身体でいえば、アミノ酸を含むタンパク質が20%、水分が60~70%、残りが脂肪である。タンパク質が、細胞を形成する主要物質であるため、細胞の乾燥重量のほとんどを占めている。
 その20%のタンパク質が、人の筋肉・臓器・血液・皮膚などの細胞やその他の器官を形成するばかりでなく、細胞が保有する無数の機能、様々な酵素ホルモンなどの生成に携わる。
 アミノ酸(amino acid;amíno ácid)は、有機小分子で、α-炭素原子(Cα)にアミノ基(H2N)・カルボキシル基(COOH)と水素原子(H)・側鎖(そくさ;R基;鎖式炭化水素基;CH3が、それぞれ1個ずつ結合している。アミノ酸は、側鎖の違いにより区別される。
 その側鎖の性質によって、異なる物理化学的性質、極性・酸性度・塩基性度・芳香族性・高分子構造の堅さ・水素結合形成能・架橋形成能・化学反応性などを示す。細胞内では、pHが7(酸性からアルカリ性の間に0~14の目盛りをつけて、酸・アルカリの度合いをその目盛りの数字で表すもの。pH7を中性とし、それ未満を酸性、それを超えればアルカリ性)に近いため、遊離したアミノ酸は、アミノ基が正の電荷を持ち、カルボキシル基が負の電荷を持ちイオン化状態となっている。
 細胞は、アミノ酸を使ってタンパク質を作る。タンパク質は、アミノ酸が一定方向に重合する長い鎖状の重合体で、鎖が様々に折り畳められて、それぞれ独自の三次元構造となっている。隣どうしのアミノ酸の共有結合をペプチド結合という。ペプチド結合は、アミノ酸どうしが縮合反応(condensation)で繋がっている。アミノ酸の鎖をポリペプチド(polypeptide;polyは複数の・多種の意)という。
 ポリペプチド鎖(ポリペプチド‐さ)に組み込まれると、アミノ基とカルボキシル基の電荷はなくなる。どんなポリペプチド鎖の両端にも、一方の端にはアミノ基(H2N)を持つためN末端と呼ばれ、もう片方の端には、カルボキシル基(COOH)を持つためC末端と呼ばれる。この両端の違いによりポリペプチド鎖に方向性が生じ、構造上の極性、つまり化学的差や性質・機能の違いとなってあらわれる。
 ちなみに肉や鰹節などの旨味成分はイノシン酸であり、茶の旨味成分はテアニン、椎茸の旨味成分はグアニル酸、昆布の旨味成分はグルタミン酸など、いずれもアミノ酸である。昆布のグルタミン酸は、チーズ・緑茶などに大量に含まれるほか、椎茸・トマト・魚介類などにも比較的多く含まれている。
 タンパク質は、多くのアミノ酸が結合してできた高分子化合物で、炭素・水素・酸素・窒素で構成されている。タンパク質は、肉や魚に多く含まれている。
 天然アミノ酸の発見は、約500種類以上に及ぶ。動植物では80種類。その中でタンパク質を構成するのが、20種類のアミノ酸(α-アミノ酸)である。それぞれα-炭素原子に結合している側鎖が異なる。20種類のアミノ酸から構成されるタンパク質が、地球上のあらゆる生物、細菌・植物・動物を問わず、その生体内を占めている。もとより、約10万種あるといわれる人のタンパク質も、この20種類のアミノ酸から作られている。ここでもアミノ酸の側鎖(CH3)の性質が組み合わさって、タンパク質の多様で繊細な機能を作り上げている。
 この20種類のアミノ酸がどうして、どのように選ばれたのかは、生命進化の過程の謎の1つである。他のアミノ酸ではだめだという明白な根拠がない。ただ一度、この20種類のアミノ酸が選択され後、進化の過程でそれを利用した化学反応は膨大で、細胞が利用するアミノ酸の種類を変えれば、すべての生物の代謝経路を根底から覆すことになり、現在の生物は、その変化に耐えられないであろう。
 植物は本来、たんぱく質を構成している20種類のアミノ酸を合成できるが、人間を含む多くの動物は合成できないものもあり、食餌として摂る必要がある。
 20種類のアミノ酸のうち体内で合成できるアミノ酸を非必須アミノ酸という。人の場合は11種類ある。合成できないアミノ酸を必須アミノ酸という。人の場合は9種類ある。体内で合成できない必須アミノ酸は、食事でタンパク質を摂取し、アミノ酸に分解してプールする。それを必要に応じて20種類のアミノ酸を連結してタンパク質を作り出す。
 使用済みのタンパク質は分解され、元のアミノ酸に戻し尿に混ぜて排出するか、別のタンパク質の合成に再利用される。
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 2)酵素
 細胞は何千種類もの酵素(enzyme;énzaim)を含んでいる。酵素は英語で、「enzyme」という。ギリシャ語のen(中にある)zyme(酵母)、「酵母の中」の意味が語源で、酵母の中で発酵が起きることに因んでいる。すべての生体反応は、酵素の働きで進行する。その酵素は、アミノ酸が数十~数百個、分子結合するタンパク質を骨格に持つ触媒である。人間の生体内では、多くの化学反応が起こり、その反応を進行させる触媒が酵素というタンパク質である。デンプンを分解するアミラーゼ、タンパク質を分解するペプシン、油脂を分解するリパーゼなど、人間の生体内において化学反応を促進する酵素も触媒の働きをしている。
 触媒は、別の物質の化学反応を促進したり抑制したりする物質で、例えば水素と酸素の混合ガスだけを熱しても何も起きないが、触媒として銅を入れると両方のガスは化学反応を起こして「水」になる。触媒自身は化学反応の前後で、物質として変化は生じない。
 触媒は「化学反応に際し、反応の前後で触媒自身は変化せずに、反応速度を高める物質」と定義されている。触媒は、固体・気体・液体のいずれの形態でもよく、作用中、自身は変化し続けるが、消費・再生を繰り返し、反応の前後で正味の増減は生じない。また、触媒によって作り出される新しい経路を通って進む反応の活性化エネルギーは小さく、反応速度は大きい。
 触媒が反応物(基質)を吸着することで、酵素―基質複合体の遷移状態(活性化状態)が、より安定的(低エネルギー状態で)に作られることになり、反応の活性化エネルギーが下がり、反応速度が加速される。酵素反応は、常温・常圧・中性pHという穏和な条件で極めて効率的に進行するため、酵素の触媒能力は一般化学触媒に比べて格段に高くなる。
 触媒する化学反応により、酵素は酸化還元酵素・転移酵素・加水分解酵素・脱離酵素・異性化酵素・合成酵素の6つに分類される。 酵素反応は、穏和な条件で効率よく進行し、基質特異性が高いため副作用は生じない。ただ特定の基質だけに相互作用をする。基質と酵素は、鍵と鍵穴の関係に在り、酵素の活性部位の形状に合致する基質のみが、酵素と相互作用し反応を起こす。いずれの酵素も、基質にたいする特異性が高く、多種類の酵素が同一細胞内に混在しても、誤作動は生じない。
 酵素は、生体の細胞内で形成され、特定の分子を包み込んだり、弾き出したりする、特定の出っ張りや裂け目のある複雑な構造を介して、生体内の化学反応を促進する特異な触媒(加速)作用をする。また生命活動を営むに必須な代謝反応も酵素による。しかも極めて微量で作用する。

 酵素は、出発物質の基質を巨大酵素分子に取り込み、酵素―基質複合体を形成する。その中で化学反応を進行させ、その反応には酵素の働きをサポートする補酵素が必要な場合もある。また、そのエネルギーとして活躍するのが補酵素ATPである。細胞内では、生体反応を司る様々な巨大酵素分子が、ひしめき合っているのが現状である。
 個々の酵素は、ある分子が関わる多くの反応のうちの1つだけを加速(触媒)する。酵素が触媒する反応は、次々と連結し、ある反応の生成物が、次の反応の出発物となるものが多い。こうして生じる長い連鎖径路を代謝経路という。その一連の代謝経路が繋がり合い、反応の複雑な網目模様を構成する。
 触媒作用により、細胞の生存・成長・増殖に必要な、あらゆる化学反応の総和である代謝(metabolism)を精妙に調整する。これこそが生命化学の中核である。その細胞内で起こる化学反応には、2つの流れがある。1つは、食物を小さな構成分子に分解する径路(異化;catabolism)であり、細胞で使いやすい形態のエネルギーに変え、多糖や脂質・核酸・タンパク質などの大きな分子を、それぞれ構成材料として欠かせない単糖・脂肪酸・ヌクレオチド・アミノ酸などの小さな部分に分解する。
 もう1つが、異化作用によって蓄えられたエネルギーを用いて細胞組成用の分子を合成する同化(anabolism)径路である。両者を合わせて細胞の代謝と呼ぶ。
 食物分子の化学結合で蓄えられたエネルギーの大部分は、熱として消えてしまう。このため細胞組成用の分子の合成に関わるのは、ほんの一部のエネルギーだけである。
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 3)遺伝子がつくるタンパク質
 タンパク質は、定められた特定の仕事をするように遺伝子の設計図に基づいて生産される。不要となれば、使い捨てとなり、直ちに破壊し破棄される。その設計図はゲノム上の構造遺伝子と呼ばれる場所に記録される。その内容は、20種類のアミノ酸を使い分けて約100から1,000個を連結する手順である。この情報だけで、タンパク質の複雑な立体構造が自然に出来上がる仕組みとなっている。
 個々のアミノ酸は、DNA(デオキシリボ核酸)内の4種類の塩基(A・T・G・C)を鋳型にして、RNAの素となる4つのヌクレオシド(A:アデノシン・ U:ウリジン,・G:グアノシン・C:シチジン)を重合しmRNAを合成する。DNAの二本鎖のうち一方を鋳型として、A→ U・T→ A・G→ C・C→ Gの規則に従って合成される。その際、塩基のT(チミン)は、U(ウラシル)に置き換わっている。A・U・G・Cを3個組み合わせることでコドン(codon;暗号)として表す。従って、コドンは 43 = 64 種類存在する。幾つかのコドンが、同一のアミノ酸の生成に対応している。
 
実際、タンパク質を生産する時に、構造遺伝子を直接読むのではなく、これをRNA(DNAと同様に4種類のヌクレオチドが連なって構成される物質)に書き換え、それをさらに加工したmRNA(messenger RNA;伝令RNA)を使う。これをリボソーム(ribosome)と呼ばれる工場に運び、そこでmRNAの記された順序に従いアミノ酸を連結していく。
 現代では、数種類のリボソームRNA(r RNA)と50種類以上の小型のタンパク質(リボソームタンパク)から作られる複雑な巨大分子装置であるリボソームの構造も簡単に見ることができる。リボソームの2/3がr RNA で、1/3がタンパク質であった。2000年には、リボソームを構成する大サブユニットと小サブユニットの完全な三次元構造も決定されている。
 DNAの構造は、6種類の物質で作られている。6種類のうち、4種類は「塩基」とよばれる物質で、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C) と呼ばれる。残りの2種類が、「リン酸」と「デオキシリボース(糖)」で、この「デオキシリボース」は「糖」の一種で、「デオキシリボ核酸・DNA」の名前の 由来にもなっている。  そのつながり方には、規則性があり、AとT、GとCはつながるが、その他の組み合わせはない。つまり、塩基どうしが結合するとき、AとT、GとCが必ずペアになる。これを、「塩基の相補性」という。
 遺伝子を構成する化学物質はDNAで、これは糖とリン酸および4種類の塩基(A・T・G・C)が連結したものからなっている。この一組の「糖-リン酸―4種類の塩基」の単位を「ヌクレオチド(nucleotide)」と呼ぶ。普通DNAは、この塩基の相補性の繋がり従って、この「ヌクレオチド」が多数結合し鎖状のDNA分子となっている。これを多数重ねて、DNAの「二重らせん」を作る。それが二重らせん構造になるのは、塩基の部分で規則性があるAとT、GとCが対をなす塩基の並び(塩基配列)で、その対の塩基が並ぶ部分で水素結合して、DNAの二重らせんが分離しないよう中心に引き付けているからだ。

 「原子間力顕微鏡(げんしかんりょくけんびきょう)」を使うと、DNAの二重らせんを見ることができまる。太さ、およそ2nm(1nm=10-9m;10億分の1m)のDNAの分子レベルでの細かい凹凸まで見える。主溝、副溝と呼ばれるらせんの溝の違いや、らせん状の鎖の部分にあたる「糖とリン酸のつながり」まで観察できる。
 DNAは、糖-リン酸-糖-リン酸と繰り返す外側の鎖を、その内側で、はしご状となって、二本のヌクレオチドが、二重らせん構造となって連なり橋渡しをしている。この塩基は、外側の二本鎖の内側に突き出ていて、塩基同士の水素結合は36度ずつ回転している。だから水素結合10個で、一回転するらせん構造になっている。
 生命現象の中で重要な働きをするタンパク質の設計図はDNAにある。しかし、直接DNAからタンパク質を合成することはできない。DNA上の情報は、いったん mRNAに転写され、翻訳という過程を経て、アミノ酸がたくさん連なったタンパク質を合成する。この翻訳で重要な働きをするのがリボソームとtRNA (トランスファーRNA)である。
  リボソームは、原核生物・真核生物を問わず、すべての細胞に存在する、タンパク質を合成する分子性の巨大な合成装置である。
 リボゾームの大部分を構成するがrRNAであるが、数種類のrRNA分子と50種類ほどの小型タンパク質からなる巨大なRNA・タンパク複合体である。リボゾームを構成するタンパク質は、数ではrRNAを圧倒するが、質量ではrRNAがリボゾームの大半を占め、リボゾームの全体の形や構造を決めている。
 全体として大小2つの粒子に分かれ、それぞれ 50Sサブユニット30Sサブユニットと呼ばれている(S;沈降平衡法は、遠心分離の際に溶質が沈降していく速度を示す係数。通常、分子量が同じならば、比重の小さいもの、形状としては、球形に遠いもののほうがS値は小さい)。これらのサブユニットの中心部にはRNA分子があり、その表面には多くのタンパク質が結合している。ただし、2つのサブユニットが会合する接触面にはタンパク質は存在せず、RNA同士が直接接している。

 リボソームはmRNAをくわえ込み、 アミノ酸の運び屋であるtRNAは、その中でmRNAのコドンを認識する。 そして、リボソームの酵素作用によって隣り合ったアミノ酸がペプチド(アミノ酸が数個から数十個つながった小タンパク質)結合をし、その長い重合体がタンパク質となる。
 30Sサブユニットは、tRNAをmRNAのコドンに結合させ、50Sサブユニットはアミノ酸どうしの共有結合であるペプチド結合を形成し、ポリペプチド鎖を作る。この2つのサブユニットがmRNA分子の5’末端付近で、mRNAをはさんで会合し、タンパク質合成を始める。mRNAはリボソームの中を、テープが引っ張られるように5’から3’方向へ少しずつ通過して、それにつれてリボソームが、tRNA分子をアダプタに使って、コドン1個ずつをアミノ酸に翻訳していく。こうしてポリペプチド鎖の末端に、正しい順序でアミノ酸が付加される。
 タンパク質合成が終わると、完成されたポリペプチド鎖は放出され、リボソームの2つのサブユニットは解離する。リボソームの作業効率は極めて迅速で、真核細胞では、1個のリボソームが1秒間に2個のアミノ酸をポリペプチド鎖に繋ぐ。細菌は更に高速で、1秒間に20個ものアミノ酸を結合する。

 プロモーターとは、DNA からRNA を合成する転写の開始に関与する遺伝子の上流領域を指す。
 転写並びDNA複製は鋳型鎖で3’から5’末端への方向に進むが、タンパク質の暗号は、必ずmRNAの5'から3'の方向に読まれる。よって、生物学者は鋳型鎖の5’末端側を上流 (upstream)、3’末端側を下流 (downstream )と呼ぶのが通例だ。
 第二に、暗号は必ずAUGから始まる。つまり、タンパク質の最初のアミノ酸は、メチオニン(Met)である。メチオニンは、タンパク質に通常含まれるアミノ酸であるが、必須アミノ酸の一つである。タンパク質の構成成分としてだけでなく、生体内には、硫黄があるが、メチル基があるため、あまり影響を受けないなど重要な機能を果たすアミノ酸である。
 第三に、この暗号には句読点はなく、断続的に3塩基ずつ読み取られる。
 第四に、この暗号は必ずUAAかUAGかUGAかのどれかで終わる。
 さらに、タンパク質にもRNAと同様に方向がある。mRNA の5’側に相当するのがN末端側で、3'側に相当するのがC末端側である。
 遺伝子の上流領域・プロモーターに転写因子が結合して転写が始まる。 DNAにある各遺伝子の上流域・プロモーターで、RNAの重合を行うのが「DNAポリメラーゼ」という酵素で、それと結合して、タンパク質の合成に関係するRNAへ転写を開始する。「DNAポリメラーゼ」の反応には、5’から3'という方向性がある。
 遺伝情報が書き込まれた物質であるDNA上には数百から数万の遺伝情報が存在するが、常に全部が発現されているわけではなく、細胞の活動状態に応じて RNAへの転写が調節されている。
 DNAの塩基配列のうち、RNA合成を触媒する酵素を生成し、mRANに転写の開始を指令、結果として、鋳型DNAに対し相補的な塩基配列をもつRNAが合成され、遺伝情報が転写される。
 反応過程は、まずDNA上のRNA合成開始を指令するプロモーターにタンパク質の酵素(DNAポリメラーゼ)が結合し、DNAの二重らせん構造を局所的にほどいて、DNAの一方の鎖を鋳型にRNAが合成される。RNA鎖の伸長の方向は上流 5′末端側から下流3′末端側へ向けて起こる。

 Hox遺伝子(ホメオボックス遺伝子;homeobox gene;Hox genes)群は、「転写因子」という他の遺伝子の「スイッチをオン」にするタンパク質のレシピとなっている。「転写因子」は、遺伝子の転写を制御するたんぱく質群のことで、DNAに書き込まれた遺伝情報のRNAへの転写を促進したり抑制したりする働きを持つ、約2,000種以上ものタンパク質の同定(分類・仕訳)がなされている。
 「転写因子」はDNA上のプロモーターと結合して機能を発揮する。そのプロモーターは、細胞とは違ってハエやヒトなどでは、5つに分かれている。通常は遺伝子本体の上流にあるが、下流にあることもある。これら5つの「転写因子」は、それぞれ異なる「転写因子」を引き付け、その「転写因子」が付くと遺伝子の転写が始まる。
 逆に止まることもあるようだ。タンパク質合成には多くのエネルギーを消費するので、生物にとって無駄な遺伝子の転写や翻訳は避けなければならない。多くの遺伝子のうち、どれを・いつ・どこで・どの程度発現させるかは、生物にとって自らの生存を掛けた最も重要な課題である。外界からの様々な刺激や真核生物が元来もっている発生・分化・増殖・加齢などのプログラムによって、個々の遺伝子の転写は精妙に調節されている。
 たとえば生物にエサが無くなると、蛋白合成に必要なアミノ酸が欠乏する。そうすると、アミノ酸と結合しない tRNA が増加し、これが引き金となって転写が止まる。
 ほとんどの遺伝子は、いくつかのプロモーターに「転写因子」が結合するまでは活性化しない。その各「転写因子」自体が、ゲノムのどこかにある別の遺伝子によって生み出されている。多くの遺伝子は、他の遺伝子の「スイッチをオン」にたすけられる一方、他の遺伝子を「スイッチをオン」にする契機となっている。
 ある遺伝子のスイッチがオンまたはオフになりやすいかは、そのプロモーターの感度に左右される。そのためプロモーターの配列を変えて、「転写因子」に見つけやすくすれば、その遺伝子の活性は高まるが、その変化によりプロモーターが転写を阻害する「転写因子」を引き付ければ遺伝子の活性は低下する。
 プロモーターの僅かな変化が、遺伝子の発現に微妙な影響を与える。それこそが、動植物が細菌とは全く違う進化の過程を経て、様々に変化した原因とみられる。環境が変化すれば、当然その環境下における動植物が、適応する上で、形態を微妙に変化させる。それが進化につながる。

 本来、「ニシキヘビのように体が長くなる遺伝子」とか、「鶏の首が長くなる遺伝子」といったものはない。マウスは首が短く胴体が長い、ニワトリは首が長く胴体が短い。それぞれの椎骨を数えれば、マウスは首に7個、胸郭に13個あり、ニワトリは首に14個と倍あり、胸郭に7個と半分に近い、この違いの原因は、Hox遺伝子群の中にあるHoxC8遺伝子と結合する一個のプロモーターにあった。
 体節から形態的に分化する均一な繰り返しで椎骨パターンを作り出す。その過程で、Hox 遺伝子群が重要な役割を果たすことや、Hox遺伝子の発現領域の変化により、動物間の椎骨パターンに違いが生じていることはよく知られていた。それで、Hox遺伝子群によるエンハンサーの発現を、動物間で比較するという研究がいくつも行われてきた。
 エンハンサー(enhancer)とは、遺伝子の転写量を増加させる作用をもつDNA領域のことをいう。エンハンサーは、プロモーターからの距離や位置、方向に関係なく作用し、プロモーターと複数個の転写因子(RNAポリメレース【RNAの合成を促進する酵素】などのタンパク質・酵素)と結合する。エンハンサーとプロモーターが離れていても、コアクチベーター(coactivator)と呼ばれる転写調節タンパクの因子が作用に加わることにより、エンハンサーとプロモーターが接近すると考えられている。
 椎骨パターンを作り出す過程で、Hox 遺伝子群が重要な役割を果たすことや、動物間での椎骨パターンの違いに対応してHox遺伝子の発現領域が変化していることはよく知られている。そのような中で、Beltingらが1,998年に、マウスとニワトリにおけるHoxC8の発現の違いが、エンハンサー領域の分化によるものである可能性を示した。
 HoxC8遺伝子と結合する、その一個のプロモーターは、200文字からなるDNAであった。しかもマウスとニワトリとでは、僅かな文字に違いがあっただけだ。事実、たった2文字の差異だけで、プロモーターは全く別物になっていた。その差異によるHoxC8遺伝子の発現変化で、ニワトリの胚発生において、脊椎のかなり限定された部分だけで発現するため、マウスと比べ胸郭が短くなくなった。逆にマウスの首が短いのも同じ作用によるものであった。
 ニシキヘビの場合は、HoxC8遺伝子の発現が、頭から体の大部分にまで及ぶため、体全体に肋骨(ろっこつ)ができ胸郭が長くなる。結局、DNA分子中の塩基配列の順序が、遺伝情報としてアミノ酸の配列順序を決める。
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 4)遺伝情報の伝達
 生物の形質変化を引き起こしているのがDNAであることに変わりはない。DNAは小さく折り畳まれて染色体になる。従ってDNAは、どの染色体にも存在している。そのDNAの遺伝的な変化が、その生物の形質に変化を引き起こしている。
 すべての生物は、この4種類の塩基のみを共通に使い、「塩基配列」の順序で遺伝情報を作り出す。実は、この塩基配列が「遺伝子」つまり「生物の設計図」そのものである。親から子へ受け継がれる遺伝子の本体はDNAで、DNA分子中の塩基配列の順序が遺伝情報として意味をなす。
 「遺伝情報の流れは常に DNAから RNAへ、RNAからタンパク質へと流れ、逆流することはない」というセントラル・ドグマ(central dogma)を、 1958年に F.H.C.クリックが提唱した。その後、一部修正を受けたが、基本的にはタンパク質から核酸がつくられることはなく、核酸からタンパク質への情報の流れは常に一方向というのが現在の定説となっている。
 遺伝子はタンパク質を指令する。遺伝子はDNAでできている。m RNAが仲介役となってDNAからリボソームへと情報を運ぶ。リボゾームの大部分を構成するがリボソームRNA(rRNA)であるが、数種類のrRNA分子と50種類ほどの小型タンパク質からなる巨大なRNA・タンパク複合体である。
 リボソームによってアミノ酸へと翻訳されタンパク質ができ、ここでDNAからmRNAへの転写を行うのがRNAポリメラーゼである。RNAポリメラーゼは、遺伝子DNAを鋳型に、RNAの素となる4つのヌクレオシド(A:アデノシン・ U:ウリジン,・G:グアノシン・C:シチジン)を重合しmRNAを合成する。 rRNAは、m RNAをタンパク質に翻訳するリボソーム構造体の核となり、触媒の主役となる。tRNAは、選択した特定のアミノ酸をリボソームに運び込むみ、タンパク質に取り込ませるアダプタの役をする。遺伝暗号の形式、すなわちタンパク質に見られる20種類のアミノ酸が、m RNA分子のコドンというトリプレット(triplet連続した3ヌクレチド)のよって表されることが既に解明されている。言わばコドン1個分は、ヌクレチド3個で表現されて、その64通りのトリプレットが、それぞれどのアミノ酸に対応するかも解明されている。こうしてポリペプチド鎖の末端に、正しい順序でアミノ酸が付加され、その長い重合体がタンパク質となる。
 ヌクレオチド (nucleotide) の語源は、nucleo(核の)tide(結ばれた)と言う意味からで、これをローマ字読みしたものである。英語では「ニュークリオタイド」と発音する。
 1種類の形質は、1つのタンパク質に対応し、そのタンパク質の情報は、1つの遺伝子が指令する。遺伝子の構成要素であるDNA上の塩基は3つの並びがひとかたまりで、1種類のアミノ酸の配列順序を決める。それがタンパク質の性質を決定する。
 このヌクレチド3個の暗号が「コドン」一個となり、コドンの並び順によってアミノ酸の配列順序が決定される。それがタンパク質の性質を決める。一方、生体を構成する大部分は、タンパク質で、生命活動を営むに必須な代謝反応も酵素と呼ばれるタンパク質であれば、生物分類の基準となる形質や、その外形や反応などの生態などもタンパク質によって決定される。
 リボソームが細胞内で翻訳を始めるには、特定の開始シグナルが必要である。mRNAのタンパク質合成開始は、指令全体の読み枠を決める非常に重要な存在である。1塩基でもずれれば、そこから後のコドンの全てが、間違って読み取られる。そためにアミノ酸配列が機能しないタンパク質が生じる。また、翻訳開始の頻度でmRNAからのタンパク質合成の速さが決まる。
 概ねタンパク分子の合成は、20秒から数分で完了する。通常、この短時間内にも、1個のmRNAに多数のリボソームが結合して翻訳を行なう。mRNAの翻訳が効率よく行なわれれば、一つのリボソームでの翻訳が進み、十分な距離が開くと、直ぐ次のリボソームがmRNAの5’末端に結合する。それにより翻訳中のmRNA分子は、通常、ポリリボソーム(polyribosome)と呼ばれる状態となり、それは一本のmRNA分子に80ヌクレチド程度の間隔で、いくつものリボソームが結合した状態になっている。多数のリボソームが一本のmRNA上で同時に働くので、1つのポリペプチド鎖が完成するまでに次の翻訳が始まらない場合に比べて、一定時間に合成できるタンパク分子ははるかに多くなる。電子顕微鏡では、一本のmRNA分子を、同時に多数のリボソームが翻訳するようすが観察されている。
 細菌も真核生物もポリリボソームを使うが、細菌は更に合成速度を上げられる。mRNAにプロセシングの必要がないない上に、合成中のmRNAにもリボソームが接近できるからである。細菌は通常、mRNAの転写完了前に、その遊離末端にリボソームが結合して翻訳を開始する。DNAに沿って進んでいくRNAポリメラーゼの直ぐうしろを、リボソームが進んでいく。
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 5)タンパク質の機能
 細胞表面を囲む極めて薄い細胞膜は、脂質の2分子層が中央にあって、その表裏両面をタンパク質が覆う。その脂質2重層は細胞内外の物質の透過を制限するバリアの役割を果たしている。その細胞膜に埋め込まれた多数のタンパク質は、チャンネルやポンプを作り、栄養分やイオンや小分子の細胞内外への輸送を調整している。また、細胞間の情報伝達や細胞膜から核への一群のシグナル伝達にも働く。
 タンパク質の機能は多様で、細胞質で細胞小器官を動かすモーターとして働くタンパク質や、正確に調整された可動部を持つ微小な分子装置の部品として機能するタンパク質もある。
 遺伝子調節タンパク質は、遺伝子のオン・オフに関わる。その調節タンパク質が働かなければ、遺伝子は機能しない。それと同時に、他の諸々の遺伝子の働きを停止させる。
 網膜にある視細胞の中の視物質、その中核となるロドプシンは、光を感じる受容体タンパク質である。細胞内で視物質が光を吸収すると、それが引き金となって視細胞が活性化される。動物は、植物とは全く異なる種類の光受容体で反応する。
 鉄は小型のタンパク質・フェリチンと結合した形で肝臓・脾臓(ひぞう)・小腸粘膜などに貯蔵される。  極洋の魚類は、血液の凍結を防止するタンパク質を持つ。クラゲの一種は、緑色蛍光タンパク質を働かせて光を放つ。ムール貝とも呼ばれるムラサキイガイなどの海洋生物は、接着タンパク質を分泌して海水中の岩に強く張り付く。結合組織を構成する弾性線維は、血管壁や肺組織・靭帯(じんたい)などに多く含まれるエラスチンというゴム状タンパク質である。それ以外にも、抗体や毒素・ホルモン(hormone)など独特の働きをするものもある。

 ホルモンとは、微量にもかかわらず、生体内の殆どの組織で、タンパク質・炭水化物・脂質の合成の促進と代謝に影響し、動植物の多様な細胞におけるグルコース(ブドウ糖)の取り込みや、生体内の特定の器官の働きを調節するための情報伝達を担う物質など、あらゆる生体活動の調節に密接に関与する一群の物質や、それを生成する生物自体の器官または組織をいう。
 ホルモンの成分は、タンパク質・ポリペプチド(多数のアミノ酸が含まれる)・アミノ酸誘導体・ステロイドなどであるが、動物の様々な生理機能の調整に関わるホルモンの多くはタンパク質である。
 遺伝子の働き、筋肉収縮の仕組み、神経による電位伝達、胚の発生過程などを知るには、タンパク質をよく理解しなければならない。
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