タンパク質
 
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 植物の運動力 光合成と光阻害 チラコイド反応  植物のエネルギー生産 ストロマ反応  植物の窒素化合物  屈性と傾性(偏差成長)
 タンパク質 遺伝子が作るタンパク質 遺伝子の発現(1) 遺伝子の発現(2)
 遺伝子発現の仕組み リボソーム コルチゾール 生物個体の発生 染色体と遺伝 対立遺伝子と点変異 疾患とSNP 癌変異の集積

 癌細胞の転移 大腸癌 細胞の生命化学 酸と塩基 細胞内の炭素化合物 細胞の中の単量体 糖(sugar) 糖の機能 脂肪酸

 
 
 目次
 1)タンパク質の役割
 2)光合成装置の合成反応
 3)体内時計

 1)タンパク質の役割
 細胞を電気的・生化学的に観察し分析すると、その対象の先には、タンパク質(protein)が存在している。タンパク質は、細胞を形成する主要な素材であるため、細胞の乾燥重量のほとんどを占めている。しかも、細胞の形や構造を形成するばかりでなく、細胞が保有する無数の機能のほとんどを担っている。
 細胞は何千種類もの酵素を含んでいる。酵素(enzyme;énzaim)は、生体の細胞内で形成され、特定の分子を包み込んだり、弾き出したりする、特定の出っ張りや裂け目のある複雑な構造を介して、生体内の化学反応を促進する特異な触媒(加速)作用のあるタンパク質で、極めて微量で作用する。

 細胞表面を囲む極めて薄い細胞膜は、脂質の2分子層が中央にあって、その表裏両面をタンパク質が覆う。その脂質2重層は細胞内外の物質の透過を制限するバリアの役割を果たしている。その細胞膜に埋め込まれた多数のタンパク質は、チャンネルやポンプを作り、栄養分やイオンや小分子の細胞内外への輸送を調整している。また、細胞間の情報伝達や細胞膜から核への一群のシグナル伝達にも働く。
 細胞質で細胞小器官を動かすモーターとして働くタンパク質や、正確に調整された可動部を持つ微小な分子装置の部品として機能するタンパク質もある。
 遺伝子調節タンパク質は、遺伝子のオン・オフに関わる。その調節タンパク質が働かなければ、遺伝子は機能しないばかりか、それと同時に、他の諸々の遺伝子の働きを停止させる。
 網膜にある視細胞の中の視物質、その中核となるロドプシンは、光を感じる受容体タンパク質である。細胞内で視物質が光を吸収すると、それが引き金となって視細胞が活性化される。動物は、植物とは全く異なる種類の光受容体で反応する。
 鉄は小型のタンパク質、フェリチンと結合した形で肝臓・脾臓(ひぞう)・小腸粘膜などに貯蔵される。
 極洋の魚類は、血液の凍結を防止するタンパク質を持つ。クラゲの一種は、緑色蛍光タンパク質を働かせて光を放つ。ムール貝とも呼ばれるムラサキイガイなどの海洋生物は、接着タンパク質を分泌して海水中の岩に強く張り付く。結合組織を構成する弾性線維は、血管壁や肺組織・靭帯(じんたい)などに多く含まれるエラスチンというゴム状タンパク質である。それ以外にも、抗体や毒素・ホルモン(hormone)など独特の働きをするものもある。
 ホルモンとは、微量にもかかわらず、生体内の殆どの組織で、タンパク質・炭水化物・脂質の合成の促進と代謝に影響し、動植物の多様な細胞におけるグルコース(ブドウ糖)の取り込みや、生体内の特定の器官の働きを調節するための情報伝達を担う物質など、あらゆる生体活動の調節に密接に関与する一群の物質や、それを生成する生物自体の器官または組織をいう。
 ホルモンの成分は、タンパク質・ポリペプチド(多数のアミノ酸が含まれる)・アミノ酸誘導体・ステロイドなどであるが、動物の様々な生理機能の調整に関わるホルモンの多くはタンパク質である。
   遺伝子の働き、筋肉収縮の仕組み、神経による電位伝達、胚の発生過程などを知るには、タンパク質をよく理解しなければならない。
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 2)光合成装置の合成反応
 「暗形態形成」や「光形態形成」も、様々な遺伝子が発現して引き起こされる反応である。光合成装置の合成には、遺伝子の発現反応の中でも特殊な手順がとられる。植物の細胞の中で光合成を行なう葉緑体は、核とは独立した遺伝情報(ゲノム)をもっている。光合成装置は、核と葉緑体のゲノムが協調して作り上げている。
 反応は、タネの胚にある光を感じた光受容体(光センサー)の「フィトクロム(phytochrome;fáitəkròum)」が、核のゲノムに働きかけることから始まる。
 細胞で最初に作られたときの「フィトクロム」は、タネの胚にある色素タンパク質として存在する。「フィトクロム」の名は、「植物の(phyto)」「色素(chrome)」に由来する。
 光は「波」の性質を持っている。光の色は波長によって決まる。人間の眼には、波1回分の振動の長さ(波長)の違いを感じ取り、それを色の違いとして受け止める。人間の目に見える光を「可視光」といい、波長の長いものから順に、「赤・橙・黄・緑・青・藍・紫」の虹色が並ぶ、この光の並びを「光のスペクトル」という。太陽から降り注ぐ光は、これらの波長の光が混ざり合うため、人間の目には白色にみえる。
 光は電気と磁気(磁石)の両方の性質を持つ「電磁波」の一種で、「電磁波」は「波」としての性質に加え「粒子」としての性質を併せ持つ。また波長の短いものほど強いエネルギーを持つ。それが光合成を作動させる「光エネルギー」の正体である。
 タネの胚にある色素タンパク質として存在する「フィトクロム」は、太陽光に含まれる「赤色光」と、それより波長がやや長い「遠赤色光」の両方を感じる性質を持つ。「光発芽種子」の発芽のタイミングは、この2種類の光によって調節される。「赤色光」を浴びたタネは発芽が促進され、「遠赤色光」を浴びたタネは発芽が抑制される。
 光合成に使われる光は、主に「赤色光」と青色光(せいしょくこう)であり、「フィトクロム」は、そのうちの「赤色光」を感じ取り、光合成が可能と解し、芽生えを促進する。発芽促進には、植物ホルモンのジベレリンが関わり、「赤色光」を感じ取ったタネはジベレリンの合成量が増えて、その働きで発芽が促進される。
 「フィトクロム」が「遠赤色光」を感知したタネは、発芽を抑制する仕組みを備える。「遠赤色光」は光合成には役に立たない光で、そのため葉には吸収されず、そのまますり抜けてくる。タネが葉の陰で「遠赤色光」を強く感じれば、その環境では芽生えても、光合成に必要な光が得られないとしてタネの発芽を抑制する。
 光センサーである「フィトクロム」が、「赤色光」と「遠赤色光」を見分けるのが可能なのは、「フィトクロム」には、赤色を好んで吸収する「赤色光吸収型(Pr)」と、遠赤色光を好んで吸収する「遠赤色光吸収型(Pfr)」の2つのタイプがあり、両者は互いに行き来している。「Pr」「Pfr」の「P」は「phytochrome」の頭文字、「r」は「red light」、「fr」は「far- red light」を表す。「赤色光」を浴びた「Pr型」の「フィトクロム」は、「Pfr型」に変わり、「遠赤色光」を浴びた「Pfr型」は「Pr型」に変わる。
 実際には、「フィトクロム」が日なたで浴びる太陽の光では、「赤色光」と「遠赤色光」は同じ強さで照射されているはずで、通常、どちらか一方というのはありえない。「遠赤色光」が多いというのは、他の植物の葉の陰になって透過されているからだ。
 それで「フィトクロム」が細胞内で最初に作られた時は、すべてが「Pr型」で、それが「赤色光」を浴びて「Pfr型」に変わる。「Pfr型」になると「フィトクロム」は、発芽を促進するシベレリンを合成する。それが発芽の引き金となる。反対に細胞中に「Pr型」が多いと、発芽を促進するシベレリンを合成できず、発芽が抑制される仕組みになっている。
 「赤色光吸収型(Pr)」の「フィトクロム」は、細胞質に存在して、「赤色光」を感知して「Pfr型」に変わる。この時に細胞質から核内に移動する。核の中には遺伝情報(ゲノム)の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)を折り畳んだ染色体があり、そこで「Pfr型」の「フィトクロム」が、「光形態形成」に参加する各種タンパク質を作るために必要な遺伝情報を読み出す。「Pfr型」の働きで作られた複数のタンパク質は、同じ細胞内の葉緑体へ輸送され、葉緑体のゲノムをもとに作られたタンパク質と結合して、光合成装置の土台を作り出す。
 この反応に並行して、葉緑体の中でクロロフィルを生合成するタンパク質酵素が作られ、光合成装置の土台とクロロフィルが一体となって光合成装置が形づけられる。
 地中で光を浴びることがない地下部(ルート)の根では、地上部(シュート)で「光形態形成」が起きても、光合成装置を作る遺伝子の発現は抑制されている。
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 3)体内時計
 植物細胞に含まれる光受容体(光センサー)色素タンパク質には、フィトクロム・フォトトロピン・クリプトクロムの3種が知られる。
 フィトクロムは、赤色光・遠赤色光を感知し、花芽形成や発芽の制御・光形態形成・光周性に働く。
 (光周性とは、生物が日長変化、つまり昼(明期)と夜(暗期)の光の明暗周期に反応することをいう。生物は、このような日長変化を感知することで、季節に応じた年周期的な反応を行う。)
 フォトトロピンは、青色光に感知し、光屈性・葉緑体の定位運動・気孔の開閉で働く。シロイヌナズナでも、フォトトロピンが孔辺細胞にも存在していることが見つかり、フォトトロピンが気孔開口で機能していることが証明された。
 クリプトクロムは、青色光に感知し、光形態形成・体内時計として働く。クリプトクロムは、藻類から種子植物まで広く存在し、シロイヌナズナではcry1cry2の2分子種が存在する。

 1959年、アメリカのW. L. Butler(バトラー)らは、トウモロコシの黄化芽生えからフィトクロムの抽出に成功し、赤色光吸収型と遠赤色光吸収型の間を光変換するタンパク質性の色素が、トウモロコシの黄化芽生えに含まれていることを見出した。これが植物に特有の光化逆的な光受容体「フィトクロム」の発見である。
 多くの植物の種子は、光の量や質に問題がある環境下では発芽をせずに休眠状態に留まる。これは、生育に不適切な場所や時期に発芽してしまうことを防ぐためだ。暗い場所で発芽した植物の子葉の部分は「黄化芽生え」の形態をとる。黄色は子葉に蓄積したカロテノイドの色である。黄金アカシヤのように、太陽光の下でで生育する植物にも存在するが、「黄化芽生え」にはクロロフィルがないので、カロテノイドが目立つのである。黄化した植物に光照射すると数時間から1日程度で緑色に変化する。
 フィトクロムは不活性型であるPr型で合成され、赤色光を吸収することにより、活性型であるPfr型に変換される。また、Pfr型は遠赤色光を吸収することで不活性化され、Pr型に戻る。有名な赤/遠赤色光光可逆性はフィトクロムのもつこの性質の現れである。また、赤色光と遠赤色光の比率に応じてPfrとPrの間の光平衡が変化し、植物はこの変化を認識して避陰反応を引き起こす。フィトクロムは陸上植物にのみ存在すると考えられていたが、最近では、シアノバクテリアを中心にフィトクロム系タンパク質が多数発見された。
  フィトクロムは、上に挙げた植物の光応答のうち、光屈性を除く全ての反応において主要な光受容体として働いている。

 フォトトロピンは1997年に米国のW. Briggsらのグループにより発見された青色光受容体である。その構造はクリプトクロムとは全く異なる。
 フォトトロピンは光屈性の受容体として発見されたが、その後の研究で、葉緑体定位運動と気孔開口の光受容体でもあることが見いだされた。フォトトロピンにはphot1pho2の二つが存在し、葉緑体定位運動において、大まかには、phot1がより弱い光に、phot2が強い光に対する光受容体として働いている。葉緑体定位運動とは、強さ・入射方向・波長などの光の情報に従って、葉緑体が細胞内での配置や存在場所を変える現象をいう。青色光に感知し、弱光下では、葉緑体は葉の表面側に集合し(弱光反応・集合反応)、強光下では葉緑体は光を避けて光と平行な細胞壁面に逃避する(強光反応・逃避反応)。

 クリプトクロムは1993年に米国のCashmoreらのグループにより発見された青色光受容体である。その構造は、藻類から種子植物まで生物界に広く存在する。「クリプトクロム(cryptochrome)」の名は、「隠された(crypto; kríptou)」「色素(chrome)」に由来する。可視光線(人間の目に光として感知される電磁波、波長が380ナノメートルの紫の光から780ナノメートルの赤い光までのもの)で活性化されて、DNA損傷を修復するDNA修復酵素(光回復酵素;DNAホトリアーゼ)と相同性をもつ。植物での発見を契機として、動物にもクリプトクロムが存在することが明らかになった。
 クリプトクロムにはcry1cry2の2つの分子種が存在する。シロイヌナズナではcry1と cry2ともに茎の伸長抑制・アントシアン合成制御・光周性の制御などで働いている。
 クリプトクロムは、光形態形成に関わる様々な遺伝子の発現を制御する。昼もしくは夜の持続時間によって制御される現象、種子の休眠、昆虫の休眠や動物の生殖腺の発達などの発生制御や栄養成長から生殖成長への転換などに発現する。
 cry2は花芽形成を促進する主要な光受容体である。これらの発育上重要なプロセスの開始を、季節変化を最も確実に反映する日長により制御することにより、時期選択の精度を高めている。
 「光形態形成」のスイッチとして働く「クリプトクロム(cryptochrome)」は、植物の体の中でもう一つの重要な役割を担っている。それは、植物の1日のリズムを調整する働きだ。そのリズムを「概日リズム(がいじつリズム)」という。
 「クリプトクロム」は動物からもみつかっている。人間は、1日のおおよその時間を測る「体内時計(生物時計)」を備えている。明暗の刺激など外界のさまざまな事象の時間的変化を手がかりとして、1日のリズムを微調整することにより、内因性リズムと時間の経過を同調させていることが、経験則としてよく知られている。光による明暗(昼と夜)や、家庭・学校・会社・仕事・遊びなどの社会的因子、さらに食事・身体的運動・温度・湿度・騒音・振動などの日常の環境も、重要な同調因子となっている。
 ジェットラグ(jet lag)や夜更かしによる体調不良などは、「体内時計」の「概日リズム」が狂うからだ。その狂った「体内時計」も、日の経過とともに、次第に太陽のリズムと同調する。それは「クリプトクロム」の働きで、「体内時計」が調節されたからだ。
 植物の「体内時計」については、まだ詳細は解明されていないが、動物の「体内時計」を司る遺伝子は特定されている。動物の「クリプトクロム」は、進化の過程で光の信号を受容する機能を失い、時計の役割だけを果すようになった。ショウジョウバエの「クリプトクロム」は光センサーとして機能しているが、ヒトの体内の「クリプトクロム」はその機能を失い、「体内時計」の主要な部品の一つとなっている。
 人間の細胞の中には、24時間の「概日リズム」をとる小さな分子時計がある。この時計は、食事時間や睡眠時間を決めている。また、昼間の長さの変化を感知し、季節変化を知る。これに中心的な役割をしている時計は、脳の視床下部にある非常に小さい領域、視交叉上核(しこうさじょうかく)にある。我々の身体の中心的なペースメーカーとして働き、外界の明暗周期をチェックし、他の身体各部が同期するように信号を送っている。
 この時計は約24時間の周期を持っているが、正確なものではない。そのため細胞は、外界に時計を合わせる方法を持っている。脳内の時計は光にさらされることにより同期される。光は網膜で感知され、信号が脳に送られて、概日周期のタイミングを修正する。時差のある場所に移動すると移動した最初の数日は、ジェットラグを経験するが、それは概日体内時計が古いスケジュールに同期しているためである。ところが日中の輝かしい青色の光で、「クリプトクロム」の働きは活性化する。体内時計は徐々に修正され、その場所の時間に合うようになる。
 ヒトと植物が、「クリプトクロム」を共有して、しかも似たメカニズムを備えている。おそらくは動物と植物が分化される前の生物の初期の段階から獲得されていて、動物にも植物にも同じように受け継がれたと考えられる。
 赤色光を感知して発芽や光形態形成を引き起こす「フィトクロム」や、青色光を感知して光屈性・葉緑体の定位運動・気孔の開閉に働く「フォトトロビン」は、植物に特有な光センサーである。
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