バラ科(ロサシアエrosaceae)
 バラは、ギリシアやローマ神話では、愛と美の女神アフロディテAphroditeと結びつけられる花として語り継がれてきた。
 ギリシアやローマ神話では、バラの美しい花と芳香は、アフロディテが創造し、ようやく完成しえた美の女神の花であった。  
 
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 花粉の形成と受精
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 植物の窒素化合物  屈性と傾性(偏差成長) タンパク質 遺伝子が作るタンパク質 遺伝子の発現(1)
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 生物エネルギー 細胞内の巨大分子 化学結合エネルギー 植物の生活環 シグナル伝達 キク科植物
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 根による水吸収 稲・生命体 胞子体の発生 花粉の形成 雌ずい群 花粉管の先端成長 自殖と他殖 フキノトウ
 アポミクシス 生物間相互作用 バラ科
 
 ズミ(酸実)
 目次
 1)バラの起源
 2)シモツケ亜科・サクラ亜科・ナシ亜科・バラ (狭義) 亜科
 3)ズミはバラ科ナシ亜科リンゴ属の落葉樹で、リンゴに近縁な野生種である
 4)エゾノコリンゴ
 5)オオウラジロノキ
 
 1)バラの起源
 バラ科には、約100属3,000種がある。全世界に分布するが、北半球の温帯と亜熱帯で最も多様化している。
 バラ科の植物は、日本人に身近に感じられるものが多い。観梅のウメ・花見のサクラ・雛祭のモモ、更には、ヤマブキ・ユキヤナギ・ボケ・サンザシ・ナナカマドなど、バラ科の植物は身近である。
 花ばかりではない、オランダイチゴ属などでは肉質で盛り上がった花托上に多数の雌しべが並び、いわゆるイチゴ状果を作る。イチゴやキイチゴもバラ科植物である。リンゴ・ナシばかりか、モモ・ウメ・アンズ・スモモなどもバラ科植物の果実である。
 ノイバラとヤマザクラの花を比べてみると、筒状の基部や柔らかく薄い5弁の花と多数の雄しべは同じであるが、違いが大きいのが、バラ科サクラ属のヤマザクラは単葉で、雌しべは1本しかないため、液果は1個しかできない。花は、直径2.5〜3.5cmの白または微紅色である。
  「サクラ」の語源は、動詞の「咲く」に接尾語の「ら」が付き名詞になったと言う。サクラは、奈良時代から植栽され、「田神」、つまり五穀をつかさどる倉稲魂神(うかのみたまのかみ;『日本書紀』、『古事記』では宇迦之御魂神と表記)、つまり食物の神である「稲荷」が、依り代とする「座(くら)」として信仰の対象にされた。「稲荷」は「稲生(いななり)」が転訛したと言う。古代「さくら」と呼ばれていたのは、現代の山桜を指していた。
 一方、バラ亜科のノイバラ(野茨)は、日本・朝鮮半島・台湾に自生し、ギリシア・ローマ時代には、西アジアからヨーロッパ域の野生バラや、それらが自然交雑により美しい花となったものが選ばれ栽培されていた。その葉は互生する奇数羽状複葉で、花は直径2cmぐらいの白い花を枝先に円錐花序に付け、芳香がある。花期は5~6月。花には、たくさんの雌しべあり、その花柱は合着して柱状になっている。その壺状の果実はバラ状果と呼ばれる独特な形状で、萼筒が卵形に肥大化し偽果となり赤く熟し、その先端に萼が残る。中に5~12個の痩果achene(小さな、通常は1つの種子を持つ乾燥した非裂開性indehiscentの果実、例えばヒマワリ・ニリンソウ・イネなど)を含む集合果となる。

    奇数羽状複葉(ナナカマド      偶数羽状複葉(ネムノキ
 バラ科リンゴ属の落葉高木の果実は、古代から広く食用にされている。アダムとイブが食べた禁断の実、リンゴは、世界の主要な温帯果実の1つで、実際の栽培起源も古く、スイス地方の先住民族と言われる湖棲民族(ヨーロッパ中部の原住民で、湖の水面に住宅をつくり生活していた。特にスイス地方に遺跡が多い)の遺跡からはリンゴの化石が発見され、リンゴの栽培は、約4,000年前に溯るといわれている。ヨーロッパに広まったリンゴ栽培は、16世紀~17世紀頃にかけて、ヨーロッパ中部以北で栽培が盛んになり、19世紀中頃にはイギリスが大産地となった。現代では、リンゴは7,500以上の品種があるが、亜寒帯・亜熱帯および温帯が栽培領域で、暑さに弱いため熱帯での栽培は難しい。リンゴの木は、落葉高木で、晩春頃にバラ科に共通する白を主にする5弁花を開花させる。

 バラ科は、花の特徴が共通する種を集めたグループと言える。それが、結果として系統的にまとめるにあたり、一群としてのバラ科の各種を括るのに成功したようで、現代の分子系統学の研究にも整合している。
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 2)シモツケ亜科・サクラ亜科・ナシ亜科・バラ (狭義) 亜科
 

 シモツケ
 ヤマブキショウマ

 バラ科全体に共通する特徴は、花が放射相称の両性花で、がく裂片と花弁が各5枚、雄しべは多数、雌しべも多くの種で多数、また花弁は花の他の器官と比べて目立ち、花葉が着生する萼の基部(花托)が筒状のものと、子房と癒着するものがある。
 イチゴやイチジクの食用部分は、花托が特に発達したものである。
 バラ科はふつう、シモツケ亜科・サクラ亜科・ナシ亜科・バラ (狭義) 亜科の4亜科に分類されるが、主に果実の特徴が、基準になっている。それぞれの亜科を独立させて科とするよう主張する人も少なくない。
 シモツケ亜科は、バラ科の中では最も原始的と見られている。数個の胚珠を含む子房が上位で、2個か、またはそれ以上の心皮を持つが、各心皮は殆ど合着することがない離性状態であることが多い。果実は乾質で、熟すと縫合線に沿って割れ、小さな種子が飛び散る。このシモツケ亜科には、ヤマブキショウマ属・ヤマブキ属・シモツケ属・コゴメウツギ属・ホザキナナカマド属などがある。
 ヤマブキショウマ(山吹升麻)は、葉がヤマブキ(山吹)に似ており、花がユキノシタ科のショウマの仲間に似ていることが名前の由来となった。
 北海道・本州・四国・九州に広く分布するヤマブキショウマ属であるが、日本に自生する草本では、ヤマブキショウマ属は1種のみ、ヤマブキショウマだけである。ヤマブキショウマ属の果実は、長さ2㎜ほどの長楕円形の袋果であるため、シモツケ亜科に分類された。北半球の温帯に約10種分布する。
  ヤマブキ属ヤマブキは、本種のみの一属一種の落葉低木で、黄色の花をつける。北海道から九州の低山や丘陵地に普通に生えるが、美しい山吹色の花が咲くので『万葉集』にも詠まれるなど、古くから観賞されてきた。
 太田道灌が農家で蓑を借りようとすると、娘が蓑の代わりにヤマブキの枝を差し出した。道灌は、承保2(1075)年、白河天皇の勅命を受け藤原通俊が撰した『後拾遺和歌集』の
 「七重八重 花は咲けども 山吹の 実の一つだに なきぞ悲しき」
の歌を知らなかったため娘に立腹する。
 八重のヤマブキは雄しべが花弁に変化し、雌しべも退化したため、実がならない。
 この時代、既に八重のヤマブキがあったことが、この逸話から知られる。 園芸品種である八重咲きのヤマブキJapanese roseは、地下茎が横へ伸び、芽を出して広がる。繁殖は挿木と株分けである。
 シモツケは、車山高原の陽光に恵まれた場所を好む落葉低木で、高さ1mに達するものもあるが、通常は50cmほどである。枝の先に、淡紅色の小花が花茎の先に群がって咲き美しい。開花すると芳香を放つ。雄しべが長い。
 シモツケ属のユキヤナギ(雪柳)は、車山高原では、サクラやレンギョウ(連翹)が散った後に、白い小さな花が、枝垂れた長い枝先に、柳のように穂状に垂れ下がる。ズミの花が咲く頃に合わせて、春らしい鮮やかさが、新緑の世界に、暖かな温もりを与えてくれる。
 ナナカマド属のナナカマドは、世界中の温帯を中心に広い面積に分布する。日本にはナナカマド、ウラジロナナカマド、タカネナナカマドなどがある。通常、ナナカマドは亜高山帯に生える。車山高原では落葉高木であるが、横手山の高山帯では、低木のタカネナナカマドが群生する。5〜7 月、小枝の先に複散形花序をつけ、径約1cmの白色の5弁花を咲かせる。多くの種が白・黄・赤色の果実をつける。鳥類の食用であり、ヒトの果実酒にもなる。葉は枝先に集まって着き、奇数羽状複葉である。
 バラ科の植物は、バラやサクラなどの花の美しいものと、モモ(モモ亜科)やリンゴ(サクラ亜科)など美味しい果実が実るものがある。一方では、ナナカマドのように紅葉や果実が美しいものがあり、変化に富んでいる。高山帯では、ハイマツの影に、タカネナナカマドとウラジロナナカマドが丈短く生育し、紅葉する。
 バラ亜科も子房が上位で、心皮の殆どは、10個以上、稀に1個か2個からなる。各心皮には、1個の胚珠しかない。熟すると多様な果実を作るが、ナシ状果(食用部分は、花托や萼の基部が多肉となって肥大したもの。ナシ・リンゴ・ビワ・カリン)にはならない。この亜科の属は、雌しべが付く花床が平らなもの、凹状になるもの、凸状になるものがあり、この特徴に着目して幾つかの連に区分される。

 ナシ亜科の植物は、2~5個の合着した心皮からなる雌しべを持ち、子房は下位で、果実は完全に花床や花床筒の中に閉じ込められて一体化し、多汁質になる。ナシ亜科のアオナシの名前の由来は、その果実の色が緑色であることからで、ナシ状果と呼ばれる独特な果実は、他のシモツケ亜科・サクラ亜科・バラ (狭義) 亜科などの3亜科とは、離れた位置に置く。ナシの歴史は古く、日本でも有史以前から栽培されていた。現在の果樹としてのナシは、日本原産のアオナシと ヤマナシの雑種で、多くの種類がある。 バラ亜科キジムシロ連は、4月、車山の草原の枯れ草を分け、いち早くロゼット状の根生葉を束生し、その間から紅紫色の花茎を伸ばし、径2cmほどの黄色5片の花を付ける。葉は奇数羽状複葉で5~7枚、まれに3~9枚の小葉からなり、先端の小葉3枚が大きい。大株になると茎葉ととも張り出して四方に広がる。これにキジが座るとしてムシロになぞらえた。その花の多数の雌しべがよく目立つ。その凸状の花床に付く、萼に包まれた直径約5mmの集合果が形成される。その中の複数の小さな果実は長さ約1.1mm。花がよく似ている同じキジムシロ属のヘビイチゴの果実は、イチゴ状になる点で違いが分かる。イチゴの食用部分は、その花床からなり、その周囲に成熟した雌しべが、一般に種と呼ばれる小さな痩果(果実)を多数付ける。

 ワレモコウSanguisorba officinalisの花床は、凹状で、がく筒が成長して中の痩果を包み、通常、硬質になる。ワレモコウは、北海道から九州の野原に生えるバラ科ワレモコウ属の多年草で、バラ科では、花弁を失った異端者である。虫媒花が風媒花へ変化する途上と見られている。花の花弁は退化してなく、4枚の萼片、黒い葯から黄色い花粉を出す4本の雄しべ、1本の雌しべがある。その三種類の器官が、暗赤紫色から赤紫色となり花の色を決める。茎の先端にある長楕円体が花序で、その穂状花序の上から順に咲いていく。萼片は、開花時は白っぽいが、やがて赤紫色に変わる。葯の暗紫色が重なって遠くからだと暗赤褐色に見えるようになる。萼片が暗紅色となって残るので、花の時期が終わっても長く咲いているように見える。ワレモコウの形質的変異や遺伝的変異も大きく、他種との自然雑種も発見されている。
  花床が凹状でありながら多肉となるのが、バラ連バラ属である。バラ属には、日本では野生のノイバラやハマナスと栽培植物のバラがある。バラ属に含まれる植物は150種類以上あるといわれ、その多くは栽培品種である。種の多くは北半球に分布し、葉や茎に棘を持ち、殆どは蔓性か匍匐性の小低木で、花弁は必ずとまでは言えないが、通常5枚である。
ハマナスの托葉には耳片がある
 ハマナスRamanas roseは、高さ約1mになるバラ科バラ属の落葉低木で、通常、夏に紅色または紅紫色の花を咲かせる。よく分岐し枝には軟毛が生え、太い扁平な棘と針のような細い棘が多数ある。長さ9~11cmの奇数羽状腹葉で、7または9枚の小葉がある。托葉は膜質で幅が広く、葉柄に合着する耳片を持つ。花は一日花で、強い芳香があり、花弁からバラ油が採れるので香水の原料にされている。花期は、6~8月で、ハマナスは、晩夏の季語である。シロバナハマナス(英名は White ramanas rose)は、「ハマナス」の白花品種である。高さは1~1.5mになり、6月から7月頃、真っ白な花を咲かせる。シロバナヤエハマナスなどの品種もある。
 和名の「ハマナス」は、浜に生育し、果実がナシ(梨)に似ていることから「ハマナシ(浜梨)」と呼ばれていたが、東北地方で「ハマナス」に転訛したと言われている。ハマナスは、バラの品種改良に貢献したバラ属の原種の一つである。
 根や樹皮にはタンニンが含まれ絹糸を黄褐色に染める染料に、花はハーブティーに、8~9月に掛けて赤く熟する果実は、直径2~2.5cm、扁球形で偽果、先端には萼片が残り、中には長さ5~6mmの痩果が入っている。ビタミンCが豊富で食用になり、またローズヒップrose hipとして愛飲されている。
 ハマナスは、東アジアの温帯から冷帯にかけて分布する。冷帯気候を好むのか、主に北海道から東北地方で多く見られるが、南は茨城県南部までの太平洋側と、鳥取県までの日本海側にまで分布する。もともとの名が「浜梨」であり、生育環境としては海辺の砂丘に自生する。「北海道の花」にも指定されている。道内のハマナスの名所は、殆どが沿岸部である。

 サクラ亜科は、雌しべが1本しかなく、萼または萼裂片は、開花後に脱落する。萼は、花を構成している花葉のうち、いちばん外側にあるもので、そのさらに外側か下側に、蕾が展開する前にその周囲を包み保護している包葉があり、その内側から上側には花冠がある。その液果の内果皮は硬く厚く、核のある石果(ナッツ;木の実;クリ・アーモンド・クルミなど)を持つ。サクラ亜科は、主に広義のスモモ属(サクラ属とも言った)からなり、アーモンド(バラ科サクラ属の落葉高木、それから採ったナッツ)・スモモ・アンズ・モモ・ウメ・サクランボなど重要な果樹が含まれる。

 諏訪の平のサンフジ、 萼片が残る
 栽培リンゴの元になった種は、マルス・プミラMalus. pumilaを基本とするが、マルス・シルウェストリスMalus. sylvestrisやマルス・シエウェルシイMalus sieversiiなども、種の改良に関与したと、考えられている。学名のMalusは、「リンゴ属」をいう。 マルス・プミラの原産地は、中央アジアの黒海からカスピ海まで東西に走るカフカス山脈から、キルギスやカザフスタン南部と中国の新疆ウイグル自治区の間に連なる天山山脈にかけての地域である。
 カフカス山脈の北斜面には、現在も、落葉樹林の中に野生リンゴの巨木が何本を生えている。黄色い実が殆どだが、紅色の縞のある実をつけている木もある。その果実の直径は4cm程度である。
 マルス・シルウェストリスは、ヨーロッパの中部が原産、マルス・シエウェルシイは、現代では、新疆天山における危急種とされている。
 マルス・プミラの原産地は、カフカス山脈から天山山脈にかけての寒冷地である。暑さに弱く、熱帯での栽培は難しい。ここらの原産地から、ヨーロッパやアジアルートで日本に広まったと考えられている。
 現在、日本で主に栽培されているものは、明治時代以降に導入されたもので、病害抵抗性、食味、収量などの品種改良が重ねられ、約7,500以上の品種が栽培されるにいたっている。
 出蕾期にニホンナシ及びリンゴの栽培品種の相互の花粉を受粉させ、交配親和性を確かめると、これらの雑種の多くは、ナシやリンゴの品種の花粉と不親和性を示す系統の方が多く、その一方では、同じ型のS遺伝子self-incompatibility(SI)を持つ品種間でも、親和性に差異がみられるなど、複雑な交配親和性を示した、と言う。
 S遺伝子とは、被子植物angiospermsが自家受精self-fertilizationを防ぐ際、そのメカニズムに働く遺伝子を言う。 結実した雑種果実の形態は、一般に母体に類似している。これらの中には大玉で糖度の高い有望系統もみられ、糖及び有機酸の組成も、ニホンナシとリンゴの中間的な組成を示す系統も認められた、と言う。
 SIとは、自家受粉self-fertilizationを防止し、他家受粉allogamyを奨励する被子植物における遺伝子発現のメカニズムを総称する。
 異形花柱性 heterostylyとは、サクラソウやナスの花のように、長花柱花pin typeと短花柱花thrum typeと呼ばれる、種内で雌しべと雄しべの長さに長短があり、同じ花の中での自家受粉を防ぐ形態的なシステムを言う(二形花柱性)。
 長・短2型の雌しべと雄しべの組合せを持つ植物は、他にもソバやレンギョウなどがある。長・中・短の3型の組合せを持つ植物、例えばミソハギ属のエゾミソハギやアサザ (ミツガシワ科アサザ属)、カタバミ科カタバミ属の種などの例では、雄花と雌花が同じ個体に付く雌雄同株monoecismや異なる個体に付く雌雄異株hermaphroditism がある。 通常、異形花柱花は、S遺伝子の働きで自家不和合性を示し、有性生殖は異なる型の花の間でのみ起こる。

 八島ヶ原のズミ、10mの高木
  「ナシ(梨)」は、バラ科ナシ属の植物、またはその果実のことを言う。主な種類は、「和ナシ(日本ナシ)」・「中国ナシ」・「洋ナシ」の3種類で食用として世界中で栽培されている。
 日本における「ナシ」とは、この「和ナシ」のことを指し、日本の中部地方以南や朝鮮半島南部、中国を原産とする野生種ヤマナシを基本種とする栽培品種群のことを言う。ナシもまた、品種によって異なるが、7月下旬~9月頃にかけて収穫され、店頭に並ぶ。7月下旬に収穫される「幸水」という品種は、甘く瑞々しいため、和ナシの中でも一番人気である。近縁種のズミ・ワリンゴ・エゾリンゴなどは、日本や中国に原生する。
 ナシ亜科は、2~5、稀に1個の心皮からなる雌しべがあり、子房は下位にあり、その果実は完全に花床や花床筒の中に閉じ込まれ、それと一体化し多汁質になる。ナシ・リンゴ・ビワ・カリンなど通常ナシ状果と呼ばれるものが、その果実の形の典型になっている。
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 3)ズミはバラ科ナシ亜科リンゴ属の落葉樹で、リンゴに近縁な野生種である
 ズミは、日本全国の温帯から亜寒帯に分布し、北海道から九州までの広い範囲に自生する。生息地の適応能力は旺盛で、日照環境に恵まれた車山高原や八子ヶ峰や八島ヶ原湿原を好み、特に原野・林縁・湿原の中や、その周辺の林の中などで、時に群生することが多い。
 高さは10mを超えるものもあり、果実は球形で、車山では、多くは9月~10月ごろに橙赤色に熟す。別名で「コリンゴ(小林檎)」とも呼ばれている。
 ズミは、小花柄の先に束生状に4~7個の花からなる散形花序を付ける。生育地の緯度に幅があるため9〜11月に、紅や黄色に熟す小さな球形果実が、枝先に詰まってぶら下がる。果実の頭には萼の落ちたあとが残る。ナナカマドの実も同じころ赤く熟すが、冬鳥は食べ来ない。車山では、シジュウカラが、ズミの高木に大きな群れをなして、何度も飛来しては食べに来る。
 ナナカマドの実は、ヒトにとって、余りにも渋く、とても食べられない。ヒトの味覚は、本能的に毒性を判断する。ナナカマドの果実には、毒性のある「シアン化合物」が含まれている。シアン化合物は猛毒で、少量であっても、ヒトを致死させる。植物体にあるシアノ基は、糖質分子に結合したシアン配糖体として存在し、草食動物に対する化学防御として働く。そのため、リンゴの種やアーモンドにも微量ではあるが含まれている。
車山の亜高山帯のナナカマドは6月に咲く
 遅まきながら、車山に飛来するツグミやキレンジャクは、シジュウカラがズミの実を食べ尽くしたころに、ようやく食べ始める。実は、エサが少ない冬鳥たちは、ナナカマドの毒の成分や苦み成分が抜ける時季を、慎重に見計らって食べている。しかも、霜に当たって苦み成分が分解されている木とそうでない木を、事実、冬鳥は見分けている。
 生物学の面白さが、飽くことなくそこから広がる。嗅覚それとも視覚、それに応じる遺伝子は何?

 八子ヶ峰では、レンゲツツジとズミの花が咲く時季が重なるため、そこからは、白樺湖を眺め渡す爽快な風景になる。
 ズミという和名の「酢実」の元は、実が酸っぱいことよるが、本来は「染み」で、樹皮を黄色の染料に用いたことに由来する。果実は、小球形で径6~10mmで、黄熟するものと紅熟するものと変異に富んでいる。ズミの材は硬いので、斧や鉈などの器具類の柄に使われる。
 葉は、冬芽や未展開の中では、2つに折りたたまれている。若枝のものは、しばしば3~5の裂け目が入るなど変異に富むが、一般的には卵形か楕円形で長さ2~10cm、ふつう長枝に付く葉は、短枝のものより大きく、若枝当時のまま3~5の裂け目が入る。
 ズミはバラ科リンゴ属の落葉の低木ないしは小高木と言われるが、根廻り2mを優に超える巨木に成長する。葉や果実の形が種々あって、ハナカイドウ(バラ科リンゴ属)、リンゴ(バラ科リンゴ属)やナシ(バラ科ナシ属)に似ることから、「ミツバカイドウ(三葉海棠)」「ヒメカイドウ」「ミヤマカイドウ」「コナシ(小梨)」「コリンゴ(小林檎)」などの別名がある。図鑑ではズミ(酢実)と表記されている。

 車山高原での開花は遅く、5月中旬頃、ソメイヨシノよりも大きなオオシマザクラやカイドウに似た白い花を、束生状に4~8個付け、枝いっぱいに咲かせる。花の直径は3~4cmほどで、個体差がかなりある。蕾のころは紅色で、通常、咲き始めはピンク色を帯び、徐々に純白へと変化する。そのまま紅色が残ることもある。八島ヶ原湿原の北側にあるズミの林では、3割ぐらいが淡いピンクであるため、美しい風景になっている。
 ヤマザクラの雌しべは一本しかないが、ズミは3~4本、まれに5本あるため、その違いが分かりやすい。
木が小さなうちから開花するので、庭木として管理する場合、徒長枝を適宜切除するが、剪定を繰り返して、小枝の発生を促さないと、次第に花付きが悪くなる。
 リンゴの台木に使われるほど丈夫で、可愛らしい実とは裏腹に、結構な大木となる。大木ほど、花付きがよくなるようで、サクラに似たがく裂片と花弁が各5枚の両性花を、サクラ以上に豊富に咲かせる。
 ズミは、日本のほかに、朝鮮半島や中国中南部でも見られる。かつては、リンゴの台木として、実生から生育したズミが用いられた。近年は、品種改良された矮性台木や中国北部原産の落葉小高木、バラ科リンゴ属のマルバカイドウなどが使われている。
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 4)エゾノコリンゴ
エゾノコリンゴは、鋸歯のある卵形広葉、花はズミより大型 ズミの葉は3つに中裂するものを含む、進化交雑の過程にある
 エゾノコリンゴM. baccata var. mandshurica(蝦夷小林檎)は、山地に生え、庭にも植えられる高さ15mにも及ぶ落葉高木である。エゾは北海道の意で、当地に多いことを示す。エゾノコリンゴとズミの典型的な木であれば、葉の形と色とその大きさ、あるいは花の大きさとその樹形の違いで見分けられる。両種が混生して自然交雑を繰り返す地域では見分けにくい。特に、本州での分布には、未解明な点が残る。
 ただエゾノコリンゴと特定される種は、ズミと同様のバラ科の花であるが、やや大型で純白、しかも樹形が整っているせいか風格が感じられる。果実は濃紅色、または暗紅色で、ズミよりもやや大型である。決定的な違いは、エゾノコリンゴは、若枝に生える若葉ですら、ズミのように3つに中裂する葉は生じない。
 種小名baccataは液果、変種名mandshuricaは、満州産の意味である。
 エゾノコリンゴはバラ科、リンゴ属(Malus )の落葉小高木で、リンゴ属はヨー ロッパから東北アジアに分布する21 種、北米に 9 種が分布しているが、エゾノコリンゴは本州中部から北海道の温帯から亜熱帯に分布する。そのほか千島列島南部・サハリン・ウスリー地方、中国東北部にも生育している。
 日本では、まれと言われているが、車山高原や霧ヶ峰では、比較的多く見られる。ズミとは違い、車山展望リフトの駐車場のエゾノコリンゴは、威風堂々とした他を圧倒する風格がある。果樹類でありながら、同じリンゴ属のズミと同様、病虫害に耐性がある。
 属名のマルス (Malus)はギリシャ語の malos(リンゴ)を語源にする。リンゴ属 は花の花柱の中間部が基部で癒合していることと、果肉中に石細胞stone cell(オオウラジロノキにはある)がないか少ない点でナシ属(Pyrus)と区別されている。
 属を大別すれば カイドウ類・リンゴ類・ズミ類に分けられ、これらの野生種をもとに食用とされるリンゴ類と、観賞用に利用されるカイドウ類やズミ類がそれぞれ品種改良されてきた。
  石細胞は、細胞の細胞壁に、木質素とも呼ばれるリグニン(高分子のフェノール性化合物)、水を吸収して粘稠(ねんちゅう)な状態にするペントザン(5糖類)、結晶化したセルロース、ガラスとほぼ同じ成分でできているケイ酸SiO2系のシリカやプラントオパールなどの物質が蓄積し石のように硬くなるもので、細胞壁が厚く発達し木に近い状態に木化して、その細胞自体は死んでいる場合が多い。
 石細胞は、植物の皮などに含まれ、野菜や果物の皮の部分にも多く含まれる。オオウラジロノキの果肉には、石細胞があるが他のリンゴ属の多くの種にはない。一方、ナシ・フェイジョア・バンレイシ・マルメロなどは果肉に多くの石細胞が蓄積している。
 植物の表面にある石細胞は、組織を固くし保護するためといわれている。石細胞は、食べた時の食感としては、ナシのシャリシャリ感やバンレイシの砂糖を噛むようなジャリジャリした食感それにあたる。
 その石細胞は人間の胃腸では、消化されないまま腸を刺激し便通を良くする作用で働く。
 エゾノコリンゴの葉は楕円形~広卵形で、同属のズミのように中裂する成葉が混じるようなことはない。  
 花は、白色~淡紅色のつぼみを短枝の先に5個前後付け、開花期は5~6月、小花柄(花を直接つける柄)は長さ 3~4cm で、基部の若葉より長く抽出する 。径3-4cmの白色の5弁花となり、花弁の長さは2~2.5cm、平開(花弁や花被片が平らに開く花)し縁と内側に軟毛がある。花柱は 5(まれに 4 個)で、中頃以下に白軟毛が密生する。 果実は径1cmの濃紅色に熟し、結果枝(結実する果樹の枝)が下に垂れる倒卵状球形で、濃紅色に熟し蕚裂片は早落性で、果頂には萼裂片の落ちた円い脱落痕が目立つ。
 エゾノコリンゴ(蝦夷小林檎)は、中部以北から北海道の海岸から山地に分布する。和名は、リンゴよりも形が小さく、北海道に産することに由来するという。別名サンナシ(山梨、ヤマナシとは別)・ヒロハオオズミ(広葉大酢実)とも呼ばれている。 若枝は初め軟毛があり、しばしば茎針(植物の茎が変形)もある。葉は互生して先が尖がり楕円形で、ズミのように中裂せず、縁に細かい鋸歯がある。両面に幼時の軟毛が花期まで残るが、後に無毛となる。側脈(葉脈の細い部分)は5~6対、先端は直接鋸歯に入らず、葉柄は長さ1~3cmで軟毛があり、花後は長さ3~5cmになると無毛になる。
 エゾノコリンゴの材質は、重くて硬く、割れ難いため、斧、鍬などの柄に用いられたという。 リンゴの各品種は、体細胞が突然変異して生じた枝変わりや、交配の結果生じた多数の実生から目的に近いただ一個の個体を選択して得られた優良種である。雑種強勢が断たれるため種子で増やすことはできない。また、栽培されているリンゴは、挿し木や取り木をしても、発根はしない。いままで、接ぎ木だけで増やしてきた植物である。
 接ぎ木の方法は、かつては、リンゴの台木も使われた。 栽培リンゴそのものの実生を、台木として試用されたが、リンゴ実生台は変異が大きく、果実品質に、青実が多く、糖度も低いことなど、穂木としては大きく成長しても、日本では実用には至らなかった。
 エゾノコリンゴは、青森県では、自然状態では、下北半島と三戸郡の太平洋側の極く限られた地域にしか分布しないが、過去に台木として使われたようで、古いリンゴ畑跡地に、時々株跡の痕跡が残っているようだ。
 エゾノコリンゴに良く似た同属の落葉小高木ズミの学名はMalus toringで 、北海道から九州まで広く分布しているので、エゾノコリンゴより良く知られている。特に関東や 中部地方でよく見かけまる。ズミとエゾノコリンゴ、それぞれに個体差が有って判別しにくい個体が多い。一般的にはエゾノコリンゴの葉が中裂しないのに対して、ズミは葉が 3~5 に中裂している ものが有りる。
 また、エゾノコリンゴはズミより、葉に長さは4~12cmとやや大きく、個々の花を支える小花柄は3~5cmで、花は直径3~4cmで、鮮やかな純白で黄色い葯が印象的、花の大きさはやや大きめで、花柄は長い。若葉の出方もズミは2つ折りで出てるが、エゾノコリンゴは冬芽や未展開の葉が巻き込まれている。 生育期には、 ズミとの区別が難しいが、エゾノコリンゴの花柱は4~5本、稀に3本であり、長枝に付く葉は中裂していない。ズミには、3裂する葉が混じっている。
  リンゴ属の中で古くから観賞用として利用されて来たものに原産地不明のハナカイドウ( M. halliana )、中国原産のカイドウ( M . micromalus )がある。中国では古くから庭園花木として利用されてきた。日本では江戸時代に渡来したと言わ れている。ハナカイドウは4~6cmの長い花柄を持つため、枝垂れ咲きになることから「垂糸海堂(すいしかいどう)」とも呼ばれている。ハナカイドウは花が淡紅色で鮮やかなだけでなく、葉に光沢が有り、樹冠も明るい褐色で観賞価値が高く、数々の園芸品種が作出されてきた。カイドウもまた果実の鮮やかな紅色が喜ばれ盆栽など に広く利用されている。
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 5)オオウラジロノキ
 オオウラジロノキは、本州や大分県竹田市久住町九重山(くじゅうさん)の温帯に分布するリンゴやカイドウの仲間で、高さ9~15m、幹は直径30~40㎝の山地に生える落葉高木である。20mを超える巨木もある。人が余り入っていない落葉樹林帯で見かけるやや稀な木と言える。亜高山帯の針葉樹林内でも見られる。短枝と長枝の区別があり、葉は互生し、葉身は広卵形~広楕円形、長さ5~14㎝、幅4~9㎝、先は鋭形、基部は円形~浅い心形、その縁は不揃いな鋸歯か大小のギザギザが縁取る重鋸歯、幼葉には両面とも白色の綿毛が密生し、成葉になると表面が無毛、裏面は白い綿毛がやや密にあり、それがオオウラジロノキの名の由来となった。葉柄は長さ2~4㎝、白色又は淡褐色の綿毛が密生する。托葉は長さ約1㎝の線形で早落性、葉が成長する間に脱落する。
 車山の南東にあたる白樺湖を源流にする音無川の流域に沿う国道152(大門街道)を走る車窓から、5月下旬以降になると、「大門おろし」 と呼ばれる山風に、オオウラジロノキの真っ白な葉裏が、花が舞うようにそよぐ光景が、しばしば観賞される。
 リンゴ属は、北半球の温帯から亜寒帯に30種あるが、種間雑種が生じやすい。無融合生殖apomixisする倍数体(体細胞はふつう二倍体2nで、三組もつものを三倍体3nなどと呼ぶ)もある。
 花柄は長さ2~2.5㎝。花は径3cmほどの白色か、先がピンク色の5弁花で、短枝の先に4-6個が束生状に散形花序を付ける。雄しべは多数あり、雌しべの花柱は5個で基部が合着している。
 オオウラジロノキの果実は、ヤマナシほどの大きさになる。そのため「ヤマナシズミ」や「ヒメナシ(姫梨)」と言う別名がある。径2~3cmほどのナシ状果で球形、頂部に萼片が残り、直立し、黄緑色から淡紅色に熟す。外果皮に皮目が多く、果肉は緑色を帯びた白色で、リンゴの仲間には珍しく果肉に石細胞があり、リンゴ属の他の多くの種と異なる。またリンゴのような酸味がある。
 車山高原の紅葉には、欠かせない美しく.発色する紅色である。
 アズキナシ(等間隔の側脈が美しい)
 オオウラジロノキは、「オオズミ」とも呼ばれるが、これはズミの変種のオオズミと混同されやすい。
 和名の似たウラジロナナカマドはナナカマド属の種で、名前のように葉の裏が白く、葉の上半分にノコギリ状の鋸歯があるのが特徴。 ナナカマドより、高山に育ち、背丈は1~2mと低い。葉は奇数羽状複葉で互生する。花は径1~1.5cmと小さく、複散形花序を出し、果実も小形(長さ1cmあまりの卵状楕円形)である。花や実は上向き、秋にはみごとに紅葉する。その葉が枯れ落ちても、赤い実だけが鮮やかに残る。
 アズキナシ(小豆梨)は、バラ科アズキナシ属の落葉高木であるが、バラ科のナナカマド属と見られてもいる。樹高は15mを超える。花期は、車山高原下部の落葉樹林帯では、4枚の純白の花弁が美しいヤマボウシが咲き始める6月上旬と重なる。雑木らしい大らかな樹形と、ナナカマドのような複散形花序と、秋に実るくすんだ朱色の、ズミほどの大きさの果実など観賞性が高い。近年、育てやすい庭木として愛用されている。10月頃にできる実は、外見がアズキに似ており、ナシと同じような「石細胞」を持つことからアズキナシと名付けられた。黄葉もミズナラのような深みのある色合いである。
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