遺伝子の発現(1)
 
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 目次 
 1)遺伝情報の伝達
 2)DNAとRNAの「ヌクレオチド(nucleotide)」の差異



 注1)縮合とは、水・アルコールなどのような、同種または異種の簡単な2分子を分離して新たな化合物をつくる反応。
 注2)ペプチド結合とは、隣り合ったアミノ酸どうしの共有結合をいう。アミノ酸分子のアミノ基-NH2と、他のアミノ酸のカルボキシル基-COOHから、水の1分子が取れて縮合してできる形-CONH-の結合。
 注3)ポリペプチド(polypeptide)とは、多数のアミノ酸がペプチド結合により重合したもの。
 注4)ポリペプチド主鎖とは、多数のアミノ酸がペプチド結合により重合したものが、直鎖状につながったもの。
 注5)遺伝子;DNA上の「一つずつのタンパク質の設計図」に相当する部分を「遺伝子」とすれば、ヒトのDNAには、2万個を超える遺伝子が並んでいることになり、そのなかには臓器や血液などをつくるタンパク質の遺伝子をはじめ、疾病や老化に係わる遺伝子、免疫や記憶に係わる遺伝子、さらにはDNAに書かれた符号を解読する装置の遺伝子などが含まれている。
 注6)RNAポリメラーゼとは、RNAを合成する酵素の総称で、通常、二本鎖 DNA の一方の鎖を鋳型として、その塩基配列を読み取って相補的なRNAを合成する転写を触媒する際、その中心となる酵素、 DNA依存性RNAポリメラーゼを指す場合が多い。
 注7)ポリアデニル化(polyadenylation;polyとは、他の語の上に付いて複合語を作るが、複数の意。化学では重合体の意)とは、転写したばかりのmRNAの3'末端への特定構造の付加を言う。
 注8)ヌクレアーゼ(nuclease)は、DNAやRNAを処理するために利用される。RNAを分解するものをリボヌクレアーゼ(RNase)、DNAを分解するものをデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)という。


 1)遺伝情報の伝達
 細胞での遺伝情報は、DNA⇒RNA⇒タンパク質という向きに流れ、DNAが持つ遺伝情報が、RNAやタンパク質に変換されることを「遺伝子の発現」という。
 生物は細胞から形作られているが、その細胞の中の核と呼ばれる部分に存在するのがDNA(デオキシリボ核酸)で、そのDNAは生物にとって設計図ともいえるものである。そのため、DNAの遺伝的な変化が、その生物の形質に変化を引き起こす。
 DNAは小さく折り畳まれて染色体になっている。従ってDNAは、どの染色体にも存在している。
 すべての生物は、DNAの4種類の塩基(アデニン:A・チミン:T・グアニン:G・シトン:C)を共通に使い、その「塩基配列」の順序で遺伝情報を作り出している。実は、この塩基配列が「遺伝子」、つまり「生物の設計図」そのものといえる。親から子へ受け継がれる遺伝子の本体はDNAで、DNA分子中の塩基配列の順序が遺伝情報として存在している。
 タンパク質は、定められた特定の仕事をするように遺伝子の設計図に基づいて生産される。タンパク質を構成する個々のアミノ酸は、DNA内の4種類の塩基を3個組み合わせることでコドン(codon;暗号)として表れ、幾つかのコドンが、同一のアミノ酸の生成に対応している。
 実際にタンパク質を生産する時、構造遺伝子を直接読むのではなく、これをRNA(DNAと同様に4種類のヌクレオチドが連なって構成される物質)に書き換え、それをさらに加工したmRNA(messenger RNA;伝令RNA)を使う。
 DNAに書き込まれた遺伝情報を発現するには、まず遺伝子の塩基配列がRNAに転写される。転写を触媒するのが、RNAポリメラーゼで、DNA分子内にある塩基配列を目印に、どちらの鎖を鋳型にするかを選択し、転写の開始と終了の位置を決める。RNAポリメラーゼが転写を開始するには、遺伝子の先頭を認識し、そこにしっかりと結合しなければならない。
 真核生物での転写開始は、細菌の場合との違いがいくつかある。DNAを鋳型にしたRNAへの転写原理は、あらゆる生物に共通だが、転写産物RNAをタンパク質の合成に利用するまでの扱いが、細菌と真核生物では大いに異なる。細菌のDNAやタンパク質合成の場であるリボソームは、同じ細胞質にあるため、mRNAの合成が始まると、リボソームが直ぐに転写産物の5’末端に結合し、タンパク質への翻訳を始める。
 真核生物では、DNAが核内に閉じ込められているため、mRNAへの転写は核内で行なわれるが、タンパク質の合成はリボソームで起こるから、翻訳が始まる前にmRNAを核膜の小孔を通して核外に出して、リボソームに運び込まなければならない。しかし、リボソームに運び込まれる前に、真核生物のmRNA分子になる転写産物pre-mRNA(mRNAの前駆体)が、ポリメラーゼから出てくると、RNAプロセシング(RNA processing)と呼ばれる何段階かの加工処理がなされる。つまり、真核生物のRNAポリメラーゼによる転写開始には、転写基本因子群プロモーターに集合する必要がある。
 RNAポリメラーゼ自体でも、細菌は1種類のRNAポリメラーゼしか持たないが、真核細胞にはRNAポリメラーゼⅠRNAポリメラーゼⅡRNAポリメラーゼⅢの3種類があり、それぞれ転写する遺伝子群が違う。RNAポリメラーゼⅠとRNAポリメラーゼⅢは、tRNA(transfer RNA)やrRNA(リボソームRNA)と、他にも細胞内で構造的な機能と触媒機能を果たす種々のRNAの遺伝子を転写する。RNAポリメラーゼⅡは、タンパク質やmiRNA(microRNA,;マイクロRNA)を指令する遺伝子を含む大多数の遺伝子を転写する。
 真核生物のRNAポリメラーゼが転写を開始するには、多数のタンパク質の助けが必要で、なかでも重要なのがTFIID・TFIIA・TFIIBなどのタンパク質からなる転写基本因子(general transcription factor)で、これがポリメラーゼとともにプロモーターに結合しないと転写は開始されない。真核生物のRNAポリメラーゼによる転写開始には、転写基本因子群がプロモーターに集合する必要があり、転写は、遺伝子の直ぐ上流にある特殊なDNA配列、プロモーター部位に結合して始められる。

 細胞では、RNAは一本鎖分子として合成され、多くの場合、折り畳められた複雑な三次元構造となっている。
 個々のアミノ酸は、DNA(デオキシリボ核酸)内の4種類の塩基(A・T・G・C)を鋳型にして、RNAの素となる4つのヌクレオシド(A:アデニン・ U:ウラシル・G:グアニン・C:シトン)を重合し、それをさらに加工する。  mRNA(messenger RNA;伝令RNA)を合成する。DNAの二本鎖のうち一方を鋳型として、A→ U・T→ A・G→ C・C→ Gの規則に従って合成される。その際、塩基のT(チミン)は、U(ウラシル)に置き換わっている。A・U・G・Cを3個組み合わせることでコドン(codon;暗号)として表す。従って、コドンは 43 = 64 種類存在する。幾つかのコドンが、同一のアミノ酸の生成に対応している。
 DNAの構造遺伝子を直接読むのではなく、これをRNA(DNAと同様に4種類のヌクレオチドが連なって構成される物質)に書き換える。それをさらにタンパク質合成の指令を運ぶmRNAとして使う。これをリボソーム(ribosome)と呼ばれる細胞質の工場に運ぶ。rRNA(リボソームRNA)は、リボソームの主要な成分を構成する。そこでmRNAの記された順序に従いアミノ酸を連結していく。真核生物のmRNAは、1個の遺伝子だけを転写した情報を持ち、1個のタンパク質を指定するのが普通である。
 一方、細菌では、隣り合った複数個の遺伝子が1個のmRNAにまとめられて転写され、数種のタンパク質の情報を持つ場合が多い。
 mRNA以外のRNAは、タンパク質と同様、細胞内で、調節因子・構造体の成分・酵素としての働きなど、様々な役割を担っている。遺伝情報をタンパク質へ翻訳する場で、重要な役割を担うrRNAは、mRNAをタンパク質に翻訳するリボソームの構造体の核になり、触媒の主役として働く。
 tRNA(transfer RNA)は、細胞の核内で、DNAを鋳型にRNAポリメラーゼIIIによって合成される、73〜93塩基の長さの小さなRNAである。タンパク質の合成をするリボソームへ、tRNAは選択した特定のアミノ酸を運ぶ役目をする。リボソームのタンパク質合成部位でmRNA上の塩基配列(コドン)を認識し、対応するアミノ酸を合成中のポリペプチド鎖に転移させるためのアダプターとしての役割をする。
 miRNA(microRNA,;マイクロRNA)は、核内におい、miRNA遺伝子が主にRNAポリメラーゼⅡにより転写されることによって産生される。miRNAは、20~25塩基長の短いRNAで、真核生物の遺伝子発現の重要な調節因子として、特異的mRNAと塩基対を形成して、その安定性と翻訳を抑制することにより、遺伝子発現を制御する。ヒトゲノムには、およそ500種類ものmiRNAが存在するとみられ、tRNAやrRNAなどの非翻訳RNAと同様に、miRNA前駆体も、特殊なプロセシングを受けて、機能を持つ長さ約22塩基の成熟miRNAとなり、特殊なタンパク質と結合してRNA誘導サイレンシング複合体RISC)を形成する。
 RNA誘導サイレンシング複合体の中で、成熟miRNA分子は様々なmRNAと接触できるようになる。RISC は細胞質内を巡回し、自身に結合しているmiRNAと、ほぼ完全に相補的な配列を持つmRNAを探し結合する。エンドヌクレアーゼ活性を持つ「スライサー」と呼ぶ酵素が働いて捕捉したmRNAを2つに切断する。切断されたmRNA断片には,、もはやタンパク質合成を指令する力はない。RISC は、これらの断片を放出し、次の標的を探す。翻訳が阻害されたmRNA断片は細胞質の他の部分に送られ、そこで結局他のヌクレアーゼによって破壊される。RISC は、RNA干渉という遺伝子検閲官として、少量の二重鎖RNAをブラックリストとして使いながら、これに対応するmRNAを見つけ出し処理すると解離し、また別のmRNAを探す。つまりRISCの一部である1個のmiRNA分子によって、mRNAが1分子ずつ次々に取り除かれるので、そのmRNAが指令するタンパク質の生産が、効率よく阻害される。ヒトのmiRNAの遺伝子は小型であるため、ゲノム中の存在量は僅かであるが、様々なmRNAでも、ある共通した配列を含んでいれば、1個のmiRNAだけで、まとめて一挙に転写を調節できる。ヒトの一部のmiRNAは、こうしたやり方で、それぞれが何百種類のものmRNAの転写を制御している。

 真核細胞では、DNAが核に閉じ込められているので、転写は核内で行なわれる。一方、タンパク質の合成は、細胞質のリボソームで起こる。そのためヒトの場合は、翻訳の始まる前に、核でできたmRNAを核膜の小孔を通して核外に運び出す必要がある。しかも真核細胞のRNAは、細胞質に運ばれる前にRNAプロセシング(RNA processing)と呼ばれる何段階かの加工処理がなされる。
 rRNA(リボソームRNA)は、核内を占める複数の染色体にあるrRNA遺伝子が集まり、ここで合成される。細胞質へ出されたrRNAは、リボソームタンパク質と結合して細胞のタンパク質合成装置であるリボソームを形成する。電子顕微鏡では、1個のDNA分子上にある2個の隣接したリボソーム遺伝子を多数のRNAポリメラーゼが同時に転写している様子が見られる。そのRNAポリメラーゼは、DNA上に並んだ小さな粒としてかろうじて見られるが、それぞれが、短くて細い糸状の転写産物を伸び出させている。このrRNAは、タンパク質には翻訳されず、リボソームタンパク質と結合して巨大な分子装置の構成要素としてそのまま使われる。数十種類の小型リボソームタンパクと数種類のrRNAからなる、この大型複合体は、真核細胞の細胞質に通常、数百万個のリボソームとして存在する。
 この処理には、RNAキャップ形成・RNAスプライシング・ポリアデニル化があり、RNAの合成中から行われる。  RNAプロセシングを行なう酵素は、RNAの合成中の真核生物RNAポリメラーゼⅡの「尾部」にのっており、転写産物RNAがポリメラーゼから出てくると加工を始める。
 RNAポリメラーゼⅡの「尾部」が、リン酸化されると、そこにRNAプロセシングタンパク質が集まる。つまり、RNAは核から運び出される前に、種類に応じたプロセシングを受けるのである。キャップ形成・ポリアデニル化・スプライシングは、すべて核内のプロセシングによって起こる。mRNA分子になる真核生物の転写産物(mRNA前駆体;pre- mRNA)だけが受けるプロセシングは、RNAキャップ形成とポリアデニル化の2つである。
 RNAキャップ形成(RNA capping)とは、転写産物の5’末端、即ち最初に合成された末端の修飾であり、メチル基をもつグアニン(G)という特別なヌクレオチドが、普通とは違った結合の仕方でRNAの5’末端に付加される。真核生物のmRNAは、5’末端にキャップ構造 、3’末端にポリA尾部(poly-A tail)をもつ。ただし、転写産物RNAすべてが、タンパク質を指定しているわけではない。キャップ形成は、RNAポリメラーゼⅡが25ヌクレオチド程度のRNAを合成したころ、つまり遺伝子全体の転写完了よりはるか以前に行われる。
 ポリアデニル化polyadenylation;polyとは、他の語の上に付いて複合語を作るが、複数の意。化学では重合体の意)とは、転写したばかりのmRNAの3'末端への特定構造の付加を言う。細菌では、mRNAの3'末端にRNAポリメラーゼが合成したままであるが、真核生物のmRNAの3'末端は、ある特定の塩基配列のところで酵素によって切り取られ、そこに第2の酵素によってアデニン(A)の反復配列が付加される。このポリA尾部の長さは、通常、数百ヌクレオチドである。
 プロセッシングが完了し完成したmRNAの3'末端には、50~200塩基ほどのアデニン(A) の反復配列が付加されている。これがポリA尾部と言われ、ポリA尾部はmRNAに安定性をあたえ、翻訳を促進する働きがあると考えられている。
 真核生物のmRNAの場合には、まず遺伝子のプロモーターからエクソン、イントロンを含め連続的に転写され、転写の終結部は最後のエクソンよりかなり下流に及ぶ。
 この転写開始の時の転写産物は、イントロンを削除し、エクソンを連結するスプライシングにより、5'末端に一個の7-メチルグアノシン(7-m G) からなる構造を付加する。これをキャップ構造という。その結合様式は5′‐5′リン酸ジエステル結合という特異な型である。キャッピングすると、3'末端にポリA尾部を付加するポリアデニル化を経て成熟mRNAになる。
 キャップ形成とポリアデニル化という2段階の修飾は、成熟mRNA分子の安定性を高めて、核から細胞質への輸送を確実にするとともに、mRNAであることの目印となる。タンパク質合成装置にしても、mRNAの両端が整っていれば、情報として確認しやすいため、確実にタンパク質の合成が始められる。
 この真核生物のmRNAの5´末端から3´末端の修飾は、DNAが細胞の核にあるので、当然ながらmRNAは核で合成される。しかし、mRNAがタンパク質を生合成するためには、リボソームに移動する必要がある。そのために、安定した情報力のある形にしなければならない。それが修飾の意義である。
 タンパク質は、定められた特定の仕事をするように遺伝子の設計図に基づいて生産される。不要となれば、使い捨てとなり、直ちに破壊し破棄される。その設計図はゲノム上の構造遺伝子と呼ばれる場所に記録される。その内容は、20種類のアミノ酸を使い分けて約100から1,000個を連結する手順である。この情報だけで、タンパク質の複雑な立体構造が自然に出来上がる仕組みとなっている。
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 2)DNAとRNAの「ヌクレオチド(nucleotide)」の差異
 RNAのヌクレオチド(nucleotide)は、リボースRiboseも、五炭糖である。DNAに含まれる糖は、デオキシリボース)・リン酸・塩基から構成される。その核酸塩基は、アデニン:A・グアニン:G・シトシン:C・ウラシル:Uを有する。mRNAを細胞内のリボソームと呼ばれる工場に運び、そこでmRNAに記された順序に従いアミノ酸を連結していく。
 特に、遺伝情報を保存するDNAは安定的な性質が必要である。他方、RNAは必要なときにすばやく合成することができ、不要になったら直ちに分解できるような反応性に富んだ働きが必要だ。そのため、DNAとRNAはそれぞれの役割に適するように、化学的な構造を異にする。
 DNAは、二重らせんにより、安定した構造になっている。
 DNAとRNAで異なる塩基を使う利点は、DNAが生物生存の要で、遺伝情報を永続的に、確実に保存するために、DNAの塩基は、意図的に不安定な形態を採る。4つの塩基のうちCがUに置き換わるという現象は、比較的、高頻度に起こる。そのような場合、変化した塩基を修復する働きをもつ酵素がこれを直している。
 もしDNAの塩基にUが用いられていたら、もともとUなのか、Cが変化したUなのか、見分けることができない。DNAではTを用いることにより、Uがあれば、Cが変化したものであると見分けることができるので、修復する酵素が正しくCに戻すことができる。
 そのため、置き換わった塩基を見分けやすくするために、DNAでは,Cからの変化が起きやすいUではなく、 Tを使っていると考えられている。 一方、TはUをもとに作られているので、合成と分解が頻繁なRNAではUを用いる方がエネルギー的に効率的である。
 現代では、数種類のr RNA(リボソームRNA)と50種類以上の小型のタンパク質(リボソームタンパク)から作られる複雑な巨大分子装置であるリボソームの構造も簡単に見ることができる。リボソーム(ribosome)の2/3がr RNA で、1/3がリボソームタンパク質であった。2000年には、リボソームを構成する大サブユニットと小サブユニットの完全な三次元構造も決定されている。
 最近の研究では、RNAは原始生物の起源としても注目されている。このDNAとRNAの総称が核酸である。歴史的理由から、これらすべての窒素分子を含む環を塩基と呼ぶ。酸性の条件下であればH(プロトン;水素イオン)と結合し、水溶液中のOH-濃度を高めるからである。
 DNAとRNA の塩基は、窒素を含む環状化合物であるが、ピリミジン塩基とプリン塩基の2種類がある。ピリミジン塩基は、生体に核酸の塩基成分としてヌクレオチドの形で存在し、シトン:C・ウラシル:U・チミン:T・グアニン:Gなどがある。プリン塩基は、窒素を含む五員環と六員環が縮合した化合物プリンの誘導体であるアデニン:Aとグアニン:Gからなる。
 DNAとRNAは、「ヌクレオチド」 と呼ばれる構成単位からなる。RNAは核内にあるDNAの転写産物であるから、当然、細胞核内にRNAが存在する。一方、RNAの情報をもとに、タンパク質を合成する装置であるリボソームは細胞質内に存在するため、核内のRNAは細胞質へと輸送される。そのため細胞質にも存在する。
 ヌクレオチドは、窒素を含む環状化合物が、五炭糖(リボースかデオキシリボースのいずれか)に結合したものである。ヌクレオチド(塩基+糖+リン酸)は、塩基と糖が結合したヌクレオシド(塩基+糖)の、その糖の部分と1個以上のリン酸が結合してでき、大きくは、2種類に分けられる。リボース(五炭糖)を含むヌクレオチドは、糖部分がリボースのためリボヌクレオチドと呼び、DNAを構成する糖-リン酸主鎖のデオキシリボースを含むヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチドという。

 地球に最初に誕生した細胞は、おそらくは現存する最も簡単な細胞と比較しても、極めて単純であったとみられ、自己複製能を持つ分子と、自己複製の原料やエネルギーの補給などに、必要な幾つかの成分が膜に含まれていた程度に過ぎなかったと見られている。RNAの進化上の役割は重要で、原初的な細胞にDNAは存在せず、その遺伝情報はRNAに蓄えていたようだ。そのため、現在の細胞とは、構造的にかなり違っていたと見られる。
 RNAとDNAの化学構造の違いに、進化の過程でRNAの方がDNAより先に現れた証拠が確認される。リボースは、グルコースなどの単純な炭水化物と同様で、原始地球を想定した実験の主要生成物の一つホルムアルデヒド(化学式 HCHO;有機物が不完全燃焼するときに発生し、ベーコンなど薫製品を製造する際の煙の中に多く含まれる発癌性が高い物質で、眼・鼻・のどなどを刺激し、アトピー性皮膚炎の原因物質の1つ)から簡単に生成される。
 デオキシリボースの生成の方は難しく、現存細胞では、酵素を触媒としてリボースから生合成される。つまり細胞内では、リボースがデオキシリボースに先だって誕生し、DNA方がRNAより後に登場した証明となる。進化したDNAの方が、RNAより有利に働き、特に糖とリン酸主鎖のデオキシリボースの方が、DNA鎖をRNA鎖よりも化学的に格段に安定させ、DNA鎖は長くなっても切れにくい構造となっている。
 これ以外に、RNAとDNAの違いは、DNAの二重らせん構造と、塩基にウラシル:Uではなくチミン:Tが使われることで、DNA分子は修復し易くなり、安定性が格段に向上した。また、DNAの二重らせんの片側の鎖が損傷しても、もう一方の鎖を鋳型にして修復できる利点は、極めて優れている。
 ポリヌクレオチドに起こる望ましくない化学変化の中で最も多いのが「脱アミノ」反応だ。それはRNAよりDNAの方が検出し易く、その修復システムも整っている。「脱アミノ」は、細胞の核にあるDNAを極度に損傷する化学反応の中でも、一番起こりやすい。しかもDNAの二重らせん上に起こる反応であれば重要視される。その反応の多くは、塩基C(シトン)を特殊なU(ウラシル)に変えることだが、実は、他の塩基でも起きている現象だ。
 塩基Cの脱アミノで生じる塩基Uは、RNAに元々存在しているため、RNAの修復酵素は、Cの脱アミノを見つけられない。RNAから進化したDNAでは、塩基UではなくTを用いるので、Cの脱アミノによって生じたUを簡単に見つけて修復できる。

 遺伝子伝達機能とそれを補助する触媒機能を兼ね備えたRNAが、DNAに先立って生物進化の過程で登場したが、現存細胞が進化する過程で、RNAの機能の多くがDNAやタンパク質に取って代わられた。核内のDNAが遺伝機能を果し、タンパク質が触媒分子となるなど、細胞構成物質の主成分となり、この2つを仲介するのがRNAに残された機能となった。
 DNAの登場で、RNA分子ではとうてい保持できないはずの多くの遺伝情報が蓄積され伝達できるようになり、細胞は益々複雑な器官を備えるものへ進化した。タンパク質も、化学的に複雑な触媒作用を備える多くの種類を増やし、それにより構造成分や酵素の種類も格段に豊富になり、現存細胞の見られるように、多岐にわたる細胞分化を可能にし、生物の構造と機能を、より高度に進化させた。
 ヌクレオチドには、エネルギーを短期間保有する能力がある。なかでもアデノシン三リン酸(ATP;分子式 C10H16N5O13P3)は、細胞内で極めて重要なエネルギー運搬体である。ATPの加水分解では、数百もの代謝反応で、細胞内に様々な過程を進ませるエネルギーを供給し続けている。ATPは、動物細胞・菌類・一部の細菌などでは、食物の酸化分解で放出されるエネルギーによって合成される。植物と一部の細菌では、光エネルギーを光合成により、ATPなどの化学エネルギーに変えている。
 ATPの3個のリン酸基は、2つ並んだリン酸無水結合で結合しており、これらの結合が切れる時に多量のエネルギーが生じる。特に先端のリン酸基は、加水分解(化合物が水と反応することによって起こる分解反応)で離れ易く、他の分子へ移ると同時にエネルギーを発生し、そのエネルギーにより生体反応を進める。さらに他の基と結合し補酵素を作る。細胞内では、小型細胞内シグナル分子としても使われている。
 遺伝子を構成する化学物質であるDNAは、五炭糖(デオキシリボース;ごたんとう;化学式 C5H10O5、炭素原子数5の単糖類)とリン酸および4種類の塩基が連結したものからなっている。
 水を除けば、細胞内のほぼすべての分子は、炭素を基本にしている。炭素は元素の中でも、大きな分子を作る能力が極めて突出している。炭素原子は小さく、最外殻(さいがいかく)に電子4個分の空があるので、4つの共有結合を作れる。最外殻とは、原子核から最も遠く離れた電子群の層、つまり電子殻である。この電子殻にある電子は最もエネルギーが高く最外殻電子と呼ばれ、原子の化学的性質や反応性を決定する。
 細胞の特性は、すべて細胞が持つ分子で決まる。その分子は、共有結合でつながった原子の集まりである。共有結合では、結合する電子が電子を共有してそれぞれの最外殻を満たしており、電子が原子間を移動することはない。共有結合の多くは、2個の原子から1個ずつ提供された電子2個を共有する単結合である。単結合の場合、通常、結合軸の周りを互いに自由に回転できる。
 それが2個の原子から2個ずつ提供されれば、4個原子を共有する二重結合となる。二重結合は、単結合より短くて強く、分子の三次元構造を決めるうえで独特の働きをする。また二重結合では、結合軸の周りを自由に回転できないため、原子の配置に自由度が少なくなり、その制約により、多くの巨大分子の三次元形状に大きな影響を与える。
 酸素原子や窒素原子は、電子を強く引き付けるのに対して、H原子は電子を引き付ける力が弱い。電気陰性度 ( Pauling ) は、分子内で負電荷の電子を引きつける力を意味している。この電気陰性度は、様々な結合エネルギーの実験値を比較して得られた平均値である。水素原子 (H) の電気陰性度は 2.20 であり、 炭素 (C) のは 2.55 である。つまり H と C 原子の 電子を引きつける力は ほぼ同じということになる。これは、C・O・N・Hの原子核が持つ正電荷がそれぞれ違うことによる。
 特に大事なことは、炭素原子同士が、非常に安定したC-C共有結合を作ることである。それで、鎖状や環状の分子、更には巨大で複雑な分子が、限りない大きさにできるようになる。細胞が作る炭素化合物は、分子の大小を問わず有機分子(organic molecule; m l kjù l)で、それ以外のすべての分子は、水を含めて無機分子(inorganic molecule)と呼ぶ。 メチル基(-CH3)・ヒドロキシ基(-OH)・カルボキシ基(-COOH)・カルボニル基(>C=O)・ホスホリル基又はリン酸基(-PO32-)・アミノ酸基(-NH2)など、お決まりの原子の組み合わせが、有機分子に頻繁に現れる。
 このような基(chemical group)には、それぞれ特有の物理的・化学的性質があり、その基を含む分子の振る舞い、フロントの授受の傾向や相互作用する分子の種類などに影響する。
 細胞内の小さな有機分子は、分子量が100~1,000の、30個程度までの炭素原子を含む炭素化合物である。通常は細胞質の溶液中に遊離状態で存在し、様々な役割を持つ。重合して細胞のタンパク質・核酸・多糖などの巨大分子を作る構成単位(単量体)となるもの、エネルギー源となり分解されて細胞内の代謝経路で他の分子に変換されるものなどなる。
 細胞内の小分子は幾通りもの役割を果たす。同じ分子が巨大分子の単量体にもなれば、エネルギー源にもなる。小さな有機分子は、巨大有機分子ほどには多く存在せず、細胞内の有機物質の総量の10分の1程度にすぎない。典型的な動物細胞には、ざっと1,000種類ほどの有機小分子が含まれている。 有機化合物は、すべて簡単な化合物群から合成される。分解されるとまた元の化合物群に戻る。合成と分解は一連の化学変化によって起こるが、その範囲は限られており、しかも各段階が厳密な化学法則に従う。そのため細胞内の化合物は化学的によく似たものが多い。それを特徴によって分類すると、殆どが小さな有機構成単位である糖・脂肪酸・アミノ酸・ヌクレオチドの4種類に属する。いずれも、細胞内で主要な有機小分子として不可欠な単量体である。細胞内にはこの分類に属さない化合物も多いが、この4種類の小分子と、これが長く鎖状につながった巨大分子が、細胞で使われる。それらが、細胞質量の大半を占めている。糖は多糖・グリコーゲン・デンプン(植物)の、脂肪酸は脂肪と膜を作る脂質の、アミノ酸はタンパク質の、ヌクレオチドは核酸の単量体となる。糖や脂肪酸はエネルギー源でもある。
 核酸は、相補的な塩基対形成能をもつので、別の核酸形成の鋳型になれる。一本鎖のRNAやDNAは、相補鎖の塩基配列を指定でき、次にその相補鎖が、元の分子の配列を指定できるので、元の核酸が複製できる。この相補性に基づく鋳型機構が、細胞のDNA複製や転写を支える。この相補鎖を鋳型としてポリヌクレオチドを効率よく、誤りなく重合するためには、触媒が必要となる。ヌクレオチドの重合反応には、DNAポリメラーゼやRNAポリメラーゼなどの酵素タンパクによって触媒されている。
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