光合成、生命のエネルギー
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 目次
 1)光合成を理解するために
 2)生物に不可欠なリン酸化合物
 3)光合成細菌
 4)ATP(アデノシン三リン酸)
 
 1)光合成を理解するために 
 地球上で最初に光合成を行なったと考えられる光合成細菌(こうごうせいさいきん: photosynthetic bacteria)とは、光エネルギーによる光合成を行う細菌の総称である。細菌だから単細胞で原始的な生物である。太陽光を生存の手段とするエネルギーとして、地球上で最初に光合成を行なった生物とみられている。
 それまでは、どのようにしてエネルギーを得ていたのか。雷などの自然現象によって生じた有機物のエネルギーや、地中から噴き出す硫化水素などの無機物から得られたエネルギーなど、いずれにしても量的にはそれほど多くはない。
 やがて生物進化により、光合成細菌となり、太陽光からの無尽蔵のエネルギーを使えるようになった。緑色植物が行う光合成とは違い、有機物を酸化するのに必要な酸素がほとんど無い嫌気的条件下で、光エネルギーを利用して、酸素を発生しない光合成を行って生育する細菌である。
 有機物は「生物的」、無機物は「無生物的」というイメージがある。それは「生物がつくるもの」であり、「生物をつくるもの」でもあり、また「生物を原料とするもの」が多いからでもある。
 有機物は、炭素を含む化合物であるため、燃えて二酸化炭素を発生したり、加熱するとこげたりする。そのため、有機物は燃料になるものが多い。例えば、ロウ・エタノール・砂糖・紙・木・プロパンガス・天然ガス・プラスチックなど、また石油の主成分は炭化水素なので有機物、石炭も元はといえば有機物だった。無煙炭は、炭素にくっついている水素やその他の元素がみな剥がれてしまって炭素だけが残った。泥炭やピートは有機物が石炭化する途中の状態で、まだ有機物が沢山残っている。石炭化が十分に進んでいない亜炭には水素分が多い。

 有機物以外の物質は無機物である。例えば、食塩・水・鉄・アルミニウム・酸素・水素・ガラス・石などだ。ただ、有機物と無機物の決定的な定義はなく、慣習で有機物と無機物が決められている。二酸化炭素(CO2) ・一酸化炭素(CO)・炭酸ナトリウム(Na2CO3)・炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)は、炭素を含むが無機物という。また、炭素(C)自体は燃えると二酸化炭素を発生するすが無機物だ。
 有機物をつくっている原子の種類は少ない。炭素(C)が必ず含まれ、水素(H)と炭素の炭化水素化合物で、メタン・エタン・プロパン・ベンゼンなどが有機物となる。そこに酸素(O)が化合すると、メタノール・エタノール・酢酸(食用の酢のおもな成分)・ブドウ糖・砂糖(ショ糖)などになる。さらにその上、窒素(N)と化合すれば、いろいろな種類のアミノ酸やタンパク質が生成される。
 生物のエネルギー代謝に不可欠なATPや細胞の核となるDNAは、リン酸を分子の一部に含むヌクレオチド(リン酸基が結合した物質、ヌクレオチド3個でアミノ酸一つをコードしている)からできており、生物の現存量(バイオマス)は環境中から得られるリン酸の量により大きく制約を受けている。
 筋肉はATP(アデノシン三リン酸;アデノシンさんリンさん)という物質を持っている。このATPが分解して無機リン酸を放出し、ADP(アデノシン二リン酸)に変わる時に発生するエネルギーを使って筋肉を動かす。動物・植物・微生物(細菌)などには、必ずATPが含まれている。
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 2)生物に不可欠なリン酸化合物 
 リンは土壌中や水中に存在する量が限られている。生物に利用しやすい形態で溶存するリン酸塩であれば、量はさらに限られている。植物は土壌中のリン酸化合物をめぐる競争で菌や細菌といった微生物に対して劣勢である。しかも不溶性のリン酸化合物を吸収する能力もそれほど高くない。そのため、植物の根はしばしば菌と共生し、複合体である菌根を形成してリン酸塩の獲得を有利にしている。
 ほとんどの有機物には炭素と水素が含まれ、このため、有機物が酸化すると水(水素と酸素の化合物)と二酸化炭素を生じる。また細胞の呼吸とは、養分(有機物)と酸素から生命活動に必要なエネルギーを得ることであり、そのとき、酸素や二酸化炭素とアンモニア(窒素と水素の化合物)などの不要物も生じる。それら酸素・養分・不要物を運ぶのが血液である。

 哺乳類では主に肝臓が排出物を形成している。動物によっては、泌尿器系以外の器官によって様々な物質の排出が行われる。哺乳類の皮膚腺からは塩分と共に鉄分などの重金属が排出される。魚類においては鰓がこの機能を持ち、アンモニアや尿素が排出される。アホウドリやカモメやペンギンなどの海鳥は、その目に付随した「塩類腺」と呼ばれる涙管から余分の塩分を排出する。

 植物細胞では一般に老廃物は液胞に蓄積されるため、動物のように頻繁な排出を行わないと考えられている。植物の液胞は、生物の細胞の中にあり、植物では発達しているが、動物の細胞内にはタンパク質などがたくさん詰まっていためもあり非常に小さい。
 新鮮な野菜など植物がみずみずしいのは、植物の細胞の中身のほとんど液胞だからだ。液胞に、細胞内の老廃物や細胞質に蓄積すると毒になるような物質が運ばれ、そこに貯蔵されるか分解される。液胞が、若い細胞では小さいが、細胞の成長につれて次第に大きくなるのはこのためである。
 良く育った細胞では、多くの場合、細胞の中央の大部分を液胞が占める。植物細胞を見ると、往々にして葉緑体が細胞の表面に張り付いたように並んでいるのは、内部を液胞が占めているためでもある。秋頃の紅葉が赤や黄色をしているのは、液胞内に色素が不用物として詰め込まれているからである。葉が排出器官にもなり、老廃物を葉に集め枯葉として廃棄している。
 果物の甘味や酸味の成分は全て液胞に貯まっている。その種子の貯蔵タンパク質も液胞に貯蔵されている。アルカロイドなどの毒物も液胞に蓄えられる。これらの成分は様々な経路を通って液胞に運ばれる。 
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 3)光合成細菌 
 光合成細菌は、持っている色素によってピンク色に見えることから「紅色光合成細菌(こうしょくこうごうせいさいきん)」と呼ばれる。このグループは、光合成のためには光の他に有機物が必要である。そのなかの「紅色非硫黄細菌」は有機物を炭素源として、光合成反応の水素供与体として利用する。
 もう一つの「緑色硫黄細菌」は、硫化水素(硫黄と水素の無機化合物)を必要とする。いずれも緑色植物が行う光合成とは違って、空気がない嫌気的条件下で、光エネルギーを利用して、酸素を発生しない光合成を行って生育している細菌である。「紅色硫黄細菌」などもその例です。
 「紅色硫黄細菌」と「緑色硫黄細菌」は炭素源として炭酸ガスを、光合成反応の水素供与体として硫化水素を利用する。
 光合成細菌は、水田・海岸の土・下水処理場や、河川・淡水湖沼・池・硫黄泉など潅水土壌水がたまっているところには、どこにでも存在している。生育する最適な温度は約30℃と言われているが、水温0℃の南極の氷の下や、90℃にもなる高温地帯でも生息が確認されている。
 また、耐塩性にも優れ、10%以下の食塩濃度でも十分に生育でき、濃度が30%にもなる塩水湖でも生存が確認されている。
 光合成細菌は実にタフな微生物と言える。ただ光の他に硫化水素や有機物を必要とするため、光合成細菌は、光と水と空気があれば有機物が作れる植物のように、どこにでもいる生物とはならなかった。
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 4)ATP(アデノシン三リン酸) 
 植物が光をエネルギー源としているとしても、直接光を使って細胞を反応させているわけではない。エネルギーを使う反応には、動植物を問わず、多くの場合ATPのエネルギーが使われる。ATPは高エネルギーリン酸化合物として生体のエネルギー代謝で重要な働きをする。
 ATPはアデノシン(Adenosine)という物質にリン酸が3つくっつく構造をしている。アデノシンはアデニンとリボースからなるヌクレオシド(nucleoside は塩基と糖が結合した化合物)の一つで、神経系に多く存在する物質でDNAやATPの材料となる。生化学過程でもATPやADP(アデノシン二リン酸;Adenosine diphosphate)の一部としてエネルギー輸送に関わったり、環状AMP(環状アデノシン一リン酸;cAMP)としてシグナル伝達に関わったり、タンパク質をリン酸化する酵素を活性化したりする。
 ATPのアデノシンにつく3つリン酸はそれぞれがマイナスの電荷をもっているため、3つのリン酸それぞれが反発しあい、その結合が切れた時に、その反発エネルギーが放出される。こうしてATPがリン酸を2つだけ持つADPと1個のリン酸に分解される。その際に放出されたエネルギーは、ちょうど細胞内の様々な反応を進めるのに必要なエネルギー程度の大きさになっている。このためATPの分解と組み合わせることによって、細胞内の反応を進めることができるようになる。

 ATPの生成の過程では、人体のエネルギー源である「ブドウ糖」を酸素で解糖することでATPが生み出される。ATPは主にブドウ糖の酸化によって生み出される代謝産物である。
 植物は光合成によってATPを合成することができるから、それとは別に呼吸によってATPを作る必要はなさそうに思える。
 しかし、問題点が2つある。第一に、植物が葉緑体で光合成によって作ったATPを細胞質で使う場合、ATPの形で葉緑体から細胞質に運び出される主要な道筋がない。
 エネルギーは炭素3つの物質の形で細胞質に運び出される。従って、細胞質でATPを必要とする場合には、その運び出された物質を糖に変え、解糖系を経てミトコンドリアでATPに変換することになる。ミトコンドリアは葉緑体と違って、ATPをそのままの形で細胞質に輸送するシステムが発達しているので、細胞質や細胞内の小器官(細胞器官)でATPを使うことができるようになる。つまり、葉緑体の内部では、必要なATPを直接合成できるけれども、さらには別の組織、例えば根ではミトコンドリアがないとATPを生成できない。植物にもミトコンドリアとその中での呼吸が必要となる。

 もう一点は、貯蔵の問題だ。光合成ができない夜の間でも、また落葉の冬季にも生きていくための活動はしている。そのため一定のエネルギーが必要だ。その必要なエネルギーを、昼と夏の間に光合成により蓄積する。ATPは非常に便利な分子なのだが、ATPの形で貯蔵すれば非常にかさばる。人間が1日に使うエネルギーをATPで保持すると体重と同じ位が必要になる。そのため、よりコンパクトなエネルギーとして、糖や脂質に変えて貯える。必要になれば、呼吸反応によって、酸素で解糖することで、それぞれをATPに変えられる。
 その蓄積したデンプンを利用するためには、分解してATPを作らなくてならない。そのために、細胞内にあるミトコンドリアの呼吸が必要となる。
 ATPが長期保存に適さないのも植物も同様で、植物は光合成でATPを合成できるが、夜間は無理で、根も通常は光合成しない。そのため昼間光合成で生成したエネルギーを蓄えておく必要があり、また葉から根などへエネルギーを輸送する必要がある。そのため糖としてエネルギーを保存し輸送する。それをATPに戻すには、動物と同じように呼吸が必要だ。光合成により酸素を放出しエネルギーを得る植物のミトコンドリアが、酸素を呼吸するのはこのためだ。
 光合成は光エネルギーを使い、二酸化炭素から有機物を合成する反応であり、呼吸は有機物を分解し二酸化炭素にし、生体内で必要なエネルギーを得る反応をする。その呼吸の反応においてミトコンドリアがATPを合成する。光合成では、葉緑体がATPを合成する。
 呼吸はミトコンドリアが主役であるが、葉緑体の祖先が、藻類が共生したシアノバクテリアであるように、ミトコンドリアは、酸素を好む好気性細菌が共生したものといわれている。しかもミトコンドリアが祖先とする細菌は、光合成細菌に近い仲間だったようだ。その祖先の光合成細菌から光合成能力を失ったものが生まれ、それが進化を重ね、度重なる自然選択に適応し続けて、やがて好気性細菌と共生した。
 植物は葉緑体とミトコンドリアを保有しているが、動物はミトコンドリアしか持たない。そのため動物は呼吸をする。植物は更に光合成もする。生物は最初に、光合成細菌に近い仲間が、好気性細菌を共生させミトコンドリアとして進化させ、次にその一部の生物がシアノバクテリアを共生させることによって植物や藻類が誕生した。
 人間を含む動物は、シアノバクテリアを共生させぬまま進化の過程を歩んできた。そのでも、その細胞内には、光合成の痕跡を残しているかもしれない。
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