リボソーム
 
 Top
   車山高原
   車山高原お知らせ
   車山ブログ




  ☆早春のスミレ
  ☆車山高原の笹
  ☆諏訪の植生
  ☆諏訪の狐
  ☆車山の名水
  ☆車山の紅葉
  ☆車山のススキ
  ☆車山の野鳥観察
 
 DNA 生物進化と光合成 葉緑素とATP 植物の葉の機能 植物の色素 葉緑体と光合成 花粉の形成と受精
 ブドウ糖とデンプン 植物の運動力 光合成と光阻害 チラコイド反応  植物のエネルギー生産 ストロマ反応
 植物の窒素化合物  屈性と傾性(偏差成長) タンパク質 遺伝子が作るタンパク質 遺伝子の発現(1) 遺伝子の発現(2)
 リボソーム 
 
 目次
 1)遺伝情報の転写と遺伝暗号の翻訳
 2)リボソーム
 3)DNAの遺伝子を転写するmRNA(コドン)
 4)リボソームの構造
 
 1)遺伝情報の転写と遺伝暗号の翻訳
 DNAとRNAは、化学的にも構造的にもよく似ている。DNAを鋳型にすれば、相補的な塩基対形成を介してRNAが合成できるので、遺伝情報の受け渡し方法として転写の正確性は、極めて優れている。手書きの手紙をワープロで清書するように、言語も書式も変わらず、文字も殆どが変わらない。
 これに対してRNAの情報をタンパク質に変えるのは、情報を別の言語に翻訳するような形式になる。  
 mRNAには、4種類のヌクレオチドしかないのに、タンパク質には20種類のアミノ酸が使われる。そのため、その翻訳を、ヌクレオチドとアミノ酸の1対1の応答では説明できない。その遺伝子の塩基配列を、mRNA分子を介してタンパク質のアミノ酸配列に変換する、至難とも言える翻訳の規則を、遺伝暗号(genetic code)と呼ぶ。
 1961年、mRNAの塩基配列は、連続した3個ずつのグループ(トリプレット)として読み取られることが判明した。RNAは4種類のヌクレオチドでできていて、3個のヌクレオチドの並び方は、AAA,AUA,AUGなど、4×4×4=64通りある。しかしタンパク質に通常見られるアミノ酸は20種類しかない。全く使われないトリプレットがあるのか、暗号に重複があって、複数のトリプレットで指定されるアミノ酸があるのか、どちらかであろう。
 RNAの連続した3個のヌクレオチドは、コドン(codon)と呼ばれ、それぞれが1つのアミノ酸を指定する。
 RNA分子と同様、コドンは必ず5’末端側のヌクレオチドを左に書く、殆どのアミノ酸には2つ以上のコドンがあり、これを縮重(degeneracy; did én r si)という。この種の法則により、同じアミノ酸に対するコドンは、1番目と2番目のヌクレオチドが共通で、3番目だけが異なる場合が多い。アミノ酸に対応しないコドンが3つあり、アミノ酸の並びの終わり、つまり終結部位を示す「終止コドン」である。コドンAUGは、タンパク翻訳領域を初めて示す開始コドンと、メチオニンを指定するコドンの2つの働きをする。
 原理的には、暗号を読み始める位置によって決まる3種類の異なる読み枠(reading frame)のどれを使っても、mRNAの塩基配列は翻訳できる。しかし、mRNA分子の3種類の読み枠のうち、目的のタンパク質を正しく示すのは1つしかない。これは各mRNA分子の最初に特定のシグナルを備えていて、正しい読み枠を設定するからである。
 目次へ

 2)リボソーム
 1950年代終わりまでに、DNAの遺伝子に蓄えられた遺伝情報(コドン;codon)は、まずRNAにコピーされ、それがタンパク質に写し取られることまでは、既に解明されていた。しかし、その「暗号解読の問題」や、RNA分子のヌクレオチドの並びに記された情報が、ヌクレオチドとは化学的に別物であるアミノ酸に翻訳される仕組みまでは理解されていなかった。
 植物や動物の多様性は、細部にまで拘れば、無限とまで言えるほどに複雑である。それが、近年、生物には、何か共通する特性があると認識されるようになっていた。それが生化学者と分子生物学者の研究成果の積み重ねにより、すべての生物の細胞は、外見上、無限に近いとも言える多様性があっても、細胞内部における化学的仕組みは、細部にいたるまで驚くほど似ており、その生物すべての細胞は、同じ種類の分子で構成され、それと同系の反応が行なわれていることが分かった。
 1960年初頭には、遺伝子は、遺伝子からタンパク質へと流れるという「セントラルドグマ」が受け入れられた。そして遺伝子はタンパク質の作成を指令する、その遺伝子はDNAに存在する、mRNAはその仲介者として、DNAからリボソームへ遺伝情報を運ぶ、そのリボソームでRNAからタンパク質へ翻訳されることが解明された。
 しかも、遺伝暗号(コード)として記されるタンパク質を構成する20種類のアミノ酸が、mRNA分子のコドンというトリプレット(連続した3つのヌクレオチド)により表記されていることも明らかになった。次の課題が、mRNA分子による64通りのトリプレットが、それぞれ、どどのようにしてアミノ酸に対応するか、その遺伝番号の解読と、それを翻訳するメカニズムの解析であった。
 1960年代、セヴェロ・オチョアやマーシャル・ニーレンバーグとフィリップ・レダーらが、mRNAのコドン(遺伝情報)をタンパク質へと翻訳する能力は、あらゆる生物の細胞に備わる基本的な性質であることを示した。
ニーレンバーグとレダーは、ヌクレオチド3個、即ちコドン1個分のmRNA断片が、タンパク質を合成するリボソームと結合し、そこに、既にアミノ酸と結合した適切なtRNA分子が引き付けられることを発見した。しかも、リボソーム・mRNAコドン・放射性標識アミノアシルtRNAからなる各1個の複合体をとらえ、結合しているアミノ酸を同定した。
 それに続く研究成果が重なり、ついに、生物が30億年以上の進化の連続により作り上げられた、更なる進化を担保する暗号解読装置の働きまで、原子レベルで詳細に解明されるに至った。重要なことは、この複雑な作業を担うリボソームやその他の分子は、どのような生物にも存在し、しかも非常に似かよっていることだ。細菌と真核生物の違いは、RNAやタンパク質の合成方法に僅かに認められる程度に過ぎなしい。
 すべての生物の遺伝情報は、遺伝子という形式でDNA分子が担っている。しかも、その情報は共通の暗号表に書かれ、同じような構成要素で形成されている。それらの細胞の化学的な仕組みは、細部にいたるまで驚くほど似ている。繰り返すが、どの生物でも、遺伝情報は遺伝子としてDNA分子が担い、その情報は共通の暗号表に書かれ、それが同じ構成要素であるため、本質的には同じ化学装置により解読され、生物の増殖も同様な方法で複製されている。その実体は、どの細胞でも、DNA重合体はヌクレオチドという4種類の単量体が、様々に長く繋がる鎖となり、それらがアルファベットの表記に解読され、どの生物でも、その同じ方法で遺伝情報を継承していることが明らかにされた。
 生物のどの細胞であれ、DNA重合体は、ヌクレオチドと言う4種類の単量体が様々に長く繋がり鎖状となり、そのDNAに書かれた情報は、細胞内では、RNAという化学的に近縁する重合体により読み取られ(転写)、やがてアミノ酸に翻訳される。
 目次へ

 3)DNAの遺伝子を転写するmRNA(コドン)
 DNAに書かれた4種類の単量体が描く遺伝情報は、DNA に近似したRNAが、3つのヌクレオチドで、その
コドンのすべてを書き写す。それを転写するRNA分子が記す殆どのアミノ酸には、2つ以上のコドンが含まれ、それを縮重(degeneracy)という。そこには、ある種の法則があり、同じアミノ酸に対するコドンは、1番目と2番目のヌクレオチドが共通で、3番目だけが異なる場合が多い。それが、アミノ酸に対応しない3つのコドンで、アミノ酸の並べ終わり、つまり終結部位(終止コドン)を示す。このコドンUAA,UAG,UGAは、後述するtRNAに認識されずアミノ酸を指定しないので、それによりリボソームは翻訳の終了を認識する。
 一方、コドンAUGは、タンパク質翻訳領域の始めを示し、開始コドンとメチオニンを指定するコドンの2つの働きをする。細菌の場合は、メチオニンの誘導体であるホルミルメチオニンを運ぶ。
 リン酸基を転移するATPと電子と水素を転移するNADPHやNADHのほかにも、細胞は転移を起こしやすく、エネルギーの高い結合で、基を運ぶ活性運搬体のエネルギーに利用している。生合成の際に、高エネルギー結合で、メチル基を活性運搬体から転移するのがS-アデノシルメチオニンである。

 mRNAの翻訳は、AUGコドンから始まるが、それには特定のtRNAが必要である。その開始tRNA(initiatortRNA)は、必ずメチオニン(細菌ではメチオニンの誘導体であるホルミルメチオニン)を運ぶので、合成されるタンパク質のアミノ酸末端の1つ目のアミノ酸は、必ずメチオニンになる。このメチオニンは、後に特異なプロテアーゼで除去される。
 真核生物では、メチオニンと結合している開始tRNAが、まず翻訳開始因子(translation initiation factor)というタンパク質と一緒にリボソームの小サブユニットのP部位に結合する。効率のよい翻訳開始には、mRNAの5’キャップ構造やポリA尾部に結合する別のタンパク質が必要で、こうして翻訳装置は、mRNAの両端が無傷であるかどうかを翻訳開始前に確認する。
 開始tRNAは、通常のメチオニンを運ぶtRNAとは異なる。細胞にはtRNAがたくさんあるが、大サブユニットがなくても、小サブユニットのP部位に固く結合できるのは、メチオニンと結合した開始tRNAだけである。
 この開始tRNAと結合した小サブユニットが、真核生物のmRNAの5’キャップ構造を目印にmRNA分子の5’末端に結合し、そのmRNAに沿って5’から3’方向へ移動してAUGを探す。AUGに出合い、開始tRNAがそれを認識すると、開始因子の一部が小サブユニットから離れ、その間隙に大サブユニットが結合してリボソームが完成される。開始tRNAは、P部位に結合するので、アミノ酸と結合した次のtRNAが、A部位に結合すれば、直ぐにタンパク質の合成が開始される。
 RNAの連続した3個のヌクレオチドは、コドン(codon)と呼ばれ、そのそれぞれが1つのアミノ酸を指定する。mRNAの塩基配列は、連続した3個ずつのグループ(トリプレット)として読み取られる。tRNAは、それらのアミノ酸とコドンとを結びつけるアダプター分子である。コドンの塩基配列を、mRNA分子を介してタンパク質のアミノ酸配列に変換する翻訳の規則を、遺伝暗号(genetic code)と呼ぶ。
 mRNA分子のコドンが、直接アミノ酸を識別するわけではない。またmRNAの塩基配列に基づくトリプレットが、アミノ酸と直接結合するわけでもない。mRNAのトリプレットを、遺伝暗号としてタンパク質に翻訳するには、アダプター分子の介在が必要で、この分子の片側でコドンを、その反対側でアミノ酸を識別して、それぞれと結合する。このアダプター分子が運搬RNA(transfer RAN)で、tRNAと呼ばれる、約80のヌクレオチドほどの小さなRNA分子である。
 RNA分子は、通常、分子内の異なる領域間で塩基対を形成し、折り畳まれた立体構造となっている。その塩基対形成領域の長さが十分長いとDNAに似た二重らせん構造になる。tRNA分子は、短い領域4か所が二重らせん構造になるため、模式的にはクローバーの葉の形として表される。そのクローバー形の分子が、分子内の領域にできる水素結合によって、さらに折り畳められると、密にまとまりL字形構造となる。
 L字形のtRNA分子の両端に位置する塩基形成をしていない2つの領域が、タンパク合成に極めて重要で、その1つがアンチコドン(anticodon)で、この3個のヌクレオチドが、mRNA分子の相補的なコドンと塩基対を形成する。もう1つは、3’末端にある短い一本鎖領域で、ここにコドンに適合するアミノ酸が共有結合する。
 遺伝暗号には縮重があり、1個のアミノ酸の指定に複数のコドンが使える。縮重とは、対応するtRNA分子を2種類以上もつアミノ酸があるか、2種類以上のコドンと対合できるtRNA分子があるかのいずれかである。実際にはどちらにも存在する。2種類以上のtRNA分子をもつアミノ酸もいくつかあるし、コドンの初めの2つの塩基とは、正確な塩基対をつくるけれど、3番目は正確に対合しなくてもよい、揺らぎを許すtRNAもある。
 tRNAがアダプターの役割を果たすには、正しくアミノ酸に充填される必要がある。tRNA分子が、20種類のアミノ酸の中から、正しくアミノ酸を識別して結合するには、アミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl- tRNA synthetase)を介して、それぞれのアミノ酸に対応するtRNA群と共有結合しなければならない。殆どの生物では、アミノ酸ごとに合成酵素は異なり、全部で20種類の合成酵素があり、ある酵素はグルシンのコドンを識別するtRNAすべてを担当してグリシンを、別の酵素はフェニルアラニンのコドンを識別するtRNAすべてにフェニルアラニンを、という具合に結合させる。合成酵素は、アンチコドンとアミノ酸結合部位にある特異なクレオチドを目印に、正しいtRNAを識別する。
 つまり暗号の解読過程では、アミノアシルtRNA合成酵素がtRNAと同じくらい重要といえる。mRANのコドンに対応する正しいアミノ酸が結合できるのは、合成酵素とtRNAの共同作業に掛かっている。遺伝暗号は、2種類のアダプターが協力して翻訳している。
 例えば、アミノアシルtRNA合成酵素が、特定のアミノ酸を、それに対応するtRNAに結合させる。それを充填するという。このtRNAのアンチコドンが、mRAN上の対応するコドンと塩基対を形成する。tRNAの充填、即ち、この場合、tRNAのアミノアシル化とtRNAがmRAN上のコドンとが結合する、2つの段階のどちらかに誤りがあっても、タンパク質に誤ったアミノ酸が取り込まれてしまう。こうした例で、mRAN上のコドンUGGによって、トリプトファン(Trp)が選ばれることがある。
 リボソームは、tRNAにどんなアミノ酸が結合しているかを識別しない。アミノ酸がtRNAと結合していれば、リボソームはコドンとアンチコドンの対応に従って、盲目的にアミノ酸を取り込んでしまう。そのため、遺伝暗号の正しい読み取りには、コドンに正しいアミノ酸を対応させる作業、つまりtRNAと、それに正しく結びつくtRNA合成酵素との共同作業が不可欠である。

 細菌は、多数の遺伝子の発現を、周辺環境から得られる栄養源の種類に応じて調節している。たとえば、大腸菌にはトリプトファンというアミノ酸を作る生合成経路の酵素の遺伝子が5つある。これらの遺伝子は、染色体上の1か所にまとまっている。1個のプロモーターから転写されて1本の長いmRANが作られる。揃って転写されるこのような遺伝子の集まりをオペロンという。オペロンが全部揃って、初めてトリプトファンが合成できる。5つの遺伝子が、1本のmRAN分子に転写されるので、協調した発現ができる。細菌では、このようなオペロンと呼ばれる遺伝子群が一般的で、プロモーターにあるオペレーターと呼ばれる調節DNAによって発現が調節されている。
 トリプトファンの濃度が低い時には、オペロンの転写が起こり、このmRANが翻訳されて生合成酵素がすべて生産され、協力してトリプトファンを合成する。しかし、タンパク質を食べた直後の哺乳類の腸内に細菌がいる時など、周囲にトリプトファンが豊富となり、それらを細胞内に取り込んで使うため、それ以上の生合成酵素の生産は中止される。
  オペロンは細菌では、よくみかけるが、真核生物にはほとんど見られず、遺伝子は個々に転写・調節されている。
 アミノアシルtRNA合成酵素が、tRNAの3’末端にアミノ酸を連結する反応も、細胞内によくあるATP加水分解(エネルギーを放出する)と共役した反応の1つで、それによりtRNAとアミノ酸が、高エネルギー結合するようになる。この結合エネルギーは、後に、ポリペプチド鎖にアミノ酸を共有結合できないので、それを伸長させるのに使われる。

 1つのアミノ酸を指定するコドンが複数あるとき、3番目のヌクレオチドだけが異なっている場合が多いのは、揺るぎで説明できる。揺るぎのおかげで、わずか31種類のtRNA分子で、20種類のアミノ酸を61個ものコドンに対応させられる。もっとも、tRNAの種類数は、生物種によって異なり、ヒトでは500種類近いが、そこに含まれる、mRNA分子の相補的なコドンと塩基対を形成するアンチコドンは、48種類に過ぎない。
 目次へ

 4)リボソームの構造
 リボソームは、4種類のrRNAと80種類以上の小型のタンパク質からなる大型の複合体である。原核生物のリボソームもほぼ同じである。どちらも大サブユニット1個と小サブユニット1個からなり、まず小サブユニットがmRNAに結合してから、2つのサブユニットが組み合わされる。リボソームを構成するタンパク質は、数ではrRNAを断然、上回るが、質量ではrRNAがリボソームの大半を占める。しかもリボソームの全体の形や構造を決めている。
 リボソームには、mRNA結合部位が1か所とtRNA結合部位が3か所ある。tRNA結合部位は、それぞれA(アミノアシルtRNA)・P(ペプチジルtRNA)・E(exit出口tRNA)部位と呼ばれている。リボソームに大サブユニットと小サブユニットの両方が揃わないとA・P・E部位は形成されないが、mRNA結合部位は、小サブユニットさえあれば形成される。

 タンパク質はポリリボソームによって合成される。電子顕微鏡では、真核細胞の細胞質中にある多数のポリリボソームが、1本のmRNA分子を、同時に翻訳するようすが観察される。殆どのタンパク分子の合成は、20秒から数分で完了する。通常、この短い間にも、1本のmRNAに多数のリボソームが結合して翻訳を行う。mRNAの翻訳が、効率よく行われる場合には、1つのリボソーム(ポリソームとも言う)での翻訳が進み、十分な距離が開くと、直ぐ次のリボソームがmRNAの5’末端に結合する。
 通常、翻訳中のmRNA分子は、ポリリボソームと呼ばれる状態、つまり1本のmRNA分子に80ヌクレオチド程度の間隔で、いくつものリボソームが結合した状態になっている。多数のリボソームが1本のmRNAの上で同時に働くので、1つのポリペプチド鎖が完成された後に、次の翻訳が始まる場合と比べて、一定時間内に合成できるタンパク分子の量がはるかに多くなる。
 タンパク合成の最終段階では、A部位にある終止コドンに終結因子が結合してmRNAの翻訳を終了させる。終止コドンは、UAA,UAG,UGAのいずれかである。タンパク合成が終了すれば、完成したポリペプチド鎖が放出され、リボソームは2つのサブユニットを解離する。
 細菌もポリリボソームを使うが、真核生物より合成速度は、はるかに速い。mRNAにプロセシングの必要がなく、しかも合成中のmRNAにもリボソームが接近できるからである。通常、細菌では、mRNAの転写完了の前に、その遊離末端にリボソームが結合して翻訳を開始する。DNAに沿って進んでいくRNAポリメラーゼのすぐ後ろを、リボソームが進んでいく。

 現在使われている抗生物質の多くは、細菌のRNA合成やタンパク合成を阻害するが、真核生物のそれを阻害しない化合物と見られている。細菌と真核生物では、リボソームの構造や機能が少し違うことを利用して細菌のタンパク質合成だけを阻害できる。抗生物質により、リボソームのどこの部位に結合するか決まっていて、タンパク質の合成過程の特定段階を目標に阻害する。また細菌のRNA合成だけを阻害する抗生物質もある。細菌を殺せる濃度まで高めても、人体には毒性にまで至らない抗生物質も使われている。
 抗生物質「テトラサイクリン」は、アミノ酸と結合したアミノアシルtRNAが、リボソームのA部位へ結合するのを阻害し、そこに露出したmRNAのコドンと塩基対を形成できなくする。しかし、肺炎などの呼吸器の病気やニキビなど細菌の感染症に効く「テトラサイクリン」は、歯が黄色くなる副作用や耐性菌の問題などがあることから余り使われていない。
 不治の病として有名だった「結核」を治す「ストレプトマイシン」は、開始tRNAと翻訳開始因子のタンパク質からなる開始複合体が、リボソームでペプチド鎖を伸長させることを妨げ、遺伝暗号の翻訳に誤りを起こさせる。副作用としては、難聴や腎障害などの症状が表れる。
 結核やハンセン病の治療に用いられることがある「リファマイシン」は、RNAポリメラーゼと結合して、DNAの一方の鎖から転写産物RNAへの転写開始を阻害する。
 現在広く使われている抗生物質の多くは、最初は菌類から単離された。菌類と細菌の生態環境が似ているため、互いの生存競争は熾烈である。菌類は進化の過程で、細菌は殺すが自身には無害な毒素を形成してきた。菌類とヒトは真核生物であり、細菌より近縁性があるため、細菌との戦いでは、菌類が保有する毒素を武器に活用できた。

 目次へ