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 対称性の破れ
 
 目次  量子化学
 1)インフレーション宇宙  ニールス・ボーアとアインシュタイン
 2)素粒子の役割  元素の周期表
 3)スピン  デモクリトスの原子論
 4)素因数分解を利用したアルゴリズム  相対性理論「重力」
 5)量子コンピュータ  相対性理論「宇宙論」
 6)原子核   相対性理論「光と電子」
 7)CP対称性の破れの謎  太陽系の物理
 8)CP対称性を破る  量子力学
 9)量子力学(複素数方程式)   質量とエネルギー


 1)インフレーション宇宙  
 アインシュタインは「宇宙の始まり」など、考えること自体馬鹿らしいと考えていた。しかし、観測技術の向上とビッグバン理論の提唱により「宇宙には始まりがあった」とする考え方が次第に認められ、やがて科学的な宇宙の誕生理論が形成されてきた。
 138億年前に最初の宇宙が生まれた。誕生後間もない宇宙は、10-34cmという極小の世界であった。それが、誕生後10-36秒から10-34乗秒後の瞬時に、10100倍の大きさに一気に膨張する。これが「インフレーション宇宙」と呼ばれる。
 「インフレーション宇宙」は、直後にビッグバンを起こす。ビッグバン直後の宇宙は100兆から1000兆℃という高温・高密度の状態で、物質は素粒子だけでプラズマ状態にある。宇宙誕生から1万分の1秒後になると、温度は1兆℃まで下がり、素粒子は互いに結びついて陽子や中性子を形成した。
 宇宙誕生から3分後、温度が10億℃ほどになると、陽子と中性子が結びついて原子核が生まれる。この原子核が電子を捕まえて原子が生まれたのが、宇宙誕生から38万年ほど経過し、宇宙の温度が3000℃まで下がったころであった。
 電子が原子核と結びついたことで、光子は電子に邪魔されず直進できるようになる。これにより宇宙に光が満ちあふれた。これを「宇宙の晴れ上がり」と呼ぶ。
 宇宙誕生からおよそ4億年が経過したころ、星や銀河が形成されるようになり、現代の宇宙の姿が現れた。 宇宙は、ビッグバン以降、非常に高温・高密度な状態から膨張を続けて来たことが、様々な観測と理論から、初期宇宙の動態が確認されている。宇宙が誕生してから約1秒後、温度は約100億℃だった頃の証拠も観測されている。
 1965年に、宇宙のあらゆる方向からマイクロ波が飛んでくることが確認された。これを「宇宙背景放射(宇宙マイクロ波背景放射)」と呼ばれる。このとき捉えられたマイクロ波の温度は、絶対温度で3K(約-270℃)であった。このことから、宇宙は誕生時の138億年前は非常に高温高密度であったが、膨張していくにつれて3Kまで温度が下がったと考えられている。これがビッグバン宇宙論の根拠とされた。
 高温・高密度の世界では、物質同士が高エネルギーで乱雑に衝突をくりかえしていた。その様子を正しく理解するために、素粒子とその反応を記述する、素粒子物理学の研究が積み重ねられてきた。その成果を集約する「標準理論」であった。それでも、残念ながら究極の理論には達していない。例えば、今までの物理天文学の標準理論などのでは、宇宙の平均エネルギー密度の約27%を占める暗黒物質dark matteの正体が解明されていない。 一方、暗黒エネルギーdark energyは、宇宙全体に均等に分布し、宇宙の膨張スピードをどんどん加速させる力を持っている。暗黒エネルギーは現在、宇宙のエネルギーの約69%を占める。最新の観測では、この2つが何と宇宙全体の96%を占めていることが分かった。人類が知っている通常物質は、宇宙の存在の4%程度と見られている。しかし、その正体はどちらも未だ不明である。
「暗黒」とは、電磁相互作用をしない意味であり、望遠鏡などの光を使った観測では直接捉えらることができない。しかし、重力相互作用はするため、銀河の回転の仕方などに影響を与えている。この暗黒物質の検出とその粒子の性質を解き明かすことが、宇宙物理学の最重要課題の一つとなっている。
 アリゾナ州ツーソン近郊のキットピーク国立天文台には「ダークエネルギー分光装置Dark Energy Spectroscopic Instrument(DESI;デジ)」が設置されている。この装置の運用が始まってからわずか7カ月で、従来の成果を上回る規模の銀河の位置を地図として描き出した。この史上最大規模の「宇宙の地図」のデータは、謎に満ちていたダークエネルギーの実態を、AIやディープラーニングDeep learningなどの最新技術よって解き明かされることが期待されている。 この共同プロジェクトを主導するローレンス・バークレー国立研究所の研究者ジュリアン・ガイは「このプロジェクトには科学的に明確な目標があります。それは宇宙の加速膨張を高い精度で観測することです」と語る。
  暗黒物質や物質・反物質の非対称性を説明するには、標準理論を超える物理学が必要である。しかも、他にも標準理論を超える理論が必要だと考える様々 な事象が観測されている。標準理論を超える理論として、世界中の素粒子に関わる研究者が、いろんな可能性を示している。そこでも、対称性とその破れが、様々な形で重要な課題として現れて来る。
 「自発的対称性の破れspontaneous symmetry breaking」は、真空には場が詰まっていために、対称性が破れているとも考えられる。ここでは、symmetryとは、(左右の)対称性を意味する。物理学における対称性symmetryとは、ある特定の変換の下での、系の様相の「不変性」を言う。

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 2)素粒子の役割
 物質粒子はすべて、6種類の「クォーク」と6種類の「レプトン」と呼ばれる素粒子から構成されている。
  宇宙に存在するあらゆる物質は原子により作られている。原子の中核となる粒子が原子核で、その原子核を構成する核子である陽子と中性子が強い核力で結合している。つまり、原子核を構成する核子が原子の質量の大部分を占め、正の電荷を持つ。原子核の構造には謎が多く、それが持つエネルギーや環境によって様々に姿を変えっているようだ。
 核力の「強い力」を媒介する力のゲージ粒子がグルーオンである。グルーオンが物質粒子のクォークを結びつけ、陽子や中性子などの核子を作り、その核子から原子核を作る「強い力」として働く。
 通常、「クォーク」は単独では存在せず、おおむね2つや3つの素粒子として、ハドロンhadronを構成する。「ハドロン」とは、「強い相互作用で結合した複合粒子」を言う。身近な存在として、原子核を構成する陽子・中性子のように、クォークと反クォークと、その結合を媒介するグルーオンから構成されており、3つのクォークから構成される陽子や中性子などのバリオンbaryon(強粒子)と、π(パイ)中間子のようなクォークと反クォークの対から構成され、強い相互作用を媒介するグルーオンの働きによって結合した複合粒子の一種であるメソンmeson(中間子)に大別される。π中間子は、スピンをもたないボソンと呼ばれるゲージ粒子である。
 ヒッグス粒子もボソン粒子の1つ。ボソンとは特定の粒子を称するのではなく、粒子を分類する指標の1つである。「標準理論」では、「弱い力」を伝える3種類のゲージ粒子gauge bosonの1つウィークボソンで、「スピン」と呼ばれる固有の角運動量を持っている。そのスピンが、ある量の単位で測った時に、0, 1, 2,...といった整数倍であるならばボソンに分類される。
 ゲージ粒子は、ボソンの交換によって、素粒子間の相互作用を仲介する。電磁相互作用のための光子、弱い相互作用のためのWおよびZボソン、そして重力相互作用のための重力子(未だに未発見)、および強い相互作用を伝えるグルーオンなどである。なぜ「強い力」と呼ばれるかは、電磁気力よりも強いからである。既知のゲージ粒子のスピンは1であるが、ヒッグス粒子のスピンは0で、仮想重力子のスピンは2とみられている。
 また、「ハドロン」とは強い相互作用を行なう核力を感じる粒子の総称で、粒子が持っているスピン(素粒子固有の角運動量)の量が半整数 (1/2, 3/2, ···)のものをバリオン、整数(0, 1, 2,... )のものをメソンと言う。

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 3)スピン
  どんな原子でも、原子核を中心にしてその周囲をいくつかの電子が回っていることが分って初めて、磁性の基本的な担い手である電流が電子によるものであることが明らかになった。さらに、電子の自転も磁石の性質を持つ。これにより生じる磁気モーメントを、スピン磁気モーメントと言う。陽子と中性子の磁気モーメントは、電子のものに比べて小さい。原子の磁気的性質は、主として電子殻(電子は、原子核の周りに層に分かれて存在している。この層を電子殻と呼ぶ)の性質によって決まる。
 電子は【質量】、【電荷】の他に、自転に相当する角運動量【スピン】という粒子固有の物理量を持っている。電子が【スピン】の向きを揃えて動くことで、【スピン流】と呼ばれる角運動の流れが生じる。【スピン】角運動量は、磁場に応答する磁気モーメントを起源とするから、電子は磁場中で2つの異なったエネルギー状態に分離していることになる。
  【スピン】を持つことで、電子は微小な磁石として振る舞う。スピン間の結合が強いと、物質は多くの電子スピンが同じ方向を向く強磁性と呼ばれる状態になり、磁石を形成する。
 一方、電子が動くと、電荷の移動によって【電流】が発生することはよく知られている。その電子がスピンを有しているため、電子がスピンの向きを揃えて動くことで【スピン流】なる角運動の流れが生じる。【スピン流】とは、逆向きのスピンを持つ電子が、それぞれ逆方向に向かう流れであり(例えば、上向きスピンを持つ電子は右方向に、下向きのスピンを持つ電子は左方向に移動する)、電流が電荷を運ぶのに対し、【スピン流】は角運動量を運搬する。

 【スピン流】を磁石に注入すると、磁石を動かすことなくN極とS極を反転することができる。また、特定の物質に【スピン流】を流すと電流を取り出すこともできる。
 また、物質中の原子の高速運動が、【スピン流】を誘発し、その生成された【スピン流】から電流が生じることもわかり、【スピン流】を介した一種の【振動発電】を見出した。【スピン流】による【振動発電現象】と呼ばれる。

 電荷をもつ電子が、原子核に束縛された電子の波としてする軌道運動(電子軌道)により、軌道電流が生じる。つまり、軌道電流は電子の軌道角運動量に置き換えて述べることができる。この軌道電流が磁場を生み出す。この軌道が生み出す磁気モーメントを軌道磁気モーメントと呼んでいる。したがって、主に電子の軌道運動による電流と、電子のスピン(自転に相当する角運動量)によって磁気モーメントが生じる。電子のスピン磁気モーメントは、軌道電流の生み出す磁場と互いに相互作用()をおよぼし合う。この相互作用は、【スピン軌道相互作用】と呼ばれている。
  電子のスピンと回転運動が結合することは古くから知られているが、【スピン軌道相互作用】を介して原子の高速振動から【スピン流】が生成されることは、全く予測されていなかった。力学的運動とスピンの間に、相互作用が存在することになる。
 もともと電磁気作用中でも、磁気的作用を媒介にしている。この相互作用は、常に存在しているが、電気的な作用よりも極端に小さなエネルギーが働いている。そのため普段はあまり意識することができない。その一方、このエネルギーの小ささが、将来の低エネルギー消費化社会の実現のために不可欠なものとなる。

  この【スピン軌道相互作用】に支配されている最も日常的な現象が、磁石である。この電磁石は、コンピュータのデータ記憶装置に使われている磁気記録媒体など、その用途は非常に幅広く、しかも、その記憶媒体などが記憶するためのエネルギー消費は極めて僅かである。例えば、永久磁石と呼ばれる電磁石は、長期間その磁石の性質を失わず、N極とS極の情報をいつまでも記憶している。その記憶(メモリ)を書き換える際に、エネルギーを必要としているだけである。
 コンデンサーなどの電気を使った記憶には、電気をためておくために極板(きょくばん)間の電位を保ち続けなければならない。
  つまり、【スピン軌道相互作用】を使った現象を使うことにより格段に、エネルギー消費を抑えることが可能となる。
 電荷の移動には電子の散乱、つまり、「ジュール熱」の発生を伴うため、帰還させることができない大量のエネルギーを消費してしまっている。「ジュール熱」は、抵抗がある導体に電流を流したときに発生する熱エネルギー、つまり「消費電力」、単位はW(ワット)を用いる。
 このため、ジュール熱の大きさは、抵抗に流れる電流を制御すればよいので、移動する距離を小さくし、散乱機会を減らす努力つまりデバイスの小型化が推奨されている。さらなる小型化には、電子の量子効果による電子機器の機能向上が図られている。

 磁場がなくても、電子は運動すれば【スピン軌道相互作用】により「有効磁場」を感じ、上向きスピンの電子と下向きスピンの電子は逆方向の力を受ける。このため、電流を流すと電流とは垂直方向に、電荷の流れを伴わない【スピン流】が生じる。 
 電子が含む情報は、電荷だけでなくスピンの情報もある。電子スピンのN極とS極に相当する情報量は、2倍の情報を持つことが可能となる。電子の電荷の移動により以前よりも2倍の情報を伝達することができるようだ。このように電子スピンの自由度も取り入れる電子デバイスの技術は、現代の情報化社会を支える機能レベルまでに達成しており、このような技術を一般に、スピンエレクトロニクスと呼んでいる。
 エレクトロニクスは電流や電圧を信号・情報として利用する技術で、電流や電圧は電子のもつ「電荷」から生じるものであるが、電子は電荷のほかに「スピン」をもっている。スピンは微小な磁気モーメントとして振る舞うため、スピンの向きも信号・情報として利用できる。電荷だけでなくスピンも利用したエレクトロニクスは、近年、実際にスピンを利用した電子デバイスが多く提案試作されている。スピントロニクスは次世代エレクトロニクスの最有力候補として、ビッグデータの解析・ポートフォリオ最適化・AIの開発・交通渋滞の解消・創薬・早期疾患検出・タンパク質折り畳みやルート選定(タンパク質のダイナミクスな構造が生物学では重要で、本来の構造に折りたたまれないと、一般に不活性なタンパク質が生成されるか、場合によっては、誤って折りたたまれたらばタンパク質の機能が変更されたり、毒性が生じたりする)などに大きな進展をもたらすと言われている、量子コンピュータなど最先端の技術開発を加速させている。

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 4)素因数分解を利用したアルゴリズム
 アルゴリズムalgorithm(通常は「演算法」の意味)とは、コンピュータが情報処理を行なう場合の基盤となる、計算や問題解決の手順のことである。コンピュータにアルゴリズムを指示するための、操作の並びを記述したものが、プログラムにほかならない。
 また、素因数分解問題は、その難解さから現在公開鍵暗号として普及している「RSA暗号」の安全性の根拠になっている。
 (素因数分解とは、自然数を「1」とその「数」自身以外に約数を持たない数を「素数」と呼び、その積になるまで分解する。素因数分解とは、自然数を素数のかけ算のカタチにし、素因数分解したときに、素数と素数の乗数を掛けて「正の整数【自然数】 」になるようにする。  100=22×52、300=22×3×52、900=22×32×52 
 1以外のすべての自然数は、素数であるか、素数の積であるかのいずれである。)

 公開鍵暗号方式の仕組みは、受信者が作成する「公開鍵」と「秘密鍵」の2つの鍵を利用してデータの送受信を行う。「公開鍵」は、通信内容を暗号化するための「共通鍵」としてサイトの運営者と閲覧者の間で共有する。共有された「共通鍵」を用いた共通鍵暗号方式で、個人情報やログイン情報などの通信データを暗号化して通信する。
 公開鍵暗号方式と共通鍵暗号方式を組み合わせたものとして、SSLの技術が開発された。クレジットカード番号などを登録する際には、このSSLを使ってデータを送受信している。SSLを導入すると、インターネット上の通信はランダムな文字列に暗号化されるため、第三者が盗み見たとしても、内容を特定することができない。ホームページのアドレスの冒頭が「https」で始まっているものはSSLが適用されている。
 「秘密鍵」は1つしかない重要な鍵、「秘密鍵」は受信者が大切に保管し、「公開鍵」は1つだけ作成し公開すればいいので、公開鍵の管理は容易である。
 「秘密鍵」を持つ受信者のみが暗号を解くことができる仕組みになっている。
 1. 送信者は受信者の公開鍵を取得する。
 2. 平文(暗号化したい文)を送信者が公開鍵を使い暗号化し送付する。
 3. 受信者が暗号文を受け取る。
 4. 受信者は暗号文を秘密鍵で平文に復号化(データを読める状態に戻す)する。

 高い安全性の裏返しとなるのが、暗号化と復号が複雑で処理に時間が掛かることである。総当たりする以外に素因数を見つけ出す方法がないため、大きな数字を素因数分解するのは困難である。したがって、コンピュータで素因数分解しようとしても、大きな数であれば膨大な時間が掛かる。この仕組みを利用した暗号が「RSA暗号」である。RSAは発明した3人の名前「R. L. Rivest、A. Shamir、L. Adleman」に由来する。
 素因数分解可能なビットbit数の検証は、「RSA暗号」の安全性や強度の有効性をより精密に予測する上で極めて重要である。これまでの世界記録を大きく上回る700ビットを超える素因数分解が可能になり、将来的には「RSA暗号」で使われている1024ビットの素因数分解も達成できる可能性が予測されている。
 (32ビットは「2の32乗」、64ビットは「2の64乗」の情報を一度に処理できるメモリー容量の上限)
 その延長線上として、「RSA暗号」より強度が高く、より効率的な暗号技術を利用する必要性も高まるだろう。
 素因数分解の難しさを安全性の根拠にするということは、逆に言えば、膨大な時間を掛けてコンピュータが演算すれば素因数分解されてしまう。素因数分解の処理速度がより加速されれば、現在、金融分野を中心に広く採用されている暗号が、すべて容易に解読されると言われている。
 量子技術は、次世代の暗号技術として各国が研究開発に取り組み国際競争が激化している。新しい製品の研究開発が成功すれば、新たな技術革新が誘発され、やがてより精度の高い経済数値の予測が可能になる。

 通常使うコンピュータは、数値を2進数で表す。すなわち、コンピュータが計算する際の基本単位は、0か1のどちらか一方の状態をとる「ビットbit」と呼ばれる量である。つまり、2 つの可能な状態のうちの 1 つしか選べない。量子コンピュータと従来型のコンピュータとの比較において、現在のコンピュータを古典コンピュータと呼び、その基本単位であるビットを古典ビットと呼ぶことが多い。量子コンピュータが計算する際の基本単位は、量子ビットquantum bit(qビット)と呼ばれ、0状態と1状態の「重ね合わせ」の連続値で示される。 
 量子コンピュータの並列性の高さや高速さは、この状態の「重ね合わせ」が利用されて実現できる。古典ビットの状態は2値化されているが、量子ビットの状態は連続値でため、それを重ねれば古典コンピューターよりも指数関数的に高速で問題を処理できる能力が持つ。
 ただ量子コンピューティングの最大となる課題の1つが、量子ビットが壊れやすい性質を持つことにある。量子の基本的な性質となっている物理量の不確定性が支配し、「そもそも量子の世界での測定とは何か(観測問題)」、「量子もつれと呼ばれる状態にある離れた2個の粒子の間の不思議な遠隔作用(非局所性の問題)」などとも関連し、現代でも様々な現象や疑問の源泉となっている。その一方では、現代では「実験物理学」が主流となり、その成果の解析がスマホから宇宙航空にまで及ぶ技術革新に大いに貢献している。
 量子ビット系のもつれと、測定設定などの環境は、系を容易に乱し、また並行処理をする装置のため、重なりの消失と呼ばれる量子デコヒーレンスQuantum decoherence(量子世界で起こる状態の重ね合わせが壊れることにより情報が失われること)を引き起こす可能性がある。そのため、現在、量子コンピューティングのハードウェアの構築やエラー修正手法の開発が進んでいる。このため、現在作られている量子コンピュータは、装置自体かなり大掛かりになるようだ。

 2015年、NASA(航空宇宙局)のエイムズ研究センターで行われたNASA・USRA(大学宇宙研究連合)・Googleなどによる記者会見で、2011年にカナダのベンチャー企業の「D-Wave社」がシステムズが開発した量子コンピューターの性能テストを行った結果は、従来のコンピューターに比べて1億倍高速であると発表された。
 「D-Wave社」は、量子コンピューティング・システムおよびそのソフトウェアを開発し提供し、世界で唯一量子コンピューターを販売している。「D-Wave社」の量子コンピューターは、ロッキード・マーティン、Google、NASAエイムズ、ロスアラモス国立研究所、オークリッジ国立研究所などの世界屈指の先進的組織が使用している。

 スーパーコンピューター「富岳」のCPU「A64FX」を搭載した「FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX700」で構成するクラスタシステム上で、36量子ビットの量子回路を扱うことができる世界最高速の量子コンピュータシミュレータ(以下、量子シミュレータ)を開発しました。
 本量子シミュレータは、量子シミュレータソフトウェア「Qulacs」を高速に「並列分散処理parallel distributed processing」を可能にすることで、36量子ビットの量子演算において、他機関の主要な量子シミュレータの約2倍の性能を実現しており、数十年先の実用化が見込まれる量子コンピュータのアプリケーションを先行開発することが可能になった。
 「並列分散処理」では、複数の分散した処理ユニットが、同時並行的に情報処理を行う方式である。従来のコンピューターでは、単一の中央処理ユニット(CPU)が、情報処理を直列(継時的)に行っていることと対比される。
 そのため、中央の処理ユニットが故障すれば情報処理全体が破綻してしまう直列集中処理に対し、複数の処理ユニットを持つ並列分散処理では、一部の処理ユニットが故障してもある程度の処理が継続できる。こうした障害への頑健性も並列分散処理の利点である。
 これを受けて富士通は、2022年4月1日より、富士フイルム株式会社と共同で、材料分野における量子コンピューターアプリケーション(量子アプリケーション)の研究を開始している。
 量子コンピューターの実用化を見据えたアプリケーションの開発を加速し、2022年9月までに、世界最大級となる40量子ビットのシミュレータを開発する計画も明らかにした。 
 「量子技術を活かした社会課題解決に向けて、大規模な量子シミュレータを公開していく予定であり、2022年9月までに40量子ビットの量子シミュレータを開発し、より多くの人に使ってもらいたいと考えている。その規模と高速性を生かし、いままでにないようなアプリケーション開発が加速することを期待する」と、「2023年度には、理研RQC-富士通連携センターで開発している超伝導量子コンピュータの実機が公開できる予定である。これを使って、先行開発してきたアプリケーションを検証できる。さらに、2024年度以降は、エラー訂正技術も実装する100量子ビット超える超伝導量子コンピューターの実機を公開する予定にある。量アプリケーション領域を広げ、社会課題の解決につなげたい」と述べた。
 NECも2023年までの実用化を発表している。

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 5)量子コンピュータ
  古典コンピュータでは、情報の基本単位を「ビットbit=binary unitの略」とし、それぞれを「0」か「1」の状態を、コンピュータでは、情報の基本単位ビット取ることによって、2進数で数を保持し、演算を行う。
 コンピュータの内部で計算を受け持つ半導体の演算装置(CPU)は、電気のONとOFFによってデータを記憶し、それをまた電気的に操作することで計算を行う。つまり、コンピュータはONとOFFしか理解できない。そのため数字だけでなく、言葉や画像や音楽も、コンピュータの内部ではONとOFFという二進数、つまりビットに変換されて処理され、記憶されている。
 古典コンピュータの「ビット」では0または1のどちらかの状態を表すことができるが、2つ以上の状態を同時に表すことができない。実際のコンピュータでは、0か1の状態を表すのに、電圧をオン・オフで切り替えて行なっている。
 一方、量子コンピュータでは、状態の「重ね合わせ」という量子力学的な基本性質を用いる。「重ね合わせ」により、2つまたはそれ以上の状態を同時に表すことができる。
 「重ね合わせ」を、分かりやすく言えば「コインが回っている状態」、コインが「表」や「裏」だと決まっているときには、「コインが回転をやめて、倒れた状態」ことを言う。
 しかし、コインが回転しているときには「表」と「裏」が未決定の状態で、「回転中」という状態、いわば、観察するまでどちらかが分からない状態を「重ね合わせ」と呼ぶ。
 もっと直感的に言えば、量子コンピュータの情報単位は、「重ね合わせ」により状態が2つ以上であり、0でもあり、1でもあり、2でもあり、3でもあるという状態になる。
 しかし、重要なのは、観測されるときには、「0」か「1」か「2」か「3」のどれかが必ず観測される。
 このような重ね合わせによる量子コンピュータの情報単位のことを、「量子ビットquantum bit」と呼ぶ。
 量子ビットは、例えばn量子ビットあれば、2のn乗の状態を同時に計算できることになる。
 IBMリサーチ 量子研究所 360度パノラマ映像上の例では、「0」「1」「2」「3」は確率的に「重ね合わせられている」と言える。「確率的」であるので、実は量子コンピュータでは観測するごとに結果が違っていることになる。

 スピン軌道相互作用は、白金・金、あるいは鉛といった重い元素で、顕著に現れる。また磁性体での磁気異方性の起源として、スピン軌道相互作用が重要となる。

 イギリスの物理学者デイビッド・ドイッチュは、量子コンピュータは「同時並行に存在する複数の世界で、同時並行に計算するものである」と言う。やがて、SFの世界で感じられる複次元の実状が、同時に観測できるということになる。

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 6)原子核
 物質粒子「レプトン」は、「クオーク」と異なり、核力を感じない粒子、つまり電磁気力と弱い相互作用しか感じない粒子で、特に電荷を持たない粒子(弱い相互作用しかしない粒子)をニュートリノと呼ぶ。いずれもスピンは1/2。
 ニュートリノは他の粒子と弱い相互作用しかしないので殆どの物質を通り抜ける。地球でさえもすり抜けてしまう。
 核力は陽子や中性子がパイ中間子などを交換することで伝わるが、それも元をたどればクォークとグルーオンの相互作用として理解できる。このようなクォーク同士の相互作用を強い相互作用と呼ぶ。この強い相互作用の理論が「量子色力学(りょうしいろりきがく)」である。
 また、それらの基本相互作用の伝達を、粒子を交換して3種の力を引き起こすのが、「電磁気力()」「強い力(グルーオン)」「弱い力(Zボソン・W+ボソン・W-ボソン)」の3種類のボーズ粒子(boson=ゲージ粒子gauge boson)と、「質量(重力)」を与えるヒッグズ粒子のたった4種類であることが明らかにされた。
 これまでに発見された素粒子には、強い相互作用に関わるクォークと、関わらないレプトンがある。不思議なことにこれらの物質粒子は、質量だけが異なり他の性質がまったく同じ3つの組に分類することができ、これらの組のことを、「世代」と呼んでいる。
 第1世代のクォークはu(アップ)とd(ダウン)で、陽子や中性子といった核子は、これらの組み合わせから成る。陽子はuクォークが2つとdクォークが1つ、中性子はuクォークが1つとdクォークが2つから作られる。核子がいくつか組合わさって原子核をつくり、原子核のまわりに電子がまわって原子を作る。電子も第1世代のレプトンなので、通常、自然界にある物質はすべて第1世代の素粒子からできていることになる。

 実際、u(アップ)とd(ダウン)クォークが組み込まれ uud と uddという塊になる。ハドロンのなかでも安定した陽子と、ほぼ安定的な中性子(半減期10.8分)からなる3つのクォークがバリオンを作る。
 電荷を持たない中性子は、単独で真空中にある場合、10.8分の半減期に従い陽子と電子に壊変する。ほぼ同じ重さの陽子とともに核子として、原子核を構成する。
 この原子核は核子の組み合わせにより、安定した安定同位体Stable Isotopeと、不安定な放射性同位体Radio Isotope(RI)とがある。中性子の特性は、どのような相互作用が起こるかで判断されることになる。
 中性子が持つエネルギーに依存して多様な反応が起るため、中性子が存在する場における相互作用は、中性子のエネルギーとその対象次第で、質的にも量的にも異なって生起する。

 クォークには、第1世代のu(アップ)クォーク・d(ダウン)クォークに次いで、軽いほうから順に第2世代のs(ストレンジ)・c(チャーム)クォーク、第3世代b(ボトム)・t(トップ)クォークがあり、これら3 つの組は不安定ではあるが、ハドロンの一種バリオンを形成する。
 s クォークを 1 つ含む uds の塊は、Λ(ラムダ) 粒子と呼ばれ、陽子や中性子とともに原子核を構成することが以前から知られていた。このΛ 粒子、つまり s クォークを含む「奇妙strange」と名付けられた「ストレンジな原子核」は、通常の原子核と区別して「ハイパー核」と呼ばれ、π中間子・陽子・中性子を放出して瞬時に崩壊する。
 ハイパー核は、約100億分の1秒の寿命しかなく、我々の身の回りには存在しない。しかしながら、ハイパー核は、クォークからバリオン、バリオンから原子核がどのような仕組みで形成されるのかを理解するうえで重要な研究対象となる。
ハイパー核の構造を調べると、核内でΛ粒子が陽子や中性子から受ける力が分かる。この情報は、陽子・中性子間に働く力(核力)をより根源的なクォークに基づいて理解するうえで大いに役立ち、この宇宙でなぜクォークが原子核を形づくったのかを深く理解することにつながる。

 Λ粒子と中性子の両者には電荷がない。しかし、両者は同じ様なものではない。両者には、寿命や質量のほかにも、束縛エネルギー(核の結合エネルギーは核種の特性に着目して導いたワイツゼッカーの質量公式によりほぼ求めることができる。現在約1,900種の核種が知られているが、うち280種が天然の安定核種である)や励起状態準位(量子力学では、粒子の離散的な多数のレベルに対応するエネルギーを区別するため、エネルギー準位を提示する。そのエネルギー準位が低い状態から高い状態に遷移することを励起と呼ぶ)などに明らかな相違がある。この違いは、「Λ-核子相互作用」と「核子-核子相互作用」の違いに由来する。さらにこの違いはバリオンに含まれるクォークの違いによっても生じる。
 そもそも、核子と核子の相互作用は、基本的にはπ中間子を媒介して、両者が接近した際におけるクォーク同士の直接的な相互作用によって生じると考えられている。一方、ストレンジクォークという異種のクォークを持つΛ粒子は、こうした相互作用の仕組みが通常の核子とは異なり、ハイパー核は、その通常の原子核とは異なる構造、異なる性質を持つ。
 ハイパー核の研究では、ストレンジクォークという特異なクォークを使い、それらが作るハイパー核のふるまいを通じて、物質の成り立ちの仕組みを研究する分野である。
 最近では、s クォークを複数個含んだ、さらにストレンジな原子核を多数つくる実験も進んでいる。

 超高密度の代表格である中性子星の中心部には、たくさんのsクォークが安定して存在し、中性子星が巨大なハイパー核になっていることが予想されている。つまりハイパー核の研究は、いまだ謎の多い中性子星の性質を解明する手掛かりになると期待されている。
 ストレンジな原子核が、実験で観測されることがわかると、sクォークの次に重い c(チャーム)クォークcharm quarkを含む「チャームな原子核」もあるかもしれないと考えられた。cクォークは6種類のクォークのうち4番目に見つかった。Λ 粒子は陽子や中性子に比べて20% 重いだけなのに対し、cクォークを含む udc からなるΛ+C粒子は、2 倍以上重い。チャーム原子核は宇宙には存在しない。しかも、チャームは、重すぎるので、中性子星にもきっとないと見られている。
 ところが、粒子を加速してより高いエネルギーで衝突させる実験の中では、第1世代の素粒子だけでは、その生成や崩壊パターンを説明できない数多くの粒子が飛び出してくる。最初に発見されたのが、ストレンジネスをもつ粒子で、現在では第2世代のcクォークを含む粒子が現れている。
 クォークは、6種類存在し、3つの世代を形成する。すなわち、第1世代のアップとダウン、第2世代のチャームとストレンジ、および第3世代のトップとボトムである。クォークの質量は世代が上がるごとに増加する。より重たいクォークは粒子崩壊、高質量状態から低質量状態への変換の過程を経てすぐにアップおよびダウンクォークに変化する。このようにアップおよびダウンクォークは安定であり、宇宙の中で最も多く存在するクォークである。
 一方のチャームとストレンジ、トップとボトムは、宇宙線や粒子加速器の中で起こるような高エネルギー衝突の中でしか生成されない。

 cクォークは、1960年代以降、いくつかの理論的研究によってその存在は予想されていた。1970年代初めには宇宙線の観測や加速器実験で、様々な「予兆」が捕らえられていた。しかし、sクォークを含んでいると見られる事象の数が少なかったために、その存在が断定できなかった。しかし、その後の理論的研究を推進する動機づけになった。
 cクォークの発見の際、1974年にまったく違う2つの実験がJ/ψ(ジェイ・プサイ)と呼ばれる新しい中間子を同時に発見した。このJ/ψ中間子の名前は、2つのグループが発見直後に、J粒子とψ粒子という名前を独自に付けたことに由来する。このJ/ψ中間子はcクォークと反cクォークから構成される中間子であると考えられ、それぞれの研究グループリーダーには2年後の1976年に早くもノーベル物理学賞が授与された。
J/ψ中間子は、サミュエル・ティンが率いる米国ブルックヘブン国立研究所の陽子加速器を用いた実験と、バートン・リヒター率いる米国スタンフォード線形加速器研究所の電子陽電子衝突型加速器を使った実験でほぼ同時に発見された。
 特にスタンフォード研究所での発見は、けた違いに大量の衝突事象の発生を伴うものであった。この発見は、当時の世界の素粒子物理学界を興奮の渦に巻き込み、「11月革命」と呼ばれた。
 その後の粒子加速器の進歩によって、現在ではsクォークは通常現れる素粒子となったが、研究は活発に続けられている。それは、4つの基本的な力のうちのひとつである「強い力」の研究に対してcクォークの質量がちょうどよいことにある。
 単純に考えれば中間子の質量は、対応するクォークの質量の約2倍になるはずが、ダウン・アップ・ストレンジの3つについては全然違う値になる。これは、クォークと反クォークを結びつけている「強い力」が、中間子の質量に数億電子ボルトの影響を与えるからである。このような状況で「強い力」の影響を理論的に計算することは簡単ではない。
 一方、ボトムとチャームは、クォークとしての質量が大きいため、中間子の質量に占める強い力の影響は相対的に小さくなる。そして、その影響は理論を使って比較的簡単に計算できると期待された。cクォークを含んでいる中間子や重粒子の様々な性質を調べると、「強い力」の働き方をあいまいさの少ない形で研究することができる。
 しかし、このようなcクォークを含む新しい粒子の発見によって、強い力の働き方の研究が大きく進展することになった。
 
 クォークの第1世代では、アップクォークとダウンクォークは対のように扱われている。これは弱い相互作用がこの対に対して働いてダウンクォークをアップクォーク、あるいはその逆に変える性質があるためである。例えば、中性子のベータ崩壊では、ダウンクォークがゲージ粒子のWボソン(弱い力)を媒介にしてアップクォークに変わる。
 (原子核からベータ線【電子】が放射される現象。「弱い力」によって起きる原子核の放射性崩壊であり、原子核中の中性子が電子と反電子ニュートリノを放出して陽子に変わるbeta-崩壊【負のβ崩壊】、陽子が陽電子と電子ニュートリノを放出して中性子になるbeta+崩壊【正のβ崩壊】と、陽子が原子軌道上の電子を捕獲して中性子に替わり、電子ニュートリノと特性X線を放つ軌道電子捕獲が主なものである)

 この「対」の関係が完全だったら、世代の異なる粒子は互いに移り変わる手段がないため、一度生成されると壊れることなく自然界に残ってしう。実際、「対」の関係が少しだけねじれているため、uクォークと対になるのは、dクォークとsクォークをある割合で混合したものになっている。つまり、sクォークは弱い相互作用を通じてuクォークに移り変わることができる。 
 uクォークとdクォークも対として書かれているが、これは弱い相互作用がこの対に対して働いてdクォークをuクォーク(あるいはその逆)に変える性質があるためで、例えば、中性子のベータ崩壊ではdクォークがWボソンを媒介にしてuクォークに変わる。
 もしこの「対」の関係が完全だったら、世代の異なる粒子は互いに移り変わる手段がないので、先ほどのsクォークは一度生成されると壊れることなく自然界に残る。実際にそうなっていないのは、「対」の関係が少しだけねじれているためで、uクォークと対になるのは、dクォークとsクォークをある割合で混合したものになっているからである。
 弱い相互作用はアップ(u)クォークとダウン(d)クォークの対に対して働くが、この対の関係は少しだけねじれており、実際にはdクォークにsクォークが少しだけ混ざったもの(d')とアップクォークが対をつくる。この混ざり方の度合いを角度で表し、「カビボ角」と呼ぶ。

 目次

 7)CP対称性の破れの謎
 古代ギリシアの哲学者デモクリストの「原子論」では、原子は不滅と考えていたが、現在では、原子はもとより、素粒子も、新しく生成したり消滅崩壊したりなど、目まぐるしく変化したりすることがわかっている。
 物質に照射した中性子や電子、電磁波が物質の影響を受けて各方向に散らばって広がってゆく現象を散乱と言う。その散乱される過程で、散乱の前後でエネルギーや、粒子の数や種類が変化しないまま、角度を変える散乱を「弾性散乱」と言う。波や粒子の散乱後の角度を測定し比較解析comparative analysisすることによって、原子の配列などミクロな情報が得られるため、陽子半径測定や材料開発など幅広い分野で活用されている。
 照射した中性子や電子、電磁波が物質に衝突する際に、物質との間でエネルギーのやり取りが生じ、周波数などが変化するときを「非弾性散乱」と言う。「非弾性散乱」では、物質の影響でエネルギー状態が変化するので、散乱された電磁波や粒子の時間的、空間的な広がりを、エネルギー変化と共に解析することで、物質内の微細な空間的構造を運動の状態と合わせて知ることができる。その際に利用される例として、光やエックス線を含む電磁波・電子・イオン・中性子などがある。電子・イオン・中性子などの粒子は、波としての性質もあり、それを物質波と呼ぶ。中性子を用いた「中性子非弾性散乱」は物質構造を調べるのに特に優れているため、様々な物質の機能解析に利用されている。
 中性子の特徴は、陽子とほぼ同じ重さの粒子であること、その名の通り電荷を持たないため、電子や原子核に近づいても反発したり接近したりすることがない。それにより物質の中を静かに通過して、ようやく原子核で散乱されたり、原子核に吸収されて不安定核自然界に安定して存在する原子核を安定核と呼ぶ。自然界に存在せず、加速器やRIビーム分離器などの大型実験装置などにより生成され、ある寿命を持って安定核へと崩壊する原子核を不安定核と呼ぶ。同じ質量であっても、中性子数や陽子数が大きく異なる不安定核では、安定核より核半径は大きくなる)を作ったりする。また、中性子は一個一個ごと、数えることのできる粒子であり、波のように振る舞うため、原子核で散乱される時には、量子力学で計算することが可能となる。
 例えば、同じ水素(H)でも、原子番号が異なる同位体、軽水素(1H)と重水素(2H)では大きく散乱断面積が異なる。その面積の大きさが大きいほど中性子は敏感となることを示している。このため「中性子回折」された波の様子から、もとの物体の大きさなどがわかる。つまり中性子を使えば、原子番号とは関係なく、軽い元素も含めた原子核の散乱の様子を見ることができるため、生物の体に多く含まれる水素の配列や運動の様子を調べたりできる。この中性子散乱実験は、物質の結晶構造などを細かな調査により有効に働き、物理・化学・生物・材料開発などの広い分野で、重要な研究成果を挙げている。
 中性子非弾性散乱により、物質の空間的構造と共に物質内の粒子の運動や波の状態を同時に調べることができる。それにより、目的に応じた適切な利用ができるため、産業界で広く応用されている。例えば、EVを駆動するリチウムイオン電池開発や世界中の海に広く分布するメタンハイドレートの開発、カーボンナノチューブ燃料貯蔵物質開発、そして反応速度を増大させる触媒開発など、その用途は広い。 
 従来の理論では活性が低いとされてきた材料でも、現実社会では高い活性を示す可能性が見られる。したがって、現在産業界で触媒として使われている白金(Pt)などの貴金属材料を、より豊富に存在する銅(Cu)やニッケル(Ni)などの元素で代替することにより触媒開発が広がりを見せている。

 崩壊現象は、広い意味での「素粒子反応」と呼ぶことができるが、多くの素粒子は時間がたつと壊れて別の複数素粒子になる。これを「素粒子の崩壊」と呼ぶ。その壊れるまでの平均時間を「寿命」と言う。それは、素粒子ごとに決まっている。寿命が比較的長いか無限大であれば、その粒子を「安定な粒子」と呼ぶ。素粒子物理学界では、1ナノ秒(10-9秒)の寿命を持つ素粒子は「安定な粒子」と呼ぶ。
 しかしながら、この「素粒子反応」は、無法則に起こるわけではない。しかも素粒子の組み合わせが変化しても、反応の前後で変化しない「量」がある。こういう場合の反応において、この「量」が保存されていると言い、これが法則として広く認められるときには、「この『量』の保存則が成り立っている」と言う。「系に連続的な対称性がある場合は、それに対応する保存則が存在する」。つまり「対称性が何によるかによって保存則が決まっている」。よって、保存則は、そのもとになっている対称性の名で引用されることも多い。

 クォークとレプトンには、それと反対の電荷を持つ反粒子と呼ばれるパートナーが存在する。ともに電荷が1単位(e)だけ違う2つの素粒子から成る3つの世代がある。世代内の2つの素粒子は、弱い力で互いに転換し合うことができる(C対称性charge conjugation)。しかも、これら3つの世代は質量以外同一の性質を持つ。一般に、世代が進むにしたがって質量が大きくなり、その生成に高いエネルギーを必要となる(E=MC2)。どうして3世代が存在し、それがクォークとレプトンに限られるのかは素粒子物理学の大きなテーマの一つになっている。
 例えば、レプトン第1世代と呼ばれる電子や電子ニュートリノelectron neutrinoには、陽電子や反電子ニュートリノanti-electron-neutrinoがあり、バリオンと呼ばれる物質を構成する陽子や中性子などには、反バリオンと呼ばれる反陽子や反中性子がある。すべての粒子には電気的性質が逆だけで、それ以外の性質が殆ど同一な「反粒子」が存在する。
 (弱い力で電子と同時に反応するニュートリノは、原子核のβ崩壊においては、中性子が電子と反電子ニュートリノを放出して陽子となるか、または陽子が陽電子と電子ニュートリノを放出して中性子に変化する)
 ビッグバンにより開闢した宇宙の初期、バリオンと反バリオンは同じ量だけ生成されると考えられているが、現在の宇宙ではバリオンが圧倒的に多く、反バリオンはほとんど観測されていない。
 この現代の非対称がなぜ起きたのかは、未だ解決されていない謎である。しかし、それが起きるためには、いくつかの必要条件があることが知られている。その一つが「CP対称性の破れ」であった。
 C対称性charge conjugation(電荷共役)とは、物理学では粒子と反粒子間の電荷の切り替変換である。
 charge-conjugation transformationとは、粒子を反粒子と入れ替える離散変換である。その荷電共役変換の作用 がC (charge)で表されるため C-変換とも呼ばれる。
 「P対称性の破れParity violation(violationとは「違背」「侵害」の意味。パリティ反転parity inversionとも呼ぶ)」とは、鏡に映したように空間座標を反転させても変わらない現象のことを「P(パリティ)対称の物理現象」と言う。パリティとは「同等であること」を意味する英単語で、例えば「パリティ反転」という操作をするときに、この言葉が出てくる。「パリティ反転」とは、座標の符号を反転させる変換のことだ。つまり、鏡写しにするような変換のことで、(x,y,z)という座標を(−x,−y,−z)に反転させる変換は、「パリティ反転」と言える。つまり、パリティ対称性を破るとは、「鏡写しにすると対称じゃなくなってしまった」ぐらいの意味になる。
 普通に考えてみると「鏡写しにすると対称じゃなくなってしまった」なんてことは有り得ないと、すぐ結論付けそうになる。
そんなの鏡を見てみれば分かる。自分が右手を上げると、鏡の中の自分は左手を上げて応答する。これこそ対称と言える動きだ。
 それが対称でなくなるとはつまり、自分は右手を上げているのに、鏡の中の自分も右手を上げているという奇妙なオカルト状況が、素粒子の世界では生まれ得るということだ。
 そう思えるのは、マクロな世界で生きているからだ。もっとミクロな世界、原子よりも小さな世界に注目すれば、もっとオカルトにさえ思える現象が起こる。
 ことの発端は1950年代に遡る。当時多くの物理学者が、この世界ではパリティが保存されていると考えていた。現実世界と鏡に映った世界の違いは左右が反転しているのみで、その他は同じように振る舞うはずと考えていたのだ。ただその仮定の下だと、ある中間子に関する現象が説明できなくなる。
 中間子とは核力を媒介する粒子だ。原子の中心にある原子核は陽子と中性子で構成されているが、電気的に反発するはずの陽子たちが原子核にまとまって存在できているのはこの粒子のおかげだ。
 陽子同士はクーロン力(クーロンの法則Coulomb's lawとは、荷電粒子間に働く反発し、または引き合う力が、それぞれの電荷の積に比例し、距離の2乗に反比例する)により反発しあっているのだが、中性子と陽子の間にはそれを上回る核力という力が働いている。この核力を伝えているのがπ中間子である。湯川秀樹はこの核力を中間子が媒介する様子を「中性子と陽子が中間子を使ってキャッチボールしている」と例えていた。

 1947年に中間子の1つであるK中間子が宇宙線(宇宙空間を飛び交っている放射線)の中から発見された。このK中間子は、崩壊するときにいくつかのπ中間子に分かれる。ところが、2つのπ中間子と3つのπ中間子に分かれる2パターンがある。しかし2つに分かれる場合と3つに分かれる場合とでは、元の中間子のパリティが破れていたことになる。なので、この2パターンの粒子は、それぞれ異なる種類のK中間子だろうと考えられた。しかし、この2パターンの粒子の質量が全く同じで区別がつかなかった。区別がつかないということは同じであるということになる。言わば「パリティ対称性が破れた」ことを意味する。同じ粒子が2つのパターンの崩壊をすると考えることは、パリティ対称性の破れを認める、つまりは「鏡に映った素粒子の世界の物理法則は、マクロの世界とは異なる」という現象が生じていた。
 1957年に、中国系アメリカ人の物理学者ウーWu Chien-Shiung(呉健雄)は、弱い相互作用が関与する物理現象であるベータ崩壊を観測する実験で、放射性核種であるコバルト60を極低温に冷却し、磁場をかけて多数の原子のスピンの方向をそろえた上で、コバルト60がベータ崩壊して発生するベータ粒子の出る方向を調べた。コバルト60のスピンと同じ方向にベータ粒子が出るベータ崩壊と、その反対方向にベータ粒子が出るベータ崩壊は、空間反転した関係にあり、パリティが保存されているなら、2つの崩壊が起こる確率は同じはずである。実験の結果、ベータ粒子はコバルト60のスピンと同じ方向よりも逆の方向に多く放出されているのが観測され、それにより「パリティ(P)対称性の破れ」が起こっていることが確認された。
 コバルト60の原子核を崩壊させることで、ニッケル60へと変化させる。このときニッケル60は励起状態というエネルギーの高い状態にあるので、γ線を放出して基底状態となる。このときのγ線の分布の偏りを見ることで、パリティ対称性が破れているかどうかを確かめた。実験の結果、核スピン(原子核を構成する陽子と中性子の持つスピン角運動量と、それらが原子核内部で運動することに対応する角運動量とを合成した角運動量になる)を反転させることで、γ線の分布に偏りができることが分かった。つまりこの結果はパリティ対称性が破れていることを証明する。
  (核スピンの物理的イメージは、核スピンが磁場中に置かれると、+の荷電粒子である原子核が自転運動するようになる。つまり、電流が流れたとみなせるので磁場が生じ、磁気モーメントができる。核磁気モーメントは、小さな磁石とみなせる。
 地球の大きな磁場の中に置かれた磁石のN極は、北を指す。核スピンが磁場中に置かれると、普通、核スピンはランダムな方向を向いているが、磁場中に入れると、核スピンの「磁石」は、磁場に対して整列するものと反対を向くものの2種類の現象が生じる)
 古典物理では ニュートンの運動方程式 によって 粒子の軌道や運動量を、 すべての時間にわたって 決定することができた。一方、量子力学の 基本方程式である「シュレーディンガー 方程式」が決定するのが、「波動関数」である。その「波動関数」から分かるのが、ミクロの世界の粒子の「存在確率」である。ハイゼンベルクの「不確定性原理」 照らし合わせても整合する。
 ここで言う 「存在確率」とは、「粒子」を観測したときに見出される確率を意味する。ドイツの理論物理学者マックス・ボルンMax Born(1882年- 1970年)の確率解釈は、「粒子の【存在確率】の 確率密度は、波動関数の 絶対値の2乗に等しい」 と主張している。1954年、量子力学、特に波動関数の確率解釈の提唱によりノーベル物理学賞を受賞した。
 物理学では素粒子の性質を表すときに、パリティという言葉を用いる。素粒子は「波動関数」によって状態を表すことができるが、その「波動関数」の座標を全て反転すると、「波動関数」が元のまま保たれる素粒子と、符号が変わる素粒子の2種類が出てくる。符号が元のままの素粒子をパリティが+と呼び、符号が変わるものをパリティが-と呼ぶ。
 
 「ある系がC対称性を持つ」とは、粒子を反粒子に置き換えた系でも同じ物理現象が起きるという事を意味する。また、「P対称性を持つ」とは、鏡映しにした世界のように、物理現象の発生確率が同じであるということを意味する。
 つまり、電気を帯びていないエネルギーから始まった原始宇宙には、粒子と反粒子が同数ずつあったはずである。しかし、誕生から約137億年たった現在の宇宙は、粒子だけからできており、反粒子でできた反宇宙は存在しない。宇宙の進化の過程で、反粒子は消滅したことになる。すべての物理法則が粒子と反粒子の入れ替え(CP変換)ても不変(CP対称)であるならば、現代宇宙の進化を説明できない。つまり、CP対称性は破れていなければならない。

 その後、高エネルギー加速器を使った実験によって、クォークは実在し、しかも6種類あることが明らかになった。6種類目のクォークが発見されたのは1995年である。
 小林・益川理論のエッセンスは、3世代のクォークがあって初めてCP 対称性が破れるという点にある。第3世代に属するクォークからなる、核力を仲介するB中間子(B meson)を使えば、小林・益川理論の予言どおりCP対称性が破れるかどうかを検証できる。国立大学法人法により設置された、筑波研究学園都市北部にある大学共同利用機関法人が高エネルギー加速器研究機構(研究所のローマ字表記 Kou Enerugii Butsurigaku Kenkyūsho の略;KEK)の実験ループloopは、B中間子ファクトリー加速器を使って2001年夏、小林・益川の予想が正しいことを示す実験結果を得ることに成功し、クォークのCP対称性の破れの起源の解明に終止符が打たれた。
 現在、小林・益川理論は、南部陽一郎の示したゲージ対称性(素粒子の標準模型の基本法則は、幾何学的な美しいゲージ対称性であって、その対称性が保たれる限りクォーク・レプトン・ゲージ粒子は質量を持たないが、「自発的対称性の破れ」機構によって実験と整合する質量を獲得したと理解されている)の自発的破れのメカニズムときわめて整合性がとれた形で、素粒子理論の骨格をなしている。素粒子界の対称性には深い意味があるが、対称性の破れには、さらに深淵で根源的な意味があった。
 1964年、「奇妙な」粒子の一つである中性K中間子(dクォークと反sクォークのバリオン)の崩壊が、わずかにCP保存則を破っていることが発見され、大きな衝撃となった。CP保存則というのは、粒子と反粒子を入れ替えた世界(荷電反転)の物理法則は、ちょうど我々の世界を鏡で見た時と同じになっているはず、と言う、素粒子理論の対称性でる。当時はその対称性の破れを自然に説明できる理論などなかった。

 目次

 8)CP対称性を破る
 素粒子に働く4種の力のうちのひとつ「弱い力」がわずかにCP対称性を破ることは、既に1964年発見されていた。弱い力は、粒子がより軽い複数の粒子に崩壊する原因となる力であり、宇宙の進化に不可欠な力である。なぜ、弱い力だけがCP対称性を破るのか謎であったが、1973年に小林誠と益川敏英は、陽子や中性子を構成する素粒子クォークは2種でひとつの世代をつくり、2種類×3世代=6種類のクォークが存在すればCP対称性が破れるとする理論を発表した。素粒子研究者の殆どが、クォークは、実在の素粒子ではなく単なる数学的モデルで、しかも3種類あれば十分であると思っていた頃の話である。

 その後、高エネルギー加速器を使った実験によって、クォークは実在し、しかも6種類あることが明らかになった。6種類目のクォークが発見されたのは1995年である。小林・益川理論のエッセンスは、3世代のクォークがあって初めてCP 対称性が破れるという点にあるから、第3世代に属するクォークからなる粒子B中間子を使って、予言どおりCP対称性が破れるかどうかを測れば検証できる。高エネルギー加速器研究機構(KEK)の実験グループは、B中間子ファクトリー加速器を使って2001年夏、小林・益川の予想が正しいことを示す実験結果を得ることに成功し、クォークのCP対称性の破れの起原の解明に終止符を打った。現在、小林・益川理論は、南部陽一郎の示したゲージ対称性の自発的破れのメカニズムときわめて整合性がとれた形で、素粒子理論の骨格をなしている。自然のもつ対称性には深淵な意味がある。それ以上に、対称性の破れには、さらに深淵で根源的な意味がある。

 小林と益川の両氏は1973年、3世代のクォークを導入することで、CP対称性の破れを自然に説明できることを示した。3次元の軸(ダウン・ストレンジ・ボトムクォーク)の間のねじれは3つの角度で表すことができるが、混合の仕方が複素数を含むと、6つのクォーク場の位相回転では吸収しきれない複素位相が残ることが分かった。
 日常の生活では「数」といえば「実数」を意味することが多い。素粒子の世界では、実数と虚数を組み合わせた複素数という、不思議な性質を持った数が、方程式の中に出て来る。小林・益川理論の特徴は、クォークの状態に複素数の空間での回転を与えると、複素数の位相という自由度が出てくることを指摘したことでにあった。複数のクォークがある規則に従い交ざり合っている。混ざり合いの重みが、複素数になるとCP対称性は破れる。4クォークでは必ず実数にできるが、6クォークでは できない。CPの破れには少なくとも6クォーク必要となる。
 CP対称性とは、粒子と反粒子を入れ替え、空間を反転させても区別がつかない性質のことで、当時の素粒子理論ではCP対称性は、当然、保存されていると信じられていた。ところが、1964年、中性のK中間子の実験でCP対称性が破れていることが発見され、多くの物理学者がこれを説明するための理論に苦労する中で、小林誠博士、益川敏英博士が考え出した理論は、クォークが3世代(6つ)あり、異なる世代のクォークが混合した粒子が存在するなら、CP対称性の破れを説明できる、とするものであった。

 これらを検証する目的で、第1世代のクォークと第2世代のSクォークからなるK中間子Kaon(ケーオン)を使ったアメリカ合衆国イリノイ州バタビアのフェルミ国立研究所(FNAL)が、K中間子の崩壊を調べることでCP対称性の破れを調べるKTeV(Kaons at the TeVatron「テバトロン加速器におけるK中間子実験」の略)実験で、TeVatronで加速された高エネルギーで高強度の陽子を使って大量のK中間子を作り出し、その崩壊を観察し、CP対称性の破れがK中間子の崩壊の過程で直接起きているかを調べた。
 (TeVは、テラエレクトロンボルト(1012eV)の略、素粒子・原子核・原子・分子などの運動エネルギーを表す単位である。宇宙線、巨大加速器などで生まれる超高エネルギー粒子の運動エネルギーの表示に用いられる。1eVは、電気素量eの電荷を持つ粒子が真空中で電位差1Vの2点間で加速されるときに得る運動エネルギーであり、1.602×10-19J(ジュール)、または1.60×10-12erg(エルグ)に等しい)

 1962年、スタンフォード大学によりカリフォルニア州メンローパークに設立されたスタンフォード線形加速器センターStanford Linear Accelerator Center(SLAC)は、かつては、電子の線形加速器によって高エネルギー物理学high-energy physicsの実験を行っていた。
 アメリカの原子核物理学者ジェイムズ・ワトソン・クローニン(1931年– 2016年)は、共同研究者のヴァル・フィッチとともに、中性K中間子の崩壊における「CP対称性の破れ」を1964年に発見したことで、1980年、ヴァル・フィッチ氏とノーベル物理学賞を共同受賞した。後に小林誠氏と益川敏英氏が、この現象を理論的に説明することに成功した。2008年の両氏のノーベル物理学賞受賞につながった。とヴァル・フィッチはノーベル賞を受けたが、このK中間子系で発見されたCP不変性の破れはわずか0.2%で、その後K中間子系以外での観測もなく、その起源の解明には大きな壁があった。
 中間子は、メソンとも言う。強い相互作用をする素粒子ハドロンのうち、バリオンに含まれず、一般に整数のスピンをもつものを総称する。陽子や中性子より軽く、電子より重いものを呼んだこともある。理論的には1935年湯川秀樹によって核子(陽子と中性子の総称)の間に働く核力を媒介する素粒子として導入された。核力は、陽子と電気的に中性の中性子の間にも働く、非常に短い距離(~10-3cm)では非常に強いが、少し離れると非常に弱くなるという性質がある。
 宇宙空間での宇宙線のもつエネルギー密度は1eV/cm3程度である。二次宇宙線の成分は、π中間子やK中間子など、そしてこれらが崩壊して転化するμ粒子・電子・γ線・ニュートリノなどである。なお、少量ではあるが、宇宙から飛来する電子・陽電子・γ線・ニュートリノ・反陽子などもあり、高エネルギーのものは宇宙線として扱われている。
 電磁気力と弱い力とは一見まったく異なった力のように見えるが、実は両方の力の源は同じであるという統一理論がアメリカの物理学者スティーヴン・ワインバーグSteven Weinbergとパキスタンの物理学者アブドゥッサラームAbdus Salamによって提唱(ワインバーグ=サラムの理論【電弱統一理論】 )され、実験による検証も得られて大きな成功を収めた。
 最後の力は強い力(強い相互作用)と呼ばれるもので、π中間子が陽子と中性子、あるいは陽子と陽子の間に交換されて生ずる核力がこれである。この強い力は、10-13cmという非常に小さい距離でのみ強く働いて、それを越えると非常にはやく減少するという特徴をもつ。
 
 素粒子物理学の三田一郎(さんだ いちろう; 1944年~)は、標準模型の小林・益川理論の枠内で、B中間子崩壊においてはCP不変性の破れが、K中間子系の実に100倍にも達しうるとの衝撃的な予言をし、「CP不変性の破れの研究」に新生面を開いた。

 K間子の崩壊では、CP 対称性の破れは、大きくても0.2%程度であるとわかって おり、小林・益川理論でも裏付けられていた。 両氏が予測した第 3 世代のトップ(147GeV) とボトム(5GeV)は、前の2世代のクォー クに比べてはるかに質量が重いものであった。このため短時間に崩壊して、第 2 世代、第 1 世 代へと変化するために、大きな CP の破れが出現する。そこで1981年、三田一郎は、小林・益川理 論に基づけば、B 中間子の崩壊では 100% 近いズレが見いだせるはずだと予言した。B中間子が発見される前に、その存在を理論的に予言したのであった。
 CP対称性の破れを観測するには、B中間の飛跡を測定しなくてはならないが、B 中間子の寿命は1兆分の1秒で、その飛跡は僅か0.02mmしか残らない。またズレを生じる反応が起こる確率は数万分の1と稀なものであった。電子と陽電子を衝突させてエネルギーに変換し、さらにB- 反B中 間子を大量に生成できる加速器と測定器とが必要となった。
 同氏の予言を検証するため、高エネルギー加速器研究機構のBファクトリー建設をはじめ、米国その他世界各地での実験計画が争って進行中である。これにより標準模型を超える新しい物理ひいては宇宙の起源にも迫ることが期待され、これら素粒子実験の世界的流れを創出した功績は非常に大きい。

 SLAC(スラック)国立加速器研究所SLAC National Accelerator Laboratoryは、1962年にスタンフォード大学によりカリフォルニア州メンローパークに設立された。スタンフォード線形加速器センターStanford Linear Accelerator Center(SLAC)として設立されたが、2008年に現在の名称に変更された。電子の線形加速器によって高エネルギー物理学high-energy physicsの実験を行っている。
 加速器を用いた実験で、第2世代のチャームクオークと第3世代のレプトンのタウ粒子の発見により、既に2 つもノーベル 賞を受賞していた。2001 年ごろから実験が軌道に乗 り、筑波研究学園都市北部にある大学共同利用機関法人の高エネルギー加速器研究機構(KEK)とSLACの双方でCP対称性の破れが観察され、KEKの方が大きな非対称性が観測された。

 SLAC国立研究所では、BaBar実験が行われた。実験の名前は、B中間子の命名法に由来し、B中間子(記号B)とその反粒子(記号B;発音はBバー)から呼ばれた。CP対称性が成り立つには、B中間子とその反粒子の崩壊率が等しくなければならない。BaBar検出器で生成された二次粒子の分析は、これが当てはまらなかった。ダウンクォークとボトム反クォークの束縛状態のB中間子の崩壊においてCP非保存を引き起こす反応、つまりトップクォークとダウンクォーク、ボトムクォークとアップクォークの間に働く世代間の混合がCPの破れを示した。
 最終的に小林・益川理論の正しさが実証されることになり、2008年のノーベル物理学賞の受賞となった。「3つのクォーク」の時代に「クォークは6つ」を予言、当時はまだ第2世代のもう一つのクォークであるチャーム(c)クォークも見つかっていない時代であった。小林・益川理論の予言は驚くべきものでした。しかし、1974年にはチャームクォークが、1977年にはボトム(b)クォークが見つかり、最後まで残ったトップ(t)クォークも1995年に発見されて、3世代の素粒子模型は確立された。
 アメリカのスタンフォード線形加速器センター(SLAC)には、高エネルギー物理学分野の論文を集計するデータベースがある。小林・益川両氏の論文は今から30年前に書かれたものであったが、このデータベースによる集計が始まって以来、単独の論文としては歴代2位の引用数を誇る、有名な論文となっている。

 目次

 9)量子力学(複素数方程式)
 数と計算の関係から、数の世界が拡張された。
 例えば、「0」には二つの意味がある。最初に考えだされた0は「空位の0(数字の0)」で、「その位には何もない」という意味であった。古代バビロニアの楔形文字では、紀元前300年頃までは、表記に「0」の観念がなかったため桁の区別がつきぬくかった。そこで「空位」の意味で新しい記号を加えた。斜めに2つ並んだ楔(くさび)で表記した。
 「何もないものの個数」という意味、つまり「無の0(数としての0)」は、古代インドを起源とすることは以前から知られていた。インドにおける「0」の発見は、空の思想があったことと密接な関係がある。元々、存在と無すなわち色と空は、西洋思想のような対立概念ではなかった。ブッダは、無我の意味で「空」を説いた。さらに「諸法は固有・不変の本質をもたない」という意味に敷衍した。
 2017年9月、英オックスフォード大学の研究チームは、インドの3、4世紀の頃の「バクシャーリ写本」の中に、数字の「0」に言及した最古の記述があると断定した。それは、十進位取り記数法による数の計算を可能にした。
 1881年、「バクシャーリ写本」は、現在のパキスタンにあたるペシャーワル付近にあるバクシャーリ村の農民が掘り出した。1902年以来、オックスフォード大学ボドリアン図書館に所蔵されている。
 数0を黒点「・」で表したインド数字は、8世紀頃にアラビアに伝わり、そこから12世紀頃ヨーロッパに伝わり、16世紀に現在の数字であるアラビア数字になった。アラビア数字は計算に適した数字であることからアラビア算用数字とも呼ばれた。
 こうして、数「0」ができあがると、自然数と「0」だけの数の世界で加減計算を行なったとき、「負の数」が必要となった。自然数(1、2、3、…)と「0」と負の自然数を合わせた数が「整数」である。
 同じようにして整数とかけ算を考えることで分数(有理数)という新しい数が必要となった。有理数とは、a/bのaとb(b≠0)を整数とする分数の形に表せる数のことである。整数は、分母の数を1とした場合、分数の形に直すことができるので有理数に含まれる。例えば、整数3は3/1としても表せるので有理数にもなる。
 無理数とは、√のように実数のうち有理数でない数のこと、つまり分数の形に直せない数のことである。√2とも表される数で、√2=1.41421356…は無理数irrational numberと呼ばれる数で、小数点以下が循環することなく無限に続く数である。自然数・整数・有理数・無理数をまとめた数の世界が「実数real number」である。
 分数の形に直せる有理数は、整数・有限小数・循環小数の3つのうちのいずれかである。有理数であるかどうかを見分けるには、整数・有限小数・循環少数のいずれかどうかを見分ければ良い。
 0は分数で0/a(a≠0)と表すことができる。したがって、0は分数で表すことができるので有理数である。また、0は整数なので有理数に含まれるとも言える。

 自然数(人は1から数えるはず、だから0は自然数に含めない。つまり、0を含まない「正の整数」を意味する)・整数・有理数・無理数をまとめた実数の世界の拡張の先に現れてきた「新しい数」が虚数である。
 その虚数が実数と同じように数学者に受け入れられるには、その実力が明らかになったからである。
 1740年頃に、三角関数・複素指数関数・虚数が等式として集約されるオイラーの公式は、虚数の実力をまざまざと見せつけるものとなり、20世紀の革新理論である量子力学はオイラーの公式に支えられて誕生した。数の世界に実数は存在する。つまり、実数も虚数もどちらも人間が考え出した「imaginary number」である。
 量子力学を基礎理論として半導体やレーザーなどが発達し、現在のコンピュータが出来上がった。この文章が処理・表示されているPCやスマホは虚数に支えられている。

 虚数を用いると方程式が解けるのは、虚数iが次の性質を持つことが発端となった。
  i×i=-1
 これが逆に、虚数計算に対して初学者に違和感を抱かせた。
 これを数の幾何学的表現である「数平面」で、x軸をいわゆる数直線(実数)とし、y軸上にある数を虚数iの値とする。
数平面上の点に「+2+2i」の値を記す。実数2と虚数2iをxとyを合わせた複合(complex)の数であるため、x+iyは複素数complex numberと呼ぶ。
  複素数 x+iy
 x・yは実数であるが、虚数を表す単位として「i」が使われる。虚数とは実数ではない数のことを言う。
 複素数は実数と虚数を組み合わせたものを言う。
  ・実数:1, -2, +3
  ・虚数:i, 1i, -2i, +3i
  ・複素数:−1+2i, 3−4i, 5+6i

 虚数が2次方程式や3次方程式といった方程式の世界に出現した。
 そもそも0やマイナスの概念ですら人類は千年スパンの長い年月をかけて、ようやく身のまわりの現象や計算に使えることに気づいた。
 虚数の数値は、実は再現することは不可能であるため、それ以上のプロセスが必要となった。
 しかし虚数を「見てそれと分かる」ように説明することは可能である。
 虚数を用いると方程式が解ける発端となったのが、虚数iが次の性質を持つことによる。
  i×i=-1
 同時に、この虚数の計算式自体が多くの人が納得できなかった。そこで、虚数iをこれとは別の視点から、つまり数の幾何学的表現である「数直線」ならぬ「数平面」で表すことで、i×i=-1が結論として現れれるように説明された。

 数平面では、x軸がいわゆる数直線(実数)を表す。y軸上にある数が虚数iを示した。
 「数平面」上の点「+2+2i」の形で表すことができる。2つの虚数iと実数をx軸とy軸を合わせたx+iyの複素数として示した。
 この数平面のアイディアは、近代数学の創始者と呼ばれるドイツの数学者ガウスJohann Carl Friedrich Gauß(1777-1855年)によって考案された。ガウス平面と呼ばれる数平面は、複素数平面(複素平面)などとも呼ばれた。
 「数平面」上の点に対して、原点Oから+1という数と、+iという数と対応させると
 1と言う数は
  1×a=a
 虚数iであれば
  1×i=i
 と言う計算となる。これを
  (+1)×i=+i
 として、数平面の上で2つの数+1と+iの関係では、次のようになる。
 「+1」に「×i」であれば「+i」になる。
 さらに、次のように言い換えることができる。
 「+1」を「90度反時計回りに回転」すると、「+i」になる。
 数学では回転の向きを、反時計回りを正、時計回りを負と区別する。したがって「90度反時計回りに回転」とは「+90度の回転」となる。
 つまり、「×i」=「90度反時計回りに回転」
 これで虚数iが数平面に示された。
  i×i=?
とは
 i×iを(+i)×iであれば、+i×iとはy軸から+90度回転したことになる。
 つまりx軸上にある
  i×i=-1
に移動する。
 「2乗するとマイナスになる数」が虚数で、量子力学においては純粋状態を表す波動関数の一部に使用されている。
  (-1)×(-1)=? であれば
 上記の「i×i=−1」を用いて、
  (-1)×(-1)=(-1)×(i×i)
であれば、
 先ずは、(-1)×i は、青矢印(-1)を90度回転することを意味するので
 Y軸の−iへ移動することを示す。
  (-1)×i=−i
 次に(−i)を「×i」で+90度回転すると、+1へ移動する。
 まとめれば
  (-1)×(-1)=(-1)×(i×i)
  ={(-1)×i}×i
  =−i×i
  =+1
 これが実数と虚数からなる複素数を理解するための基本となる。

 量子力学は複素数を使わないと理論が構築できないと言うが、アインシュタイインの卓絶した2つの「相対理論」が、既に完成した後に自分の理論を証明するために、苦労してアインシュタイイン方程式アインシュタインが提唱した一般相対性理論の基礎方程式)を完成させ、その理論的な根拠とした。驚嘆に値するのは、その方程式には「宇宙の膨張」の存在を示していた。
 1917年当時、アインシュタインも他の天文学者と同様、宇宙は静的な存在で膨張も収縮もしていない、と固く信じていた。しかし,これは彼自身が構築した一般相対性理論の方程式と矛盾していた。困り果てたアインシュタインは、方程式にその場しのぎの余分な「宇宙項(宇宙定数)」を付け加えることで膨張と重力の効果を相殺する静的な解を導いた。しかしその12年後,米国人天文学者のハッブルEdwin Hubbleが宇宙の膨張を発見、アインシュタインは宇宙項の考えを撤回した。
 その後60年間、宇宙は膨張しつつも、重力の効果で膨張のスピードは鈍ると考えられていた。ところが1998年、超新星の観測結果から、過去50億年にわたって宇宙膨張は減速するどころか加速を続けている。つまり重力を打ち破るような力が働いていることになる。それは当時の天文学では信じられない計算結果で、アインシュタイイン自身も、宇宙論に関する最初の論文に、「宇宙項(宇宙定数)」をアインシュタイイン方程式に組み入れ、宇宙は静的な存在で膨張も収縮もしないと、いずれの仮説も否定していた。
 2020年に、アメリカ天文学会のレガシーフェローに選出されたマイケルS.ターナーMichael S.Turner(1949年~)は、1998年にダークエネルギーという用語を作り出したアメリカの理論宇宙学者である。その後の実験物理学でアインシュタインが導入した宇宙項とは本質的に異なるエネルギーによって宇宙が支配されている、現在の宇宙膨張を引き起こしているエネルギーの源が何かを詳しく理解しない限り、宇宙の起原や終末を明らかにすることはできないとされている。この深遠な謎が解ければ、重力と自然界の他の力を統一する理論が体系できる可能性が見えてくる。それこそが、アインシュタインが追求してやまなかった夢なのだった 。
 「ブラックホール」の概念は、アインシュタインが1915年から1916年にかけて論文発表した「一般相対性理論」から生まれた。アインシュタインの一般相対性理論によると、質量を持つ物体が周りの空間にひずみを生み出し、そのひずみによって重力が生じる。
 1916年、ドイツの天体物理学者カール・シュヴァルツシルトは、「一般相対性理論」の重力の方程式をある条件の下で解き、「ブラックホール」の存在を理論的に予言した。極端に「小さく」、「重い(=質量が大きい)」物体が存在する場合、ある距離よりも中心に近づくと、時間が止まり、宇宙の中で最も速い光すら外に脱出できなくなる。その領域こそが「ブラックホール」である。ブラックホールの存在は理論上は予言されていたものの、実在するか否か、数十年もの間、科学者の間で大論争の的となった。
 恒星の終末の姿は、恒星の質量によって変わる。ここではブラックホールとは、太陽のおおよそ20倍以上の質量を有する恒星が生涯を終える際に「超新星爆発」を起こした後の姿である。ブラックホールの中心に近づくほど勾配が急になり、穴から抜け出すために大きな速度が必要なため、光の速度でさえ脱出できない領域となる。しかしここでも、アインシュタインは、1939年の論文でブラックホールが存在しえないと主張した。
 しかし、ブラックホールは存在した。アインシュタインの理論を100年かけて証明した科学者の情熱は、2016年に、ブラックホール同士が衝突して生じた時空間のさざ波である「重力波」を初めて検出し、「一般相対性理論」の重力の方程式の正しさを検証した。重力波の検出とブラックホールの直接撮像、電磁波による観測、そしてシミュレーションなど複数の手法を組み合わせることで、今後さらにブラックホールとその周りを渦巻いているガスの降着円盤、そして円盤に垂直な方向に高速に噴出するプラスマガスのジェットの関係などの研究解析がさらに進むことになる。観測技術の進歩や機器の発達により、超巨大ブラックホールの形成過程が銀河の進化とどのような関わりがあるのか、宇宙の創生過程を理解する手がかりになると期待されている。
 ブラックホールの存在は、理論上は予言されていたものの、実在するか否か、数十年もの間、科学者の間で大論争が続いた。恒星それぞれの質量で終末期の様相が異なる。その質量が太陽程度であれば超高密度の「白色矮星恒星が赤色巨星に進化し、水素が豊富な外層質量の放出により、核融合による新たなエネルギーが生み出されないため、白色矮星は時間とともに低温・低光度になっていく。白色矮星とは、中小質量星が外層を失った後の段階にある星を指す)」に、太陽の8~20倍程度の場合は主に中性子からなる超高密度の「中性子星」に、20倍程度以上が「ブラックホール」になる。
 長らく架空の天体、ブラックホールであったが、1960年代に転機が訪れる。「はくちょう座X-1」は、1964年に発見されたX線天体で、地球に最も近い恒星質量ブラックホールの一つだ。そのX線発生源の位置を特定したところ、その近くに太陽の30倍の重さの恒星が発見された。そしてその恒星を詳しく調べてみると、どうやら見えない天体の周りを回っていたことが分かった。恒星自身は強いX線を発していなかった。
 【2021年2月25日 、豪・カーティン大学の国際電波天文学研究センター(ICRAR)】は、恒星質量ブラックホール「はくちょう座X-1」までの精密な距離測定をもとに、このブラックホールの質量が従来の推定より5割ほど重い、太陽質量の約21倍であると発表した。

 量子力学で用いられる方程式で虚数が用いられるのは「虚数がなければ方程式が成り立たないから」なのか「単に虚数を使用することで複雑な方程式を簡単に説明できるから」なのか、長い間議論が重ねられてきた。
 量子力学の創始者であるオーストリア出身の理論物理学者エルヴィン・シュレーディンガー(1887年-1961年)でさえ、友人に宛てた手紙の中で方程式に複素数を含めることの意味について懐疑的な見方を示していた。
 シュレーディンガーは、1933年にイギリスの理論物理学者ポール・ディラックと共に「新形式の原子理論の発見」の業績によりノーベル物理学賞を受賞した。実際、シュレーディンガーは波動関数を虚数なしの実数のみで表現する方法を編み出しており、後の物理学者たちも量子論を、虚数を使わない実数による置き換えが試みられている。
 (シュレーディンガーは、電子が見つかる可能性のある点の集まり「電子の雲」を.、「波動関数」と呼ばれるシュレーディンガー方程式Schrödinger equationで記述した。つまり「波動関数」により、「電子の雲」が経時的time dependentに、どのように展開するかを数学的手法で導き出した)

 現実を正確に説明するには「本来存在しないはずの数」である虚数を必要とすると言う、最新の2つの研究が発表された。
 2021年12月15日に学術誌のNatureに掲載された研究と、同日にPhysical Review Lettersに掲載された研究の2つがある。2つの研究では比較的簡単な実験を通し、「量子力学が正しいとするなら、虚数が存在しなければ現実は成り立たない」ということを示した。
 しかし、既に1926年前半、シュレーディンガー方程式time dependent Schrödinger equationは、ド・ブロイの物質波の関係式を 通常の定常波動方程式に代入する形で記述されている。それまでの物質波に関する方程式は、定常状態にある特定な場合に成立する式であった。シュレーディンガーは、波動関数の虚数を実数に置き換えを試みていた。
 スペイン光科学研究所の理論物理学者のマーク・オリビエ・レノウは、「量子力学の創設者であるシュレーディンガーは、理論の中に出てくる複素数を解釈する方法が見つけられなかった。その方程式が虚数を持っていること自体は非常に理にかなったものであったが、現実の要素で虚数を識別する明確な方法が見つからなかった」と科学系メディアのLive Scienceで語っている。
 1926年のシュレディンガー方程式は、ハイ ゼンベルクの行列力学を、シュレディンガーの波動 力学が、同じ内容を異なる数学形式で記述したもので あった。その後、ヨル ダンとディラックによって、行列力学と波動力学 は統一されて量子力学が確立されいく。先行するハイ ゼンベルクの行列力学と比べて、シュレディンガーの波動力学は量子状態を波動やその固有値といった具体的なイメージで自然に捉える、極めて革命的なアイディアであったと言われている。
 それでも、量子力学で用いられる方程式で虚数が用いられるのは「虚数がなければ方程式が成り立たないから」なのか「単に虚数を使用することで複雑な方程式を簡単に説明できるから」なのかは長い間議論されてきた。
 その一方では、複素数が具体的には物理学に必要かどうかという問題は、量子論が実験に基づく統計、すなわち確率によって記述されるので、それは実数による視覚的な記述となり、複素数は必要とされないと断言する意見も多い。

 目次

 DNA DNAが遺伝物質 生物進化と光合成 葉緑素とATP 植物の葉の機能 植物の色素 葉緑体と光合成
 花粉の形成と受精
 ブドウ糖とデンプン 植物の運動力 光合成と光阻害 チラコイド反応  植物のエネルギー生産 ストロマ反応
 植物の窒素化合物  屈性と傾性(偏差成長) タンパク質 遺伝子が作るタンパク質 遺伝子の発現(1)
 遺伝子の発現(2) 遺伝子発現の仕組み リボソーム コルチゾール 生物個体の発生 染色体と遺伝
 減数分裂と受精 対立遺伝子と点変異
 疾患とSNP 癌変異の集積 癌細胞の転移 大腸癌 細胞の生命化学
 イオン結合
 酸と塩基 細胞内の炭素化合物 細胞の中の単量体 糖(sugar) 糖の機能 脂肪酸
 生物エネルギー 細胞内の巨大分子 化学結合エネルギー 植物の生活環 シグナル伝達 キク科植物
 陸上植物の誕生 植物の進化史 植物の水収支 拡散と浸透 細胞壁と膜の特性 種子植物 馴化と適応
 根による水吸収 稲・生命体 胞子体の発生 花粉の形成 雌ずい群 花粉管の先端成長 自殖と他殖
 フキノトウ アポミクシス 生物間相互作用 バラ科 ナシ属 蜜蜂 ブドウ科 イネ科植物 細胞化学
 ファンデルワールス力 タンパク質の生化学 呼吸鎖 生命の起源


 デモクリトスの原子論 古代メソポタミア ヒッタイト古王国時代 ヒッタイトと古代エジプト
 ヒクソス王朝 古代メソポタミア史 新アッシリア時代 ギリシア都市国家の興亡 古代マケドニア 古代文明の破綻