糖の機能
  二重結合とは、4個の電子の共有によって、2個の原子間にできる化学結合、2本線の価標「=」で表す。

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 DNA DNAが遺伝物質 生物進化と光合成 葉緑素とATP 植物の葉の機能 植物の色素 葉緑体と光合成 花粉の形成と受精
 ブドウ糖とデンプン 植物の運動力 光合成と光阻害 チラコイド反応  植物のエネルギー生産 ストロマ反応
 植物の窒素化合物  屈性と傾性(偏差成長) タンパク質 遺伝子が作るタンパク質 遺伝子の発現(1) 遺伝子の発現(2)
 遺伝子発現の仕組み リボソーム コルチゾール 生物個体の発生 染色体と遺伝 対立遺伝子と点変異 疾患とSNP 癌変異の集積

 癌細胞の転移 大腸癌 細胞の生命化学 酸と塩基 細胞内の炭素化合物 細胞の中の単量体 糖(sugar) 糖の機能 脂肪酸
 生物エネルギー 細胞内の巨大分子

 
 糖の機能
 乱雑さを増す宇宙の中で、ウイルス・細菌から爬虫類・哺乳類にいたる生物間の熾烈な生存競争は、生物40億年の歴史となって今日に至っている。
 神々ですら想像し得なかった生物固有の能力は、執拗にして過酷なまでに、猛威を振るう「自然選択」に、自身の生命体に「適応」する仕組みを備えて克服してきた。
 生体内の細胞は、限りない化学反応を持続し、代謝の要求に応え、適宜、糖・アミノ酸・ヌクレオチド・脂質など必要な有機分子を生産し供給してきた。
 その小さな有機分子は、様々な反応に応じて、分解され修飾され、各々の生物に際立った特徴を与えるタンパク質や核酸など、巨大分子の部品として組み立に使われる。
 マイクロメートル(μm)を単位とする化学工場と化した細胞は、毎秒数百万回にも及ぶ、その生産活動に携わっている。



 単糖は、グリコシド結合(glycosidic bond)と呼ぶ、糖と別の有機化合物とが脱水縮合して形成する共有結合により繋がり、大きな炭水化物を作る。単糖が2個繋がれば二糖ができる。アルデヒド基やケトン基に付いたヒドロキシ基は、別の糖分子のヒドロキシ基とも生成反応するので、二糖が作られる。
 スクロース(ショ糖)は、グルコースとフルクトースからなる二糖である。マルトースは、グルコースとグルコースの結合からなり、ラクトースは、グルコースとガラクトースの結合による。
 糖の重合体には、オリゴ糖(三糖・四糖)から、数千個もの単糖からなる巨大な多糖まである。オリゴ(oligo)という接頭語は、「少数の・少」と言う連結形、少数の単量体からなる分子(oligomer;オリゴマー)で、オリゴ糖は2~10の単糖から作られる。重合体(ポリマー)は、数百から数千の単量体からなる。簡単な糖の構成単位の繰り返しで、鎖状分子や枝分かれ分子が形成され、短いものはオリゴ糖と呼び、長いものを多糖と呼ぶ。
 グリコゲン(glycogen;glάɪkədʒən)はグルコース単位だけで、幾度も枝分かれをしながら長く繋がった膨大な多糖である。

 糖の結合には、生化学反応で作られる結合に共通するいくつかの特徴がある。ある糖の-OH基と別の-OH基とは、結合されるときに水分子が1個とれる縮合反応(condensation reaction)によって結合する。通常、縮合は、2個以上の分子から、水分子とは限らず、原子または原子団が離れて新しい結合ができる反応を言う。細胞内の水溶液中では、核酸やタンパク質などの生体高分子も、その構成単位は水が取れる縮合反応で繋がっていく。縮合反応で繋がった結合は、逆向きの反応である加水分解(hydrolysis;haɪdrɑ́ləsəs)により水分子が1個加わって切れる。
 単糖には、別の単糖や他の化合物と結合できるヒドロキシ基が数個あるので、重合の際に枝分かれして膨大な種類の多糖ができる。このため複雑な多糖内の単糖の配列決定は、DNA分子のヌクレオチドやタンパク質のアミノ酸の配列よりもはるかに難しいが、それぞれ同一の形式で繋がっている。
 単糖のグルコースは、細胞のエネルギー源の中心となっている。グルコースを一連の反応で、小さい分子に分解するときに、放出されるエネルギーを利用して細胞は仕事を達成していく。細胞は一方で、グルコースのみからなる多糖を作り、動物ではグリコゲン、植物ではデンプンとなり、この形でエネルギーを長期貯蔵する。

 熱力学第一法則は、「宇宙のエネルギーの総量は、常に一定でなければならない」、「エネルギーは、生成消滅することはないが、形態の変換はできる」と教えてくれる。この熱力学の第一法則を活用して、植物やある種の微生物の細胞は、直接、日光のエネルギーを獲得して、糖などの小さな有機分子に変換し、エネルギーとして再利用している。動物は、その植物、あるいは植物を食べた動物を食べて、すべての有機分子を食物として摂取する。また、その化学結合により得られたエネルギーを活用して生きている。
 太陽エネルギーは、日光の電磁エネルギーを細胞内の化学結合エネルギーに変化させる光合成(photosynthesis)により、生物界に入る。植物・藻類や一部の細菌などの光合成生物は、太陽から得られた日光エネルギーを活用して、糖・アミノ酸・ヌクレオチド・脂肪酸などの小分子を合成し、さらにこれら小分子を結合して、多糖・タンパク質・核酸・脂質など巨大分子を構成していく。

 光合成は極めて複雑だが見事な反応で、大きく2つの段階に分けられる。第一段階が、光エネルギーを化学結合エネルギーに変換する「光エネルギー変換反応」である。この化学反応は、葉緑体のチラコイド膜の内部にある特定の小分子に、光エネルギーが捕えられ、活性運搬体という特殊な分子に、化学結合エネルギーとして一時的に蓄えられる。これがチラコイド膜で起こることから「チラコイド反応」とも言う。
 化学エネルギーとは、化学物質内部に蓄えられたエネルギーで、物質が燃焼すると、光や熱を発するのは、物質内の化学エネルギーが光や熱のエネルギーに変換されるからである。光合成生物は、光エネルギーを元手に化学結合エネルギーを作り出す、それが「チラコイド反応」で起きている。あらゆる動物が呼吸する空気中の酸素(O2)は、この植物の光合成の第一段階で、水(H2O)が分解されて放出される結果である。

 光合成の第2段階は、二酸化炭素(CO2)を還元してブドウ糖(C6H12O6)を合成し、植物内に二酸化炭素の固定を進行させる「炭素同化反応」である。この反応は、葉緑体のチラコイドを囲む、無色の液体・ストロマで起こるから「ストロマ反応」とも言う。これには「チラコイド反応」で作られた化学エネルギーが使われる。
 この光合成により、植物だけではなく、それを食べる動物にも必要な化学結合エネルギーと有機物質が生み出される。
 生体が自らを維持するために、桁違いの数に及ぶ化学反応が行なわれる。そのためには、食物の形で取り入れられた原子と光エネルギーとが必要であるが、結局は非生物界から得られている。
 細胞内で起こる化学反応の大半は、通常、もっと高温でしか起こらない反応である。それが細胞内の定温という環境内で、個々の化学反応が進行するため、酵素と呼ばれるタンパク質が、ある分子が関わる多くの反応のうちの1つだけずつ関わり加速させていく。つまり触媒の働きをする酵素は、特定分子の化学反応だけを触媒するため、そのため反応それぞれで異なっている。
 酵素が触媒として働く反応は、次々と連結して起きるものが多く、その反応の連続で代謝経路ができる。ある反応の生成物は、次に連結する反応の出発物質となる。こうして生じた長い代謝経路が、さらに繋がり合い、反応の複雑な網目模様を構成する。これによって細胞は、生存・成長・増殖に必要な、あらゆる化学反応の総和である代謝が厳密に調節される。これが生命化学の中核となる。

 細胞は、生体内の秩序を生み出し、それを維持しながら成長し分裂する。その日常活動には、常にエネルギーが伴う。それは、食物分子から化学総合エネルギーとして取り出している。食物分子は、細胞にとって、かけがえのない燃料なのである。
 なかでも重要なのが糖で、植物は、光合成によってCO2を作るが、動物は植物や他の生物を食べて、糖や糖から化学変換された有機分子を摂取する。ところが、糖を分解しエネルギーを得る過程は、動物も植物もよく似ている。
 生物の細胞は、糖分子を分解し水素イオンを放出し、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)にするとき、糖に蓄えられた化学結合エネルギーから有用なエネルギーを取り出す。この過程が細胞呼吸(cell respiration)で、この反応で放出されるエネルギーは、ATPやNADHのような活性運搬体の高エネルギー化学結合として蓄えられる。それらは加水分解されたときに大量のエネルギーを放出する共有結合の状態で貯蔵される。これらの運搬体は、生合成に必要な化学基や電子の供給源になる。
 特にグルコースの分解は、多くの動物細胞内でエネルギー生産の主流となっている。植物・菌類・細菌でもよく似た径路が働いている。脂肪酸やタンパク質などの分子も、適切な酵素径路に導入されればエネルギー源として働く。細胞が糖や脂肪の分解で得られる分子を出発点として有機分子を作る仕組みもある。細胞は、代謝を調節し、将来の代謝に備えて糖や脂肪を蓄える。
 グルコースなどの燃料分子を単に燃やせば、一足飛びにCO2やH2Oに酸化される。この糖の直接燃焼では、運搬分子が蓄えられ、運ばれる量の何十倍にもなってしまう。それを避けるために細胞は酵素を用いる。細胞内では、酵素が糖の分解をよく制御し、小さな反応の連鎖として触媒して酸化させる。放出される自由エネルギーの一部を活性運搬体分子、主にATPかNADHとして獲得する。その各段階を触媒する酵素は、細胞の体温を絶対条件にし、なお且つ分子のランダムな衝突を抑えなければならない。活性エネルギーの障壁を下げることで、反応を起こりやすくし、生体温度で作用するよう、酵素が働き、グルコース分子を段階的に分解させ、そのエネルギーを共役反応によって、活性運搬体分子に少しずつ渡されていく。
 このようにしてグルコースの分解で放出されるエネルギーの大半が、ATPやNADHなどの活性運搬体分子として高エネルギー結合して保存され、細胞内での仕事に役立てられる。
 動物細胞は2通りの方法でATPを作る。1つは、食物の分解に関わるエネルギー的に起こりやすい酵素触媒反応が、直接、ADP + P1 = ATPというエネルギー的に起こりにくい反応と共役する方法である。この場合、植物分子の酸化によって供給されるエネルギーが、即座にATPを生成する。しかし、ATP合成の大部分には、中間段階が必要である。この2つ目のATP合成径路では、他の活性運搬体のエネルギーを利用してATP生成を進める。
 食物分子が、ミトコンドリア内膜で起こる細胞質とミトコンドリア・マトリックスで酸化される一連の反応の過程で、ATPとともに、後で酸化的リン酸化による大量のATP生成を助ける活性運搬体分子ができる。
 非生物系における糖の直接燃焼で得られるエネルギーと、グルコースの酸化的分解で放出される自由エネルギーの総量は全く等しく、686kcal/molと言う。

 糖の機能は、エネルギーの生産と貯蔵だけでなく、糖は生物の構造を機械的に支える働きもする。地球上で最も豊富な有機物は、植物の細胞壁を作るセルロースで、それはグルコースからできた多糖である。昆虫の外骨格や菌類の細胞壁を作るキチンも、多量に存在する有機物質で、N―アセチルグルコサミン(C8H15NO6)という糖誘導体が直鎖状に繋がった多糖である。
 湿るとぬるぬるする多糖は、粘液や軟骨の主成分となる。

 N―アセチルグルコサミンは、グルコースのヒドロキシル基(−OH)がアセチルアミノ基に置換された単糖である。アセチル基(acetyl group)は、カルボン酸から誘導された官能基のアシル基の一種で、酢酸から誘導された1価の官能基である。構造式は CH3CO− と表される。アセチルアミノ基は、そのアセチル基の1価の官能基に-NHが結合してできる。

 N―アセチルグルコサミンは、ヒトの関節・皮膚・硝子体・脳にあるヒアルロナン(ヒアルロン酸)を構成する単量体(モノマー)でもある。ヒアルロン酸は肌の潤いを保ち、とりわけ関節軟骨では、軟骨の機能維持に極めて重要で、クッションのような働きをする。

  小さい分子のオリゴ糖は、タンパク質と共有結合をして糖タンパクになり、脂質と共有結合すれば糖脂質になる。どちらも細胞膜にあり、それに結合する糖鎖は、細胞表面を保護したり、細胞同士を接着させたりすると考えられている。

 糖同士の結合には、通常反復性がないので、多様なオリゴ糖が生まれ、その複雑なオリゴ糖の多くは、タンパク質や脂質と結合している。
 細胞表面の糖鎖の種類の違いは、ヒトの血液型の決める分子の一部となっている。

 パルミチン酸などの脂肪酸分子は、リン脂質と同様に、化学的な反応に乏しい長い炭水化物からなる疎水部分と、親水性で反応性が高い1個または複数の糖を含む極性部分からなる。パルミチン酸の分子式は、 C₁₆H₃₂O₂、示性式はCH₃₁₄COOH 、明らかな飽和脂肪酸である。常圧の融点は63 ℃、常温では白色の固体である。

 殆どの脂肪酸は、カルボキシ基(―COOH)を介して、他の分子と共有結合している。カルボキシ基は、細胞などの水溶液中では、イオン化し(―COO-)、カルボン酸として振舞う。

  グリセリンとして、動植物の中に天然油脂として広く分布している、パルミチン酸の炭化水素鎖は飽和している。
 飽和とは、左の図のように、炭素原子間に二重結合がなく、骨格となる尾部に集まる炭化水素が密に詰まっていることを意味する。
 脂肪酸には、パルミチン酸のように炭素がすべて飽和結合で満たされ、分子内の炭素が最大限に水素原子と結合する意味での飽和脂肪酸と、一部に二重結合を持つため、不飽和結合となるオレイン酸のような不飽和脂肪酸がある。
 飽和脂肪酸であるパルミチン酸は、血中の中性脂肪やコレステロール値を増やす働きをする。しかし、摂取量が少なすぎると、脳卒中のリスクが高まる。また、パルミチン酸が不足すると、ビタミンAを安定させることが出来にくくなり、しわを増やす。最近ではこのパルミチン酸が化粧品や界面活用材に用いられている。

 オレイン酸と言えば、血液サラサラ成分として重要視されているが、ヒトの皮脂を構成している脂肪酸の中で、41%と最も多く含まれる成分で、肌を乾燥や外敵から守り、この皮脂のバランスが崩れると、乾燥肌になり、また皮脂が詰まって、にきびや体臭の原因ともなる。
 脂肪酸は、食用油脂などいわゆる脂肪と呼ばれるトリアシルグリセロール分子が、液滴(表面張力でまとまった液体のかたまり)の形で、多くの細胞質に蓄えられている。トリアシルグリセロール分子は、1個のグリセロール分子に3個の脂肪酸がエステル結合した化合物である。
 「中性脂肪」が意味する化合物の大半は、生体内においては「トリ アシルグリセロール」である。それを構成している脂肪酸の種類によって、飽和脂肪酸が多ければ常温で個体(脂肪)であり、不飽和脂肪酸が多ければ常温で液体(油)となる。動物では皮下脂肪のことで、植物では種子に多く含まれ「油脂」ともいう。

 二重結合を1個だけ持つものを一価不飽和脂肪酸、2個以上持つものを多価不飽和脂肪酸と呼ぶ。その炭素の二重結合があると、そこで固定されるが、その両隣で炭化水素鎖が折れ曲がることができる。それ以外の鎖は、共有結合の特性を生かして、C―C結合を自由に回転させている。

  飽和脂肪は、肉や固い方のマーガリンなどの乳製品にみられる。コーン油のような植物油には、不飽和脂肪酸が含まれている。不飽和脂肪酸には、二重結合が1つあるオリーブオイルに多く含まれているオレイン酸などがあり、このため植物油は、室温で液体である。魚油も多量の不飽和脂肪酸を含む。通常はイワシなど大量に捕獲される魚類を灯油(とぼしあぶら)の原料とした。魚油を搾り取った後は、その鰯を干して乾燥させて固め、干鰯(ほしか)として肥料にした。

 脂肪酸のうち、生体内でエネルギー源になるのは、第一に飽和脂肪酸、次に一価不飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸が貯蔵脂肪として使われるのは、化学的に安定した物質であるからで、これに比べて多価不飽和脂肪酸は化学的に不安定で、強力な酸化剤となり過酸化物質を作りやすく、貯蔵には向かない。

 飽和脂肪を代表するココナッツパウダー・バター・牛脂・豚脂のラードなどは固まる。そのため、飽和脂肪は、血中のコレストロールの濃度を高め、動脈を塞ぎ心臓発作や脳卒中のリスクを高める。