細胞の生命化学
 
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 目次
 1)生命化学
 2)最外殻電子による原子間の相互作用
 3)共有結合
 4)共有結合の種類

 炭素の原子番号は6であり、陽子の数6と中性子の数6との和が原子量となり12となる。炭素の電子数は、陽子の数に等しいので6個である。第1電子殻には2個、第2電子殻には8個までの電子を収容できる。炭素の最外殻にあたるのが第2電子殻である。そこには4個の電子があるだけだ。そこで炭素の最外殻を満たすためには4個の電子が必要となる。あるいは4個を放出しなければならない。そのため、炭素は、別の炭素原子か他の原子との間で4本の共有結合を作り原子を安定させる。

 1)生命化学
 生命体はすべて、化学と物理の法則に従う。生物は化学反応で動くシステムに過ぎない。だが、生命の化学は特別であることも確かで、細胞を構成する分子を知り、その構造・形・機能・化学的特性・相互作用を理解して、細胞が化学や物理の法則を活用して誕生し、成長し繁殖する過程を知る糸口をつかみたい。
 生命の化学の大部分は有機化学である。炭素化合物の化学に基づき、その化学反応の殆どが水溶中で起こり、その反応温度も地球上で発生する中でも、極めて限定的な条件に設定されている。生命化学は途轍もなく複雑で、最も単純な細胞でさえ、その化学反応やシステムは、既知のどんな化学反応系よりも緻密で込み入っている。
 生命の化学を支配しているのは、巨大な重合体である。その化学物質を構成単位とする鎖状分子は、その特性を分子間の相互作用として活用し、細胞や生物を誕生させ、成長と繁殖を支えるために特有な方法を積み重ねている。しかも、細胞は、その化学反応が、適切な時と場所で確実に起こるように、様々な器官と機構を備えている。生命の化学反応は綿密に調節され、物理の法則を利用して、誕生・生存・成長・繁栄を成し遂げている。

 生命は、軽い元素から出来ている。地球生命の誕生から40億年、生命の基本は、水素(原子番号1)・炭素(原子番号6)・窒素(原子番号7)・酸素(原子番号8)・ナトリウム(原子番号11)・マグネシウム(原子番号12)・リン(原子番号15)・硫黄(原子番号16)・塩素(原子番号17)・カリウム(原子番号19)・カルシウム(原子番号20)などの原子の質量が小さい元素から成り立っているが、それは地球がまだ固まっていなかった頃、重い元素が地球中心部に沈んでしまい、地表近くには軽い元素しか残らなかった、という事実に由来する。
 生命あるもの(生体)はすべて、細胞cellでできている。細胞は生命の基本単位である。現在の細胞は、すべて35億年以上前に存在した1個の祖先細胞から進化した、とみられている。進化は、現存する細胞が基本的に非常に似ていることを簡潔かつ大胆に説明してくれる。細胞は、共通の祖先から遺伝情報を受け継いでいる。その祖先細胞は35億年前~38億年前に登場して、当時から現存する地球上の全生物に共通する装置の原型を備えていた、と推測される。祖先細胞の子孫は、変異と自然選択の非常に長い過程を経て多様化し、装置の能力を限りなく高め活用した生物が、地球上のあらゆる環境に適応していった。
 人体の細胞の数は、10兆個にもなる。生命活動の維持、子孫への生命連鎖は、アミノ酸から作られたタンパク質で調節されている。

 物質は元素の組み合わせでできている。炭素・酸素・窒素・水素など、元素は化学的手段では分解することも、他の元素に変換することもできない。元素としての化学的性質を保つ最小の粒子が原子である。単一の元素からなる場合を除き、物質の特性は、物質が含む原子の種類と、それらが分子を作る際の結合の仕方によって決まる。そのため物質が作る生物を理解するには、分子の中で原子を結び付けている化学結合のでき方を理解しなければならない。
 原子(atom)の中心には密度が高い、正電荷(positive electric charge)を帯びた原子核(atomic nucleus)がある。少し離れてこれを取り巻く電子(electron)の雲は負電荷(negative electric charge)を持ち、原子核とは静電引力(electrostatic attraction;static=静的な, 静止の;反対の電荷を持つ原子を互いに引き付ける力)によって繋ぎ止められている。密度が高い原子核が、原子の質量の大半を占める。これよりはるかに軽い負電荷を帯びた電子が、量子力学の法則に従って原子核の周囲の空間を占める。電子を分布の範囲を示す軌道内に連続した雲として描くのは、ある電子が瞬間ごとにどこにあるのか、正確に予想する方法がないからである。
 原子核は、正電荷を持つ陽子と電気的に中性の中性子の2種類の粒子からなり、核内の陽子の数が原子番号となる。水素は原子核に陽子が1個だけであるので原子番号は1であり、元素の中で一番軽い。炭素は6個の陽子があるので、原子番号は6である。陽子が持つ電荷は総べて等しく、電子が持つ電荷とは、+と-で符号が反対になる。1個の原子の中の陽子と電子の数は同じで、原子番号とも等しい。そのため原子の正味の電荷はゼロとなり、全体では電気的に中性になる。この原子番号こそが、元素の化学的振舞いの決め手となる。
 中性子は、陽子とほぼ等しい質量を持ち、原子核の構造を安定させる働きをする。核内の中性子な数が変動すれば、核は放射性崩壊を起こすこともあるが、中性子の数によって原子の化学的性質が変わることはない。それで同じ元素であっても、陽子の数が同じであるが、中性子の数が異なる、化学的に違いはないが、物理的に区別できる何種類かの原子が存在するようになる。これらを同位体と呼ぶ。たいていの元素には、複数の天然同位体があり、その中には、不安定で放射能を持つものもある。
 地球上の炭素は、殆どが陽子6個と中性子6個とを持つ炭素12という安定同位体だが、陽子6個と中性子8個とを持つ、不安定な炭素14という同位体も少量存在する。その炭素14が、ゆっくりと一定の速度で放射性崩壊をするので、考古学では、有機素材の年代測定に活用している。
 炭素12の原子の質量を12とし、これを基準にして測った原子の相対的質量を原子量(atomic weight)、分子の相対的質量を分子量(molecular weight)という。この2つは、原子や分子に含まれる陽子と中性子の数を足したもので、電子は極めて軽いため質量の合計には殆ど影響はしない。炭素の主な同位体の原子量は12だから、12Cと書く。炭素の不安定同位体の原子量が約14であれば、14 Cと書く。原子や分子の質量の単位として、「ドルトン(dalton)」が使われるが、「1ドルトン」は、水素原子1個の質量にほぼ等しい。「ドルトン(dalton)」は「Da」の記号で示すこともあるが、原子の質量を表す単位で、原子量の単位ではない。
 1個の炭素原子の直径は、0.2nmで、nm(nanometre;ナノメートル)で、1nm は、10-9m=10億分の1 mと、その大きさは想像しがたい。陽子や中性子1個の質量は、約1/6×1023gである。水素原子は、通常、原子核に中性子を含まず陽子1個だけであるから、原子量はほぼ1ドルトンである。したがって、1gの水素には、6×1023gの原子が含まれている。
天然にあるものの殆どは、質量数1の水素であるが、中性子を持つ水素も存在する。陽子1個と中性子1個を含めば、質量数2となり重水素(2H)、陽子1個に中性子数2であれば、質量数3となり3重水素(3H;トリチウム)という。しかし、重水素は天然中にわずか0.015%ほどしかなく、3重水素は、水素の放射性同位体で、自然界では宇宙線と大気中の窒素と酸素が反応することで発生し、主に水の形態で存在している。不安定なものは、時の経過とともに放射性崩壊して放射線を発する。
 この1gの水素に6×1023個の原子が含まれて1ドルトン、炭素の1ドルトンは、通常の炭素12では、陽子6個と中性子6個の原子が含まれて、その質量12gの炭素には6×1023個の原子が含まれるという。この巨大な数をアボガドロ数(avogadro's number)という。アボガドロ数のおかげで、化合物の日常的な量と原子や分子の数とを関係づけられるようになった。
 化学の世界では、ある物質の分子量がMであれば、この物質のMgには、分子6×1023個が含まれている、この量を1mol(モル)という。原子量は、「質量数12の炭素原子(12C)」を炭素12と定義する。基準に用いられている「質量数12の炭素(12C)」が12gあるとき、そこに含まれる炭素原子の個数を数えると6×1023個となる。この個数を、1molの「物質量」の定義とする。1molには、質量12gの炭素が集まっていることになる。モル質量とは、1molあたりの質量のことで、記号はM 、単位はg/ molを用いる。1molのグルコースは180g、塩化ナトリウムは58g、約180gの水には、約10molの水分子(H2O)が含まれている。
 モルという概念は、化学反応に参加し得る分子の数を表す方法として、化学の計算で広く使われている、最も重要な概念になっている。1Mの溶液には1リットルあたり1molの物質が溶けている。例えば、グルコースの1mol 溶液(1M)には、グルコース180g/l(gはグラムの単位記号 、lはリットルの単位記号)含まれている。1ミリモル溶液(1mM)には、180mg/l(1mg/Lは、水1Lの中に溶質が1mg含まれている)のグルコースが含まれていることになる。

 自然界には、それぞれ1原子中の陽子と電子の数が違う、およそ 90の元素がある。その内、生命体を構成するのは、ごく僅かな元素であり、炭素・水素・窒素・酸素の4種類で、生物の重量の96%になる。その元素の存在比は、全ての生物で、ほぼ同一である。この組成は、地球上の生命でない無機物の世界、その地殻の元素の配分とは大きく異なっていることからも、生命の化学が、特別な分野であることが知られる。
 また、炭素・水素・窒素・酸素の4つの元素は、人体の総原子数の99%、体重にして96%を占める。人体にとって必須ミネラルの代表例となるナトリウム・マグネシウム・リン・硫黄・塩素・カリウム・カルシウムの7つの元素は、合わせて人体の総原子数の0.9%になる。
 各元素の存在は、生物試料・地殻試料いずれも水を含むが、それぞれの中の全原子数に対する割合を見ると、人体の全原子の60%以上が水素原子である。地殻の全原子の30%以上がシリコン原子(Si)である。
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 2)最外殻電子による原子間の相互作用
 陽子と中性子は、原子核内で固く結合しており、その組み合わせは、放射性崩壊によるか、太陽や原子炉の内部のような特殊な条件下でしか変えられない。
 物質というのは原子の集合体である。生体組織の中では、原子中の電子の組み合わせだけが変化する。電子は原子が結合する時の端緒となり、原子から分子ができる時の段取りを決める。電子は原子核の周りを動き続けているが、この超微視的なスケールの運動は、日常的な世界とは異なる運動法則に従う。この法則により、電子はいくつかの決まった動きをする。
 原子核を取り巻く電子の軌道の集まりを電子殻(でんしかく;electron shell)いう。電子殻に収容できる電子の数は軌道ごとに厳密に決まっている。平均して原子核に最も近いところに来る電子は、核に最も強く引き付けられていため、最も内側の殻に入っている。この殻には最大で2個の電子しか入れない。2番目の殻はこれより核から離れていて、ここには8個までの電子が入れる。3番目の殻にも8個までの電子が入れるが、電子の拘束は弱くなっている。4番目と5番目の殻には、それぞれ18個までの電子が入る。5番目以上の殻を持つ原子は生体分子では、めったにみられない。
 原子内の電子配置は、電子が可能な限り電子殻の内側を占めている時ほど最も安定している。大きな原子では例外もあるが、電子は内側の電子殻から順に入っていく。最も外側の最外殻が、電子で満たされた原子は、極めて安定しているため、化学的反応性に乏しい。
 電子が2個(原子番号2)のヘリウム、2+8個(原子番号10)のネオン、2+8+8個(原子番号18)のアルゴンは、全て不活性気体である。これに対して、水素原子は原子核に陽子が1個だけあるため、電子も1個だけとなり、当然、第1電子殻が最外殻となるが、それも半分しか満たされないため非常に反応しやすい元素となる。実は、生物体を作り上げる元素は、どれも最外殻が電子で完全に満たされていないので、他の原子と互いに反応して、新たな分子を組成する化学的能力が、生物40億年の進化の歴史を支えて来たようだ。

 電子で完全に満たされていない最外殻は、他の原子との間で電子を融通し合って電子殻を満たそうとする。これが反応性の高い原子として、それらの互いの原子の電子が別の原子に移動するか、電子を原子同士で共有する、2通りの化学結合(chemical bond)を生み出す。電子がある原子から別の原子に移る場合に形成されるのが「イオン結合(ionic bond)」であり、2個の原子が1対の電子を共有する場合が「共有結合」である。
 人体の全原子の60%以上を占める水素原子は、電子が1個だけだから電子殻を満たすためには、もう1個の電子があればよい。そのため電子を他の原子と共有結合することが多くなる。水素原子ほどではないが、細胞に多い炭素(C)・窒素(N)・酸素(O)の最外殻にあたる第2電子殻の電子は、それぞれ4個・5個・6個と8個に満たない。生命の化学反応に不可欠なリン(P)と硫黄(S)の最外殻にあたる第3電子殻の電子は、5個と6個である。いずれも電子の共有結合を数個作って最外殻を8個の電子で満たすか、イオン結合(ionic bond)により、獲得か放出される電子数により、原子が作る結合の数が決まる。
 最外殻の電子数が、元素の化学的性質を決めるので、元素を原子番号順に並べると、性質の似た元素が周期的に現れる。例えば、生命の化学反応には、軽い元素が主役となる。水素(原子番号1)・炭素(原子番号6)・窒素(原子番号7)・酸素(原子番号8)・ナトリウム(原子番号11)・マグネシウム(原子番号12)・リン(原子番号15)・硫黄(原子番号16)・塩素(原子番号17)・カリウム(原子番号19)・カルシウム(原子番号20)などがある。
 硫黄は、人体に不可欠な必須ミネラルの1つ。ナトリウム(Na)・マグネシウム(Mg)・リン(P)・硫黄(S)・塩素(Cl)・カリウム(K)・カルシウム(Ca)などと同様、体内では合成されないため、そのミネラルは、肉・魚・卵・豆などを食餌として外部から摂る必要がある。硫黄は、含硫アミノ酸を構成する重要な物質であり、髪の毛・爪・皮膚の角質・軟骨の材料になる。
 塩素は、「塩化ナトリウム(塩の主成分)」の形で、毎日摂取している。胃袋の中で食物を溶かす胃液は、塩化水素(HCl)の水溶液、胃酸(塩酸)を胃腺から胃に分泌している。
 元素は原子の最外殻の電子数によって、似た性質を示すグループに分けられる。これらの原子は、最外殻を満たすために、それに必要な電子を獲得、あるいは放出する必要があるため、似た性質を示すことになる。マグネシウム(Mg)とカルシウム(Ca)は、最外殻の2個の電子を放出しやすく、一方、最外殻を完全に満たすために電子を必要とする塩素(Cl)とイオン(P)と結合する。
 マグネシウムも、ヒトを含む動物や植物の必須ミネラルであり、とりわけ植物の光合成に必要な「クロロフィルa」の分子構造には、マグネシウム(Mg)が配位されている。
 第2電子殻に1個しか電子が入っていない元素と、第2は8個の電子で満たされているが、第3電子殻は1個だけという元素は、化学的によく似た振舞いをする。
 金属元素のすべては、最外殻に1個から数個の電子しか入っていない。一方、不活性気体の最外殻は、8個の電子で満たされている。
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 3)共有結合
 細胞の特性は、すべて細胞の持つ分子(molecule)で決まる。分子は、共有結合(covalent bond)で繋がった原子の集まりである。共有結合では、原子同士が電子を共有して、それぞれの最外殻を満たすが、その電子は電子間を移動することはない。最も簡単な分子は水素分子(H2)で、電子を1個持つ水素原子同士が、それぞれの2個の電子を共有して最外殻を満たす。共有された電子は、2個の原子核の中間で密度の高い負電荷の雲を作り、正電荷を持つ電子核同士が反発して離れないように繋ぎ止めている。引力と反発力がつり合う原子核の距離は決まっている。それを結合長(bond length)と呼ぶ。水素分子の結合長も、決まっていて0.074nm(1nmは 10億分の1m)である。原子が近づき過ぎれば、正電荷を持つ原子核同士が反発し、離れ過ぎれば電子の共有ができない。個々の水素原子が別々に存在していれば、第1電子殻が唯一の電子殻であり、それが最外殻であれば、1個の電子があるだけである。水素原子が互いに近づくと、双方の電子が共有結合され、どちらも第1電子殻が満たされることになる。共有された双方の電子は、2個の原子核を同等と見て、第1電子殻を重ね合わせ、周囲を回る新たに形成された最外殻軌道を通るようになる。
 結合エネルギー(binding energy)は、その結合を切るに必要なエネルギーの総量、結合度を表す。
 水素原子は1つのみの共有結合であるが、細胞の他の元素のO・N・S・Pや、特に生物にとって最重要なCは、複数の共有結合を作る。生命の化学の大部分は有機化学であり、炭素化合物の化学に基づく。上記の原子は、最外殻に不足する電子を補い8個の電子とするため、それに必要な数を共有結合で他の原子から得ようとする。酸素原子の最外殻には6個の電子が入っている。そのため2個の電子を補うため他の原子と2つ共有結合を作り安定する。窒素の最外殻電子は5個なので最大3つと、炭素の最外殻電子は4個なので最大4つと、対の電子として共有する。
 酸素・窒素・炭素による共有結合で作られる分子の空閑配置は、 各共有結合の角度と長さによって決まる正確な三次元構造をなしている。水分子(H2O)は、約109°の角度のある「V」字形である。その構造は、平面構造式では十分に表現できない。それは分子の中で原子が三次元的に配列されているためである。
 1個の原子が複数の原子と共有結合する場合、各結合の相対的な向きは、共有電子が作る混成軌道の方向で決まる。そのため複数原子の共有結合は、結合長と結合エネルギーだけでなく、結合角によって特徴が定まる。炭素原子の周りの4個の共有結合は、各結合が三次元の正四面体の4つの頂点を指すように配置される。炭素原子の共有結合の方向(角度)が厳密に決まることが、有機分子の三次元構造の基礎となっている。
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 4)共有結合の種類
 共有結合の多くは、2個の原子から1個ずつ提供された電子2個を共有する単結合(single bond)である。しかし、複数対の電子を共有してできる共有結合もある。2個の原子が2個ずつ電子を出し合えば、4個の電子を共有した結合ができる。これを二重結合という。
 二重結合は、単結合よりも短くて強い。しかも、分子の三次元構造を決めるうえで独特の働きをする。単結合の2個の原子は、普通、結合軸の周りを互いに自由に回転できる。二重結合では、原子の配置に自由度が少ないため結合軸の周りを自由に回転できない。
 エタン分子(分子式は C2H6、構造式は CH3-CH3)では、2個の炭素電子の間で単結合する。炭素原子(原子番号6;最外殻電子4個)と3個の水素原子(原子番号1;最外殻電子1個)との間の3つの単結合による、三次元の等価的な位置を占める四面体配置を作る。共有結合2つのC-Cの炭素骨格(carbon skeletons; skélətn;骨格)をなすCH3基は、その単結合により、一方の炭素鎖に対して他方が結合軸の周りを自由に回転させることができる。
 回転によって生じる原子の空間配置は様々で、空間的に有利な場合も不利な場合もある。この空間配置のことを立体配座といい、H原子または原子団同士が近接していると、空間的に狭くなりエネルギー的に不利となり、これを「立体ひずみ」という。一方、それぞれのH原子が適度に離れていると、こちらはエネルギー的に安定な配座となる。この空間的な有利・不利の度合いが、立体配座の安定性の度合いとなる。
 エテン(エチレン)分子の分子式 C2H4、構造式 CH2=CH2 で、2個の炭素原子を二重結合した炭化水素である。エチレンの二重結合により、すべての原子が同じ平面の中にあるため、エタンのように、炭素鎖CH2基は回転できない。これらの制約は、多くの巨大分子の三次元形状に大きな影響を与える。

 分子内の原子が電子を共有して、単結合と二重結合の中間の性質を持つ結合を作ることもある。非常に安定したベンゼン分子(C6H6)では、6個の炭素原子が等間隔に並ぶ中央の環では、結合電子が単結合と二重結合で交互に配置されている。そのため、構造は非常に安定している。
 炭素は細胞内で独特の役割を果たす。それは炭素同士が強い共有結合を作るからだ。それが炭素原子の鎖状構造(さじょうこうぞう;chain structure)と呼ばれる。ある化合物において、炭素同士が結合している部分、例えばプロパンであればC-C-Cであり、酢酸エチルなら2つのC-Cの炭素骨格が存在する。有機化合物は、炭素骨格に機能原子団(functional group)を結合したものと考えられる。機能原子団とは、有機化合物を特性づける原子の結合集団を呼ぶ。生体化合物には、炭素と酸素が共有結合して作る機能原子団が多い。カルボン酸のカルボキシル基 の-COOH、アルデヒドのアルデヒド基の-CHO、またアルデヒド・カルボン酸・ケトンのカルボニル基C=O(CとOの二重結合の部分)などがその例である。
 炭素鎖(carbon chain)の中に炭素の二重結合が入ることがある。単結合と二重結合が交互に繋がっていると、結合電子は分子内を動き、共鳴という現象で構造を安定させる。更に、ベンゼン(C6H6)のように6個の炭素原子が、亀の甲型の平面正六角形構造式をもつ環状分子として、C−C間とC=Cが交互に単結合と二重結合が均等に分布していれば、構造は非常に安定する。
 炭素と水素から炭化水素という安定した化合物、または基ができる。C原子とH原子は、両方の原子がほぼ同じ力で電子を引き付けるから、炭化水素のC-H間は非極性である。また水素結合を作らず、しかも水に溶けないのが普通である。
 単結合する2個の原子が、異なる元素であれば、その共有電子を引き付ける強さも異なる。このように共有電子が偏っている共有結合を極性共有結合という。一端に正電荷(陽子)、もう一端に負電荷(陰:電子)が集中している構造を極性(polarity)と呼ぶ。分子内に存在する電気的な意味での偏りが極性である。酸素原子や窒素原子は、電子を強く引き付けるのに対して、H原子は電子を引き付ける力が弱い。これはC(原子番号6)・O(原子番号8)・N(原子番号7)・H(原子番号1)の原子核が持つ正電荷の違いによる。それでOとHの共有結合O-Hや、NとHからなるN-Hが極性を持つようになる。一方、C原子とH原子は、両方の原子がほぼ同じ力で引き付けるため、C-Hの共有結合は、極性が低くなる。
極性を持った物質の例として水(H2O)が挙げられる。水分子において酸素(O)の原子核は水素(H)の電子を引き付けるため、酸素は負の電気的な偏りを持ち、逆に水素は正の電気的な偏りを持つことになる。電子をより引きつけている方(O)は「マイナスの電荷(δ-)(部分負電荷partial negative charge)」を、電子を引きつける力が弱い方(H)は「プラスの電荷(δ+)(部分正電荷partial positive charge)」を帯びているという。
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