ミツバチhoneybeeの生態
  ミツバチ(honeybee)
  マルハナバチ(bumblebee;
ブーンという音をたてるからか)
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  女王バチqueen bee
  ミツバチの群れa swarm (a cluster)of bees
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 DNA DNAが遺伝物質 生物進化と光合成 葉緑素とATP 植物の葉の機能 植物の色素 葉緑体と光合成 花粉の形成と受精
 ブドウ糖とデンプン 植物の運動力 光合成と光阻害 チラコイド反応  植物のエネルギー生産 ストロマ反応
 植物の窒素化合物  屈性と傾性(偏差成長) タンパク質 遺伝子が作るタンパク質 遺伝子の発現(1) 遺伝子の発現(2)
 遺伝子発現の仕組み リボソーム コルチゾール 生物個体の発生 染色体と遺伝 対立遺伝子と点変異 疾患とSNP 癌変異の集積

 癌細胞の転移 大腸癌 細胞の生命化学 酸と塩基 細胞内の炭素化合物 細胞の中の単量体 糖(sugar) 糖の機能 脂肪酸
 生物エネルギー 細胞内の巨大分子 化学結合エネルギー 植物の生活環 細胞のシグナル伝達 キク科植物 陸上植物の誕生
 植物進化史 植物の水収支 拡散と浸透 細胞壁と膜の特性 種子植物 馴化と適応 水の吸収能力 稲・生命体 胞子体の発生
 花粉の形成と構造 雌ずい群 花粉管の先端成長 自殖と他殖 フキノトウ アポミクシス 生物間相互作用 バラ科 ナシ属 蜜蜂


 
 目次
 1)蜂蜜の起源
 2)蜜蜂のコロニー
 3)蜂蜜
 4)共適応coadaptation
 1)蜂蜜の起源

  自然界で最も甘い蜜を作ると言われるミツバチは、ミツバチ科ミツバチ属のハチの総称で、世界でも僅か5種が知られているばかりである。世界各地で、蜂蜜・蜜蝋(みつろう)などを採取するために飼養されるのがセイヨウミツバチで、黄色地に黒色の縞模様を特徴にする。
 日本のミツバチの野生種は黒色でやや小形である。ニホンミツバチは、アジア全域に分布するトウヨウミツバチの亜種である。トウヨウミツバチやセイヨウミツバチは、木の茂みの中や岩の洞穴など暗い場所に営巣する。巣の場所は、基本的に密閉空間で、巣に外壁を作らず、巣穴を剥き出しに板状に並べ、空間いっぱいに広げる。その営巣を巣板と呼ぶ。 民家の天井裏や壁のすき間に入り込んで、驚くほど大きな巣を作ることも珍しくない。 
 以後、セイヨウミツバチを、単にミツバチと呼ぶ。

 ミツバチは、典型的な社会性昆虫であり、その蜂蜜は、食材・滋養・薬用のみならず、防腐剤として人類の文明史に、極めて早期に登場している。
 紀元前3,000年に遡るエジプトに養蜂の記録が遺る。蜜蜂やハチの巣や養蜂の様子が、しばしば古代エジプト時代の太陽寺院から出土する石にレリーフ(浅浮き彫り)で描かれている。
 そこには象形文字で、蜜蜂を煙で燻して動けなくして、切り取った巣板を集めて圧搾して、蜜を採り瓶に詰めて封印する技術が記されている。
 また蜂蜜を原料にする酒は、世界最古の酒と言われている。ツタンカーメン(紀元前14世紀)の墓からも蜂蜜入りの壺が発見されている。
 ギリシャ神話の最高神ゼウスは、クレタ島の洞窟の中に住んでいた子供時代、ニンフ(妖精)によって山羊の乳と蜂蜜で育てられた、とある。  
 スペインのイベリア半島沿いには、6つの州にわたって多くの古代の岩絵が発見されている。それらはエジプト文明が誕生する前の紀元前6,000年頃の新石器時代に描かれたもので、その中のひとつに、地中海に面するイベリア半島東部のバレンシア州のビコルプ村にアラーニャ洞窟がある。
 その洞窟に描かれた岩絵は、劣化が激しく詳細は明瞭ではないが、蜂蜜を採集する女性と見られる姿が描かれている。壺を持った女性が綱梯子で昇り、蜜蜂の巣から採蜜しようとしている。その周囲に群がる蜜蜂も多数描かれている。これがこの時代の採蜜であれば、古代人の生業のあり様が知られる描画である。

 旧約聖書には、「ここちよい言葉は蜂蜜のように、魂に甘く、からだを健かにする」という聖句がある。  
 ローマの詩人ウェルギリウスは、紀元前36~29年に、カンパーニャで執筆した『農耕詩』の第4巻で養蜂飼育のことを書いている。
 「さて続いて、蜜と言う天界の贈り物について語ろう」と謳い始め、「秩序正しい社会を組織し、勤勉に働く蜜蜂の社会は人間のそれに通じる」と、養蜂の様子を詳細に描写している。
 ウェルギリウスの『農耕詩』は、ローマの百科全書的著述家マルクス・テレンティウス・ウァロ(紀元前116年~ 紀元前27年)の『農業論』の影響を受けている。
 ウァロは、『農業論』で「それは人間の国家のようである。そこには王も権力も社会も存するのだから」と既に記していた。

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 2)蜜蜂のコロニー
7月上旬、車山高原に咲くニッコウキスゲ(雌しべが突出する長花柱花、自家受粉を回避)
 蜜蜂は、社会性コロニー(集団居住地)の一員として役割が与えられ、その役割がそれぞれ限定されるため、コロニーに頼るしか、女王蜂も含め蜜蜂全員が生存を全うできない。夏場のコロニーの巣は、5~7万匹の蜜蜂で維持され、それぞれに生業が課せられ役割が分担されている 。
 巣は働きバチの腹部で精製され、蠟腺から分泌され蜜蠟(みつろう)で作られ、幼虫の孵化と育成の場となり、コロニーの食物保管庫となる。その蜜蜂の食物は、蜂蜜(花蜜と甘露それぞれから作られる)と花粉(幼虫の主食となるパン)である。
 コロニー内のセイヨウミツバチは、3つのタイプがある。まず女王が一匹いる。それ以外のハチの大部分は、卵巣が未発達のメスで、女王より小型の働きバチである。
 「受精卵からはメス蜂しか生まれない」と言うのは誤りで、受精卵からはメス蜂だけでなくオス蜂も生まれている。このオスとメスの発生確率は人間と同じで、それぞれ2分の1と均等である。しかし現実には有精卵から生 じたオス蜂はいない。
 働きバチの巣房に産み付けられた有精卵は、メスとオスが半分ずつ幼虫になり、幼虫を世話する働き蜂は、有精卵から生じたオス蜂の幼虫の方は食べて片付けてしまう。そのため、有精卵からはメス蜂しか生まれてこないと誤解された。

  一番大柄なのが雄バチで、2,000匹ほどいる。女王バチと働きバチは、受精卵から生まれるが、雄バチは未受精卵から発生した(単為生殖parthenogenesis)ものだけが生き延びる。単為生殖は、卵細胞が受精することなしに単独で新個体を誕生させる生殖法で、子供を作る事が出来るメスだけで手っ取り早く数を増やす手法である。単為生殖は植物でも動物でも行われる場合があり、当然、全員が同じ遺伝子を持つクローンとなる。
 生殖の方法としては特殊で、単為生殖には複相型と単相型の2タイプがあり、蜜蜂の雄バチは、減数分裂で生じた卵から単相型の単為生殖で生まれる。そのため未受精卵で育まれた雄バチは、単相の細胞を持つことになる。雄バチは春から夏にかけて働きバチの10 %程度の数だけ誕生する。女王バチの無精卵から生まれ雄バチは、女王バチと同じ遺伝子を持つ。近親交配による子どもは、それに起因する劣性遺伝子が顕在化する可能性が高い。生物は、それを避ける。そのため同じ巣の女王バチと雄バチは、交尾しない。
 ミツバチの針は、産卵管が進化したものなので、雄バチには針が生じない。働き蜂はすべてメスなので針を備える。女王蜂の産卵管は、その機能を保持し続けるため、針にはならない。
 受精したメスの卵は、通常の複相の細胞を持った成体になり、女王バチだけが、完全に成熟した卵巣を持ち、巣の中では唯一無二の存在となる。
 雄バチの仕事は、若い未交尾の女王バチと交尾するだけである。雄バチは女王バチと交尾するため、毎日定刻になると飛び立つ。他群の雄バチたちと一緒になって、女王バチを待ちうけて空中を集団飛行する。女王バチは、誕生後間もなく婚姻飛行に飛び立ち、5~6週間の発情期に、抜群の飛翔能力を持つ5~8匹の雄バチと空中飛行しながら交尾をする。
 女王バチの飛ぶスピードは速い。追いついて交尾できる確率は1%ほど、これが成功すれば、交尾器がちぎれて雄バチは空中で即死する。交尾できなかった雄バチは巣に戻り、巣板の端の周辺に肩身狭そうに集まって時を過ごす。交尾以外に役割がない。花蜜や花粉が多い春から夏は、働きバチからエサを貰えるが、交尾の季節が終わる夏以降は、虐待されて殺されるか、巣から追われ、エサも貰えず野垂れ死にする。
 
 女王バチは、婚姻飛行から巣に戻ると、その後は一切外出せず、寿命の3年間ほど、その活動期に特別食のロイヤルゼリーを食べながら、その後の役割は毎日卵を産んで仲間を増やすことにつきる。3~10月にかけての活動期には、毎日1,000から2,000個の卵を産む。
 平常時では、産卵は女王バチが行い、同じメスである働き蜂が産卵しないのは、女王フェロモンにより産卵機能が抑制されているためである。女王蜂が事故や病気などで喪失した場合は、通常なら働きバチ候補の幼虫が、急遽、女王蜂候補に仕立てられる。それによりコロニーの消滅を回避する。
 その女王バチ候補が、順調に成長できないなど、女王を蜂喪失すれば、コロニーの復活は望めない。そのような場合、産卵を抑制する女王フェロモンから解き放たれた、メスの働き蜂が産卵を行うようになる。しかし働きバチは交尾していないため無精卵しか産むことしかできない。そのため雄バチだけが生まれる。コロニーの遺伝子の存続はこのオスバチに託され、オスバチは運が良ければ他の群れの新女王蜂と交尾し、その遺伝子を継承できる。

 働きバチはメスなのに、女王の出すフェロモンで、卵巣が機能しなくなっており、女王の産卵を手助けする役割が課せられ、ミツバチ社会の労働を全て担って明確な役割分担をしている。冬越しする働きバチは、成虫になってから半年ほど生きられるが、その過重労働により、活動期の働きバチは、ほぼ1ヶ月と短い。ただ、数が多いので交替で休みも取っている。働かされているというより大事なことをテキパキ実行して、群を支配しているようにすら見える。
 寿命の1ヶ月間の前半は、巣の中で、幼虫への給餌(育児バチ)、外働きのハチから花蜜を受取り、巣の掃除、幼虫の育成、密の保管のための蜜蠟製の小部屋(巣房)作り、巣の防衛のために巣の周辺での定位飛行などを行う。必要に応じて、腹部の先端付近に内蔵されている刺針で外敵に毒液を注入する。その刺針には、逆かぎがついているため、一度刺すと針が取れて死ぬことになる。巣内作業の時期が終わると、働きバチは、巣の外へ出て花蜜・甘露・花粉を集める。
 女王バチ候補の幼虫には、育児バチたちが分泌するローヤルゼリーを与える。上顎と下顎にあたる下咽頭腺(かいんとうせん)と大腮腺(だいさいせん;大顎腺:おおあごせん)の両方からの分泌物が咽頭で混じり合いローヤルゼリーが精製される。
 巣作りの材料の蜜蠟は、働きバチの体の下部にある腹部体節の間にある蠟腺から分泌される。古代エジプトでは、ミイラ化のために蜜蝋が使われ、ツタンカーメン(前1361~前1352頃)の王墓からは燭台が発見されている。紀元前3世紀のイタリアのエトルリア時代(紀元前8世紀~紀元前1世紀ごろ、イタリア半島中部にあった都市国家群)、現在の基礎自治体オルビエトーにあるゴリニ墳墓の壁画に、現在の燭台と変わらない絵が描かれている。
 蜜蠟製の小部屋には、六角形の普通サイズのものが多いが、女王バチや雄バチを産み付けるための大きめの部屋があり、女王の部屋となれば、大きい上に非対称形である。女王バチは、この「働きバチを育てる部屋」、「雄バチを育てる部屋」、そして「女王バチを育てる部屋」の3種類の巣房の上を歩きまわり、該当する場所を探して卵を産みつける。
 女王バチの巣房「王台」は、現在の女王バチの寿命がなくなる時か、コロニーの中のミツバチが飽和状態になった時に限り作られる。毎年5月頃に、分蜂がよく見られる。その前には必ず新しい王台が複数作られる。この新しい王台から、新女王バチが誕生する。その2,3日前に、古い女王バチは巣の中の約半分の働きバチを連れて外へ飛び出す。これを分蜂と言う。
 新女王バチは、自分で王台を噛みやぶって産まれてくる。そして、他の王台を見つけるとその王台を、外から噛みやぶり、未だサナギ状態の女王を殺してしまう。同じ巣の中に、女王バチが同時に産まれた時は、女王バチ同士の死闘が始まる。

 甘い花蜜は虫を呼び寄せる誘引物質で、一般的には虫媒花の蜜腺nectaryと呼ばれる特別な分泌腺から分泌される。蜜腺は、主として花部の子房の基部または子房と雄しべとの間などや、托葉とか葉柄などに形成される蜜の分泌腺である。
 働きバチは、蜜腺がある花の奥深くまで、口吻を差し入れて花蜜を吸い、その際に体中が花粉にまみれるようになる。働きバチは花蜜を密胃honey sacという一時的に蜜を溜める袋に入れ、自分の生存に必要な分だけ食べる。
  蜜胃は、胃の前部にあり、30~50mgの蜜を溜める。花蜜の主成分はショ糖であるが、巣に持ち帰って巣房に貯めるときまでに、 蜜胃の中で水分だけが腸で吸収され、働きバチが生産する酵素の働きでブドウ糖と果糖に分解されている。
 巣に着いたら、働きバチは 蜜保存用の巣房の中に、 蜜胃の蜜を口吻から吐き出して、巣内担当の働きバチに後の作業を託す。
 蜂蜜に変えるためには、巣房の中の水分を蒸発させて濃縮しなければならない。一部の働きバチは、 蜜の巣房と巣の入り口の間で、翅を高速ではばたき、蒸発した水分を巣の外へ送り出している。水分含有量が29%以下になれば、蜂蜜が出来上がる。蜂蜜が詰まった巣房は、蜜蠟で薄い蜜蓋をして微生物の侵入を防ぐ。

 甘露は、木の樹液を栄養分として吸うアブラムシが尻から出す甘い汁がそれにあたる。甘露蜂蜜は、樹液を昆虫が一旦体内に取り入れたのち、その後糖分だけを、再び樹木の葉や幹に水滴の形で残したもので、マツや他の樹木の葉や幹に、透明に輝く小さな球を作り出す。カシ・マツ・モミ・トウヒなどの樹叢帯に営巣するミツバチは、夏の盛りから甘露を採集し、蜂蜜に仕上げる。
 分類学的にはヤマアジサイの一変種がアマチャであるが、一般には、ヤマアジサイの他の変種も含んで甘味の強い系統がアマチャと称して栽培されている。
 その若い葉を蒸して揉み、乾燥させ、それを煎じて作った飲料のことを言う。
 針葉樹の甘露は「森の蜂蜜forest honey」と呼び、落葉樹の甘露は「葉の蜂蜜leaf honey」と呼ぶ。蜜蜂の巣の中では、蜂蜜も甘露も同じであるが、甘露は蜂蜜より香りが劣ると一般的に評価されているようだ。ミツバチのコロニーで混在している巣房で、その区別ができのか?

 春先に、新世代の女王蜂の羽化を目前とした巣では、群の分蜂が起こり、旧世代の女王蜂は働きバチを引き連れ、巣を出て新しい巣を探す旅立ちとなる。この際、旧世代の女王蜂を護って働きバチが塊のようになる分蜂球(ぶんほうきゅう)を作る。飛び立った蜂は、いったん巣から離れると一か所に集まり固まる。これが春先の蜂球である。たまたま林野に入り遭遇すれば、余りにも衝撃的な光景となるでしょう。
 蜂球を作ると、探索蜂が次の巣の場所を探しに行く。蜂は、通常巣と蜜源を一直線に結んで飛行する。しかし、探索蜂は壁面などをスキャンするように飛ぶ。人体もしつこくスキャンするが、刺すつもりはない。
 女王1匹と8月以降に孵化した働きバチがいる健全なコロニーは越冬できる。ミツバチたちは、六角形の巣房4~8個分位のスペースに相当する蜂球と言う密集した塊を作る。蜂球は、巣房に沿って非常にゆっくりと移動しながら、そこに貯蔵された花粉やハチミツをエネルギー源として熱を発生させ、蜂球の中心部の温度を20~25℃に保ち、その外側の温度も7~10℃より下がらないようにする。
 やがて外気温が10℃を僅かでも超える時がくれば、ミツバチは「クリーニング飛行」に出かける。ミツバチは巣の中では排泄をしない。夏場は問題ないが、外気温が上がらなければ、「クリーニング飛行」ができない、冬は外に出られる温度に上がるまで全部腸の中に溜めておく。
 ミツバチは、進化の過程で外敵から身を守る術(すべ)をそのDNAに刻み込んでいる。東南アジア起源のトウヨウミツバチの周りには、熊などをはじめとした哺乳動物やオオスズメバチが外敵として存在している。
 世界中にいる多くの種類のスズメバチの中でも、このオオスズメバチだけが特別で、ミツバチを全滅に追いやる力を持っている。このオオスズメバチの脅威は凄まじく、蜂数の少ない巣や、巣の入口が広く物理的にオオスズメバチが入れる巣などは、ことごとく殲滅させられてしまう。その襲撃光景は、まさに蹂躙・虐殺・強奪という凄まじいものである。
 自然界で、ミツバチ巣全滅の原因の8割以上が、このオオスズメバチによると言われている。 オオスズメバチが巣に侵入してきた際、数百匹のニホンミツバチがオオスズメバチを球状に取り囲み腹部の筋肉収縮・翅の振動などを利用し中心部を50℃近くまで上昇させ、その蜂球で「熱殺」する。
 オオスズメバチは、いきなり集団では襲わず、最初は単独行動で、ニホンミツバチの巣に偵察飛行する、またニホンミツバチが50度℃まで耐えられるのに対しオオスズメバチは45〜6℃とわずかに耐熱温度が下がる、その特性を利用して対抗する。
 ニホンミツバチはスズメバチに対し、針で刺すことは可能でも、スズメバチの体は外骨格という固い殻のようなもので覆われているため、この部分には針は通らない。刺せるのは、頭部と胸部の間の部分、人間でいえば首に当たる部分だけで、ここに首尾よく刺す事が出来れば、刺殺も可能であるが、刺殺する前に多くの犠牲者が出るだろう。
 日本では、養蜂用に各地に導入された外来種のセイヨウミツバチが、野生化し在来種の生態系を破壊している事が問題になっているが、スズメバチという強敵との戦闘経験が豊富な東アジアではさほど問題視されていない。下手に巣を襲うものならセイヨウミツバチも、例外なく蒸し殺しするからである。
 セイヨウミツバチも、ニホンミツバチから学習し、集団で蜂球を作りオオスズメバチを捕殺している。 セイヨウミツバチの場合は、蜂球による「刺殺」で、一匹一匹が単独で寄り集まり、結果として蜂球になる。そして動きが鈍くなったスズメバチの首元に針を刺し毒殺する。スズメバチに限らず、敵となる他の昆虫に対しても、これを行う。

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 3)蜂蜜
 ラベンダーの花とハナアブ。ベッコウハナアブは、早春から晩秋まで、いろいろな花に訪花して花蜜や花粉をなめる。アブの羽は2枚、ハチは4枚。
 ミツバチは、花蜜と甘露を炭水化物源(エネルギー源)として集め、花粉はタンパク質・アミノ酸・脂質・ビタミン類・ミネラルなどのエネルギー源以外の栄養源として採集する。花から花へと飛び交ううちに、頭部から腹部や肢を覆う無数の毛に、花粉が自然に付着して集められる。ミツバチの体の毛に付いた花粉は、ブラシのような肢の毛でぬぐって、後肢の花粉かごに集められる。
 体に付いた花粉を湿らせ、一つにまとめた花粉団子にするために、蜜胃の中の蜜を少量吐き出し、圧縮して固める。その花粉団子を巣に持ち帰り、肢からはずして空の巣房に押し込む。すると若い働きバチが、頭と前肢でそれらを押し固めて、「ミツバチのパン」にする。植物によって花粉の色が異なるため、花粉団子の色によって、ミツバチが何の花の蜜や花粉を採集したかがある程度分かる。
 ミツバチは、ヒトと同様、色・形・動きを視認するが、視力はよくないようで、ヒトでいうなら近視のようだ。殆どの昆虫に共通するように、紫外線・青・緑・黄が見える代わりに、赤外線と赤は色としては見えない。
 ミツバチは優れた記憶・学習能力を持つ。巣の位置・花の色・形・匂い・開花時刻・花の咲いている場所などを覚え、再度の訪問を可能にしている。
 ミツバチの採集行動は合理的で、それぞれの花が満開の時、最大の収穫量が期待できる時期を狙う。花粉団子は、たいてい1種類の花の花粉で作られる。もっとも最初の花粉の量が少なければ、別の花に立ち寄ることもあり、複数種の花粉が混ざることもある。
 ミツバチは、花蜜だけを主に採集して、花粉はついでに集める。その一方、花粉を主目的にすれば蜜の無い花にも通うことをする。

  東南アジア~南アジアに生息するオオミツバチ(ミツバチ上科ミツバチ科)は、野外の木の枝などに、1枚の畳ほどにもなる大きな巣板を作る。一つのコロニーに、働きバチが3~4万程度、その体長は1.7~2.0cmもあり、ミツバチの中ではもっとも大きい。極めて攻撃性が強く、攻撃対象を巣から1km以上まで集団で追いかけ、目・耳・鼻など感覚器付近を狙って刺す。それでも、生息地の人々は、巣をとって蜂蜜や蜜蠟を集めている。
 熱帯のアシナガバチの一部には、少量の蜂蜜を作って貯蔵する。数種のアリの働きアリは、体内に蜜を溜めている。
 ハチは、同じ社会性を有するアリと形態が似ている。実際にこれら2つの昆虫は、膜翅目(まくしもく;ハチ全般の他、アリを含む大きなグループ、ハチ目とも呼ぶ)に属する。その膜翅目は、ハバチ亜目Symphyta とハチ亜目Apocrita という2つの亜目から構成されている。このうちミツバチが属しているのはハチ亜目の方であり、これは寄生蜂類と有剣類から構成される。有剣類は、セイボウ上科・スズメバチ上科・ハナバチ上科に分類され、ミツバチはこの有剣類ハナバチ上科に属している。 
  ハナバチ上科 Apoidea には、主に幼虫の餌として昆虫を利用するアナバチ類と、植物から花粉や蜜を集め、幼虫に餌として与えるハナバチ bee と呼ばれるハチ類に分類されている。ハナバチ類はアナバチ類から進化したと考えられている。アナバチが、分岐した毛に覆われたのがハナバチだと考えられている。ハナバチ類 bees は多様に分化しており、まだ知られていない種類も多いと推測されている。このハナバチ類 には、ムカシハナバチ科 Colletidae、ヒメハナバチ科 Andrenidae、コハナバチ科 Halictidae、ハキリバチ科 Megachilidae、ミツバチ科 Apidaeなど多数のハチ類が分類されている。
 ミツバチ科のミツバチ属には、セイヨウミツバチ・トウヨウミツバチ・オオミツバチなどが含まれる。
 英語でいう wasp の仲間であるハチの多くはカリウドバチと呼ばれ、他の昆虫や蜘蛛を毒針で麻痺させ、幼虫の餌として与える。こうしたハチでも成虫の食餌は花蜜や花外蜜で、花を訪れる。
 タデ科のイタドリの葉柄の基部に丸いくぼみがあり、蜜腺がある。葉が若い間は蜜が出る。ソメイヨシノなどサクラの仲間には、葉身基部か葉柄に蜜腺がある。ツリフネソウの萼片は3個あり、下の1個は大きく、長さ2~3cmで嚢状(のうじょう)となり、後部の渦巻き状の距には蜜腺がある。
 やがて、ハチ類の中から、他の昆虫を幼虫の餌とすることをやめ、花を食源とするよう進化してきたのがハナバチである。
  これらのハチは、もちろん花蜜を採取するために便利な口吻をもっている。これらのハチは、長い舌をもっているか、短い舌をもっているかで大きく2種類に分類される。短い舌をもつハチは、花の管が浅く、蜜が容易に採取できる進化上初期の被子植物 Angiosperm の蜜を集めていたハチの子孫であり、長い舌のそれは、蜜が花の奥深くにあるような進化上後期に出現した被子植物からも蜜を採取する能力を備えたハチの子孫だと考えられている。この分類では、ミツバチは長い舌をもったハチに分類されている。
 シタバチ(花蜜を吸うために長い舌を持つため、シタバチと呼ばれる)・ニホンミツバチ・セイヨウミツバチ・ハリナシバチ(刺さない蜂だが、巣に近寄っただけで、数百を超える蜂が髪の毛の間に入り込み、頭皮を噛み続けるという攻撃性がある)・マルハナバチ類(ミツバチ科ミツバチ亜科)・ヒゲナガハナバチ(髭長花蜂;触角が非常に長い)などの昆虫を総称してハナバチと呼ぶ。体長 10~30mm以上。
 孤独性のヒメハナバチ(ヒメハナバチ科ハナバチ)やハキリバチ(ハキリバチ科ハナバチ)や社会性のコハナバチ(コハナバチ科ハナバチ)やミツバチ各科などが加わり、現在知られている約1万 6,000種ほどのハナバチのうち、約1万 2,000種以上は、蜂蜜を作らない。
 ミツバチは、他のハチ類と異なり、花粉と花蜜・甘露のみで生活し、昆虫類やクモなどを食餌にしたり寄生したりすることはない。蜂蜜を作るのは、コロニーを築き集団生活をする種だけである。
 蜂蜜は、それを生み出す個々の昆虫の寿命よりも長持ちする長期保存用食糧であるが、ミツバチの夏場のコロニーの巣は、5~7万匹で維持され、1種類の花から蜜を作る「単花蜜」を基本とし、これはミツバチの「訪花の一定性」という特性があるためで、ひとつの蜜源から蜜を採り終えて巣に戻るまでは、ほかの花には立ち寄らない、コロニー全体が同じ蜜源を目指す、ダンスで仲間に蜜源を伝達する、と言われる。ただ、中には違う伝達をしてしまうミツバチもいる。単花蜜といっても100%同じ種類の花蜜とは限れない。
 150種かそれ以上のマルハナバチの仲間は、天候が悪い時の短期的な食糧としてある種の蜂蜜を作る。マルハナバチの女王は、体長が2cmを超えるものもある。ハナバチとしては、大型で、マルハナバチの蜜胃には、自分の体重と同じくらいの蜜を入れることができる。大きくすることで、巣に戻る回数を減らし、効率よく蜜を集めている。体中の花粉は、肢で拭って後ろ肢の平の所に集めて花粉団子にして、ここにくっつけて運ぶ。
 ミツバチは世界で 8 種が知られているが、ハリナシバチ亜科は、現在世界で 400 種以上が知られている。中米では、ハリナシバチ亜科のメリポナ属・モウレラ属・プレベイア属・ハリナシバ チ属などの多くの種が蜂蜜を作る。セイヨウミツバチの蜂蜜の量よりずっと少ないが、中南米の人々は、古来よりその蜜を採集して味わっている。その蜂蜜は、セイヨウミツバチの蜂蜜と同じように甘く美味しい、見た目も変わらないと言う。

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 4)共適応coadaptation
 アサギマダラが訪花する植物の多くは、ピロリジディンアルカロイド物質を含むヒヨドリバナ類である。その摂取により、有毒物質を体中に含むことから、鳥は捕食を忌避する。また、その物質は、オスの性フェロモン分泌のために欠かせない。
 最も初期の受粉媒介者は、風ではなく昆虫だったようだ。ハエや甲虫を含む多くの昆虫グループは、最初の被子植物の進化に触発されて登場したのではなく、その前から存在していた。この1億2,000~1億3,000万年ほどの間に、昆虫と植物の両方で、桁違いの適応放散と種分化を遂げてきたことは、植物の送粉に関連した機能の共進化が、植物と昆虫双方に極めて有益に働いてきたことを示している。
 植物は、共進化にともない、花蜜など昆虫を誘引する物質の分泌や、花蜜を目指す昆虫が途中で花粉を作る葯に触れなければ到達できない位置取り、花の匂い、紫外線による昆虫のための目印、昆虫に似せた擬態などを進化させてきた。昆虫の側では、ガの口吻など口の形、嗅覚や紫外線を見る視力などを進化させてきた。

 ヒトの網膜の中心窩付近に錐体細胞(すいたいさいぼう)があり、それは色を検知する、青・緑・赤の光の三原色に対応する三種類の円錐型の視細胞で、色を検出することができる。鳥は4種類の錐体細胞を持っており、その4つ目の錐体細胞がスペクトルの紫外線領域の感知を可能にする。多くの物質は、人には見えないが、紫外線を反射している。鳥の視覚は、青・緑・赤の光の三原色と紫外線を捉える。
 昆虫の目は、光のすべての波長に等しく敏感とは言えず、多くの昆虫は、紫外線・青・紫の3種の視細胞を持ち、紫外線は見えるが、赤外線を含めてスペクトルの赤色側の光は感知することができない。 アゲハチョウなどは、紫外線・紫・青・緑・赤という5種の視細胞を持つものもおり、カラフルな色彩感覚を持つと推測される。
 訪花昆虫と訪花植物の間には、形態的共適応が見られる。特に、左右が鏡像になるような左右相称花は、進化が進んだ花と考えられている。
 花の特徴によって訪れる送粉者の動きが制御される場合がある。例えば、キンギョソウ(オオバコ科 )・ミゾホオズキ(ハエドクソウ科)やツリフネソウ科のホウセンカ・ツリフネソウなどとマメ科やシソ科の花では、ハナバチが最初に脚を掛ける足場、蜜腺の位置と蜜腺に達する道筋とその蜜標の配置、葯と柱頭の位置などほぼ決まっている。一方では、送粉者が柱頭→花粉の順に接触するようにしむけ、自家送粉を避ける。ハナバチの動きで、特に大事な子房が傷つくのを防ぐため、その行動を制御しょうと、しばしば左右相称でやや斜めに咲く。昆虫が花を正面から見たときに、明確な上下が分かり、訪花者の上下と一致させている。
 ランの仲間には、ハエ・クモ・ハナバチに擬態した種があって、ラン科の「オフリス・スコロパクス」は、地中海沿岸や中東などの沿岸地域に多く見られ、その周辺に20種ほど石灰質土壌の開けた草原地帯に自生している。このランの花は その地域の蜂の姿と大きさに似せて咲く。蜂に擬態して蜂の交尾を誘う。しかも花から蜂が発散するフェロモンとそっくりの化学物質を出している。
 ランは花粉を含んだ葯の変わりに、花粉塊を持つ。花粉塊は非常に強い粘着力があり、しかも花の一番上部の先端にある。オス蜂が別のランの花に行こうとして飛び立つ時には、花粉塊がその頭か体に付着し、それが別のランの柱頭に擦り付けられることになる。
 車山高原では、5月に、ニワトコの花が咲きます。円錐花序となる多数の小さな花冠それぞれが、訪花昆虫の足場となる(拡大写真)。
シモツケソウに訪花するシロスジベッコウハナアブ、土中のクロスズメバチ類の巣の外被に産卵、巣の外に捨てられたクロスズメバチの死体などを食べて育つ。
 スイカズラ科ニワトコは、車山高原では5月頃、分枝した枝端(したん)に円錐花序をつけ、淡い薄墨色を含んだ白色の小花を多数、密に咲かせる。それが訪花する昆虫の最初の足場となる。
 花弁に密の目印となる「花蜜標識」をつけているものが多くある。その殆どは、昆虫の視覚では捉えられるが、人間には見えない紫外線領域の色でマークされているため、昆虫には明瞭に見える。
 花の芳香も送粉者を誘引する。夕刻から夜にかけて強い香りを放つ花が、ガや、花蜜や果実を食餌とするコウモリを引き寄せる。

 花蜜は、ハナバチなどの訪花送粉者への訪花植物からの報酬である。ハチドリやミツスイ、そして多くのガやチョウは、長い花冠筒の奥にある花蜜を吸うための、長いくちばしや口吻を進化させてきた。
 ミツスイは、スズメ目のミツスイ科の鳥の総称である。ほとんどの種がオーストラリア区(オーストラリア、ニューギニア、ニュージーランド、ビスマルク諸島など)の熱帯から亜熱帯域に分布している。日本では小笠原諸島にすむメグロがミツスイ科とされている。
 花蜜食に適応した鳥で、嘴は細長く、わずかに下に湾曲し、先が尖っている。舌は長く、嘴の外へ押し出すことができ、全体が左右から内側へやや巻き込んだような構造になっている。また、舌に沿って蜜が流れるための縦溝があり、先端が 4本に分かれ、その周縁部はブラシ状になり、花蜜に浸しては嘴に引き戻す。その間、顔に花粉をつけて移動し、他家受粉に役立っている。果実・昆虫などや、大形のミツスイはトカゲやカエルまでも食べる。

 サトイモ科のザゼンソウは、車山湿原では、5月中旬頃に、茶褐色や暗紫色の大きな仏炎苞(ぶつえんほう)の中に肉穂花序(にくすいかじょ)を単生させる。それを形成するブツブツ一つひとつがザゼンソウの花である。仏炎苞は、サトイモ科の植物には多く見られる。
 ザゼンソウは発熱する。発熱時に、生臭い肉の腐ったような異臭を放つ。北アメリカ東部にも自生するサトイモ科ザゼンソウ属は、その異臭からスカンク・キャベツSkunk Cabbageと呼ばれ、その根茎や若芽はブタの餌にされる。虫の少ない早春、それもごく初期に咲く花なので、臭いはその時期にわずかにいるハエの仲間をおびき寄せる手立てであろう。発熱も、未だ寒気がちの環境下で、ハナアブなどハエ類が、温もりで暖かく迎え入れられるならば、大いなるご馳走になる。
 ハナアブは、ハエ目・ハナアブ科に属し、ハチでは無くハエの仲間であるため刺針を持たない。他者を攻撃する手立てが無い。ハナアブの幼虫は、植物の害虫であるアブラムシなどを捕食することから益虫と呼ばれ、殆どの成虫は、花蜜や花粉を食餌にする。ハナアブの平均体長は、約4mm~25mmと、種や個体によっては多少の違いがあるが、その多くの種は短小で頼りない。ベイツ型擬態と呼ばれる、近づく天敵を威嚇するように、飛び方や羽音をハチに似せて捕食を回避している。 
  ヘンリー・ウォルター・ベイツHenry Walter Bates(1825-1892;イギリスの探検家)は、1849年頃から南米大陸を訪れた際に、毒蝶に似たシロチョウの仲間を観察し、体内に毒を持っている種類の蝶に擬態し、自分の身を守ることに気付いた。その以後、様々な研究が誘発され、昆虫類の多くの種類が擬態していることが明らかになった。以後、ベイツ型擬態Batesian Mimicryと呼ばれるようになった。
 
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